氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依

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第1章 レアスキルは偉大

40話 組織に依存しても損をするみたいだね

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 それから数日後、ショウは冒険者ギルドにきていた。ゴブリン集落が無くなり、森の野生動物が舞い戻りそれを食す魔物も元に戻って来て、森の生態系が以前の形なってきたらしいのだ。

「シャーロットさん。この依頼をやってきたよ」
「いつもありがとうございます。今回はフォレストディアとゴブリン10匹の討伐ですね。確かに」

 ショウは2週間に一度、冒険者ギルドの依頼を受ける。そうしないと、ギルドから冒険者の意思なしとされ冒険者資格を剥奪されるからだ。これはランクが上がっても同じ事で、Aランクの人間でも依頼をこなさなければ、同様に剥奪されてしまう。ただし、Aランクともなれば1年依頼を受けなくとも剥奪される事はない。仮にそこまで依頼を受けなければ引退の道をとっている。1年も何もせず冒険者をやらなければ筋肉も落ち、依頼を受けても失敗する確率が大きく失敗するだけならいいが死亡する確率の方が高いであろう。
 なので、冒険者の大半は休日でも昼間はギルドの訓練場で身体を鍛えている人間ばかりである。

「それと、ダンジョンの新レコードを取ったパーティーはその後どうしてる?」
「詳しくは言えませんよ。ただ、6階層からは魔物の強さが格段と上がるらしく先に進めないそうです。ギルドとしてはフォースダークマンティスの素材だけでもありがたい事なんですけどね」

 ダークマンティスの魔石だけでも相当の儲けになるらしく
ギルド職員は終始笑顔である。それに加えダークマンティスの鎌は武器の素材に適していい武器が作れるそうで飛ぶように発注が入るそうだ。

「なるほどな・・・しかし、ギルドはもう少しそのパーティーを気遣ってやった方がいいと思うぜ」
「どういう事ですか?私達が気遣ってないとでも?」
「そう怒るなって」
「だけどそんな風に言われたら・・・」
「いいか?そのパーティーはどのくらいの頻度でダンジョンに潜っているんだ?新しい領域だぜ?精神力があるとは言え最低でも一ヶ月は休ませないとどうなっても知らんぞ」
「うっ・・・」

 シャーロットが言葉に詰まったのは、ショウの言う通り2週間でダンジョンに向かっていたのである。報酬額も半年くらいはなにもせずとも生活ができるにもかかわらずである。
つまり、新しい領域に魅了されているからだ。新しい領域は宝の宝庫であり、ベテラン冒険者でも自分を見失うぐらいワクワクするのである。

「そんなしょげるな。だと思ったからさ。新しいポーションを持ってきたんだよ」
「「「「「「えっ!」」」」」」

 ショウとシャーロットの話に聞き耳を立てていたギルド職員と冒険者達が声を漏らす。

「なんだ。お前等!聞き耳立ててるんじゃねぇよ」
「「「「「「しょうがないだろ(でしょ)!」」」」」」

 みごとに声がハモる。

「それで新しいポーションは?」
「まぁいいか・・・これとこれだ」
「これは!」
「ハイヒールポーションとプロテクションポーションだ」
「ハイヒールポーションとプロテクションポーションですって!」
「まぁ少し高いがそれは勘弁してほしい。材料費もあるからな」
「それでおいくらで譲っていただけるのですか?」
「ハイヒールポーションは6500ゴルド。プロテクションポーションは7500ゴルドでどうだ?」
「全然安いじゃないですか!商人ギルドのハイヒールポーションは低品質で1万ゴルド以上もするんですよ。このポーションはノーマル品質でその値段なら全部買い取りします」
「ただ」
「ただなんですか?」

 シャーロットは、ショウの条件に冷や汗を流し息を呑んだ。

「そんな身構えるなよ」
「魔道士様がそんな事言えば身構えますよ」
「そうじゃなくてだな。このポーションは安くない。買える冒険者は数は少ないだろ?」
「そんな事はないですよ」
「嘘だろ?」
「「「「「俺達にも売ってくれ!」」」」」

 ショウが疑問に思っていたがそうではなさそうだ。周りにいた冒険者は、ベテラン冒険者の一歩手前の冒険者達だ。
 ハイヒールポーションを買う事で、ダンジョンの四階層や五階層を攻略出来る腕前のある冒険者達だ。特にプロテクションポーションを手に入れれば、防御力があがりヒールポーションの節約になるからだ。その分先に進めるのは当たり前になり、依頼報酬が上がりハイヒールポーションを買ったところで元は取れるのである。

「な、なるほど・・・そういう事か!」
「それでさっき言いかけた事はなんですか?」
「いや、数の買い取りは少なめでいいかと聞きたかっただけなんだ」
「「「「「「「それは困ります!」」」」」」」

 またしてもギルド職員のハモりが決まってしまう。

「いや、そういう事なら構わないよ。ヒールポーションと同じぐらいの数を買い取りをお願いします」

 それを聞いた上級冒険者は沸き上がる。また、ベテラン冒険者も手を握り合っていた。この事はすぐに商人ギルドにまで噂が広まったのだった。

「くそぉ!あの忌々しい魔道士めが!商人ギルドを潰すつもりか・・・」
「しかし・・・このままではこの支部の売り上げは前年比の70%にまで落ち込む事に・・・」
「ば、馬鹿な!魔道士一人で我がギルドの売り上げがそこまで・・・」
「生産ギルドでも、個人的に冒険者ギルドにポーションを持ち込む錬成師が増えているようで・・・」

 生産ギルドでも、依頼はそこそこにして自分で営業をする錬成師が増えてきているようだった。ショウが現れた事でギルド組織は問題があったら匿ってくれるが、こと依頼報酬に関しては事務通りの対応しかしてくれないと、生産者はわかってきたのだ。それにより、自分でも営業をすればもっと稼げるとわかり自分を売り込み始めた。
 当然だが、個人事業主になったからにはポーションの出来は丁寧に製作し、薬草の繊維をなるべくなくし飲みやすいものとなっていた。中には、柑橘の風味のするポーションまで作り出す錬成師まで現れたのである。このポーションは少し価格が高いが人気になったのはいうまでもない。

「ぐぬぬ・・・じゃあ、うちが仕入れたポーションはなぜ売れない!」
「それが・・・今までと同じポーションだともう飲めないと噂になって回復量も少ないと苦情が出ており、このポーションは粗悪品並みで価格を下げろと・・・100ゴルドでも高いと言われてしまってはどうにもならないかと・・・」
「100ゴルドだと・・・そんな馬鹿な事があるかぁ!」

 商人ギルドのギルドマスターはテーブルを激しく叩いた。商人としてはあまりにも愚かな行為だった。今までと同じように仕入れて、情報を疎かにした結果売れない商品を買い取ったのだ。

「ごめんください。ショウが来たと伝えてくれないか?」
「あ、貴方は魔道士様。いったい何用で商人ギルドにきたのですか?」
「受付嬢がそんな対応するとはまだ商人ギルドはわかってないようだな」
「ううっ・・・申し訳ありません。今日は何用で?」
「商人ギルドに使い道の無いポーションの在庫があることを聞いてな。そのポーションを買い取らせてもらおうと思ってきたんだ」
「ショウ!?何を言ってのよ?使い道の無いポーションなんか買い取って損をするだろ?」
「アユミ!」
「うっ!」

 ショウはアユミを睨みつけ黙らせる。

「聞いたところ100ゴルドでも、冒険者ギルドは要らないと言われたらしいな。それを俺が200ゴルドで買い取ってやるよ」
「はぁあ!ショウ何を考えているのよ」
「アユミ!お前は黙ってろと言っているだろ。これは俺と商人ギルドの商談だ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「少々お待ちください。担当者を呼んできます」

 少しすると、ポーションを買い取った担当者が顔を青くして、受付嬢と共にやってきたのだった。

「奥の部屋にどうぞ・・・今日はお越しいただきご足労をおかけしました。私はライネと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私は魔道士のショウと申します」

 担当者はショウの顔を見るが真っ青な顔をしていた。そして、奥の応接室に案内すると受付嬢と共に座ったのだった。

「それで、200ゴルドで買い取ってくれるとは本当の事でしょうか?」
「本当だ。嘘は言わないよ」
「ですが、それだと私共のほうでは赤字が出てしまうようなんです」
「赤字が出てしまうようなんです?貴方が担当者なんですよね?」
「いえ・・・私もいつの間にか担当者となっていて何が何だかよく・・・」
「ごほん!貴女は何を喋っているのかしら?ギルドの内情まで漏らして何をしているのですか?」

 ライネと言う担当者がそう言うと、隣に座る受付嬢が咳払いをして担当者のライネを黙らせてしまう。

「なるほどな。あんたらは又性懲りもなく下の人間に責任を押しつけたみたいだな」
「そ、そんな事は!ほら、あんたも魔道士様になんとか言ったらどうなの?」

 受付嬢はどうやら組織の偉い立場の人間のようだ。

「あんたは少し席を外してもらおうか?」
「なんであたしが!」
「俺はそこのライネさんと商談がしたいんだ。だが、あんたがいたら横から口出しされたら邪魔なんでな」
「そんな事は!」
「あんたらがライネさんに担当者に任命したんだろ?だったらライネさんに任せなよ。大切な事だから2度同じ事を言う。ちゃんと聞け!横から口出しされたら邪魔なんでな。席を外してもらおう」
「・・・」
「はいはい。あんたは邪魔だよ!」

 ショウの迫力のある声に、受付嬢は腰を抜かしソファからずり落ちてしまった。そして、受付嬢はアユミに担がれて応接室から出されてしまった。

「さて、話を続けていいか?」
「はい・・・」
「それでライネさんは、ポーションの買い取り担当を押しつけられたで間違いないかな?」
「このような事を言えば私はどうなるかわかりませんが、もう閑職に追いやられて先はありませんし・・・」
「本当にどうしようもないギルドだな・・・」
「私も最初はもっとやりたい事はありました!しかし、なぜか違う事ばかりやらされて、今回はいつの間にかポーションの買い取り担当に任されてしまって、売れないポーションの後始末の責任を取らされてしまい、もう何が何だか・・・」
「じゃあ、そのポーションいくらで購入すれば原価ギリギリなんだ?」
「はい・・・300ゴルドならば利益が出ますが、今の状況ですと全然買ってもらえません」
「じゃあ、俺が300ゴルドで全部買い取りさせてもらおうか?そうなれば、ライネさんは責任を果たしギルドで返り咲けるか?」
「本当ですか!?」
「ただし、買い取りの条件をつけさせてもらうがいいか?なに!ライネさんには損はさせないよ」
「話を聞かせていただいても?」

 ショウはその条件をライネに聞かせると、ライネは満面の笑顔になり、ショウと固い握手を交わすのだった。
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