氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依

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プロローグ

氷河期世代のおじさん

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 俺は昭和のバブルが弾けてから社会に出て、やっと正社員になれる事が出来た。父は幼少期に事故で亡くし、それから母一人で俺を育て大学まで出してくれた。
 バブルが弾け就職に失敗しバイトとなり、それでも派遣社員になりようやく工場勤務の正社員になれた。母には心配ばかりかけ、俺が正社員になると同時に安心したのか、今までの心労がたたり倒れてそのままあの世に旅立ってしまった。

「親孝行はこれからだったのにな・・・俺は親不孝者だ」

 そう嘆くのは、大野将臣おおのまさおみで今年50歳になるおじさんだ。大野将臣は残業で旋盤をまわし作業をしていた。会社は30人程の小さな会社で、50歳の俺がまだ若手と言われる零細企業。今年新卒で採用された新人は五人だったがすでに四人が辞めてしまった。
 
「まぁしょうがないよな・・・新人教育に爺さん共に出来る訳がねぇって・・・今時技術は見て盗めだもんな。そりゃ辞めるよな・・・」

 そして、いま残っている1人もいつ辞めるかわからない。今日も残業はしないで定時で帰ろうとして、爺さん共に怒られていた。しかし、爺さん共は定時で帰ってしまい、新人は文句を言いながら爺さんが帰ると早々に帰ってしまった。

「俺からは残業しろなんて言えないからな。今の世の中に昭和を押し付ける方がどうかしてるよ。俺もまだ若かったらとっくの昔にここを辞めてるよ」

 大野将臣は残業しながら、1人ブチブチ文句を言いながら4時間程残業して帰宅したのだった。
 次の日は休日で、大野将臣はゆっくりしていた。将臣の趣味は、幼い頃に祖父から教えてもらった将棋である。

「幼い頃、よくじいちゃんに勝負を挑んでボロ負けをしたよな・・・そして、父さんに相手をしてもらった」

 将臣には、父との唯一の思い出である。なぜか将棋の勝負が痛烈に記憶に残っていて、父との勝負に勝って母が微笑んでいる田舎の情景が浮かんでいた。

「今はこうして世界中の人とインターネットでつながって本当に便利な世の中だなぁ」

 将臣は呟きながら、顔もわからない相手に将棋を差している。そして、もう一つの趣味は料理だ。母には、いつも食事は自炊をしなさいと口酸っぱく言われた。実際のところ、結婚に憧れた時期もあったが、契約社員が長く生活がギリギリで結婚相手も見つからなかった。
 将臣はもう一生独身だろうと諦め、どうせ食べるなら美味しい料理が食べたいと思い、料理教室にも通い料理の腕を磨いていた。

「でも、正社員になれて良かったなぁ。5年前まで残業しても、サービス残業だったけど会社も考え直して、残業はあるけど残業代つけてくれるようになったから、貯金も出来るようになって料理教室にも通える余裕ができたもんな。でも、もう少し社員を入れてほしいものだ」

 将臣の体調は自炊する事で、健康診断で健康と診断されていたが、やはり年のせいもあるが毎日残業続きで疲労が溜まっていた。

「大学卒業した時は、バブルが弾け時代が悪いと諦めたが、俺はまだ幸せな方だよな」

 そう言って、将臣はインターネットを開き、将棋対戦したり、異世界ものの小説を読み1日が過ぎていった。
 そして、週一の休日が終わり月曜日が始まり憂鬱な仕事となる。

「お~い!将臣まさ今日中に、この部品をやっておいてくれ」
「工場長、今日は用事があって俺は無理です」
「はぁあ?じゃ誰が終わらせるんだよ。おめぇしかやるやついねぇんだからやっておいてくれよ」
「そう言っても、ずっと前から今日は残業は出来ないと言ってたじゃないですか?その為に土曜も俺1人で残業10時までやったじゃないですか」
「反抗するな!俺がやってくれと言ってるんだから素直にやってろよ!」
「今の時代それはパワハラじゃないか!」
「パワハラかなんだかしらねぇが、俺の時代は言われた事は文句言いながらもやったもんだ。素直に言う事を聞け!」
「ぐっ・・・」

 この会社は時代に合わせて徐々にだが良くなってきていたが、工場には昭和で止まった老害が横行しているのが、若い者が続かない原因だ。しかし、会社としてもこの時代錯誤の人間が抜けられると困る人材なのだ。
 会社としても、何とかして新人を育てようと頑張っているのだが、今の人間に昭和のルールを押しつけられるとすぐに辞めてしまい、将臣が50歳だというのに若手の技術者なのだ。

「結局、言いなりになる俺にも問題ありだな・・・結局、新人も帰ってしまったしな」

 将臣は工場長の言った通りに、ブチブチ文句言いながら残業していた。

「あ~あ。貯金がもっとあれば仕事なんて辞めて、幼い頃のように田舎でのんびり暮らしたいな」

 将臣は仕事が嫌いな訳ではなく、もっと自分のペースで仕事がしたいだけだ。こんな風に用事を潰されてまでやりたい訳ではなく、もっと自分がやりたいようにやりたいだけである。

「しかし、自分がやりたいようにやるには、あの爺さん共が居なくならないと上のポジションは空かないよな。爺さんがくたばるか、俺が過労死するかどっちが早いかだな」

 そう言った矢先、日頃の残業がたたり、将臣の目の前が真っ暗になる。そのせいで頭がぐらつき目眩が起きて、そのまま倒れてしまった。その際、将臣はコンクリートの床で頭を強打してしまいそのまま気を失ってしまったのだった。
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