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ノアズアーク始動編
3 安堵 /冒険者になろう
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side ノア=オーガスト
「陰陽術、水鞠」
秀は右手の親指、人差し指、中指を立てて、薬指、小指を曲げた形にして術を発動する。すると部屋には水製の薄い膜でできたドームと、秀の前に大きな水の玉が現れた。
そしてその大きな水の玉からは無数の小さな水の玉が飛び出していった。それが飛び出せば飛び出すほど大きかった水の玉はみるみるうちになくなっていき、ついには跡形もなく消えてしまった。
「これは一体……」
イオリさんの動揺した様子に秀は落ち着いた様子で答える。
「これは水鞠っていう、まあいわゆる探知系の氣術だな。さっき勢いよく飛び散った小さな水の玉があるだろ?あれはこの薄い膜の中なら誰にでも視認可能だが、この膜から一歩でも出れば途端に見えなくなっちまう。だから、基本的には誰にも気付かれることはねぇ」
秀はこの世界に来て初めて自身の術を見て驚く人たちの反応が嬉しいのか、得意気に話している。
「加えて水の玉が飛んで行った場所の映像を、この薄い膜のあちこちに映すことができるんだ。そんでさらにさらに、映している場所の音声も聞き取ることが可能だ。ま、流石に全部拾ったらうるせぇから、怪しいと思ったところをピックアップしてから聞くけどな」
以前根源界の西部でかくれんぼをした時、絶対にここなら大丈夫だろう思って隠れたら、秀にあっさりとみつかってしまったことがあった。
悔しくて問い詰めたところ、この水鞠という陰陽術を使ったんだと説明してくれた。
あの水玉は見えないのも脅威だけど、壁なんかも当然のように通り抜けるんだよなー。だから、かくれんぼが全くもって成り立たないんだけど?って感想を抱いたことを今でもよく覚えてる。
「それは……すごいね」
「まあな。だがもちろん、無制限につかえるってわけじゃあねぇけどな。……おっ、早速怪しいやつらを発見したぜ?」
秀は自身の術の概要を説明している間に、膜に映っていた様々な場所の中に、路地裏でこそこそ話す男二名に当たりをつけたみたいだ。
『今回の仕事は楽勝だったな。あんなガキ二人を捕まえるだけで金貨五枚ってんだからな。五万エルツを平気で手放せるとか、頭イカれてんだろ』
『ま、金だけは無駄に持ってる雇い主様らしいからな。……てか、あのガキたちはどうするつもりなんだろうな』
『さあ?雇い主様の考えることにいちいち頭使ってもしょうがねぇだろ。俺らは金さえもらえればそれでいいんだしよ』
『それもそうか』
……んー、これはもう確定、だな。この怪しい二人は明らかにドレイクさんとヴァネッサさんの娘二人を誘拐したやつらに間違いないな。
それに仮に違ったとしても、子どもを誘拐してるやつらを野放しにもできないよなー。見かけちゃったからには対処するしかない。
じゃないと後々心がモヤモヤし始めて、いい気分で冒険ができなくなる。
『あ、そういやさ、お前最近ギャンブルに手出したんだっけ?ーーー』
男二人はブラブラと街を歩きつつ心底どうでもいい話をしながら、おそらくは拠点としているであろうかなり年季の入った屋敷の中へと進んだ。
「ここは……帝都のかなり東に位置した建物のはず。ここに着くまでの道中に見慣れた店や建造物もあった」
つまり、イオリさんはこの場所を知ってるのか。それなら……。
「オレたちは帝都に来たばっかりだから、ここまでの道が全くわからないんだ。だから任せてもいいか?まだ確定ではないけど、多分ここに二人はいるはずだから。救出行動は早い方がいいし」
「ああ。礼を言うよ。おかげで早急に事は解決しそうだ。ミオ、行くよ」
「ん」
イオリさんとミオは足早に部屋を出た。と、その直後、屋敷の地下と思われる場所の牢屋に二人の女性が映った。
ひとりは食事を運んでくれた少女で、もうひとりはその少女よりもさらに幼い女の子だった。
「ああっ、アリス!ベル!」
「よくも俺たちの娘を!」
ようやく見つけた我が子に安堵するも依然不安が残る母ヴァネッサと、自身の子を酷い目に合わせた男たちに憤る父ドレイク。
二人とも子供思いの優しい親だ。
オレは親というものがよくわからないけど……オレたちの両親も、こんなふうに温かい人たちだったのだろうか、と考えたことはまあ何度かあった。
会ったことはないし知らない人に等しいっちゃ等しいんだけど、別に気にならないわけじゃないんだよなー。
「うおっ、マジか」
そうこうして数十分。イオリさんとミオが二人を連れて帰ってきた。
まだ三十分もたっていないのに、すごいなー。
二人の迅速な対応に、オレは惚れ惚れしたのだが……。
待て待て、いくらなんでも早すぎないか?
そんなに近かったのだろうか?
でもかなり東に位置すると言っていたような……?
まあ、どっちでもいいか。無事に連れて帰ってくれたし、何より……。
「ああ、よかった。本当に……無事でよかったわ」
「……うん。心配かけてごめんなさい」
「うわぁーん、こ、こわかったよー」
「もう大丈夫だからな……!」
この家族の幸せを取り戻すことができたんだから、それだけで十分だよな。
「皆さん、本当にありがとうございました!」
無事に二人の救出が終わり、ヴァネッサさんとその娘であるアリス、ベルは離れの方に移動していた。落ち着ける場所で二人を休ませたいとのことだ。
てっきり家族みんなで行くものだと思ったのだが、ドレイクさんはこの場に残り、きちっと九十度の角度でお辞儀をした。
「いや、家族が引き裂かれちゃうってのはやっぱり悲しいからさ。当然のことをしたまでだって」
オレだって湊や秀……シンが突然帰って来なくなったら不安や心配でいっぱいになるし、もし一生会えないなんてことになったら……苦しすぎてもう生きていける自信ないしなー。
「そう言っていただけるのは嬉しい限りです。……あの、よろしければなんですが、もしうちの宿をこれからもご利用する予定があるなら、ノアさんたちの宿泊代は今日から半額にさせてください」
「へ?」
突拍子のない話にオレは困惑の色を隠せなかった。
「いやいやいや、それは流石に申し訳ないって。オレここ結構気に入ってるから今後もお世話になる予定だし、そうなったら宿の利益が減っちゃうじゃん」
「いえ、今後の利用を検討してくださるのならば、なおさら半額で構いません!あなた方は私たち家族を救ってくれた大切な恩人です。その恩人に何もしないと言うのは私の気が収まりません。ですから、どうか……」
ドレイクさんはその場でおそらく土下座をしようと、片膝をつき始めた。
ちょっ、マジ?
「あ、あの、土下座なんかしなくてもだいじょぶなんで。……じゃあ、今後ともよろしくお願いします」
慌ててドレイクさんの肩を掴み、土下座を止めた。
ドレイクさんのオレたちに恩返ししたいっていう気持ちはすごい伝わった。流石にこっちが折れるしかないよな。
とりあえず悪い気はしないし、ここは素直にもらっとこう。
ドレイクさんは立ち上がってオレと握手を交わす。
「はい……!」
最初見た時はガタイもいいしちょっと強面だから怖そうだなーって思ってたけど、全然そんなことはなかった。
めちゃめちゃいい人だ、うん。
「ドレイク、すまないけど席を外してもらえるかい?ちょっとこの人たちと個人的に話がしたいんだ」
「わかりました。では、私はこれで失礼します」
突然ドレイクさんに声をかけたイオリさん。それを特に不満に感じることなく、ドレイクさんはこの場を後にした。
「まだ名乗ってなかったね。僕はイオリ。こっちは妹のミオだ。よろしく」
ミオと呼ばれた女性はペコリと会釈をした。
桜色の髪に萌黄色の目の美しさ満点の兄妹が今オレたちの目の前にいる。なんというか、儚気なのにその内側に固い意志と力強さを秘めているような……そんな印象を二人からは感じる。
「ああ、よろしく」
それにしても、イオリさんの言う話とは一体なんだろうか。
「単刀直入に聞くけど……君たちは一体何者なんだい?」
先ほどまでの爽やかな雰囲気とは打って変わって、イオリさんは鋭く低い声音でオレたちに問いかける。
「何者、とはどういう意味だ」
イオリさんの圧に臆することなく、湊は一歩前に出て質問を質問で返した。
「そのままの意味だよ。さっき秀殿が使った陰陽術だけど……それは伝説の術とされているはずだ。この国でその名は割と知られているけれど、その全貌は誰も知らず、その使い手も今まで一度たりとも存在しないと言われている。それを平然と使いこなすあなたは、一体何者なんだい?という意味だよ」
そっか。陰陽術って八神家にだけ伝わる秘伝の術だから、世に広まってないのは当然なのか。
……ん?だけど名前だけは知られてんのねー。
なぜに……?
「ははっ。それは教えられねぇな。つーか、それを言うならあんたらだってただの一般人ってわけじゃねぇよな?娘らを瞬時に助け出し、敵を瞬殺するその手腕、実に見事だった……」
秀は先ほど水鞠で撮った映像を、八咫鏡を使って映し出した。この鏡は、八神家で保管されていたものらしく、あらゆるものを映す鏡だと以前秀が言っていた。
使えるのは神仙族の者だけらしいけど。
ちなみに、八咫鏡を出したのはシンだ。シンはオレたちの中で唯一、空間系統の術を使えるから、シンの亜空間には八咫鏡の他にも結構大事なものを保管してるんだよなー。
でもそのせいで常に空間維持のために氣を消費してるし、そっちに少しは集中力を使ってるだろうから、シンの肉体的・精神的疲労度はオレたちよりも大きい。
兄としては申し訳なさと感謝とで板挟みな気持ちだけど、シンはその辛さを微塵も外に出さないから、こっちとしては測りかねるんだよなー。
まあたぶん、大丈夫だとは思ってるけどさ。
「……だが、その身のこなしは腕の立つ実力者……しかも殺しを生業にしている、あるいは日常的にそっち側に触れているような者にしかできない。そうは思わねぇか?」
「それは……僕らは冒険者だからね。多少の戦いの術は心得ているよ」
少しの間の後、イオリさんの言葉が紡がれる。
これはオレでも流石にわかる。
今の言葉は虚言だ。
「ふーん。冒険者、ねぇ……。ま、そういうことにしといてやるよ。だからってわけじゃねぇが……これ以上俺たちの詮索はするな。無駄に痛い目に遭いたくねぇならな」
秀の殺気にイオリさんとミオは多少警戒の色を見せたが、怯えたりはしなかった。かなり肝が据わっているらしい。
だけどこれ以上傍観してると一触即発の事態になりかねない。仕方ないからオレが仲裁に入ってやろう。
「秀。そんなに警戒しなくてもいいだろ?湊も刀に手をかけるのやめろって」
「「…………」」
とまあ、声をかけはした。だかしかし、二人はオレの言葉に耳を貸してはくれなかった。
……ちょっと悲しい。
まあそれは置いといて、だ。
イオリさんとミオはオレたちと協力してあの家族を救ったんだから、オレ的にはそんなに警戒する必要はないと思うんだけどなー。
オレは目を瞑ったまま首を横に何度か傾け、うんうんと唸り始める。
さてさて、どうしたもんかなー……。
実力行使で止めに入ってもし喧嘩にでもなったら、この宿に迷惑かけることになる。せっかく気に入った場所なんだから、それは絶対したくはない。
かといってこのまま放置ってのも、空気がどんどん悪くなりそうだし……。
「秀、湊。兄さんの言うことは絶対だ。兄さんを困らせるな」
見かねたシンが、二人を軽く睨みながら諭してくれた。内容はあれだけど、お陰様で二人は臨戦態勢を解いてくれた。
ナイスだ、シン!
オレは心の中でデキた弟に感謝しつつ、未だ警戒の色を見せているイオリさんとミオに向き直った。
「ごめんな。どうも二人は過保護すぎるところがあるみたいでさ。今のはオレたちを守ろうとしての行動なんだ。だから、あんまり気を悪くしないでくれ」
「……いや、こちらが不躾な質問をしたのが原因なんだ。あなたたちに非はないよ」
おお、急なイケメン発言。この人絶対モテるだろ。
「えーと、イオリさんとミオ……さんだっけ?さっき冒険者だって言ってたけど、それならEDENの場所わかる?」
ミオはたぶん歳同じくらい……もしかしたら歳下かもだけど、いきなり呼び捨てにしたら気を悪くするかもしれないし一応さん付けで呼んでみたのだが……。
「それはもちろん。僕ら冒険者はよく出入りするから。……というか僕らにさん付けはしなくてもいいからね」
オレの気遣いは虚しくも不要だったらしい。
「あ、そう?じゃあイオリとミオって呼ぶな。これからよろしく」
なんだかんだあったけど、気さくな人たちで助かったぜ。外見も心も美しい人たちって本当にいるんだなー。出会えてラッキーだ。
「でさ、よければなんだけどそこまで案内してくれない?実はオレたち冒険者になりたくてこの街に来たんだけど、EDENの場所がわかんなくて困ってたんだよ」
ポカーンとした顔でその場に佇むイオリは、ワンテンポ遅れてはいたがしっかりレスポンスしてくれた。
「……あ、ああ。構わないよ」
side 九条湊
秀が陰陽術『水鞠』を発動させたことと、イオリとミオという謎の二人組の活躍により、宿の主人の家族は無事に救出されたわけだが、俺はどうにもその二人には何かあると感じた。
それは秀も同様だったらしく、俺のようにイオリとミオへの警戒を終始怠らなかった。それをむき出しにしてしまったのは、イオリが必要以上にこちらを詮索し始めてからである。
ついノアの言葉を二人とも無視してしまったわけではあるが、もちろんそれはノアを蔑ろにしたわけではない。主を守る最良の判断を自分たちの中でした結果であった。
結局はもう一人の主であるシンの言葉により殺気を抑える形となったのだが、どうもノアは見ず知らずの人物を警戒するという、俺や秀がもつ当然に備わった心構えをほとんど持ち合わせてはいないらしい。
シンの方はといえば、自分が気に入らなければ興味なしといった感じだ。下手したら、存在すら無視している可能性まである。
まったくどうにも困った主たちだ。
「ここがEDEN本部だよ」
イオリの案内で、ようやく午前中に散々探し回った冒険者ギルドへと到着した。
主にノアがあちこち寄っていたために今の今までたどり着くことができずにいたのだが、適切な案内人のおかげで、ようやく目的の場所に辿り着いた。
「へぇー。想像してたよりも大きいんだなー」
「ここがEDENの本部だからね。他の国にあるEDEN支部よりはかなり大きいかな」
ノアのシンプルな感想に、イオリは真面目に答えた。
「中に入ってまっすぐ進めば受付があるから、そこで冒険者登録ができるよ」
「なるほどな。教えてくれてありがとな」
「ああ。僕たちはこれで失礼するけど、何か用があれば大抵はシャムロックかEDEN本部にいると思うから、声をかけてくれても全然構わないよ」
「オッケー。何かあったらまた声かけるよ。じゃあ、またな!」
「ああ。また」
ブンブンと片手を上げて振るノアに、イオリは軽く手を振ってから、ミオと共に来た道をそのまま辿る形で歩き去っていった。
あの二人には絶対に何かがある。
先ほどまで、ノアやイオリたちが歩く後ろで、秀や紫苑と話したが、水鞠で見たあの身のこなしは魔物との戦いを主とする冒険者ではないと直感した。
言ってしまえば、対人戦闘に長けた動きに見えたのだ。
イオリたちが冒険者というのは嘘であるとは言わないが、何か隠している事は間違いない。
いずれにせよそれが何であるか明確にわかるまでは……こちらに仇をなす存在ではないとはっきりするまでは、警戒を緩めることはできないだろう。
side ノア=オーガスト
案内してくれたイオリとミオに感謝し、いよいよ冒険者登録を行うためにEDEN本部へと足を踏み入れた。そしてオレは真っ先に、受付と思われるところへ足早に進んでいく。
「冒険者登録を四人したいんだけど、できる?」
「はい、もちろんできますよ。ではこちらの検玉石に皆さん順番に手を触れてください」
黄色の髪と目をした受付嬢は、オレたちから見て向かって左側に設置された透明な玉に手を向けた。そして同じように透明なカードを四枚、テーブルに置き、そのうちの一枚を検玉石とやらに付随した台座に差し込んだ。
「じゃあまずはオレから……」
指示通り、検玉石に手を触れてみた。
だが……。
「あ、あれ……?何も反応がない……。おかしいわ、故障したのかしら」
「え?もしかして、オレが壊しちゃった?」
何もしてないはずだけど、もしオレのせいなら申し訳なさすぎるんだけど……。
「いえ、それはないと思うんですが……。他の御三方もやってみてもらえますか?」
受付嬢に促されオレと同様に検玉石に触れる。
「……光りませんね。うーん、少々お待ちください。上の者に確認してきますので」
足早に後ろの扉から出ていく受付嬢。
オレが触れたあとの全員にオレと同じ現象が起きてしまった。それってつまり、一番最初にオレが触れたときに何かが起きた、っていうことじゃないか?
「……なあ、シン。オレ、なんかやったかな?」
「いや何もしていない。その石が役立たずなだげだ」
「お、おう……」
シンのいつも通りなトゲトゲしい言葉に、なんだか少し動揺してしまう。
シンなりに慰めてくれたんだろうけど、EDENの、しかも本部にある特別な設備品なわけだろ?それがこんなタイミングよく故障するなんてこと、普通あるわけなくないか?
これはもう、オレがやらかしたとしか……。
「お、お待たせしました!」
シンと話し始めてすぐに受付嬢は戻ってきた。
対応が早い。
「えーと、検玉石がうまく作動しないので、地下にある訓練場で皆さんのステータスを測らせていただくことになりました。早速ご案内しますので私についてきてください」
……罰金っていくらぐらいなんだろう。
故障原因が気になってしょうがなかったオレだが、受付嬢が今度は受付外の右側へと歩き始めたため、とりあえずついて行くことにした。
受付嬢はさらにそこに設置された扉を開けて、下へ続く階段を降りていく。
「えーと、訓練場は……あ、ここになりますね」
降りてすぐにあった一本道の廊下を進んで、受付嬢が左手の扉を開く。
「ミクリヤさん。お疲れ様です。……では皆さん、私は受付の方へ戻らないといけないのでここからはあの人が引き継ぎます。審査が終わりましたら、また受付へと戻ってきてください」
そう言い終えた受付嬢は、足早にこの部屋を後にした。
「はじめまして。ここの副ギルド長をしているミクリヤだ」
空色の明るめで綺麗な髪と目を持った男が挨拶をしてくれる。印象としては爽やかそうな反面、真面目で仕事ができそうな人って感じだ。
副ギルド長ってことはつまり、この組織で二番目に偉い人ってことでは……?
「…………」
待って待って。初っ端からそんな人を煩わせるって、幸先悪すぎない?
人との交流において第一印象は一番大事だって、クロードが教えてくれたっていうのに。
オレは心の内で考えを逡巡させすぎて、半ばオーバーヒートしかけていた。
「君たちのステータスが検玉石で測れないということだから、代わりを用意してある。といっても、やはり検玉石で測る方が正確だから、今回のできが悪くても気にしないでくれ」
「あ……はい…………」
そんなオレの心配は水泡に帰したらしい。おかげで気の抜けた返事をしてしまった。
「で、俺たちは何をすりゃぁいいんだ?」
「いたってシンプルな話だ。あそこに的が立っているだろう?あれをここに引かれた白線の位置から破壊するだけでオーケーだ」
確かに結構大きな的が立ってるなー。
けど……そんなんでいいのか?
「じゃあ、オレからやるよ。……氣術はなんでもいいのか?」
心配事がなくなりいつもの調子を取り戻したオレは、率先して試験を受けに行く。
「ああ、言い忘れてたな。氣弾もしくは自分が一番得意な氣術を打ってくれて構わない」
「オッケー」
氣弾というのは、自身が持つ氣を掌からそのまま放出する氣術だ。
これだけ聞いたらいたって簡単な氣術に聞こえるだろう。だけど、その消費は他の氣術に比べてかなり大きく、さらには緻密な氣の操作を必要とするため、それを使って戦う者はあまりいないらしい。
普通は自分の適性属性の氣術を使うからなー。
オレは白線の位置に立って、大きな的を見据える。そして掌へと集中させた氣を球体状にし、一気に目標へと飛ばした。
『ドガーーン!!!』
目標へとしっかり着弾した氣弾は轟音を響かせ、部屋全体を震わせた。
やばい。やりすぎたかも。
そんなに氣は込めずにやったつもりだったけど……これはまずかったか?
「…………」
ミクリヤさんの顔がポカーンとしてる。
やっぱりやらかした感じだよな、これ。的どころか壁や床に大穴が空いてるもんな。
ははは……どうしよ。
「あ、あの……」
「はっ……んん。まさか部屋まで崩れるとは……。一応この部屋には防御系の結界術が施されているはずなんだが……。なにより、あの的が跡形もなく壊れるというのは、流石に想定外だったな……」
呆然と立ち尽くしていたミクリヤさんだが、オレの声に我に帰ったらしい。
「これはどうするべきか。前例がないパターンだし……ギルド長に聞いてみるか。君たち、悪いけど一度ギルド長室に一緒に来てくれるか?」
一人で何やらぶつぶつのしゃべっていたかと思えば、突然呼びかけられ、さらにはまた別の場所へと移動するらしい。
まだシンたちの試験が終わってないのにいいのか?
ていうか、ギルド長ってEDENのトップだよな。そんなホイホイ会えるものなのか……?
「陰陽術、水鞠」
秀は右手の親指、人差し指、中指を立てて、薬指、小指を曲げた形にして術を発動する。すると部屋には水製の薄い膜でできたドームと、秀の前に大きな水の玉が現れた。
そしてその大きな水の玉からは無数の小さな水の玉が飛び出していった。それが飛び出せば飛び出すほど大きかった水の玉はみるみるうちになくなっていき、ついには跡形もなく消えてしまった。
「これは一体……」
イオリさんの動揺した様子に秀は落ち着いた様子で答える。
「これは水鞠っていう、まあいわゆる探知系の氣術だな。さっき勢いよく飛び散った小さな水の玉があるだろ?あれはこの薄い膜の中なら誰にでも視認可能だが、この膜から一歩でも出れば途端に見えなくなっちまう。だから、基本的には誰にも気付かれることはねぇ」
秀はこの世界に来て初めて自身の術を見て驚く人たちの反応が嬉しいのか、得意気に話している。
「加えて水の玉が飛んで行った場所の映像を、この薄い膜のあちこちに映すことができるんだ。そんでさらにさらに、映している場所の音声も聞き取ることが可能だ。ま、流石に全部拾ったらうるせぇから、怪しいと思ったところをピックアップしてから聞くけどな」
以前根源界の西部でかくれんぼをした時、絶対にここなら大丈夫だろう思って隠れたら、秀にあっさりとみつかってしまったことがあった。
悔しくて問い詰めたところ、この水鞠という陰陽術を使ったんだと説明してくれた。
あの水玉は見えないのも脅威だけど、壁なんかも当然のように通り抜けるんだよなー。だから、かくれんぼが全くもって成り立たないんだけど?って感想を抱いたことを今でもよく覚えてる。
「それは……すごいね」
「まあな。だがもちろん、無制限につかえるってわけじゃあねぇけどな。……おっ、早速怪しいやつらを発見したぜ?」
秀は自身の術の概要を説明している間に、膜に映っていた様々な場所の中に、路地裏でこそこそ話す男二名に当たりをつけたみたいだ。
『今回の仕事は楽勝だったな。あんなガキ二人を捕まえるだけで金貨五枚ってんだからな。五万エルツを平気で手放せるとか、頭イカれてんだろ』
『ま、金だけは無駄に持ってる雇い主様らしいからな。……てか、あのガキたちはどうするつもりなんだろうな』
『さあ?雇い主様の考えることにいちいち頭使ってもしょうがねぇだろ。俺らは金さえもらえればそれでいいんだしよ』
『それもそうか』
……んー、これはもう確定、だな。この怪しい二人は明らかにドレイクさんとヴァネッサさんの娘二人を誘拐したやつらに間違いないな。
それに仮に違ったとしても、子どもを誘拐してるやつらを野放しにもできないよなー。見かけちゃったからには対処するしかない。
じゃないと後々心がモヤモヤし始めて、いい気分で冒険ができなくなる。
『あ、そういやさ、お前最近ギャンブルに手出したんだっけ?ーーー』
男二人はブラブラと街を歩きつつ心底どうでもいい話をしながら、おそらくは拠点としているであろうかなり年季の入った屋敷の中へと進んだ。
「ここは……帝都のかなり東に位置した建物のはず。ここに着くまでの道中に見慣れた店や建造物もあった」
つまり、イオリさんはこの場所を知ってるのか。それなら……。
「オレたちは帝都に来たばっかりだから、ここまでの道が全くわからないんだ。だから任せてもいいか?まだ確定ではないけど、多分ここに二人はいるはずだから。救出行動は早い方がいいし」
「ああ。礼を言うよ。おかげで早急に事は解決しそうだ。ミオ、行くよ」
「ん」
イオリさんとミオは足早に部屋を出た。と、その直後、屋敷の地下と思われる場所の牢屋に二人の女性が映った。
ひとりは食事を運んでくれた少女で、もうひとりはその少女よりもさらに幼い女の子だった。
「ああっ、アリス!ベル!」
「よくも俺たちの娘を!」
ようやく見つけた我が子に安堵するも依然不安が残る母ヴァネッサと、自身の子を酷い目に合わせた男たちに憤る父ドレイク。
二人とも子供思いの優しい親だ。
オレは親というものがよくわからないけど……オレたちの両親も、こんなふうに温かい人たちだったのだろうか、と考えたことはまあ何度かあった。
会ったことはないし知らない人に等しいっちゃ等しいんだけど、別に気にならないわけじゃないんだよなー。
「うおっ、マジか」
そうこうして数十分。イオリさんとミオが二人を連れて帰ってきた。
まだ三十分もたっていないのに、すごいなー。
二人の迅速な対応に、オレは惚れ惚れしたのだが……。
待て待て、いくらなんでも早すぎないか?
そんなに近かったのだろうか?
でもかなり東に位置すると言っていたような……?
まあ、どっちでもいいか。無事に連れて帰ってくれたし、何より……。
「ああ、よかった。本当に……無事でよかったわ」
「……うん。心配かけてごめんなさい」
「うわぁーん、こ、こわかったよー」
「もう大丈夫だからな……!」
この家族の幸せを取り戻すことができたんだから、それだけで十分だよな。
「皆さん、本当にありがとうございました!」
無事に二人の救出が終わり、ヴァネッサさんとその娘であるアリス、ベルは離れの方に移動していた。落ち着ける場所で二人を休ませたいとのことだ。
てっきり家族みんなで行くものだと思ったのだが、ドレイクさんはこの場に残り、きちっと九十度の角度でお辞儀をした。
「いや、家族が引き裂かれちゃうってのはやっぱり悲しいからさ。当然のことをしたまでだって」
オレだって湊や秀……シンが突然帰って来なくなったら不安や心配でいっぱいになるし、もし一生会えないなんてことになったら……苦しすぎてもう生きていける自信ないしなー。
「そう言っていただけるのは嬉しい限りです。……あの、よろしければなんですが、もしうちの宿をこれからもご利用する予定があるなら、ノアさんたちの宿泊代は今日から半額にさせてください」
「へ?」
突拍子のない話にオレは困惑の色を隠せなかった。
「いやいやいや、それは流石に申し訳ないって。オレここ結構気に入ってるから今後もお世話になる予定だし、そうなったら宿の利益が減っちゃうじゃん」
「いえ、今後の利用を検討してくださるのならば、なおさら半額で構いません!あなた方は私たち家族を救ってくれた大切な恩人です。その恩人に何もしないと言うのは私の気が収まりません。ですから、どうか……」
ドレイクさんはその場でおそらく土下座をしようと、片膝をつき始めた。
ちょっ、マジ?
「あ、あの、土下座なんかしなくてもだいじょぶなんで。……じゃあ、今後ともよろしくお願いします」
慌ててドレイクさんの肩を掴み、土下座を止めた。
ドレイクさんのオレたちに恩返ししたいっていう気持ちはすごい伝わった。流石にこっちが折れるしかないよな。
とりあえず悪い気はしないし、ここは素直にもらっとこう。
ドレイクさんは立ち上がってオレと握手を交わす。
「はい……!」
最初見た時はガタイもいいしちょっと強面だから怖そうだなーって思ってたけど、全然そんなことはなかった。
めちゃめちゃいい人だ、うん。
「ドレイク、すまないけど席を外してもらえるかい?ちょっとこの人たちと個人的に話がしたいんだ」
「わかりました。では、私はこれで失礼します」
突然ドレイクさんに声をかけたイオリさん。それを特に不満に感じることなく、ドレイクさんはこの場を後にした。
「まだ名乗ってなかったね。僕はイオリ。こっちは妹のミオだ。よろしく」
ミオと呼ばれた女性はペコリと会釈をした。
桜色の髪に萌黄色の目の美しさ満点の兄妹が今オレたちの目の前にいる。なんというか、儚気なのにその内側に固い意志と力強さを秘めているような……そんな印象を二人からは感じる。
「ああ、よろしく」
それにしても、イオリさんの言う話とは一体なんだろうか。
「単刀直入に聞くけど……君たちは一体何者なんだい?」
先ほどまでの爽やかな雰囲気とは打って変わって、イオリさんは鋭く低い声音でオレたちに問いかける。
「何者、とはどういう意味だ」
イオリさんの圧に臆することなく、湊は一歩前に出て質問を質問で返した。
「そのままの意味だよ。さっき秀殿が使った陰陽術だけど……それは伝説の術とされているはずだ。この国でその名は割と知られているけれど、その全貌は誰も知らず、その使い手も今まで一度たりとも存在しないと言われている。それを平然と使いこなすあなたは、一体何者なんだい?という意味だよ」
そっか。陰陽術って八神家にだけ伝わる秘伝の術だから、世に広まってないのは当然なのか。
……ん?だけど名前だけは知られてんのねー。
なぜに……?
「ははっ。それは教えられねぇな。つーか、それを言うならあんたらだってただの一般人ってわけじゃねぇよな?娘らを瞬時に助け出し、敵を瞬殺するその手腕、実に見事だった……」
秀は先ほど水鞠で撮った映像を、八咫鏡を使って映し出した。この鏡は、八神家で保管されていたものらしく、あらゆるものを映す鏡だと以前秀が言っていた。
使えるのは神仙族の者だけらしいけど。
ちなみに、八咫鏡を出したのはシンだ。シンはオレたちの中で唯一、空間系統の術を使えるから、シンの亜空間には八咫鏡の他にも結構大事なものを保管してるんだよなー。
でもそのせいで常に空間維持のために氣を消費してるし、そっちに少しは集中力を使ってるだろうから、シンの肉体的・精神的疲労度はオレたちよりも大きい。
兄としては申し訳なさと感謝とで板挟みな気持ちだけど、シンはその辛さを微塵も外に出さないから、こっちとしては測りかねるんだよなー。
まあたぶん、大丈夫だとは思ってるけどさ。
「……だが、その身のこなしは腕の立つ実力者……しかも殺しを生業にしている、あるいは日常的にそっち側に触れているような者にしかできない。そうは思わねぇか?」
「それは……僕らは冒険者だからね。多少の戦いの術は心得ているよ」
少しの間の後、イオリさんの言葉が紡がれる。
これはオレでも流石にわかる。
今の言葉は虚言だ。
「ふーん。冒険者、ねぇ……。ま、そういうことにしといてやるよ。だからってわけじゃねぇが……これ以上俺たちの詮索はするな。無駄に痛い目に遭いたくねぇならな」
秀の殺気にイオリさんとミオは多少警戒の色を見せたが、怯えたりはしなかった。かなり肝が据わっているらしい。
だけどこれ以上傍観してると一触即発の事態になりかねない。仕方ないからオレが仲裁に入ってやろう。
「秀。そんなに警戒しなくてもいいだろ?湊も刀に手をかけるのやめろって」
「「…………」」
とまあ、声をかけはした。だかしかし、二人はオレの言葉に耳を貸してはくれなかった。
……ちょっと悲しい。
まあそれは置いといて、だ。
イオリさんとミオはオレたちと協力してあの家族を救ったんだから、オレ的にはそんなに警戒する必要はないと思うんだけどなー。
オレは目を瞑ったまま首を横に何度か傾け、うんうんと唸り始める。
さてさて、どうしたもんかなー……。
実力行使で止めに入ってもし喧嘩にでもなったら、この宿に迷惑かけることになる。せっかく気に入った場所なんだから、それは絶対したくはない。
かといってこのまま放置ってのも、空気がどんどん悪くなりそうだし……。
「秀、湊。兄さんの言うことは絶対だ。兄さんを困らせるな」
見かねたシンが、二人を軽く睨みながら諭してくれた。内容はあれだけど、お陰様で二人は臨戦態勢を解いてくれた。
ナイスだ、シン!
オレは心の中でデキた弟に感謝しつつ、未だ警戒の色を見せているイオリさんとミオに向き直った。
「ごめんな。どうも二人は過保護すぎるところがあるみたいでさ。今のはオレたちを守ろうとしての行動なんだ。だから、あんまり気を悪くしないでくれ」
「……いや、こちらが不躾な質問をしたのが原因なんだ。あなたたちに非はないよ」
おお、急なイケメン発言。この人絶対モテるだろ。
「えーと、イオリさんとミオ……さんだっけ?さっき冒険者だって言ってたけど、それならEDENの場所わかる?」
ミオはたぶん歳同じくらい……もしかしたら歳下かもだけど、いきなり呼び捨てにしたら気を悪くするかもしれないし一応さん付けで呼んでみたのだが……。
「それはもちろん。僕ら冒険者はよく出入りするから。……というか僕らにさん付けはしなくてもいいからね」
オレの気遣いは虚しくも不要だったらしい。
「あ、そう?じゃあイオリとミオって呼ぶな。これからよろしく」
なんだかんだあったけど、気さくな人たちで助かったぜ。外見も心も美しい人たちって本当にいるんだなー。出会えてラッキーだ。
「でさ、よければなんだけどそこまで案内してくれない?実はオレたち冒険者になりたくてこの街に来たんだけど、EDENの場所がわかんなくて困ってたんだよ」
ポカーンとした顔でその場に佇むイオリは、ワンテンポ遅れてはいたがしっかりレスポンスしてくれた。
「……あ、ああ。構わないよ」
side 九条湊
秀が陰陽術『水鞠』を発動させたことと、イオリとミオという謎の二人組の活躍により、宿の主人の家族は無事に救出されたわけだが、俺はどうにもその二人には何かあると感じた。
それは秀も同様だったらしく、俺のようにイオリとミオへの警戒を終始怠らなかった。それをむき出しにしてしまったのは、イオリが必要以上にこちらを詮索し始めてからである。
ついノアの言葉を二人とも無視してしまったわけではあるが、もちろんそれはノアを蔑ろにしたわけではない。主を守る最良の判断を自分たちの中でした結果であった。
結局はもう一人の主であるシンの言葉により殺気を抑える形となったのだが、どうもノアは見ず知らずの人物を警戒するという、俺や秀がもつ当然に備わった心構えをほとんど持ち合わせてはいないらしい。
シンの方はといえば、自分が気に入らなければ興味なしといった感じだ。下手したら、存在すら無視している可能性まである。
まったくどうにも困った主たちだ。
「ここがEDEN本部だよ」
イオリの案内で、ようやく午前中に散々探し回った冒険者ギルドへと到着した。
主にノアがあちこち寄っていたために今の今までたどり着くことができずにいたのだが、適切な案内人のおかげで、ようやく目的の場所に辿り着いた。
「へぇー。想像してたよりも大きいんだなー」
「ここがEDENの本部だからね。他の国にあるEDEN支部よりはかなり大きいかな」
ノアのシンプルな感想に、イオリは真面目に答えた。
「中に入ってまっすぐ進めば受付があるから、そこで冒険者登録ができるよ」
「なるほどな。教えてくれてありがとな」
「ああ。僕たちはこれで失礼するけど、何か用があれば大抵はシャムロックかEDEN本部にいると思うから、声をかけてくれても全然構わないよ」
「オッケー。何かあったらまた声かけるよ。じゃあ、またな!」
「ああ。また」
ブンブンと片手を上げて振るノアに、イオリは軽く手を振ってから、ミオと共に来た道をそのまま辿る形で歩き去っていった。
あの二人には絶対に何かがある。
先ほどまで、ノアやイオリたちが歩く後ろで、秀や紫苑と話したが、水鞠で見たあの身のこなしは魔物との戦いを主とする冒険者ではないと直感した。
言ってしまえば、対人戦闘に長けた動きに見えたのだ。
イオリたちが冒険者というのは嘘であるとは言わないが、何か隠している事は間違いない。
いずれにせよそれが何であるか明確にわかるまでは……こちらに仇をなす存在ではないとはっきりするまでは、警戒を緩めることはできないだろう。
side ノア=オーガスト
案内してくれたイオリとミオに感謝し、いよいよ冒険者登録を行うためにEDEN本部へと足を踏み入れた。そしてオレは真っ先に、受付と思われるところへ足早に進んでいく。
「冒険者登録を四人したいんだけど、できる?」
「はい、もちろんできますよ。ではこちらの検玉石に皆さん順番に手を触れてください」
黄色の髪と目をした受付嬢は、オレたちから見て向かって左側に設置された透明な玉に手を向けた。そして同じように透明なカードを四枚、テーブルに置き、そのうちの一枚を検玉石とやらに付随した台座に差し込んだ。
「じゃあまずはオレから……」
指示通り、検玉石に手を触れてみた。
だが……。
「あ、あれ……?何も反応がない……。おかしいわ、故障したのかしら」
「え?もしかして、オレが壊しちゃった?」
何もしてないはずだけど、もしオレのせいなら申し訳なさすぎるんだけど……。
「いえ、それはないと思うんですが……。他の御三方もやってみてもらえますか?」
受付嬢に促されオレと同様に検玉石に触れる。
「……光りませんね。うーん、少々お待ちください。上の者に確認してきますので」
足早に後ろの扉から出ていく受付嬢。
オレが触れたあとの全員にオレと同じ現象が起きてしまった。それってつまり、一番最初にオレが触れたときに何かが起きた、っていうことじゃないか?
「……なあ、シン。オレ、なんかやったかな?」
「いや何もしていない。その石が役立たずなだげだ」
「お、おう……」
シンのいつも通りなトゲトゲしい言葉に、なんだか少し動揺してしまう。
シンなりに慰めてくれたんだろうけど、EDENの、しかも本部にある特別な設備品なわけだろ?それがこんなタイミングよく故障するなんてこと、普通あるわけなくないか?
これはもう、オレがやらかしたとしか……。
「お、お待たせしました!」
シンと話し始めてすぐに受付嬢は戻ってきた。
対応が早い。
「えーと、検玉石がうまく作動しないので、地下にある訓練場で皆さんのステータスを測らせていただくことになりました。早速ご案内しますので私についてきてください」
……罰金っていくらぐらいなんだろう。
故障原因が気になってしょうがなかったオレだが、受付嬢が今度は受付外の右側へと歩き始めたため、とりあえずついて行くことにした。
受付嬢はさらにそこに設置された扉を開けて、下へ続く階段を降りていく。
「えーと、訓練場は……あ、ここになりますね」
降りてすぐにあった一本道の廊下を進んで、受付嬢が左手の扉を開く。
「ミクリヤさん。お疲れ様です。……では皆さん、私は受付の方へ戻らないといけないのでここからはあの人が引き継ぎます。審査が終わりましたら、また受付へと戻ってきてください」
そう言い終えた受付嬢は、足早にこの部屋を後にした。
「はじめまして。ここの副ギルド長をしているミクリヤだ」
空色の明るめで綺麗な髪と目を持った男が挨拶をしてくれる。印象としては爽やかそうな反面、真面目で仕事ができそうな人って感じだ。
副ギルド長ってことはつまり、この組織で二番目に偉い人ってことでは……?
「…………」
待って待って。初っ端からそんな人を煩わせるって、幸先悪すぎない?
人との交流において第一印象は一番大事だって、クロードが教えてくれたっていうのに。
オレは心の内で考えを逡巡させすぎて、半ばオーバーヒートしかけていた。
「君たちのステータスが検玉石で測れないということだから、代わりを用意してある。といっても、やはり検玉石で測る方が正確だから、今回のできが悪くても気にしないでくれ」
「あ……はい…………」
そんなオレの心配は水泡に帰したらしい。おかげで気の抜けた返事をしてしまった。
「で、俺たちは何をすりゃぁいいんだ?」
「いたってシンプルな話だ。あそこに的が立っているだろう?あれをここに引かれた白線の位置から破壊するだけでオーケーだ」
確かに結構大きな的が立ってるなー。
けど……そんなんでいいのか?
「じゃあ、オレからやるよ。……氣術はなんでもいいのか?」
心配事がなくなりいつもの調子を取り戻したオレは、率先して試験を受けに行く。
「ああ、言い忘れてたな。氣弾もしくは自分が一番得意な氣術を打ってくれて構わない」
「オッケー」
氣弾というのは、自身が持つ氣を掌からそのまま放出する氣術だ。
これだけ聞いたらいたって簡単な氣術に聞こえるだろう。だけど、その消費は他の氣術に比べてかなり大きく、さらには緻密な氣の操作を必要とするため、それを使って戦う者はあまりいないらしい。
普通は自分の適性属性の氣術を使うからなー。
オレは白線の位置に立って、大きな的を見据える。そして掌へと集中させた氣を球体状にし、一気に目標へと飛ばした。
『ドガーーン!!!』
目標へとしっかり着弾した氣弾は轟音を響かせ、部屋全体を震わせた。
やばい。やりすぎたかも。
そんなに氣は込めずにやったつもりだったけど……これはまずかったか?
「…………」
ミクリヤさんの顔がポカーンとしてる。
やっぱりやらかした感じだよな、これ。的どころか壁や床に大穴が空いてるもんな。
ははは……どうしよ。
「あ、あの……」
「はっ……んん。まさか部屋まで崩れるとは……。一応この部屋には防御系の結界術が施されているはずなんだが……。なにより、あの的が跡形もなく壊れるというのは、流石に想定外だったな……」
呆然と立ち尽くしていたミクリヤさんだが、オレの声に我に帰ったらしい。
「これはどうするべきか。前例がないパターンだし……ギルド長に聞いてみるか。君たち、悪いけど一度ギルド長室に一緒に来てくれるか?」
一人で何やらぶつぶつのしゃべっていたかと思えば、突然呼びかけられ、さらにはまた別の場所へと移動するらしい。
まだシンたちの試験が終わってないのにいいのか?
ていうか、ギルド長ってEDENのトップだよな。そんなホイホイ会えるものなのか……?
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