碧天のノアズアーク

世良シンア

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グランドベゼル編

13 氣の権化

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side 八神秀

セツナの矢やエルの援護、前衛陣の猛攻によって、無駄に湧いてきた魔物どもを倒しまくってから結構な数の魔物を排除したというのに、その勢いは止むことなく、むしろ強くなっていった。

木々の合間からぞろぞろと……ほんと無駄に出てきやがる。そして、相変わらずあのデカ亀はこちらを向いたまま微動だにせず、だ。

イライラすんなぁ。高みの見物か?あのデカ亀。

あいつを殺りに行きたいのは山々だが、こっちの数を減らすと一気に押される可能性があるからなぁ。ムカつくが、下手に動けねぇ。

「……チッ。切りがねぇな。……っ!」

ふと、前衛を張っていたはずのノア、シンがなぜか急に魔物の大群へと突っ込んでいく姿が視界に入った。

「おいおい、あいつらどこ行くつもり……」

いや待て。あの行動を察するなら……まず間違いなく本体を狙いに行ったか。

ノアは昔から好奇心旺盛で手のかかるやつだった。だからなのか、自分の命を顧みずに行動する。危険があればまず自分が、って感じだな。おまけにたいていはひとりで行こうとしやがる。ただ今回はシンが付いているみてぇだが。

つまるところ、あの動きもまさにそういうことだろう。そうなるとこっちは戦力を二人失った状態であり、さらに敵の勢いが増している。しかも前衛の二人がいなくなった。これじゃあ前線が崩壊すんのも時間の問題。このまま放置すれば、あっという間にやられちまうだろうな。

これは……式神を出さざるを得ねぇな。

「式神招来!アオテン……!」

媒体となる紙人形を二枚、地面へと投げつけながらいつもの口上をあげれば、二人の式神が姿を現す。

「ふむ。魔物の大群。これは少々気合を入れねばなりませぬな」

「サポートならばこの私にお任せあれ」

この二人は対複数戦闘に適した式神だ。蒼は自身の力のみで対抗し得るし、天は他の奴らのサポートを空から行使できるため、支援範囲の自由度も高い。

「頼りにしてるぞ、二人とも」

「御意」
「了解しました」

心強い返事と同時に、天は左側へと飛んで行き、蒼は右側へと走り出す。ざっくり今の状況を説明するなら左にはカズハ、中央に湊、右側にリュウって感じだ。

もともとノアが左側のやや中央より、シンが右のやや中央よりにいたわけだが、現在はそこに大きな穴が生まれている。これを一刻も早く塞がなければ、こっちが数の暴力に飲み込まれるってわけだ。

「遅ればせながら、この吾輩がお力添えしよう」

「……っ!だ、だれ……?」

一生懸命魔物を食い止めていたリュウの隣に蒼が立つ。急に現れた謎の猫人間にリュウは心底驚いている様子。

そういや、リュウやセツナ……カズハやエルにも俺の式神全員とは会わせたことがねぇな。

……機会があれば紹介しとくのもありだな。

「若輩の身なれど、この力、存分にご覧に入れよう。氷猫之群……!」

蒼の合図により、その背後から無数の半透明な猫たちが現れる。透明度の高い氷の造形のように見え、美しいと感じる者もいるだろう。触ってみたいと思うやつもいるかもしれねぇな。だが、この氣術には決して触れてはならない。なぜなら待っているのは……死のみだからなぁ。

小さな氷猫の大群は、仲間をうまく避けて迫り来る魔物に飛びかかる。今回は大きさより数を重視したようだ。効果は氷猫の大きさによって異なる。大きければ凍りつくスピードも速く、小さければ遅い。簡単に言えばこんなところだろう。

「す、すごい……!」

リュウはさっきまでの俊敏な動きとは対照的に、今は蒼の氣術に魅了されて立ち止まっている様子。

確かに見てる分には綺麗だろうな。見てる分には、な。

ま、こっちはもう大丈夫だろうな。さて、あっちの方は……。

左側に目をやれば、カズハの援護のために天がサポートに徹してる姿が見て取れた。

「あ、ヤバッ!」

「ここは私にお任せください。幻永……!」

カズハの隙をついてこちら側へと抜ける魔物たちが複数体いたが、天の特殊な幻術にかかり、互いに傷つけ合い始めた。

「え、え……?どゆことー?」

魔物たちの猛攻を受けていたはずのカズハだったが、突然目の前で魔物同士が争い合う謎の現象が起き、困惑のあまり無意識に構えていた刀を下ろしていた。

「私の氣術により、敵の勢いを削がせていただきました。ですが、魔物の波は今もなお止めどなく押し寄せております。油断はなさらぬよう、お気をつけくださいませ」

「あ、あ、うん、ありがとね。えっと……」

「これは失礼を。私は天。秀様の式神として、皆様の支援に参りました」

「式神……まあなんでもいいや!手伝ってくれてありがとねー、天!正直、数が多すぎて圧死するんじゃないかってヒヤヒヤしてたからさー」

「滅相もございません」

黒い翼を羽ばたかせる天に、カズハは心からの感謝を伝えた。

「じゃ、来て早々ごめんだけど、全力サポートよろしく!!」

「了解しました」

刀を構えて走り出したカズハを追尾するように、天が翼を広げて飛翔した。

どうやらこっちも大丈夫そうだ。

まあ中央は湊だけで十分だろ。万が一があれば俺も陰陽術で支援はするしな。俺の今の役割は、後衛に侵出してきた魔物の排除及び全体の指揮だ。

エルは支援氣術や水属性氣術でのバックアップとリュウの周囲の警戒。いきなりエルに全体を見渡して指示しろ、なんてのは土台無理な話だ。そもそも圧倒的に経験が足りていない。

広い視野を持って指揮できるのが理想だが、それはまだ先のこと。今は一部の空間に絞って、その状況を判断すること。俺はそれをエルに学ばさせているつもりだ。


「後衛の仕事ってのは、何も氣術の支援だけじゃねぇぞ、エル」

とある日の大帝国の森の中。俺はDランクの魔物を相手に氣弾で応戦するエルを見守っていた。その鍛錬を休憩を挟みながらやっていたわけだが、ある日、こんなことを口にしているのを耳にした。

『私の支援氣術でみなさんをサポートする。それが私のの役割だから、もっと氣術を磨かないと』ってな。別にこれは間違っちゃいねぇ。むしろ正解だ。自分ができることが何かよく考えてるし、実際それはパーティに貢献できる大きな要素だ。だが、唯一ってのはちょいと視野が狭いなぁ。

「え……違うんですか?」

「エルの場合は特にそう捉えがちかもなぁ。支援氣術なんて特殊氣術を持ってんなら、なおさらそう思い込むのもわかる。が、後衛の仕事ってのは実はそれが一番大事なんじゃねぇ」

「それは一体……」

「簡単に言えば状況把握とその伝達ってとこだな」

「状況把握とその伝達……」

「その通りだ。後方にいるからこそ、全体の状況が把握できる。敵が左から回り込んでるなとか、空から攻撃がくるなとかな。前衛よりも圧倒的に得られる情報量が多い。これが後衛の最大の強みだな。そしてこれを素早く前衛に伝えるんだ」

「な、なるほど……」

「前衛と後衛がそこまで距離を離さない場合もあるが、それでも前衛よりは身体的にも精神的にもゆとりが持てるのが後衛だ。けどまあ、それも当然のことだ。前衛が身体張って俺たちを守ってんだからなぁ。……まあ要するに、だ。氣術で支援することももちろん大事ではあるが、それと同等以上に状況把握と情報伝達は大事だっつう話だ」

エルは何か考え込む様子を見せる。

「ま、これはあくまでも俺の持論だからなぁ。結局はエルのしたいようにすればいいっつうことだが……」

「秀さん!」

はっ、いい目をするじゃねぇか。

「ん?どした」

「私に、そのやり方を教えてくれませんかっ」

ははっ……ったく。ほんと、教え甲斐のあるやつだよ、お前は。


「リュウくん!今度は右から来ます……!」

リュウはその言葉を聞き、右側方に目を向ける。そして飛びかかる魔物の攻撃を避け、短剣で斬り裂いた。

「ナイスです、リュウくん!……っ!上から攻撃来ます!」

エルは上空から鳥型の魔物が来ていることにいち早く気づき、リュウにすぐさま伝えた。おかげでリュウは危なげなく避けている。

エルのやつ、なかなかいい感じにできてんじゃねぇか。

……師匠の俺も気合入れねぇとな。

「陰陽術火柱……!」

巨大な一本の火の柱が、魔物を瞬時に焼き尽くした。天高く上る灼熱は、その熱波だけで周囲に群がる魔物さえも焼き焦がしていた。






side ノア=オーガスト

『ウギャァァ!』
『ギャェェェィィ!』
『ガギャァァ!』

斬っても、斬っても、斬っても……キリがないんだけど?!

オレとシンは飛びかかってくる魔物を斬り倒しながら、本体目掛け最短距離で駆け抜けている。ただ、走るスピードはどうしても遅い。

何故かって?そりゃ、お邪魔虫たちがウジャウジャいやがるからな!

顔面に飛びついてきそうなコボルト三体をスパッと斬り裂き、オレはさらにイライラを募らせる。

「だぁー!もう!!何体いるんだよォォ!!!」

「仕方がない。強行突破とはこういうものだ、兄さん」

それはそうなんだけどさ……!
まさかこんなにストレスが溜まるとは思わなかったんだよー!

足を止めることなく、オレたちは目標へと確実に迫っていく。それと同時にオレのストレスも溜まりに溜まってったけどな。

「……ていうかさ、こんなに遠かったっけ、あのデカ亀」

あそこから見た時は結構近く感じたんだけどな。

「……大きすぎて近くに見えたんだろう」

あー、確かに。デカいものほど近く、小さいものほど遠く見えるって言うよな。

『ウキャギャァ!』

「うっさいわ!」

『ギャギァァァァ!』

魔物の首がゴロっと地面に落下する。

「シン~。こいつらどうにかなんない?」

「兄さんがいいならこの森全部燃やすが?」

……そんなガチな目で見ないでくれ。森燃やすのは生態系に影響がありすぎるから流石にダメだわ。最終手段として頭の片隅に置いとくぐらいにしとこう。

「冗談だって冗談!あーもう、オレがこの選択したんだから、グチってる場合じゃないよな」

さっさとあのデカ亀のとこ行ってぶっ倒すぞ!

「……そろそろ行ける」

お。シンがそう言うなら間違いないな。

「うし!そんじゃ行くぞ。せーの!」

オレとシンは木々の間を抜けて大きく跳躍した。木々を抜き去り上空に跳ぶ。そしてデカ亀の身体へと綺麗に着地した。

「ここは……言っちゃえば亀の甲羅部分ってとこか」

足踏みをすると、ゴツゴツとした感触が足裏から伝わってくる。やはりかなり頑丈な皮膚をしているみたいだ。

「とりあえずは目標地点に到着っと。そんで今からこいつを倒すわけだけど……」

この硬い皮膚はそう簡単に壊せないよな……。

まあでも、ものは試しだ。

オレは手に持った剣にありったけの氣を込めてみる。もちろん、この剣が壊れない程度の氣だけど。そして思いっきり斬ってみた。

『パキンッ』

オレの剣はあっさりと真っ二つになった。

「まあそうだよな」

これは予想の範疇だ。じゃあ……。

オレは折れた剣を捨て、手のひらを前に出す。そして超高エネルギー弾を生成し、放つ。

白く光る氣弾がデカ亀の甲羅へと着弾した。

「うーん。どうだー?」

オレは効いているのかどうかを確認しようと目を凝らす。

「兄さん。邪魔者が来たみたいだ」

「え?」

シンの方を向けば、飛行型の魔物がわんさかといた。

……せっかくいいところだったってのに。
はぁぁ……。

「俺が蹴散らす。兄さんはそのままでいい」

シン……!やっぱりお前は頼りになるやつだよ!

「おう!」

オレは頼れる弟に背中を任せ、デカ亀を倒す方法を模索する。

とりあえずオレが放った氣弾の着弾箇所を見に行かないと。この距離じゃ効いてるのかがよくわからん。わずかなヒビでも入れば、それは効いてる証になる。ただの剣じゃヒビなんて夢のまた夢だろうけど、氣弾なら……。

「おっ」

オレの予想通り、デカ亀の身体にはわずかに亀裂が走っていた。

ビンゴ。やっぱヒビ入ってんじゃん。

やっぱ氣弾ってすげーわ。シンプルだけど威力は絶大。加えてオレはヴォル爺やクロードにこれを教わったんだ。もしヒビすら入ってなかったら、二人に顔向けできないところだった。

「あとはここに特製の氣弾を打ち込めばオッケーだな」

オレは再び手のひらを前に出す。

けどちょっと自信無くすよな。氣弾でもわずかなヒビしか入んないなんてさ。

氣を手のひらに集中させていく。

さっき氣弾のより質を上げてみるか。大きさはさっきと同じで、使う氣を増やす。実は結構難しいんだけど……ま、それはいいとして。

どんどん光を強くする氣弾。

このぐらいでどうだ……?

オレはさっきよりも明らかに煌々と白く輝く氣弾を放った。

『ガギギャァャアアァアァァアァ!』

着弾直後、断末魔が一帯を鳴動させた。

「うわぁっ!」

突如オレの身体が宙を舞う。

「兄さん!」

シンがオレに駆け寄ろうとする。だがその瞬間、シンの身体も浮いてしまった。

オレたちは謎の力に引っ張られ、飛ばされている。空中だから身動きもうまく取れない。

なんだよ、これ。まるで竜巻に巻き込まれたみたいな……。

体外に流している氣を少し多めにする。今は攻撃に手を回せるような状況じゃない。防御に専念しないとまずい。

さっきまでシンが相手にしていた飛行型の魔物も、この渦に巻き込まれたらしく全滅していた。無数の木々も切り裂かれ、粉々になって地面に降り注いでいる。

「シン!無事か?!」

かろうじてシンを視界にとらえ、安否を確認する。シンは軽く頷いた。

よかった……。

次は状況の整理と打開策の構築だ。

そう思った瞬間だった。
デカ亀がこっちを向いた。その目はこちらを敵視し、睨みつけているように見える。

『ガギャァァァアァァ!』

デカ亀がドデカい鳴声を発した。その瞬間、オレは勢いよく吹っ飛んだ。

「ぐぅっ……!」

オレの身体は紙切れのように簡単に飛ばされ、木々に次々と衝突していく。そして行き着いたのは硬い地面だった。

「ってててててて……」

オレは痛む身体を起こし背中をさする。防御に回す氣を増やしてなかったら、骨までいってたかもな。

……マジで痛い。

「「ノア!シン!」」

この声って……。

オレは顔を上げて周囲を確認する。そこには秀や湊……ノアズアークのみんながいた。

まさか……みんながいるところまで飛ばされたのか?

オレは痛みに耐えながら立ち上がる。座ってる場合じゃないし、オレは平気だってことをみんなに見せないと。

「みんな……。無事で、よかった……」

「無事って……ノアの方がどう見ても重症だよ?!」

カズハは不安そうな目でオレを見る。

そんな顔しなくても、大丈夫なのにな。
でも……嬉しい。

「ははっ」

「笑い事じゃないですよ!ノアさん!」

エルはオレの側に座り、傷の具合を確認してくれる。

「あ、いや心配してくれるのがちょっと嬉しくて、つい……」

「何言ってんのー、ノア。そんなの当たり前でしょー?」

「そうです。……とりあえずは大丈夫そうですね。痛みがひどければすぐにポーションを飲んでくださいね」

「ああ、ありがとな」

だが安心したのも束の間、オレは大事なことに今更ながら気づく。

……っ!そうだ……!

シンは?!
無事なのか?!

オレはシンの安否を確かめるため、焦燥感に駆られながら辺りを見回した。

……!いた!

シンはさっきのオレみたいに地面に座り込んでいる。

よかった……無事、だったんだな……。

シンが生きていることにオレは心から安堵する。

「どうしたのー?ノア。急に焦り出したかと思ったら今度はほっとした顔して……」

「何かありましたか……?」

オレの情緒不安定とも取れる様子に、カズハとエルは動揺してしまったらしい。

「あ、いや、何でもないから」

「ほんとにー?」

カズハがいぶかしむように顔を近づけてくる。

「ほんとほんと!」

オレは笑いながら答える。

「ふーん……」

うぅ、あの目は全然信じてないやつだ……。

「本当に何もないのならそれでいいです。でも何かあったら絶対に私たちに言ってくださいね。仲間なんですから!」

「あ、ああ……!ありがとな、エル」

オレのもとにはカズハとエルが来てくれた一方で、シンのもとにも仲間が駆けつけてくれていた。

「シン兄ちゃん……!」

「リュウ……」

「大丈夫……?」

「ああ。問題ない。ただのかすり傷だ」

「よかった……!」

リュウはほっとしたように朗らかに笑う。

「まさかお前が負けるなんてな」

湊はオレと同じく飛ばされていたシンに手を伸ばす。

「何を言ってる。負けてなどいないが?」

シンはその手は取らず自力で立ち上がる。

「そのボロボロな見た目でよく言えるな」

「……あいつは絶対に殺す」

「一応聞くが……理由は?」

シンと目が合う。少し悲しい目をしているように感じた。

「兄さんを傷つけたからだ。それ以外何がある?」

シンは湊の方へ向き直り、殺気だった目を見せた。

「だろうな。俺も似たようなものだ」

湊はデカ亀の方へと身体を向けた。

「俺の主に手を出した罪は……重いぞ」

シン同様に、湊の目は怒りに満ちていた。

「ノア」

「秀……」

「ったく。ボロボロになって戻ってくるんじゃねぇよ。ヒヤヒヤするだろが」

その瞳と声は、オレの心を簡単に締め付けた。

「ご、ごめん。でもあのまま魔物を倒してるだけじゃ、何も変わらない気がしたからさ……」

「わーってるよ。ノア。俺はお前がした行動を否定したいわけじゃない。危ない橋を渡って傷だらけになるのはいつものことだ。だから……無事に帰ってきたこと、それだけで十分だ」

「秀……」

「だがまあ、俺たちも心配はするんだ。それは許せよ」

「……何カッコつけてんの?」

「あ?」

秀の背後からセツナが現れる。

「ノアやシンのこと一番心配してたの、あんたじゃん。さっきノアとシンが飛ばされてきたの見て、足、止めてたよな。表情も、まるでこの世の終わりみたいな感じで……まあ、無事って理解してからはいつもの顔に戻ってたけど」

「……そうだったか?わりぃな。俺、もの覚えよくねぇんだ。……綺麗さっぱり忘れちまったわ」

「…………」

セツナは呆れたように秀を見ている。

「そんなことよりだ。何があったんだ、ノア。急にデカ亀の気配が変わったかと思えば、一瞬で森がめちゃくちゃだ。おまけに、俺たちが相手にしていた魔物どももあれに巻き込まれたらしい」

「そうだよー。急に突風みたいなのが起きて、魔物とか木とかみんなあの渦に巻き込まれていったんだよねー」

オレは眼前に広がる光景を注視する。少し前には木々で埋め尽くされていた場所に緑などなく、巨大な渦が形成されていた。それは周囲の何もかもを飲み込み、巻き込んだもの全てを粉々にしている。

「私たちはすぐに対応して、逃げることができました。もし逃げるのが遅れて、あの渦に巻き込まれていたら……考えただけで恐ろしいです」

「あれは氣でできた渦らしい」

シンとリュウを連れた湊に全員が注目する。

「氣?」

たしかに。氣でつくられたものなら、あの尋常じゃない威力も理解できる。でもそれは膨大な氣の量が必要になるはず……。

下手したらあのデカ亀、全生物の中で氣の保有量が最も高いんじゃないか?あれだけの氣を外に放出してるっていうのに、あいつの気配は消えてないし、なんかピンピンしてそうな気がするんだけど。

「ああ。紫苑が言うには、膨大な氣の渦があの魔物を覆っているらしい。そしてあの魔物の氣にさほど変化が見られないそうだ。つまり……あの魔物はまだせいぜい一割程度しか本気を出していないということに等しいだろう」

………………は……?

「……マジで?」

「そうだ。あれは言わば氣の権化と言ってもいい。それと、あの魔物からは絶えず氣が漏れ出ているそうだ。それもかなりの量だ。一般的な人間に置き換えれば、数分で氣が尽きる程らしい」

えー……やばすぎるだろ、それ……。

「……ならなぜそんな無駄なことをしてやがる。氣を無駄に……しかもバカみたいな量を垂れ流すなんて、その辺の魔物でもやらねぇぞ」

「さあな。そこまではなんとも。ただ……言うほど無駄でもないらしい」

「……どういうことー?」

カズハが疑問をなげかける。

「あの魔物の周囲に濃密な氣が充満している。その中に入れば、身体に悪影響が出る可能性が極めて高い」

「……!本で読みました。『濃すぎる氣は身体に毒である。短時間でも触れれば何らかの病にかかり、長時間触れれば命に関わる』って」

「その通りだ。あの魔物に近づくことは死に近づくことと同義。倒すにしても、遠距離攻撃で戦うのが最善だろう」

うわ、マジかよ。厄介すぎるだろ、あのデカ亀。

「万が一、近距離戦を仕掛けなければならない状況になった場合は、神仙族の誰かが行くのが一番リスクが少ないだろう」

まあ、そうだよな。氣のコントロール力はノアズアークいちだし、それになにより……たとえ万が一があっても、神仙族にはまだがあるから、乗り越えられる可能性が高い。

「なぜそうなる?私やカズハでもいけるんじゃないのか?私は霊氣が多いし、カズハにはあの盾がある。問題ないと思うけど」

「確かに、氣が多いやつほど濃密な氣の中でも安全でいられる時間は長い。原理としては自分の氣を外に放出することで、自身を中心とした周囲に外部の氣が入り込まないようにする。こうすることで外氣に触れずに済むわけだ」

「そんで氣が多いことも重要だが、それと同じくらいに氣の制御力が必要になってくんだよ。適当に外に流せばいいってわけじゃねぇんだ。放出量を調整しつつ、自身を覆う、言わばバリアのようなものを維持しつつ戦わなきゃならねぇ。これはもう、普段から慣れてねぇと土台無理な話だなぁ」

……そういえば、クロードやヴォル爺との特訓の時に、よく似たようなことやったな。自分の身体に膜を作るように氣を流して戦闘したり、その厚さを変えながら戦ったり……。

「それから、カズハの盾では、仮に防げたとしても、そう長くは戦えないだろう。あの氣術は効果が大きい分、消費する氣の量も多いだろうからな」

「まあねー。ひとりならまあまあもつけど、たったひとり突っ込んだところであの亀倒せそうにないし……」

「私は氣の量は問題ないけどそのコントロールがまだなってないってわけか。……なるほど。納得した」

セツナってこういうとこドライっていうかクールっていうか……大人って感じがするよな。

「そういうことだ。……それで、これからどうするんだ?ノア」

湊の言葉とともに、全員がオレに目を向ける。

……リーダーって、本当に大変だ。

オレは木々や魔物たちがあの巨大な氣の渦に巻き込まれていく様子を再び一瞥し、その脅威のほどを目に焼き付ける。あれがいつまで続くのかはわからないが、近づけはひとたまりもないのは誰の目にも明らかだろう。

オレはデカ亀の強さを再認識して、全員の方へと向き直る。

「んんっ。正直言ってあのデカ亀に勝てるビジョンはまだ見えてない。たぶん、みんなも似たような感じだと思う。あんなやつ今まで相手にしたことないし、間違いなくオレたちが戦ってきたどの魔物よりも強い。油断なんてしたら一瞬でられる」

みんなを脅したいわけじゃないし不安にさせたいわけでもない。ただ覚悟を持って欲しい。その命をかける覚悟を。

「オレは全員で生きて帰りたい。負傷ゼロってのはさすがに高望みすぎるから、どんな形でも生き残ること。これを最優先にして欲しい。無理だと思ったら即撤退するから、そのつもりでいてくれ」

真剣な目でみんなが頷く。

「……とまあ、ちょっと雰囲気が重くなるようなことは言ったけど、あんま固くならずにな。ガチガチになって動けなくなってもあれだし……あと申し訳ないことに、今後の行動はノープラン、です」

「だろうな」
「う……」

セツナからの一言に、オレのメンタルが少し傷つく。自分でも分かってたことなのに、人に言われるとまあまあダメージ喰らう……。

だってさー、オレが突っ込んで確かめてくるわーなんて言ったら全員から猛反対されるのは目に見えてる。かといってあとやれることはあのデカ亀がどう動くかを観察して、対応策を考えるくらいだよな。

後手に回るのを避けるならオレの突進案だし、慎重に行動するなら観察案だ。どっちがリスクを最小限に抑えられるかなんてのは……まあ、分かりきったことだ。

「敵の情報がほとんどない以上、状況に応じた行動をしてくしかねぇ。とりあえずはこの渦がどうなるかを見つつ、討つ時が来たなら遠距離攻撃を中心に戦っていく。これでいいんじゃねぇか?」

やっぱそれしかなさそうだよな。

「よし、それで行こう」

戦いの場において、こんな風に話し合いができるなんてことはまずあり得ないことだが、今回はラッキーと言わざるを得ない。こうやって作戦を練れる時間がある方が、格段にいい動きができる。

戦いながらでも話し合えればいいんだけど……それは愚痴ってもどうしようもないことだからなー。今は目の前の敵に集中しよう。

『ガギャァァアァァ!!』

突然、甲高い唸り声が森一帯に鳴り響く。オレは反射的に両耳を塞いだ。その声は衝撃波のように広がり、木々を大きく揺らし、大地を震わせ、オレたちの身体をも動かした。

「……ようやくお目覚めってわけか……!」

オレは氣の渦で覆われていたはずのデカ亀の姿を捉えた。いつのまにか渦は消え、その巨体が顕になっている。

オレたちは即座に戦闘態勢に入り、デカ亀と対峙する。オレは剣を掴む手に力を入れた。

さあ、デカ亀退治、第二弾の開幕だ……!
























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私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
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 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
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 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

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