碧天のノアズアーク

世良シンア

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グランドベゼル編

19 緊急師団長会議

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side オスカー=レナード

たった数時間の間に奇妙な地震が多発し、嫌な予感が胸によぎった昨日。その次の日にあたる今朝、急遽会議が開かれることになった。

「緊急師団長会議か。しかも発議したのは陛下とは。何やらきなくさいな……」

俺は普段師団長会議が行われる部屋へと向かっていた。そこは帝城の二階東廊下の奥に位置している。

行くの面倒なんだよなぁ。微妙に遠いんだよ。会議場所、変えてくれねぇかな。そうだ。次の定例会議でその議題持ちかけてみるか。

「あ、オスカーさん。早いですね」
「どうも」

「おお。ジンにウィル坊か。お前たちはこの緊急会議の内容について、何か聞いたか?」

「いえ、私はまったく」

「俺も聞いてないです」

「ほう。それだけ急を要したものということか……」

俺は目的地に到着し、金色の桜の装飾が施された扉を開けた。

「まだ誰も来てないみたいだな」

俺は円卓に並べられた六つの椅子を見て、俺たちが一番乗りであると気づく。

「ですね。でも今回は定例会議ではないから、あの二人は来れないんじゃ……」

「俺もそう思いますよ。あの二人が率いる師団は、主に国内全体の安寧と秩序を守るという役割を持っています。俺たちは帝都周辺が関の山なので、こういう緊急招集にも対応できますが、あの二人には無理難題すぎますから」

大帝国第二師団『アカツキ』の師団長、エルザ=アレクシスと大帝国第四師団『オボロ』の師団長、ルイス=クロヴィス。二人とも俺よりまだまだ若いが、優秀で立派な師団長だ。

特にルー坊はまだ二十だか二十一だった気がするな。歴代最年少師団長ってんで、就任当時はいろんな意味で騒がれてたな。しかもそん時はまだ十九。十代で大帝国を守護する五つの師団の一角のトップになったっつうんだから、話題にならないわずがねぇわな。

「それもそうだな」

俺たちは各々適当に席に座り、陛下が来るのを待った。

「にしても、エルザやルー坊のやつは生真面目っつうか仕事人間すぎるっつうか」

「オスカーさんが雑すぎるだけでは……?」

「いやいや、俺ぐらいほどよく怠けてるのがちょうどいいだろ。真面目すぎるのも身体に毒だぞ?」

「オスカー師団長の場合はあの二人の爪の垢を煎じて飲むことをオススメします」

「おいおい、ジンもウィル坊も冷たいなぁ。年長者はもっと敬うもんだぞ?」

「「…………」」

二人は俺と目を合わせず、ただ口を閉ざした。

「……うーむ……なぜ黙る」

『コンコンコン』

扉がノックされたと同時に扉が開かれる。入ってきたのはこの国の国家元首であった。

俺たちはすぐさま立とうとしたが……。

「ああ、いい。そのまま座っていて構わん」

陛下の言葉により制止された。陛下は空いた席に座り話し始める。

「そろったな。では緊急会議を始めよう。まず、エルザ師団長とルイス師団長はこの会議に呼んではいない。昨日の時点で使者を遣わしたところで間に合うはずもないからな。ただこの会議で話した内容は伝えるつもりだ。師団長ら全体に情報を共有してもらいたいのでな」

使者を派遣したところで到着まで何日かかるかわからん。どの街、あるいは村にいつ行く予定かなどの連絡は使者を通して随時報告されているが、あの二人に伝えるまでにどう頑張っても一日はかかる。とうていこの会議に間に合うわけがない。だから陛下のこの判断は正解だ。

「では本題に入ろう。昨日の午後、謎の地震が多発したのは知っているな。その地震について、昨日の夜EDENギルド長グレン=トワイライトから情報提供があった」

ほう。グレンからか。

「帝都の西にある森で真新しい大きな戦闘跡が見つかった。それはまるで凶悪な化け物が暴れたようだったらしい」

凶悪な化け物か……いい響きじゃないか。

「ガッハッハ。腕がなるな」

「ふ。それは頼もしいが、そいつはおそらくもうこの世にはいないぞ」

なに……?

「え。どういうことですか、陛下」

ジンは俺と同じ疑問を陛下へと投げかけた。

「グレンによれば、その戦闘跡はとある巨大な魔物が、ノアズアークというパーティと交戦した痕跡らしい。そしてノアズアークがその魔物を退治したと思われるそうだ。魔物の姿がどこにもないことからそう判断したらしい」

ほう。大きな戦闘跡が残っているのなら、たいていは魔物のサイズも大きいだろう。そいつの姿が見当たらない時点で消滅したと考えるのが自然、というわけだな。

「だがこれは確証があるわけではない。あくまでも推測の域を出ないのだ。そこで第二師団に現場調査を命じようと思うのだが、何か意見のある者はいるか?」

第二師団なら地理的知識も他の団と比べて高いからな。まあ妥当な判断だろう。

「……ないようだな。調査はなるべく急ぎで行ってもらうが、それでも報告までは……そうだな……早くても二、三日はかかるだろう。報告が確認され次第、また会議を開くこととする。では次に、ひとつ、お前たちの率直な意見を聞きたい。……昨日の地震と三年前のアンフェール、両者に繋がりはあると思うか?」

この場にいる全員の顔が一瞬にして強張った。

アンフェール、か。あれは大帝国史上最大の危機だったんじゃないかと、今でも俺は思う。謎の大地震が起きた直後、Sランク認定されている魔物が突如として出現した。それも複数体だ。そいつらが暴れたせいで大帝国中に被害が及び、幾人もの民が死んだ。ここ帝都アクロポリスは大帝国で最も強固な守りをもつというのに、建物は崩れ落ち、地面は真っ赤に染まり、人々の悲鳴があちこちから聞こえてきた。

まさに地獄。大帝国滅亡の危機と言ってもいい。この時に第一、第四、第五師団長は国を守って戦死した。残ったのは俺とエルザのたった二人のみだ。加えて、師団員全体の三分の一が民を守るために命を落とした。師団員の命を預かる者として、悔やんでも悔やみきれない。

アンフェールは大帝国にそれだけ大きな被害を与えた。結果だけ見れば、なんとかその厄災を押し退けることに成功したわけで、俺たちの勝利と言っていい。だがこちらもほぼ瀕死状態であり、多くの人の命が失われた。加えて、再建には一年以上の月日を費やした。

この間、軍事国家は戦いを仕掛けては来なかった。俺たちが弱っているあの時は、仕留めるのには絶好の機会だったのだがな。まあいずれにせよ、ファランクスが攻めて来なかったのはかなり大きかった。おかげで復興作業に専念できたのだからな。

「確かにあの時も地震が起きました。それも昨日とは比べ物にならないほどに大きな地震が。俺も昨日、地震が起きた時は一瞬あの時のことを思い出しました。ですがあの時とはその規模が明らかに異なります。ですので直接的な関係はないのではと俺は思います」

「ほう。ウィリアム師団長はそう判断するか」

「ただ、ひとつ気になることもあります」

「申せ」

「俺は地震が起きた時は外に出ていたのですが、かすかに音が聞こえてきました。おそらくは何かの叫び声かと。それに肌がピリつくような感覚もしました」

「ほう。例の戦闘跡はここからそれなりに距離があるらしいのだが、ウィリアム師団長には妙な音や感覚があったと」

「はい。このことだけはアンフェールと似ているかもしれません。ですが総合的に判断するなら、何か間接的な繋がりはあるのかもしれませんが、直結しているというわけではないと俺は考えています」

俺もその時外に出ていたから、今のウィル坊の話すことはわかる。アンフェールと似た感覚はしたが、なんというか……弱かった。ただの地震と言われれば、まあそうかもなと感じてしまうほどに。

「なるほど。ではジン師団長はどう思う?聞くのは酷かもしれんが……」

アンフェールでは第五師団の師団長も亡くなった。ジンはあの女をかなり好いていたからな。あの女が亡くなって一番ショックを受けていた。

ちなみに俺とは腐れ縁ってやつで、師団長になったのもほぼ同時期。ま、犬猿の仲みたいな間柄だったがな。


「おいこら、オスカー。お前まーた鍛錬サボったな!」

木陰で寝ていた俺の眼前には嫌いな女が立っていた。

「んだよ。別にいいだろ。あんな弱い奴らが相手じゃ鍛錬にならねぇんだからよ」

「ったく。図体だけは一丁前なくせに、心はガキんちょなんだから」

「ああ?喧嘩売ってんのかよ?」

「いつまでもただの師団員気分でいるんじゃないよ。師団長になったんだから、仲間をもっと大事にしろって言ってんの!」

「弱いやつが死んで強いやつが残る。それが世界の摂理だろ。どれだけ俺が鍛えてやったって、弱いやつは死ぬんだ。つまりは鍛え損っつうことだ。俺の時間がもったいねぇ」

「あんたねぇ!」

バカ女は俺の胸ぐらを思いきり掴んで持ち上げ、顔を近づけてきた。その顔は怒りに満ちていた。

「っ!……痛ぇな……その手、離せよ」

「師団長は師団全員の命を預かる重大な役職だ。師団員たちはみんなこの国や自分の家族を守るために必死に生きてる。鍛錬だって命を張る自分を守るためにとても大切なことだ。大事な誰かのもとに無事に帰れるように。そうやってみんな頑張っている。その命を、私らは握っているんだ」

「…………」

「それをドブに捨てるも大事に包み込んで守ってあげるも私ら師団長次第。そのことをもっと自覚して!師団長はそんな甘い仕事じゃないのよ……でもこれだけは言えるわ。今の怠けたあんたなんかには向いてないし荷が重い。……とっとと次に渡すことね」

バカ女は呆れたように乱雑に手を離し、俺は地面に身体を打ちつけた。バカ女はそんな俺を無視してどこかに行こうとした。

「……チッ。てめぇ何様のつもりなんだよ!」

俺は頭に血がのぼり、バカ女に殴りかかった。そして揉み合いになり、互いが動けなくなるまで乱闘を続けた。



今となっては懐かしい思い出だ。当時は本当にムカついたがな。

とまあこんな具合に、確かに俺はあいつとは反りが合わなかった。だが、俺の若かりし頃の悪いところを正してくれた奴でもあった。仲は悪かったが、いい意味でも悪い意味でも影響しあってたっつうことだろうな。

何より、あいつは誰よりも心の強い女だった。師団長の誰よりも、仲間や民を想う、そんな熱い女だった。だがあいつは、三年前にあっさりと死んじまった。最後まで己の信念を貫いて……。

「……いえ。問題ありません。お気遣いありがとうございます、陛下。……私は双方には何かしらの関連があると思います」

俺もあいつが死んだと知った時は、何とも言い難い虚無感のようなものに苛まれた覚えがある。だが俺以上に、ジンはあいつの死を嘆き悲しんでいた。だからアンフェールの話になるとジンのやつは表情を暗くし、気分を落としてしまうんだが……今はかろうじて平気みたいだな。

「ほう。その根拠はなんだ?」

「……その、大変申し上げにくいのですが……私の勘、です……」

「ふむ。勘か……そういえばジン師団長の勘はよく当たる、と誰かが申していたな」

「陛下。それは俺です」

「ウィリアム師団長だったか。……ではウィリアム師団長。ジン師団長の勘はどこまで信用できそうだ?」

「九割は固いかと。氣術学校時代からその勘だけで乗り切ってきたところがありますから」

「ちょ、ウィリアム。自分で言うのもなんだけど、勘以外も有能だからね、私」

「……そうでしたっけ?」

「おい……!」

ウィル坊も素直じゃねぇな。口にしないだけで、本心じゃジンのこと高く評価してるくせによ。

けどま、ジンのメンタルケアにはちょうどいい薬だったかもな。

「なるほど。ではオスカー師団長の目から見て、ジン師団長の勘は信頼できるか?」

陛下は真剣な眼差しで俺を捉える。

「陛下。俺はウィル坊ほどジンと親しくはないんでな。あいにくとジンの勘を信じるか否かについては、判断は下せん。ただ、ジンのことは信用にたるやつだと心から思ってるぞ」

「オスカーさん……」

「それと……なんだ……もし調べてみて違うならそれはそれでいいだろ。アンフェールの真相解明に関してはまた別の糸口を探せばいい。今は今回の騒動の究明を優先しようや」

……三年前に起きた大厄災アンフェール。なんの前触れもなく突発的に起きたこの大厄災について、未だにわかっていることはほとんどない。ただ唯一、関連していると思われている物が発見された。それは黒い石のかけらだ。一見すればただの石ころだが、内包された氣が異様だった。

ちなみにこれを見つけたのは俺とエルザだ。それも別々の場所で。これが自然に起きたとは言えないかもしれないっつう根拠のひとつなんだが、まあ乏しいっちゃ乏しいわな。

だから自然に起きたと言われればそれまでだが、もし作為的に起きたのであれば、誰がなぜ起こしたのか、そういうとこまで突き止めなきゃ行けない。再発でもしたらたまったもんじゃないしな。

だがそれと今回の出来事がつながっているかどうか、なんてのは現段階じゃわからん。同じもんが見つかれば決定的証拠にはなるが……っつう感じだな。

「ふむ。オスカー師団長の言う通りか。両者の関係性は今後の調査結果次第で判断しよう。……ではこの会議はこれで終了となるが、何か発言のある者はいるか?」

「陛下。俺からひとついいですか?」

「構わん」

「俺はここに戻ってきてからまだ一度も桜木兄妹の姿を見かけてはいないのですが、それはつまり何かこの国に未知の危険が迫っているということでしょうか」

桜木イオリ、ミオの二人は、うちの裏の精鋭部隊をまとめる重要な立場にある。主に情報活動や粛清を行う表舞台では輝くことは決してない存在。だがその存在はこの国を守る上で、最も重宝されていると言っても過言ではない。

「ふむ……このことはもう少し情報を掴んでからお前たちに話そうと思っていたが……いいだろう。桜木イオリ及び桜木ミオの両名には、現在魔界ニライカナイへ向かってもらっている」

「「「っ……!」」」

魔界ニライカナイだと……?現在、ここ人界ミッドガルドの国々と交流の少ない世界になぜ二人が……?確か軍事国家ファランクスに潜入する予定じゃなかったか……?

「本来であれば二人には軍事国家ファランクスの潜入調査へ向かうはずだった。行方不明の前任者の代わりにな。……ファランクスへの潜入調査の意義については皆承知していると思う」

アンフェールは大帝国でのみ起きた厄災ではない。この大陸全土で起きた出来事だ。その中で不可解な点が二つあった。ひとつはなんの前触れもなかったこと。あの規模の厄災がなんの予兆もなく突然起こるとはまず考えにくい。というか、考えたくないのが本音だ。

それともうひとつ。こっちが本命とも言える。それが軍事国家ファランクス及び王貴国ラグジュアリには、Sランク級の魔物が一体も出現してはいないことだ。たしかに魔物の大群は押し寄せたらしいが、どれもランクの低い魔物ばかり。いてもAランクの魔物が一体程度だったという報告が、陰影之爪牙から上がっている。

この報告で俺たちはひとつの仮説を立てた。もしかしたら、この大厄災を仕組んだのはこの両国……特に軍事国家ファランクスではないのか、と。この二国は互いに以前から交流が深い間柄なわけだが、この二つの国だけ被害規模が小さいというのはどうもおかしい。対応も早く、魔物の大群をあっという間に撃退したらしい。これは何か絡んでいると思っても、不自然ではないだろう。

それに、うちの国にはSランク級の魔物が三体出現し、魔物の大群も押し寄せた。加えて対応が遅れた。それもそのはず、そんな危機が突然現れて早急かつ的確な対応ができるはずもない。

この大厄災を鎮めた後、他国にも聞いてみたところ、どこもSランク級の魔物が一体は出現していたらしい。ただ、うちだけは三体と、最も多かったがな。

このことと軍事国家ファランクス及び王貴国ラグジュアリの被害の少なさを合わせると、ファランクスが最も怪しくなるわけだ。なぜならうちとファランクスは昔から仲が悪く、よく小競り合いを繰り返しているからな。とは言っても、向こうが一方的に仕掛けてくるんだが。

だから、ファランクスには前々から陰影之爪牙を潜入させていた。ま、お題目は少し違うかもしれないが、どちらにしろファランクスは隠し事が多すぎる。知りたい情報は山のように眠ってるわけだ。

ただどうにも、ファランクスへの潜入調査は難航した。もともとファランクスには諜報員を送っていたが、有力な情報はこれといって得られていない様子だった。それだけでも十分に難航してんだが、突然潜入していたはずの者たちと連絡がつかなくなった。それがだいたい二ヶ月くらい前だ。定期連絡の日を二度も過ぎれば、さすがに何かあったとこちらも勘づく。

だから新たに諜報員を二名送ったわけだが、これもやつらの手で十中八九殺られたんだろう。そこで陰影之爪牙トップクラスの二人が行くことになったはずなんだが……。

「だがその任務途中、ファランクス以上に厄介な問題に出くわし、イオリとミオは別の者と交代する形で魔界ニライカナイに向かうこととなった」

ファランクス以上に厄介な問題だと……?魔界ニライカナイに向かうということから考えられるのは……。

「それはつまり、魔人絡みということですか?」

まあ、そうなるはな。

「そうだ。それもただの魔人ではないとイオリは直感している。この国を滅ぼせるほどの力を持っているかもしれないと、かなり警戒していた。私はイオリを信頼している。だから行かせたのだ」

「なるほど。理解しました。俺の愚劣な質問に答えていただきありがとうございます、陛下」

「構わん。……他には何かあるか?」

陛下は俺たちを見回す。

「ないようだな。ではこの会議はこれで閉幕としよう」





side エルザ=アレクシス

私はエルザ=アレクシス。大帝国第二師団『暁』の師団長をやっているわ。私たちの仕事はこの大きな国に点在する街や村の安全を確保し維持すること。私の師団が最も構成員が多いのだけれど、それはこの仕事には多くの人員が必要だからよ。

その分統制も大変なのだけど、嬉しいことにうちには優秀な者たちが大勢いるの。だから私も安心して任せているわ。

私がやることと言えば、各地を転々と回ること。それこそ旅人みたいにね。もちろん何か要請があれば予定を変更してそちらに向かうけど、基本は自分の足で動いて街や村の様子を見回ってるわ。

今日もその一環で大帝国の北西に位置しているある村に滞在していたのだけれど、妙な地震がここまで伝わってきたわ。それほど強くはないけど、奇妙と思えるような地震が複数回起こったの。それも短時間のうちに。

私は気になって、外に出た。この村はちょうど他より標高の高い位置にあったから、外の状況がわかりやすいと踏んでね。そしたら本当に小さく、魔物と思われるものの姿が見えた。遠すぎてどんな魔物かまでは分からなかったのだけれど。

私はすぐにその場所へと向かった。外に出た瞬間、妙な悪寒が走ったわ。早く対処しないと何かがまずい、ってね。

そして到着したのは夕日がちょうど沈んだ頃。辺りは薄暗くなっていた。

「これは……」

薙ぎ倒された木々に深く抉れた大地。ここに来るまでに通ってきた生命力溢れた森の姿は、どこにもなかった。この有様を見た瞬間、あの地震は間違いなくここで起きた戦闘によるものだったと直感したわ。けれど……。

「誰も何もない、か……」

私はとりあえずこの荒れた大地を歩き回ってみた。けれど特にめぼしい何かがあるわけではなかったわ。

「まあでも、とりあえず調査はしておきましょう。近くの村から人員を何人か動員した方が良さそうね」

ただ今日はもう遅い。こう暗くては大事なものを見落とす可能性もあるわ。調査は明日にしましょうか。

私はなるべく付近に魔物がいないかつ、村近くの場所で野宿した。そして翌日、村に駐在している師団員を何人か引き連れてここを調査した。近くと言っても、ここは大帝国の中でも魔物の出現率の高い森だから、この森を抜けないと村なんて全くないのよね。

夕方頃までやっていたのだけれど、結局のところめぼしい成果はあげられなかったわ。おそらくは陛下からここの調査命令が届くとは思っているから、早めに調査することに関しては問題ない。むしろすごく褒められそうよね。

けれどなんの成果もあげられないというのは痛すぎるわね。陛下にどう報告しようかしら……。

私が考えに 耽ふけっていると、背後から妙な気配がした。振り向くとそこには見知らぬ女がいた。黒みが買った紫の短い髪をしたその女の腰の両側には一本ずつ刀が携わっていて、その顔には無惨にもひどい傷痕が刻まれていた。

「……あなたは誰かしら」

「あたしかい?あたしは輝夜。今朝冒険者になったばかりのただのひよっこさ」

ひよっこ、ねぇ……。

「とてもそうは見えないけど?」

「ほんとだって。ほらこれ、ギルドカード」

輝夜と名乗った女が懐から出したものを確認する。

「たしかにDランク冒険者……新米さんだわ」

でも、見目や気配は歴戦の猛者って感じなのよね。

……ん?パーティ名にノアズアークって書いてあるわね……たしかジンがそのパーティのことを手紙で言っていたような……。

「でしょ?ところでお前は……そうだな……その服装からして、師団員ってとこか」

「正解よ。大帝国第二師団『暁』の師団長、エルザ=アレクシス。それが私よ」

「へぇ。お噂は聞いてるよ、エルザ師団長?炎の魔女ってお前のことだろ?」

「不本意ではあるけど、そんな異名が広まってるのは事実ね。……ところであなた、ノアズアークに所属してるのね」

「そうだけど、それが?」

「いえ、聞いたことのある名前だったから……まあいいわ。輝夜さん、だったかしら……?」

「ああ」

「あなたがなぜこんなところにいるのか、聞いてもいいかしら?」

私はただここにいる理由を聞いだけだった。だというのに、彼女は先ほどとは一変して鬼の形相のような顔になり、気配も強烈なものに変わっていた。

「「「ひっ……!」」」

「ちょ、輝夜、さん……?」

私の周りにいた師団員たちは、怯え切った目で彼女を見ていた。まるでヘビに睨まれたカエルのように。

「……復讐だ……」

「え……?」

「仲間の、家族の、友の……復讐だ。あたしはそのためだけに生きている」

彼女からは、怒りや憎しみといった負の感情をひしひしと感じた。

復讐に取り憑かれた戦姫。

そんな言葉が頭をよぎった。

「…………おっと、すまん。えーと、なんの話をしてたっけ?」

この人、危うすぎる……!

こちらへの敵意とかは感じないけど、放っておいたらまず間違いなく死ぬ。彼女からはそんな危険な香りがした。

「……なぜあなたがこの場所にいるのか、という話よ」

「あ、そうそう、それだ。えーとだな、昨日戦った魔物の手がかりが残ってないかと思って来たんだ」

先ほどとは打って変わって、彼女はいたって普通に話してくれた。

「魔物?」

「ああ。あたしが駆けつけたときには、小さくなってたけど、ノアちゃんたちが言うには、ありえないくらい大きかったらしい。あと、見た目は亀みたいだったってさ」

大きくて亀みたいな魔物……?聞いたこともないわ。

「……そんな魔物、いたかしら」

「ノアちゃんだけじゃなくてみんなも言ってたし、そうなんじゃない?それに嘘つく理由もないし」

つまりは未確認の魔物の出現……そんな報告何十年……いやもしかしたら何百年もされていないはず。それもこの国だけの話じゃなく、この大陸中でも……。

「これはすぐ陛下に報告しないとだわ。輝夜さん、いきなりで悪いんだけれど、ちょっと協力してもらえない?」

「そうだな……時間取らないんならいいけど、具体的に何を?」

「その魔物についてできるだけ詳しく聞かせて欲しいの。これも私の仕事の一環なのよ」

「なんだ。そんくらいならオーケーだ」

輝夜の情報のおかげで、だいぶ調査が進んだ。私はとりあえず、まとまった調査内容を書状に書き連ねて陛下へと送った。ちなみに、輝夜とは情報をもらってすぐに別れた。

そして調査報告をしてから二日後、陛下からの命令書が私に届いた。内容は帝都から西に離れたところに位置する森の調査。そこには大きな戦闘跡があるという。

「やっぱり事前に調査しておいて正解だったわね」

おそらくは陛下にも今日、おそくとも明日には私の書状が届くはず。我ながらいい仕事をしたわね。

ただ調査内容が充実していたかといえば、そうでもなかったわね。救いなのは輝夜さんが私たちが欲しい情報を持っていてくれたこと。とはいえ、今後もっと調べ進めていきたいとは思うけど、手がかりが全くないせいで、こちらとしても主だった行動ができないのが本音なのよね。

私は読んでいた書状を机に置き、懐からあるものを取り出した。それは小さな黒い石のカケラ。私の親友を奪った魔物の残骸。今すぐ壊してやりたいけど、そんなことできるはずがなかった。

「あなたは一体なんなの……?」

私は窓から差し込む光に石を当てる。それは黒く半透明に輝いていた。

この石はアンフェールの時にたまたま見つけたもの。私はこれを見つけてからずっと、あの厄災は誰かが仕組んだものだと考えているわ。だけれど、未だに何ひとつつかめてはいない。私の親友を亡き者にした奴らを、跡形もなく叩きのめしてやりたいっていうのに。

私は石を強く握り締め、再び懐にしまった。

とりあえず、今回の件も地道に調べつつ、アンフェールの手がかりも引き続き調査していくわよ。



























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少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
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 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

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