74 / 128
グランドベゼル編
21 師団長ウィリアム&ジンvs双子の兄弟
しおりを挟む
side ノア=オーガスト
皇帝陛下や師団長たちとの会食が終わった矢先、皇帝陛下からのお願いにより、オレたちノアズアークと師団長の御前試合が行われることになった。
前に秀とオスカーさんが戦っていた時、正直オレもやりたかったなと思っていたから、いい機会と言えばいい機会なんだよなー。だってさ、師団長とやれる機会なんてそうそうなくないか?
こんなにも大きな国を守っている人たちなんだ。身体的にも、精神的にも、技術的にも、弱いはずがない。その肩書きに見合う強さをもってる。そんなすごい人と勝負できるなんて……燃えてくるじゃん。
「どうするんだ、ノア。一対一の二戦ではなく、二対二の一本勝負で行うという話だったが」
演習場と称された場所に着いた途端、湊が話しかけてきた。
「オレは絶対やりたい。だからあとひとり、オレとタッグ組んで欲しいんだけど、誰かーーー」
「俺がやる」
喰い気味に発言したのは、シンだった。
「お、珍しいなー。シンがやりたいって言うなんて」
「兄さんを守るのは俺の役目だからな」
「ったく、普通は逆なんだけどなー。まあいいや。他にやりたい人、いない?」
「そりゃみんなやってみたいよー。だって、師団長と勝負できる機会なんてそうそうないんだからさー。けど今回は譲ろうかなー。兄弟タッグの力を見てみたいからねー」
「たしかに、そうですね。ノアさんとシンさんの本格的な連携は見たことないです。すごく興味あります……!」
カズハとエルはどうやらオレたちの戦いぶりを見たいらしい。これは恥ずかしい試合はできないな。
「あんたら二人って、本気出したことないだろ」
「え?」
突然、セツナに言葉をぶつけられた。
「もしかしたら、この試合であんたらが隠してる何かの片鱗が見られるかもしれない。だったら私が辞退する価値はあるって話」
げっ……な、なんでわかるんだ……?
セツナってやけに鋭いところあるんだよな……前にカズハたちにしたみたいに神仙族の説明はしたけど、ちょっと疑ってる節があったんだよ。『身体能力が高い、ね……ほんとにそれだけか?』って聞いてきたし……。
「い、いや、別に隠し事なんか……」
「師団長たちには頑張ってもらわないとな」
鋭い目つきでオレたちを捉えるセツナ。
「は、ははは……」
オレは乾いた笑いをし、なんとかごまかそうとした。セツナには無駄なんだろうなとわかっていても、反射的にやってしまったのだからしょうがない。
セツナはそんなオレを無視して、厳しい視線を向け続ける。
うぅ……誰かー……!
「ノア兄ちゃん、シン兄ちゃん……!」
呼ばれた声に振り向けば、小さな救世主がそこにいた。
助かったー!
「リュウ……!」
オレはリュウに目線を合わせるようにしゃがむ。
なんか背後から、威圧がかかってる気がするんだけど……無視しよう、うん。だって怖いもん。
「あの強そうな人たちと戦うの……?」
「そうだよ。もしかして、リュウもやりたかった?」
そう聞くと、リュウは首をブンブンと横に振った。
「ぼくじゃ弱いから……勝てない」
しょぼんとするリュウ。そんな顔しなくたっていいのに。
「弱いだなんて……少なくともオレたちは、リュウのこと、強くて信頼できる仲間だって思ってるぞー。けどそれでも、リュウが自分に自信を持てないって言うなら……そうだな……」
ちょうどシンがオレの隣にやってきた。オレは立ち上がり、シンの肩に腕を回した。
「オレたち兄弟の華々しい戦いっぷりを見てな!」
オレはニッと笑う。
「そんで、いいとこぜーんぶ奪っちゃえ!」
「うん……!わかった!」
リュウはさっきの落ち込んだ様子とは真逆に、パーっと明るく笑ってくれた。
「そんなにやりてぇのか?ノア」
「もちろん。秀だけオスカーさんと戦ったのずるいじゃんか。オレもやってみたい」
秀は少し呆れ気味に後頭部掻いた。
「ったく。なーんか、年々その凶悪な好奇心が育ってる気がするぜ……。ま、今回は俺たちが折れるか……存分に暴れてこいよ、ノア、シン」
呆れていたはずの秀だけど、オレたちを鼓舞する一言をくれた。
「ただし、あれは使うな。あれは命の危険に晒された時のみだ。わかってるな?」
「わかってるって。あ、でもいざってときは、眼の力は使うからな」
とは言っても、前に何度か使っちゃってるんだけどなー。けど、言わなきゃバレないから大丈夫理論のおかげで、たぶん知られてはない……はず……。
「黎明之眼か……別に大量に外に放出してるわけじゃないしな……それなら使っても問題ないな」
あ、バレるバレない以前に、使ってよかったらしい。なんだよ、もう。
まあでも、秀のお許しも出たし?今後は使いたい放題ってわけだ。けど、あんまこの力に頼りきりになると、いざ使えなくなった時を想定した場合、オレは役立たずに成り下がっちゃうからなー。なるべく使わず、いざってときの切り札的なものとしても扱わないと。
だからこの試合でも、当然最初からは使わない。
「そろそろ準備はできたかー?ノアズアーク」
こっちにやって来たのは、右手に木剣を二本持ったオスカーさんだった。
「で、結局誰が出ることにしたんだ?」
「オレとシンの二人だよ」
「ほう。そりゃ面白そうな戦いが見れそうじゃないか。俺もやりたかったぞー」
「オスカーの旦那。そりゃこの俺を倒してからじゃねえとな。メインディッシュはお預けだ」
「ガッハッハ。随分と手強いシェフよな。だが、実に楽しみだ」
向かい合い、不的な笑みを浮かべる二人。なんだか、いいライバルって感じだ。
「えーと、オスカーさん?オレたちなら準備万端だけど、その木剣は?」
「おお、これか。ボウズたちに使ってもらう武器よ」
オスカーさんから手渡された木剣を握ってみる。
まあ、なんの変哲もない木剣だ。振った感触も、木の剣です、って感じ。でもこんな武器じゃすぐ折っちゃう気がするんだけど……。
「あの、オスカーさん。オレ、これすぐダメにしそうなんだけど」
「ガッハッハ。心配はいらん。その木剣は少々特殊な材質のものが含まれていてな。試合専用にってわざわざブラックスミスに特注しているものだから、安心しな」
ブラックスミス……前にも聞いたな。なんか、有名な鍛冶屋だったような……。
「たしかネームド武器をつくることの出来る鍛冶師がいるそうだな」
「お、よく知ってるな。なかなか見識が広い」
シンってば、なんでそんなこと知ってるんだよ。たいていはオレと一緒に行動してるんだから、そんなの知る暇なくないか?
……我が弟ながら、恐るべし。
「その鍛冶師がつくったかは知らんが、ブラックスミスは世界トップクラスの鍛冶屋だからな。そこに所属する鍛冶師の腕前は、誰もが一流。こういう特殊武器をつくることなぞ、造作もないはずだ」
見た目はただの木でできた剣なんだけどなー。
「この木剣ってさ、どう特殊なんだ?」
「やはりそこが気になるわな。ま、使えばわかる」
「えー。ますます気になるじゃん」
「ガッハッハ。さあ、準備が整ったのであれば、あちらへ向かうといい。ボウズらの対戦相手が待ってるぞ」
オスカーさんの示した先では、ウィリアムさんとジンさんが待っていた。二人とも、どうやら戦う準備は完了しているらしい。
いよいよだな。
オレは自分の心が高鳴っているのを感じながら、一歩、また一歩と足を踏み出していく。そして相手と適当な間を空けた位置で立ち止まる。
「そろったな」
あれ?グレンさんがいる。何かあったのか?
「……んんっ。一応審判的な役目のやつが必要ってことで、俺が務めることとなった。俺から言うことは、ひとつだけ。相手を死に至らしめるようなあらゆる攻撃の禁止だ。もしそれが行われたと俺が判断した場合は、即座に介入し中止とする。バチバチするのは構わないが、やりすぎるなよ」
あー、だからグレンさんがここいにいるのか。たしかに何かあった時にすぐ対応できる人が近くにいた方が安心だよなー。
グレンさんの忠告にオレたちはうなずいた。
「大帝国第一師団『斑』師団長、ウィリアム=ブラッツだ。お前たちの力、存分に見せてくれ」
「大帝国第五師団『銀』師団長、ジン=グレースよ。手加減なしでいくから、覚悟してね」
真摯な挨拶とともに武器を構えた二人に、オレたちも応えた。
「……お前たち風情が兄さんに勝てるはずもないが……遊んでやる」
「オレはノアズアークの、一応リーダーをやらせてもらってるノアだ。師団長さんたちの胸を借りるつもりで、全力でやらせてもらう……!」
グレンさんが、天へと垂直に手を伸ばす。そして合図とともにその手を振り下ろした。
「始め!」
さあ、楽しい勝負の始まりだ!
side ジン=グレース
『カンッ、カ、カンッ、カッ、カカンッ』
勢いよく、それでいてほとんど隙のない連撃が降りかかる。猛攻撃を繰り返す木剣を、私は特殊な木の槍で受け止めてはじく。
「ジン師団長ってやっぱり強かったんだな……!」
「お褒めに預かり光栄だよ……」
一撃一撃が、思ったよりも重い……!
『カカンッ、カッ、カッカカンッ』
まるで一撃一撃全てに全体重をかけているかのような、そんな強攻撃が絶えることなく続いている。
「じゃあ、これならどうだ!」
ノア君は上から下へと素早く木剣を振り下ろそうとする。私はそれを防ごうと槍を構える。
木剣は確かに私の槍にぶつかり、動きを止めた……かのように見えた。しかし、ノア君は木剣をそのまままっすぐ私の胸元目掛けて突き出した。
「くっ……!」
私は槍をめいいっぱい上へ持ち上げることで、その軌道を変えることに成功した。ノア君は驚いたような顔を見せたものの、すぐに体勢を立て直して私に絶え間ない攻撃を続ける。
いくらなんでも、運動能力が高すぎない?!
私はノア君に感嘆しながらも、さらに闘争心を燃やした。
このままやられっぱなしは、性に合わない……!
私は一度、はじく力を強めてノア君をのけ反らせた。ノア君の腕が大きく後ろに飛ばされ、一瞬無防備な状態となった。
「っ……!」
今だ……!
「はぁっ!」
私は大きく一歩を踏み出し、槍を一直線に前へと突き出した。
いい一撃が入った……!と思った瞬間、予想外の強い力が側面から加わり、私の槍は軌道を変えられてしまった。
「……なに!?」
私の槍を攻撃したのは、氣弾だった。構図的に私とノア君、ウィリアムとシン君となってはいるけれど、これはタッグ戦。互いに助け合うことを可能とする。つまりこれは……。
私はちらっと視線をノア君から外し、右側方を見る。そこには、息つく暇もないほどに打ち合う二人の姿があった。
あんな状況でこっちに攻撃してきたというの……?ウィリアムがそれを許したってのも驚きだけど、それよりシン君の戦闘技術がヤバすぎる。
こっちの状況を把握しつつ、ノア君がピンチなのに気づき、氣弾を正確に私の槍に当てるなんて……そんなの私の行動を予測してないとできない。それに仮にできたとしても、ウィリアムとの激しい攻防の中でそんな芸当ができるはずがない……!
「人間業じゃないわね……!まったく……」
私はシン君をひと睨みしつつ、再びノア君へと意識を集中させた。
「……!」
どこに行った……!?
私が視線を外したのはほんの一瞬だったはず。だというのに、私の目はノア君の姿を捉えることができなかった。ただ、うっすらと砂埃が残っていることに気づいた。それは右から左へと流れているように見えた。
ってことは……!
私は身体を左側面へと回転させつつ、槍を構えた。
『カンッ!』
案の定、木剣が斜め上から振り抜かれた。予想通りではあったものの、ノア君に先手を許していたために、私は万全な状態で受けることができていなかった。
私の身体は衝撃に耐えられず、膝をついた形となってしまった。
「くっ……!」
「マジか……!」
私が防いだことに驚いた様子のノア君。そこには、嬉しそうな表情も含まれていた。
何よ、その顔。そんな嬉しそうにしてるとこっちもわくわくしちゃうじゃない。でも……
このままだと押し切られる……!
私は瞬時にそう判断し、槍を持った状態を維持しつつ右手を引き左手を押す。槍は横一線の形から、斜め状の形へと変わる。
「うおっ」
ノア君の木剣は、地面へと滑り落ちた。私は身体を回転させつつ、ノア君の背後へと回る。そして回転力も上乗せしつつ、槍で薙ぎ払うようにして、体勢を崩したノア君に攻撃する。
交わしつつそのまま攻撃に転じたから、避ける暇なんてないはず……!
かがんだ状態のノア君へ、無慈悲にも私の槍が直撃した。
「……っ!」
胴体に重い一撃が入ったノア君は、軽く飛ばされた。
手応えが薄い……これは氣で防がれた感じね……。
ノア君は地面に突っ伏すとこなく、軽々と受け身を取って、立っていた。剣を構え、攻撃した直後の私に瞬時に襲いかかってくる。
「はあっ!」
「くっ……」
ノア君の気合いの入った連続攻撃が降りかかる。私はそのすべてを辛うじていなしているものの、防戦一方の状態だ。
なにか策を講じないと……!
「うっ……!」
窮地に陥っていたはずの私に、形勢逆転のチャンスがやってきた。木剣を振るっていたノア君の手首が凍りつき、猛攻が止んだ。
さすが、ウィリアム。シン君もバケモノ級だけど、ウィリアムもそう変わんないね……!
「ロックスピア!」
私は土属性の中級氣術を発動した。無数のロックスピアが、無防備なノア君目掛けて飛んでいく。けどそれは、ただのロックスピアなんかじゃない。
普通のロックスピアは、長さ約八十センチの鋭い槍のような岩をいくつか射出するものだけど、私が今放ったのは、大きさを三十センチ程度に抑えて、さらに本数を増やした特別製。ま、言ってしまえば数打ちゃ当たる戦法ね。
小さな、それでいて厄介なロックスピアがとめどなく撃ち込まれる。ノア君がいたであろう場所は見事に土煙まみれとなっていた。私は距離をとってそれを見つつも、槍を構え、いつノア君が飛びかかって来ても対処できる体勢を維持する。
これで勝てたとは思わないけど、もしピンピンしてたら、いよいよ私、本気を出さないと負け濃厚ね……。
side 八神秀
演習場の側面に急遽設置された仮説見学場。師団員の奴らがいくつか椅子を並べた急ごしらえの場所だが、俺たちはここからノアたちの戦いぶりを観ていた。
ちなみに座っているのは、皇帝の旦那とグレンの旦那、それからオスカーの旦那だけだ。俺たちノアズアークは全員、立って観察している。椅子はまだ余っているが、なるべく近くで見たいのか座っている奴らより前に立って、戦いに見入っている感じだな。当然、座ってるやつらの視界を遮らないようにしてな。
今の戦況を簡単に言えば、ノアの方は大雨のように放たれたロックスピアの攻撃を受けたばかり。状況は土煙が消えないとなんともって感じだ。
シンの方は、とめどなく打ち合っているな。木剣と木刀がぶつかり合う音が終始会場に鳴り渡っている感じだ。
「さっきのノアの動きを止めた攻撃……ありゃぁ、アイススピアか?」
「おそらくな。だが、かなりアレンジされているからな。氣の操作性が相当高いとみえる。まさに、目にも留まらぬ速さで放たれていた。それも小さく鋭い一撃だが、威力は通常のアイススピアよりも上だ」
腕を組み柱にもたれかかっている湊が答えた。
「アイススピアは、一度の発動で数本の鋭い氷の槍を放つ。その大きさを極限まで小さく、そしてひとつに凝縮したことで、その威力やスピードを驚異的に向上させたっつうわけか」
「だろうな。だがそれを成すには、氣を練り上げて形をなす一定の時間が必要だろう。もともとある形を捻じ曲げて放つわけだからな。……だがさっきの様相を見るに、その時間を短縮できるだけの熟練度があの男にはあるらしいな」
「だな。だがそれだけじゃねぇぞ、湊。ジンのやつもロックスピアをオリジナルで使っていた。それも割とすぐ撃ってやがった。やっぱ大帝国を守る要たる師団長どもは、伊達じゃねえってこったな」
「ガッハッハ。見る目があるなー、秀。それに水色頭のボウズも」
「…………」
湊は自分が呼ばれたことに気づいていたものの、呼び方が気に入らないのかスルーした。ま、気持ちはわかる。下に見られてる感じがして、イラっとくるわなぁ。
「オスカーの旦那、こいつには湊って名前があんだよ。名前で呼んでやってくれや。……嫌われたままだと、湊とは一生勝負できねぇぞ」
俺はオスカーの旦那の耳もとで小声で言った。
「……っ!そ、それは困るな…………ゴホン……湊、お前もなかなかどうしていい目をしているなー!ガッハッハ!」
オスカーの旦那は椅子から立ち上がり、湊のもとへと歩き出した。そして機嫌良く話しかけ、湊の背中をバシバシと叩いた。
オスカーの旦那……それは逆効果だ……。
「…………………………」
湊は最上級に不機嫌になったのだろう。ゆっくりと振り返り、オスカーの旦那を静かに睨んだ。
「……っ!す、すまん、すまん……ガッ、ハッ、ハ……」
オスカーの旦那は、さすがにヤバいと感じたのか、両手を上に上げたポーズをした。そして踵を返して椅子に座った。
「何やってんだ、オスカーの旦那」
頭に冷や汗をかいたオスカーの旦那は、額を服の袖で擦りながら答えた。
「いや、いつものノリで行ったんだが、逆に嫌われてしまったらしい」
「そりゃそうだろ。湊はそういうタイプじゃねぇんだからよぉ」
「だが、俺はこんなことではめげんぞー。何度でもアタックして機嫌を直してもらう。そして俺と勝負をしてもらわんとなー!ガッハッハ!!」
……すげーポジティブ思考だ。
「ま、その前に俺を倒すことに注力してくれや」
俺は高笑いを続けるオスカーの旦那を置いて、湊のもとに戻った。
「なんか進展あったか?」
「まだ動きがないな。シンの方は変わらず打ち合い続けているようだ。あれはシンが仕掛けているというよりは、ウィリアムという男の仕業だろう。シンなら基本、ノアのそばを離れないからな。ノアは未だ土煙に覆われて様子は不明。ノアの動きに注意しているのか、ジンも様子を窺ったままだ」
たしかウィリアム=ブラッツだったか?あの金髪の男。湊ほどとはいかなくても、それに近い剣の腕をもつシンと対等に戦い、シンの足止めにも成功してるなんてなぁ……世界広しとはよく言ったものだぜ。
「なるほどな。だがそろそろ土煙が晴れる頃合いだ。ここからどう戦況が変わるか、楽しみだなぁ」
ノアなら……俺らの敬愛する主なら、このくらいのこと、窮地でもなんでもねぇはずだ。土煙の中にまだいると見せかけてもう移動しているか、あるいは姿が見えた瞬間に全力で突撃してくるか、はたまたシンがカバーに入るか……どう転んでも面白いことにはなりそうだなぁ。
side アイザック=シュヴェルト=フリード
ほう。やはりイオリやグレンの言ったことは、間違いではなかったようだな。ノアもシンも、この国の守護者たる師団長相手に全く引けを取らない。
あの若さですでに師団長クラスか……末恐ろしい子どもらだ。
ウィリアム=ブラッツ及びジン=グレースは、大帝国で最も有名な氣術学院『アクロポリス氣術学院』の卒業生だ。そこは、あらゆる氣術、あらゆる武術、あらゆる知識を学ぶことができる、と謳っているわけだが、そこで二人は歴代トップレベルの成績を修めた。
氣術学院の卒業生が選ぶ進路として最も多いのは、大帝国師団への志願だ。半分以上が師団員になるために学院に通っていると言っても過言ではないほどに。
十年前のファランクスとの大規模戦争……通称寒雨赤嵐戦争と三年前の大厄災アンフェールにより、師団員の数が激減したため、大帝国師団としては人員確保に努めたいのは当然のことだ。だが、未来ある若者を簡単に悲惨な戦場に送り込むことなど私にはできない。そのため、私が皇帝になってからは師団員の採用の際の条件をかなり厳しくした。それは寒雨赤嵐戦争後もアンフェール後も変わらない。いやむしろ、なおさらというべきか……。
ウィリアムやジンが師団員になったのは、私が皇帝になって以降だ。つまり、より厳格となった師団員採用試験に見事に合格したわけだ。それも当時の代において二人ともトップの成績を修めて。
それほどに優秀で、さらには師団長にまでなった二人と肩を並べているあの子どもら二人は……ふむ、そうだな……いい意味で規格外と言ってもいいかもしれないな。
ウィリアムもジンも、ノアやシンと同じくらいの歳の頃と言えば、また氣術学院の学生だったはず。それからすぐに師団員となって、現在は他師団長と同程度に強くなっている。だというのにノアやシンは今、ほぼ互角に戦えている。これを規格外と言わずしてなんと呼ぶのか、私にはわからないな。
現状、ジンやウィリアムが優勢に見えるが……さて、ここからどうなることやら……。
皇帝陛下や師団長たちとの会食が終わった矢先、皇帝陛下からのお願いにより、オレたちノアズアークと師団長の御前試合が行われることになった。
前に秀とオスカーさんが戦っていた時、正直オレもやりたかったなと思っていたから、いい機会と言えばいい機会なんだよなー。だってさ、師団長とやれる機会なんてそうそうなくないか?
こんなにも大きな国を守っている人たちなんだ。身体的にも、精神的にも、技術的にも、弱いはずがない。その肩書きに見合う強さをもってる。そんなすごい人と勝負できるなんて……燃えてくるじゃん。
「どうするんだ、ノア。一対一の二戦ではなく、二対二の一本勝負で行うという話だったが」
演習場と称された場所に着いた途端、湊が話しかけてきた。
「オレは絶対やりたい。だからあとひとり、オレとタッグ組んで欲しいんだけど、誰かーーー」
「俺がやる」
喰い気味に発言したのは、シンだった。
「お、珍しいなー。シンがやりたいって言うなんて」
「兄さんを守るのは俺の役目だからな」
「ったく、普通は逆なんだけどなー。まあいいや。他にやりたい人、いない?」
「そりゃみんなやってみたいよー。だって、師団長と勝負できる機会なんてそうそうないんだからさー。けど今回は譲ろうかなー。兄弟タッグの力を見てみたいからねー」
「たしかに、そうですね。ノアさんとシンさんの本格的な連携は見たことないです。すごく興味あります……!」
カズハとエルはどうやらオレたちの戦いぶりを見たいらしい。これは恥ずかしい試合はできないな。
「あんたら二人って、本気出したことないだろ」
「え?」
突然、セツナに言葉をぶつけられた。
「もしかしたら、この試合であんたらが隠してる何かの片鱗が見られるかもしれない。だったら私が辞退する価値はあるって話」
げっ……な、なんでわかるんだ……?
セツナってやけに鋭いところあるんだよな……前にカズハたちにしたみたいに神仙族の説明はしたけど、ちょっと疑ってる節があったんだよ。『身体能力が高い、ね……ほんとにそれだけか?』って聞いてきたし……。
「い、いや、別に隠し事なんか……」
「師団長たちには頑張ってもらわないとな」
鋭い目つきでオレたちを捉えるセツナ。
「は、ははは……」
オレは乾いた笑いをし、なんとかごまかそうとした。セツナには無駄なんだろうなとわかっていても、反射的にやってしまったのだからしょうがない。
セツナはそんなオレを無視して、厳しい視線を向け続ける。
うぅ……誰かー……!
「ノア兄ちゃん、シン兄ちゃん……!」
呼ばれた声に振り向けば、小さな救世主がそこにいた。
助かったー!
「リュウ……!」
オレはリュウに目線を合わせるようにしゃがむ。
なんか背後から、威圧がかかってる気がするんだけど……無視しよう、うん。だって怖いもん。
「あの強そうな人たちと戦うの……?」
「そうだよ。もしかして、リュウもやりたかった?」
そう聞くと、リュウは首をブンブンと横に振った。
「ぼくじゃ弱いから……勝てない」
しょぼんとするリュウ。そんな顔しなくたっていいのに。
「弱いだなんて……少なくともオレたちは、リュウのこと、強くて信頼できる仲間だって思ってるぞー。けどそれでも、リュウが自分に自信を持てないって言うなら……そうだな……」
ちょうどシンがオレの隣にやってきた。オレは立ち上がり、シンの肩に腕を回した。
「オレたち兄弟の華々しい戦いっぷりを見てな!」
オレはニッと笑う。
「そんで、いいとこぜーんぶ奪っちゃえ!」
「うん……!わかった!」
リュウはさっきの落ち込んだ様子とは真逆に、パーっと明るく笑ってくれた。
「そんなにやりてぇのか?ノア」
「もちろん。秀だけオスカーさんと戦ったのずるいじゃんか。オレもやってみたい」
秀は少し呆れ気味に後頭部掻いた。
「ったく。なーんか、年々その凶悪な好奇心が育ってる気がするぜ……。ま、今回は俺たちが折れるか……存分に暴れてこいよ、ノア、シン」
呆れていたはずの秀だけど、オレたちを鼓舞する一言をくれた。
「ただし、あれは使うな。あれは命の危険に晒された時のみだ。わかってるな?」
「わかってるって。あ、でもいざってときは、眼の力は使うからな」
とは言っても、前に何度か使っちゃってるんだけどなー。けど、言わなきゃバレないから大丈夫理論のおかげで、たぶん知られてはない……はず……。
「黎明之眼か……別に大量に外に放出してるわけじゃないしな……それなら使っても問題ないな」
あ、バレるバレない以前に、使ってよかったらしい。なんだよ、もう。
まあでも、秀のお許しも出たし?今後は使いたい放題ってわけだ。けど、あんまこの力に頼りきりになると、いざ使えなくなった時を想定した場合、オレは役立たずに成り下がっちゃうからなー。なるべく使わず、いざってときの切り札的なものとしても扱わないと。
だからこの試合でも、当然最初からは使わない。
「そろそろ準備はできたかー?ノアズアーク」
こっちにやって来たのは、右手に木剣を二本持ったオスカーさんだった。
「で、結局誰が出ることにしたんだ?」
「オレとシンの二人だよ」
「ほう。そりゃ面白そうな戦いが見れそうじゃないか。俺もやりたかったぞー」
「オスカーの旦那。そりゃこの俺を倒してからじゃねえとな。メインディッシュはお預けだ」
「ガッハッハ。随分と手強いシェフよな。だが、実に楽しみだ」
向かい合い、不的な笑みを浮かべる二人。なんだか、いいライバルって感じだ。
「えーと、オスカーさん?オレたちなら準備万端だけど、その木剣は?」
「おお、これか。ボウズたちに使ってもらう武器よ」
オスカーさんから手渡された木剣を握ってみる。
まあ、なんの変哲もない木剣だ。振った感触も、木の剣です、って感じ。でもこんな武器じゃすぐ折っちゃう気がするんだけど……。
「あの、オスカーさん。オレ、これすぐダメにしそうなんだけど」
「ガッハッハ。心配はいらん。その木剣は少々特殊な材質のものが含まれていてな。試合専用にってわざわざブラックスミスに特注しているものだから、安心しな」
ブラックスミス……前にも聞いたな。なんか、有名な鍛冶屋だったような……。
「たしかネームド武器をつくることの出来る鍛冶師がいるそうだな」
「お、よく知ってるな。なかなか見識が広い」
シンってば、なんでそんなこと知ってるんだよ。たいていはオレと一緒に行動してるんだから、そんなの知る暇なくないか?
……我が弟ながら、恐るべし。
「その鍛冶師がつくったかは知らんが、ブラックスミスは世界トップクラスの鍛冶屋だからな。そこに所属する鍛冶師の腕前は、誰もが一流。こういう特殊武器をつくることなぞ、造作もないはずだ」
見た目はただの木でできた剣なんだけどなー。
「この木剣ってさ、どう特殊なんだ?」
「やはりそこが気になるわな。ま、使えばわかる」
「えー。ますます気になるじゃん」
「ガッハッハ。さあ、準備が整ったのであれば、あちらへ向かうといい。ボウズらの対戦相手が待ってるぞ」
オスカーさんの示した先では、ウィリアムさんとジンさんが待っていた。二人とも、どうやら戦う準備は完了しているらしい。
いよいよだな。
オレは自分の心が高鳴っているのを感じながら、一歩、また一歩と足を踏み出していく。そして相手と適当な間を空けた位置で立ち止まる。
「そろったな」
あれ?グレンさんがいる。何かあったのか?
「……んんっ。一応審判的な役目のやつが必要ってことで、俺が務めることとなった。俺から言うことは、ひとつだけ。相手を死に至らしめるようなあらゆる攻撃の禁止だ。もしそれが行われたと俺が判断した場合は、即座に介入し中止とする。バチバチするのは構わないが、やりすぎるなよ」
あー、だからグレンさんがここいにいるのか。たしかに何かあった時にすぐ対応できる人が近くにいた方が安心だよなー。
グレンさんの忠告にオレたちはうなずいた。
「大帝国第一師団『斑』師団長、ウィリアム=ブラッツだ。お前たちの力、存分に見せてくれ」
「大帝国第五師団『銀』師団長、ジン=グレースよ。手加減なしでいくから、覚悟してね」
真摯な挨拶とともに武器を構えた二人に、オレたちも応えた。
「……お前たち風情が兄さんに勝てるはずもないが……遊んでやる」
「オレはノアズアークの、一応リーダーをやらせてもらってるノアだ。師団長さんたちの胸を借りるつもりで、全力でやらせてもらう……!」
グレンさんが、天へと垂直に手を伸ばす。そして合図とともにその手を振り下ろした。
「始め!」
さあ、楽しい勝負の始まりだ!
side ジン=グレース
『カンッ、カ、カンッ、カッ、カカンッ』
勢いよく、それでいてほとんど隙のない連撃が降りかかる。猛攻撃を繰り返す木剣を、私は特殊な木の槍で受け止めてはじく。
「ジン師団長ってやっぱり強かったんだな……!」
「お褒めに預かり光栄だよ……」
一撃一撃が、思ったよりも重い……!
『カカンッ、カッ、カッカカンッ』
まるで一撃一撃全てに全体重をかけているかのような、そんな強攻撃が絶えることなく続いている。
「じゃあ、これならどうだ!」
ノア君は上から下へと素早く木剣を振り下ろそうとする。私はそれを防ごうと槍を構える。
木剣は確かに私の槍にぶつかり、動きを止めた……かのように見えた。しかし、ノア君は木剣をそのまままっすぐ私の胸元目掛けて突き出した。
「くっ……!」
私は槍をめいいっぱい上へ持ち上げることで、その軌道を変えることに成功した。ノア君は驚いたような顔を見せたものの、すぐに体勢を立て直して私に絶え間ない攻撃を続ける。
いくらなんでも、運動能力が高すぎない?!
私はノア君に感嘆しながらも、さらに闘争心を燃やした。
このままやられっぱなしは、性に合わない……!
私は一度、はじく力を強めてノア君をのけ反らせた。ノア君の腕が大きく後ろに飛ばされ、一瞬無防備な状態となった。
「っ……!」
今だ……!
「はぁっ!」
私は大きく一歩を踏み出し、槍を一直線に前へと突き出した。
いい一撃が入った……!と思った瞬間、予想外の強い力が側面から加わり、私の槍は軌道を変えられてしまった。
「……なに!?」
私の槍を攻撃したのは、氣弾だった。構図的に私とノア君、ウィリアムとシン君となってはいるけれど、これはタッグ戦。互いに助け合うことを可能とする。つまりこれは……。
私はちらっと視線をノア君から外し、右側方を見る。そこには、息つく暇もないほどに打ち合う二人の姿があった。
あんな状況でこっちに攻撃してきたというの……?ウィリアムがそれを許したってのも驚きだけど、それよりシン君の戦闘技術がヤバすぎる。
こっちの状況を把握しつつ、ノア君がピンチなのに気づき、氣弾を正確に私の槍に当てるなんて……そんなの私の行動を予測してないとできない。それに仮にできたとしても、ウィリアムとの激しい攻防の中でそんな芸当ができるはずがない……!
「人間業じゃないわね……!まったく……」
私はシン君をひと睨みしつつ、再びノア君へと意識を集中させた。
「……!」
どこに行った……!?
私が視線を外したのはほんの一瞬だったはず。だというのに、私の目はノア君の姿を捉えることができなかった。ただ、うっすらと砂埃が残っていることに気づいた。それは右から左へと流れているように見えた。
ってことは……!
私は身体を左側面へと回転させつつ、槍を構えた。
『カンッ!』
案の定、木剣が斜め上から振り抜かれた。予想通りではあったものの、ノア君に先手を許していたために、私は万全な状態で受けることができていなかった。
私の身体は衝撃に耐えられず、膝をついた形となってしまった。
「くっ……!」
「マジか……!」
私が防いだことに驚いた様子のノア君。そこには、嬉しそうな表情も含まれていた。
何よ、その顔。そんな嬉しそうにしてるとこっちもわくわくしちゃうじゃない。でも……
このままだと押し切られる……!
私は瞬時にそう判断し、槍を持った状態を維持しつつ右手を引き左手を押す。槍は横一線の形から、斜め状の形へと変わる。
「うおっ」
ノア君の木剣は、地面へと滑り落ちた。私は身体を回転させつつ、ノア君の背後へと回る。そして回転力も上乗せしつつ、槍で薙ぎ払うようにして、体勢を崩したノア君に攻撃する。
交わしつつそのまま攻撃に転じたから、避ける暇なんてないはず……!
かがんだ状態のノア君へ、無慈悲にも私の槍が直撃した。
「……っ!」
胴体に重い一撃が入ったノア君は、軽く飛ばされた。
手応えが薄い……これは氣で防がれた感じね……。
ノア君は地面に突っ伏すとこなく、軽々と受け身を取って、立っていた。剣を構え、攻撃した直後の私に瞬時に襲いかかってくる。
「はあっ!」
「くっ……」
ノア君の気合いの入った連続攻撃が降りかかる。私はそのすべてを辛うじていなしているものの、防戦一方の状態だ。
なにか策を講じないと……!
「うっ……!」
窮地に陥っていたはずの私に、形勢逆転のチャンスがやってきた。木剣を振るっていたノア君の手首が凍りつき、猛攻が止んだ。
さすが、ウィリアム。シン君もバケモノ級だけど、ウィリアムもそう変わんないね……!
「ロックスピア!」
私は土属性の中級氣術を発動した。無数のロックスピアが、無防備なノア君目掛けて飛んでいく。けどそれは、ただのロックスピアなんかじゃない。
普通のロックスピアは、長さ約八十センチの鋭い槍のような岩をいくつか射出するものだけど、私が今放ったのは、大きさを三十センチ程度に抑えて、さらに本数を増やした特別製。ま、言ってしまえば数打ちゃ当たる戦法ね。
小さな、それでいて厄介なロックスピアがとめどなく撃ち込まれる。ノア君がいたであろう場所は見事に土煙まみれとなっていた。私は距離をとってそれを見つつも、槍を構え、いつノア君が飛びかかって来ても対処できる体勢を維持する。
これで勝てたとは思わないけど、もしピンピンしてたら、いよいよ私、本気を出さないと負け濃厚ね……。
side 八神秀
演習場の側面に急遽設置された仮説見学場。師団員の奴らがいくつか椅子を並べた急ごしらえの場所だが、俺たちはここからノアたちの戦いぶりを観ていた。
ちなみに座っているのは、皇帝の旦那とグレンの旦那、それからオスカーの旦那だけだ。俺たちノアズアークは全員、立って観察している。椅子はまだ余っているが、なるべく近くで見たいのか座っている奴らより前に立って、戦いに見入っている感じだな。当然、座ってるやつらの視界を遮らないようにしてな。
今の戦況を簡単に言えば、ノアの方は大雨のように放たれたロックスピアの攻撃を受けたばかり。状況は土煙が消えないとなんともって感じだ。
シンの方は、とめどなく打ち合っているな。木剣と木刀がぶつかり合う音が終始会場に鳴り渡っている感じだ。
「さっきのノアの動きを止めた攻撃……ありゃぁ、アイススピアか?」
「おそらくな。だが、かなりアレンジされているからな。氣の操作性が相当高いとみえる。まさに、目にも留まらぬ速さで放たれていた。それも小さく鋭い一撃だが、威力は通常のアイススピアよりも上だ」
腕を組み柱にもたれかかっている湊が答えた。
「アイススピアは、一度の発動で数本の鋭い氷の槍を放つ。その大きさを極限まで小さく、そしてひとつに凝縮したことで、その威力やスピードを驚異的に向上させたっつうわけか」
「だろうな。だがそれを成すには、氣を練り上げて形をなす一定の時間が必要だろう。もともとある形を捻じ曲げて放つわけだからな。……だがさっきの様相を見るに、その時間を短縮できるだけの熟練度があの男にはあるらしいな」
「だな。だがそれだけじゃねぇぞ、湊。ジンのやつもロックスピアをオリジナルで使っていた。それも割とすぐ撃ってやがった。やっぱ大帝国を守る要たる師団長どもは、伊達じゃねえってこったな」
「ガッハッハ。見る目があるなー、秀。それに水色頭のボウズも」
「…………」
湊は自分が呼ばれたことに気づいていたものの、呼び方が気に入らないのかスルーした。ま、気持ちはわかる。下に見られてる感じがして、イラっとくるわなぁ。
「オスカーの旦那、こいつには湊って名前があんだよ。名前で呼んでやってくれや。……嫌われたままだと、湊とは一生勝負できねぇぞ」
俺はオスカーの旦那の耳もとで小声で言った。
「……っ!そ、それは困るな…………ゴホン……湊、お前もなかなかどうしていい目をしているなー!ガッハッハ!」
オスカーの旦那は椅子から立ち上がり、湊のもとへと歩き出した。そして機嫌良く話しかけ、湊の背中をバシバシと叩いた。
オスカーの旦那……それは逆効果だ……。
「…………………………」
湊は最上級に不機嫌になったのだろう。ゆっくりと振り返り、オスカーの旦那を静かに睨んだ。
「……っ!す、すまん、すまん……ガッ、ハッ、ハ……」
オスカーの旦那は、さすがにヤバいと感じたのか、両手を上に上げたポーズをした。そして踵を返して椅子に座った。
「何やってんだ、オスカーの旦那」
頭に冷や汗をかいたオスカーの旦那は、額を服の袖で擦りながら答えた。
「いや、いつものノリで行ったんだが、逆に嫌われてしまったらしい」
「そりゃそうだろ。湊はそういうタイプじゃねぇんだからよぉ」
「だが、俺はこんなことではめげんぞー。何度でもアタックして機嫌を直してもらう。そして俺と勝負をしてもらわんとなー!ガッハッハ!!」
……すげーポジティブ思考だ。
「ま、その前に俺を倒すことに注力してくれや」
俺は高笑いを続けるオスカーの旦那を置いて、湊のもとに戻った。
「なんか進展あったか?」
「まだ動きがないな。シンの方は変わらず打ち合い続けているようだ。あれはシンが仕掛けているというよりは、ウィリアムという男の仕業だろう。シンなら基本、ノアのそばを離れないからな。ノアは未だ土煙に覆われて様子は不明。ノアの動きに注意しているのか、ジンも様子を窺ったままだ」
たしかウィリアム=ブラッツだったか?あの金髪の男。湊ほどとはいかなくても、それに近い剣の腕をもつシンと対等に戦い、シンの足止めにも成功してるなんてなぁ……世界広しとはよく言ったものだぜ。
「なるほどな。だがそろそろ土煙が晴れる頃合いだ。ここからどう戦況が変わるか、楽しみだなぁ」
ノアなら……俺らの敬愛する主なら、このくらいのこと、窮地でもなんでもねぇはずだ。土煙の中にまだいると見せかけてもう移動しているか、あるいは姿が見えた瞬間に全力で突撃してくるか、はたまたシンがカバーに入るか……どう転んでも面白いことにはなりそうだなぁ。
side アイザック=シュヴェルト=フリード
ほう。やはりイオリやグレンの言ったことは、間違いではなかったようだな。ノアもシンも、この国の守護者たる師団長相手に全く引けを取らない。
あの若さですでに師団長クラスか……末恐ろしい子どもらだ。
ウィリアム=ブラッツ及びジン=グレースは、大帝国で最も有名な氣術学院『アクロポリス氣術学院』の卒業生だ。そこは、あらゆる氣術、あらゆる武術、あらゆる知識を学ぶことができる、と謳っているわけだが、そこで二人は歴代トップレベルの成績を修めた。
氣術学院の卒業生が選ぶ進路として最も多いのは、大帝国師団への志願だ。半分以上が師団員になるために学院に通っていると言っても過言ではないほどに。
十年前のファランクスとの大規模戦争……通称寒雨赤嵐戦争と三年前の大厄災アンフェールにより、師団員の数が激減したため、大帝国師団としては人員確保に努めたいのは当然のことだ。だが、未来ある若者を簡単に悲惨な戦場に送り込むことなど私にはできない。そのため、私が皇帝になってからは師団員の採用の際の条件をかなり厳しくした。それは寒雨赤嵐戦争後もアンフェール後も変わらない。いやむしろ、なおさらというべきか……。
ウィリアムやジンが師団員になったのは、私が皇帝になって以降だ。つまり、より厳格となった師団員採用試験に見事に合格したわけだ。それも当時の代において二人ともトップの成績を修めて。
それほどに優秀で、さらには師団長にまでなった二人と肩を並べているあの子どもら二人は……ふむ、そうだな……いい意味で規格外と言ってもいいかもしれないな。
ウィリアムもジンも、ノアやシンと同じくらいの歳の頃と言えば、また氣術学院の学生だったはず。それからすぐに師団員となって、現在は他師団長と同程度に強くなっている。だというのにノアやシンは今、ほぼ互角に戦えている。これを規格外と言わずしてなんと呼ぶのか、私にはわからないな。
現状、ジンやウィリアムが優勢に見えるが……さて、ここからどうなることやら……。
10
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる