碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

6 不穏

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side 八神秀

「ちょーっと身体を押してやっただけなんだが、まさかあんなとこまで吹っ飛ぶとはなぁ。ちと加減を間違えたか」

俺は後頭部をかきながら、路地の中へと進んでいった。隣には湊もいる。

「全員気絶してるか」

湊が倒れ伏す黒服どもの様子をざっくりと確認した。湊の言う通り、ほとんどが泡を吹いて気絶しているみてぇだな。

「お前たちは……」

「よう、また会ったな、アンドレアスの旦那」

俺は先ほど見知ったばかりの男に軽く挨拶をした。

後ろにいるのは……なるほど、どうやら無事だったみてぇだな。

「なぜここにいるんだ?」

「あ?あー、なんだ。なんとなくってやつだ。気にすんな」

「…………」

アンドレアスの旦那は、俺の回答に満足できなかったらしく、かなりいぶかしんでいた。

まあその反応は妥当か。納得のいかない、理由もない善意なんて、そう易々と信じらんねぇわな。ましてや、さっき出会ったばかりの、の言うことなんてのは特にな。

「じゃあ、あれだ。アンドレアスの旦那みてぇにこの国で力のあるやつに恩を売っておけば、あとあと俺たちの役に立つかもしれねぇと思ったんだよ」

「……そうか。なんにせよ、助かった。ありがとう」

ある程度の警戒を解き、真摯に礼を述べたアンドレアスの旦那は、二人の子どもへと向き直った。

「エマ様、シリウス様。これにこりて探偵ごっこはもうおやめ下さい。皆、心配しています」

アンドレアスの旦那は諭すような口調で話した。さっきの部下に対する圧はまるで感じられねぇな。

「ごっこじゃないわ!わたしもシリウスも真剣に事件を解決しようとしてーーー」

「そのお気持ちは大変ありがたいです。ですが、これは私たち大人が対処すべき案件なのです。ご理解ください」

銀髪の少女はぷくーっと顔を膨らませると、「このわからずや!」とそっぽを向いた。

「あー、さっきのおじさんたちだ!」

そんな中、シリウスはマイペースにも俺のもとに駆け寄った。

「あん?おじさんじゃねぇっての。俺は秀だ。しゅう。わかったか?」

「おう!秀おじさんな!覚えたぜ!」

あー……ダメだなこりゃ。

キラキラとした眼差しで俺を見上げる金髪の少年。名前はたしか、シリウスだったか。

「ふ……」

「おい、笑うな湊」

「こっちは湊おじさんって言うんだー!おれはシリウス!よろしくなー!」

シリウスはニカッと清々しい笑顔を見せた。

「…………」

対して湊は無言を貫いていた。

にしても、湊おじさんって……。

「くくくっ。ざまあねぇな、湊おじさん?」

「……斬り落とすぞ、その首」

湊は刀に手をかけ射殺すような目で俺を睨んだ。

やべ、悪ふざけがすぎたか。

「そう怒んなって。俺も湊もおじさん認定されちまってんだから、仲良くしようぜ。な?」

刀身が徐々に姿を現していく。

まずい、ほんっっとにまずい。俺今日ここで死ぬ可能性ありなんだが?

「ねえねえ、おじさんたちはなんでそんなに強いの?どうやったら俺もおじさんたちみたいにかっこよくなれるー?」

シリウスはこの緊張感あふれる空気を完全に無視して、俺と湊の間をぴょんぴょん跳ね回った。

「……なぜお前は強くなりたいんだ」

湊は刀を納め、動き回るシリウスに問いかけた。

ふぅ。どうやら俺の命日はまだ先になったようだなぁ。助かったぜ。

「お前じゃない、シリウスだ!」

「……シリウスはなぜ強くなりたいんだ」

「おれは家族を守って、友達を守って、そしてこの国に暮らすみんなを守りたいんだ!」

シリウスは飛び回るのをやめ、真剣な眼差しで湊を捉えていた。

「なるほど……」

湊はそう呟くと、シリウスにゆっくりと近づきかがんだ。そして、ポンッとシリウスの頭を撫でる。

「いい信念だ。それを忘れなければ、必ず強くなれる」

「ほんと?」

「ああ。精進しろよ」

湊はノアやシンがまだ子どもだった時のように、優しげな表情でシリウスに言葉を投げかけていた。子どもの相手は苦手だとか言っていたが、案外湊は面倒見がいい。本人は気づいてなさそうだがなぁ。

「う……ぅ……」

微かに、近くからうめき声が聞こえた。俺は即座に反応し、振り返った。そこには倒れ伏しながらも意識を取り戻した豚の亜人がいた。

「お。起きたか。意外と早かったな」

「……いや、だ……」

「あ?」

なんて言いやがったんだ……?

俺はか細い声に耳を傾けるために、少しばかり豚の亜人に近づいた。

「死にたく、ねぇ……」

豚の亜人は顔をくしゃっと歪め、涙をボロボロと流していた。

死にたくねぇだと……それはどういう……。

俺は豚の亜人を観察した。そして気づいた。こいつの首もとが謎に発光していることに。

……っ!やべぇ!

「全員走れ!」

俺の大声に湊は即座にシリウスを抱えて走り出した。それに続いてアンドレアスの旦那もエマを抱き抱えて飛び上がる。

やれることはやっておくぜ。

俺は地面に手を当て氣術を使った。

「陰陽術、岩壁!」

一瞬にして路地に四角い箱が完成した。その箱は岩でできており、中には黒服たちを全員収めている。俺はしっかりとやつらを閉じ込めたことを確認し、湊たちのようにこの場を離れようとした。

『ドゴォォォォン!!』

だがその瞬間、けたたましい爆発音が辺りに拡散した。

「どわぁ……!」

岩壁の破片が混じった爆風に背中を押され、俺は路地の出入り口よりも奥、ふれあいパークの手前まで吹っ飛んだ。

俺はゴロゴロと地面を転がったが、すぐに立ち上がり状況を確認する。

「こりゃひでぇな……」

俺たちがさっきまでいた路地の姿はもうどこにもない。両側にあった木々は倒壊し、店も半壊している。それらの瓦礫が路地を埋め、もはや道は無くなっていた。

「何よ今の音?!」
「爆発……?!」
「おいマジかよ……!」

ふれあいパークにいたであろう亜人たちはこの謎の爆発に騒ぎ始めていた。

「無事だったか、秀」

「おう。ギリギリまで残って岩壁をやったんだが、それでもここまでの被害になっちまった。もうちょいねばって、二重三重にしとけばよかったか……」

「なんで、こんな……」

シリウスはこの悲惨な状況に顔をこわばらせていた。

「シリウス様。ご無事で何よりです」

アンドレアスの旦那はゆっくりと上空から降下してきた。

「シリウス!」

「姉ちゃん……」

エマはほっとしたようにシリウスに抱きついた。

「よかった、無事で……!」

「おれは平気だよ。でも……」

シリウスは崩れた店や木々を見て、終始悲しみに暮れていた。

「アンドレアス叡団長!これは一体どういうことですか……?!」

同じような格好をした男たちが駆け寄ってきた。顔に鱗のある男に、クマのような男……さっき会ったゼピュロスの叡団員たちか。どうやらようやく到着したらしい。

「遅いぞ、お前たち」

「す、すみま、せん……」

鱗のある男は息を切らしながら言った。

「今から現場の包囲及び被害者の有無の調査を行う。口酸っぱく言っているが、人命救助が第一優先だ。さあ、行け!」

「「「了解!」」」

アンドレアスの旦那の冷静な指示に、ゼピュロスの叡団員たちは一斉に散った。個人個人がなすべきことをしっかりと把握しているようだ。いい統率ができてるし、これなら迅速な対処ができそうだな。

「赤髪、悪いがエマ様とシリウス様を少しの間預けてもいいか?」

「なんだその呼び方は。俺は秀だ。こっちは湊な」

「失礼した。秀、それに湊。私は現場の指揮に入らねばならない。その間、二人にはこの御二方を保護してほしい。報酬はあとでいくらでも払おう」

冷静でいて焦っている、そんな言動を目の前の男から感じられた。

「いくらでもって、そんなこと簡単に言うもんじゃねぇぞ。仮に俺らがありえねぇぐらいの額を提示したらどうすんだ?」

「ふ。お前たちはそんなことはしないだろう」

「なぜそう言い切れる?まだ出会ってからたかだか一時間程度しか経ってねぇんだぜ?」

「時間など関係ない。私の勘がお前たちは信頼できる人物だと、そう告げている」

アンドレアスの旦那はそう真剣に応えた。

「俺も秀もだ。それでも信じれると?」

湊がさらに追い打ちをかけた。この国は人間に対してかなりの嫌悪感を抱いているからなぁ。だが……。

「人間だから、亜人だから、などと言うのは関係ない。これは私自身の信念に従って決めたこと。それに頼む立場の私がいちいちお前たちを疑っていては、信頼関係など一生築けはしない。私はお前たちと良い関係を築きたいと思っているのだ。お前たちはどうだ?」

やっぱりな。アンドレアスの旦那は、種族関係なしに対等に接することのできる人物みてぇだな。こういうやつと接点を持っておくのは存外悪くねぇ。それにこの国じゃ、話がわかるやつはあんまいなそうだからなぁ。こっちとしてもアンドレアスの旦那と仲良くやってくのは好都合ってもんだ。

「はは。そこまで言われちゃ、俺たちも応えるしかねぇわな。なあ、湊」

「ああ。アンドレアス、お前の頼みを引き受けよう」

「感謝する、秀、湊。では私は失礼する」

アンドレアスの旦那はすぐさま正面に広がる悲惨な現場へと向かって行った。

「怖かっただろ、お前ら」

俺は手を繋ぎ合い崩壊した路地を見つめる二人に、かがみながら声をかけた。二人は心配そうな表情を浮かべて前方を見ていた。

「そんなことない、けど……」
「そうよ。怖くなんか、なかったんだから……」

二人の振り絞ったような声は、その言葉に反し震えていた。口では強がってるいが、本心を隠しきれていないのがよくわかる。

他人の心配をするのは立派なことだが、まずは自分自身のケアをした方がいいんだがなぁ。それが子どもならなおさらだろ。ったく、誰だ?こいつらに虚勢を張るなんてテクニックを教えたやつは。

「よーし……」

俺は唐突に二人の頭に手を乗せ、ぐしゃぐしゃに掻き回した。

「うわぁ!」
「ちょっと、何するのよ!」

二人は抵抗しようと俺の手を剥がしにかかるが、当然そんな弱い力で抗えるわけもない。

「なに我慢してんだ、エマ、シリウス。泣きたきゃ泣けばいいんだよ」

今度はポンポンと軽く二人の頭を撫でる。

「だって、わたしは王族なのよ。それがこんな公の場で泣くなんて、だめに決まってるじゃない……」

「おれは強い男になるんだ。こんなとこでめそめそ泣いたら、みんなを守れるヒーローにはなれないじゃん……」

二人は俯きがちに、弱々しい声で本心を吐露した。

王族、か。道理でアンドレアスの旦那直々に探すわけだ。んでもって、そこらの子どもとは違って、この二人は重い枷を生まれた時からつけられちまってるっつうわけか……。

俺は唐突に二人をまとめて抱きしめた。二人分の温もりが俺の身体に伝わってくる。

「おいおい、ガキがなに強がり言ってんだよ。涙ってのは、誰かを思いやれるつえぇ心を持つ者の証だ。泣くことが弱さと直結してるわけでもねぇし、恥じる必要なんかこれっぽっちもねぇんだ」

俺は諭すように柔らかな声音で二人に伝えた。

俺はこういう変に我慢しちまうやつを知っている。あの二人も、この子ら同様、不器用ではあったが他人を気遣う優しさを幼少期から持っていた。……まあシンのやつは誰かさん限定にしか基本発動しねぇけど。それはともかくとして、そういうやつらを知ってるせいか、この二人の姿が俺らの主と重なって見えちまうんだよなぁ。

「「……っ……」」

エマもシリウスも、声が漏れてしまわないように唇を固く結んで我慢しているんだろう。ただ俺の耳には確かに、かすかではあるが、二人の今にも泣き出しそうな嗚咽が届いていた。

俺は二人の背中をそっとさすった。

「よく聞け、エマ、シリウス。心がつらくて苦しいって時はなぁ……思い切り泣いちまえ」

「「……っうぅ……っぁぁ……」」

せき止められていた二人の心の声が、ボロボロと流れ落ちる大粒の涙と掠れた小さな泣き声とともに吐き出された。俺はそんな幼くもたくましい二人の子どもが自分の気持ちを整理できるまで、優しく抱きしめていた。






side ノア=オーガスト

太陽が煌々と照らし、その木漏れ日が住民たちを包みこむここスターライトで、オレは意気揚々と探検を開始していた。歩道はなるべく自然のままを意識しているのか、大帝国のような石で舗装されたものではなく、土の感触を残していた。もちろん、雑草などは綺麗に取り除かれており、汚さや歩きづらさは全く感じられない。

加えて、建物も景観を壊さないように配慮がなされているみたいだ。見た感じ全部木造っぽいし、木のうろを建物として利用しているところも結構見られた。グランドベゼルとの文化の違いがここまではっきりと可視化されていると、まるで別世界に来た感覚を覚えるよなー!

これだから冒険は楽しいんだ。オレが冒険に憧れたきっかけでもある、『アルマーの冒険』の主人公であるアルマーも、きっとこんな風に高揚していたに違いない。

「にしても、近くで見るとますますすごいなー、あの木」

世界樹ユグドラシルと少し似てるな」

「それオレも思った」

オレたちを見下ろすようにそびえ立つ巨木。この街を飲み込んでしまうのではないかと思うほどに濃い緑の葉が生い茂り、そのどっしりとした幹は他を圧倒するほどの威厳が備わっているように感じた。

「おっと……すんません」

オレが上を見上げていると、無精髭を生やした茶髪の人物とぶつかってしまった。服は少し汚らしく、猫背でその背丈はわかりにくいが、たぶん俺と同じくらいだと思う。

「……ちっ、ちゃんと前見て歩け」

血走った目でオレを睨んだ男は、機嫌悪そうに去っていった。

「兄さん。あいつ、殺していいか」

シンは鋭い眼光で無精髭の男の後ろ姿を睨んだ。

「あんなの気にしてないから殺気はしまっとけよー。他にちょっと気になることもあるし……」

なーんか、さっきからやたらと視線を集めてる気がするんだよなー。あんま目立つ行動とると、変なやつに絡まれる可能性もなくはないしなー。

「お前たちは冒険者か?」

オレとシンの背後から、見知らぬ声が聞こえてきた。振り返ると、そこには背の高い茶髪の男がいた。今まで見てきた住人たちよりも身なりが整っているし、ガタイも一般人よりも断然いい。目つきも少し鋭く、プレッシャーのようなものを感じた。

あ、もしかしなくても予想が的中しちゃった?
やばい人に絡まれちゃった系……?

「えーっと、まあそうだけど……あんたは?」

「ふむ、名は……レア。元冒険者だ」

「へぇー。オレはノア。こっちはシン」

「ノア……もしや、ノアズアークのリーダーか?」

「そうだけど……」

え、オレたちってそんな有名なん?ただのCランクパーティなのに?あー、もしかしてカズハがいるからかな?それなら納得がいく。だってカズハはアグレッシブガーディアンなんて異名がつくほどに、EDENでは注目の的っぽかったし。EDENは各国に支部があるって言うから、そこから一般人に広まるのも不思議じゃないもんなー。

「なるほど、お前たちがあいつの言っていた……」

「あいつ?」

「いや、気にしないでくれ」

レアと名乗った茶髪の男は、オレとシンをまじまじと見つめ続けている。なんかちょっと恥ずかしくなってくるんだけど……。

「あの、オレたちになんか用?」

「……ノアとシンは、この国をどう思う?」

「はい……?」

目の前の男は、唐突にオレたちへと問いかけ始めた。

「えーっと、どうって言われても、まだ来たばっかだしなー。まあ強いて言うなら、自然豊かで心落ち着く場所、かな……」

「静かだが、その裏には黒い感情が溢れている」

無表情のまま、シンは冷淡に応えた。

え、こわ。シンがなんか恐ろしいこと言ってるんだけど?

「なるほど。客人らにはそう見えたか。どちらも間違いではないと、俺も思う。いい意見だ。参考になる」

顎に手を当て考え込む素振りを見せるレアさん。元冒険者とは言ってたけど、一体何者なんだろ?

「その耳、レアさんは亜人なんだな」

レアさんの頭にはぴょこんっ、と半月型の小さな耳があった。

「まあな。ここ最近は、この街には人間がほとんどいない。できれば、人間と亜人が共存できるようになってほしいんだが、現実問題そう簡単にはいかないようでな。根強い負の感情というものは、易々と払拭できはしないと、改めて実感する」

切実に言葉を紡ぐレアさん。まるでここの統治者みたいな言い方だなー。

「レアさんって、お偉いさんか何かなのか?」

「ん?あぁ……まあそうだな。書類整理なんかをよくやっている」

うわー、大変そう。国の運営に関する書類なんて、絶対難しいことばっか書いてあるって。オレには何年かかってもできそうにないな。そもそもじっとしてるの嫌いだし。

「じゃあさ、あの巨木のこととかこの街のこととか色々教えてくれないか?レグルスやスターライトのことをもっと深く知りたいんだ」

「ふむ……ずいぶんと気合が入っているな。お前たちのような人間には、この国は居心地が悪いと思っていたんだが……」

「え?ああ……まあ一応、チクチクとした視線はここに来てから何回も感じたけど、別に実害はないし、オレの中でこの自然の豊かさってのが良すぎてあんま気にしてないんだよなー」

「兄さん、ここに来てからずっとニヤけていたな」

「う、見られてたか。こうもわくわくするとさ、なんか勝手に口角が上がっちまうんだよなー。オレだけ子どもみたいにはしゃいでる感じあるから、ちょっと恥ずい……」

オレは右手で頬周りを軽く揉み、緩んだ口もとを直そうとした。

シンはいつもクールだから、オレみたいに感情が丸わかりってわけじゃない。だからオレが、その冷静さをちょっと分けてもらいたいなーと思うことは、少なくないのである。

「ふっ。なるほど。あいつの言う通り、どうやらお前は面白いやつのようだな、ノア」

「面白い?オレが?」

はて、何か笑いを取れるような言動をしただろうか。

「お前には周りを惹きつける何かがあるようだな」

「……?」

オレは何度かまばたきをした後、思わずシンを見る。シンはなぜか軽くうなづいていた。どうやらレアさんの考えに同意しているらしい。……なぜに?

「さて、この国についてだったか。話せば長くなるのだが、なるべく手短に話そう」

レアさんは淡々とこの国の歴史や文化なんかについて話し始めた。簡単にまとめると……。

ここ亜人国家レグルスは、五つの領地からできているらしい。そして中心地である国都スターライトは、そのうちのひとつであり王族が直接統治する。そして他四つの領は、それぞれ守護叡団ビースト・ロアが治めることになっている。北の地はボレアスが、南の地はノトスが、西の地はゼピュロスが、東の地はエウロスが、という具合に。

そしてこの街の象徴的存在が、オレたちの眼前に堂々と聳える巨木……正式名称は聖樹だ。聖樹は、レグルスの心臓であり、こんなにも自然あふれた世界が広がっているのは、どうやらこの聖樹のおかげらしい。生命力溢れたその姿に、この国の心臓部であることに嘘偽りはないのだと、オレは納得させられた。

「……そしてこの国では、人間に対する憎悪が尋常ではない。それは書物からは読み取れ切れぬほどだ。その一端を、お前たちも感じただろう」

オレはちらっと周りを見てみる。家の窓から隠れて覗く者や、カーテンを閉める者、こちらをひと睨みしてから通り過ぎていく者など、多種多様な反応だった。ただ共通して言えるのは、皆オレたちに対して大なり小なり嫌悪感を抱いていることだろう。

「全員が全員こうというわけではないのだがな。どのようにしてこのわだかまりを払拭し、交流を図っていくのか……まさに暗中模索の状態だ」

レアさんは住人たちを一通り眺めると、深くため息をついた。どうやら相当苦労しているみたいだな。

「大帝国も隣国との戦争で大変そうだったけど、この国もかなり厄介な問題があるんだな……」

オレは今まで仲間と楽しく冒険をするという目的しか見ていなかったけど、こういう現状を間近で実感すると、なんかこう、無視しようとしてもできないっていうか、他人事にできないっていうか……ちょっとなんかしてやりたいって気持ちが湧いちまう……。

だけどこれは胸の奥底にしまっておくべきことだ。なぜならオレはひとりじゃないし、仲間を預かる責任者、つまりはリーダーだから。それに余所者のオレたちに縄張りを荒らされたら、この国の人たちもたまったもんじゃないよな。特にここは人間への警戒心やら憎悪やらが立ち込めてるし……。

「ああ。大帝国には大帝国の、うちにはうちの解消せねばならない問題がある。まったく、国の統治というものは難儀なものだ」

「そっか……苦労してるな、レアさん」

「ああ。ノアたちのように冒険者として世界中を飛び回っていた頃が懐かしい。だがこれは、俺自身が選択したこと。今更後悔などせんよ」

え、かっこよすぎじゃね?この人。

オレは会ったばかりではあったが、レアさんの固い信念を貫こうとするその心構えに、惚れ惚れしてしまった。

「さて、長々と話しすぎたな。この国を巡るのなら、スターライトだけでなく、他の領地にも足を運ぶことを勧めよう」

「すぐにとはいかないけど、もちろん立ち寄るつもりさ」

「ふむ、そうか。では俺はこれで失礼しよう」

レアさんがオレたちに背を向け、聖樹へと歩き始めた。だがその瞬間、オレたちの背後から必死に名前を呼ぶ声が耳に届いた。

「ノアさん!シンさん!」

聞き覚えのあるその声に振り向けば、はぁはぁと息を切らしながら駆けてくるエルの姿があった。エルはオレたちの前まで来ると、膝に手をつき息を整えようと深呼吸を繰り返した。

「どうしたんだ、エル。そんなに慌てて」

エルはガバッ、と俯いていた頭を上げて、必死な形相でオレにこう伝えた。

「リュ、リュウくんが……いなくなってしまったんです……!」



























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