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レグルス編
18 二人の叡団員と無精髭の男
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side ノア=オーガスト
フリースペースのとある一角で、オレたち四人と後からやってきたペルロさん、ムースさんとで誘拐事件に関する情報を話し合うことになった。もともと、ステラさんから二人のボレアス叡団員をつけるという話だったから、おそらくこの二人がそうなのだろう。
「そうか、あんたらが新たに協力してくれることになった冒険者パーティか」
「そ。Cランクパーティのノアズアークな。ランク的にはまだまだ新人かもだけど、うちには頼りになる仲間がいっぱいいるから、この事件もすぐ解決してみせるさ」
「それは頼もしい限りだ」
ペルロさんは特にオレたちに嫌悪感を抱いている様子はなく、普通に接してくれていた。
「ウルラさんの話を聞く前に、ちょっと個人的に聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「おお、いいぞ」
「ペルロさんとムースさんはさ、人間のことをどう思う?」
「「…………」」
レオン叡王のように分け隔てなく接してくれる亜人がいるのは知っているけど、みんながみんなそうとは限らない。桃兎の件で向かった村人がそうだったように。
回答によっては今後のオレたちとの関係性がどうなっていくかにも関わるし、仮に嫌われているというのなら、これ以上マイナスにならないように、というかプラスになるように頑張っていかないとだし。仲良くなるかは別としても、協力相手なんだから変にいざこざを起こしたくはない。
「まずは俺から言おうか。率直に言って、好きでも嫌いでもないな。というより、わからん」
「なんで、わからないの?」
「むむ?!なんだこのかわゆい生き物は!…………はっ……コホン。えっとだな、俺は誰であろうとそいつをじっくりと観察した上で好きか嫌いかを判断する。だから近くで観察しない限り、何も答えを出せん」
つまりペルロさんは、人種に関係なくすべてフラットに見てるってわけか。きっとこのまっすぐな性格からして、オレたちが仮に魔人であっても同じことを言いそうだ。
「そっちのあんたはどうなんだ?」
「うひゃ!え、えと……」
セツナの問いかけに、ムースさんはびくっと肩を震わせた。
「ぼ、ぼくは、その……あまり人と接するのが、と、得意じゃない、から……き、嫌いではないんですけど、に、苦手かもしれない、です……」
「あ、そう」
目線をしたに向け、オドオドとしながら話すムースさん。それを見たセツナは心底興味なさげに視線を別のところへと移した。
「じゃあ二人とも死ぬほど嫌いってわけじゃないんだなー。よかったー……!」
「俺もムースも人間に何かされたことは一度もないからな。ただ、両親より上の世代はそのほとんどが人間のことを憎んでるだろうから、居心地は悪いはずだ」
「まあ、それは言われるまでもなく感じてはいるなー。あはは」
オレは乾いた笑いを漏らしながら、首裏付近をぽりぽりと軽く掻いた。
「おしゃべりはそこまでにして、そろそろ本題に入れば?」
「おっと、セツナの言う通りだな。早速だけど、ペルロさん、ムースさん。二人はウルラさんとは親しかったりした?」
あのペルロさんの反応からして、それなりの仲ではあるのは確定してる。この二人からならウルラさんの詳しい情報を聞き出せそうだ。
「そんなん当たり前だ。俺とムースはガキの頃からの付き合いで、大親友なんだよ」
「そ、それなのに……ウルラが、死んでしまうなんて……」
「心中、お察しするよ。……亡くなった人のことをあれこれ聞き出すのは失礼かもしれないけど、ウルラさんに何か不審な点とかなかったか?誘拐事件が始まった前後とか、亡くなる日の前後とか」
「あ?なんだ?まさかとは思うが、ウルラが誘拐事件を企てた側の人間だとでも言うのか?!」
ペルロさんはバンッと両の手で勢いよく机を叩いた。こうなるのも当然だ。友を悪く言われたら、誰だって憤る。
「無神経なのはわかってるつもりだ。けど、あらゆる可能性を考慮して事件と向き合わないと、この大犯罪に終止符は打てない。心を鬼にして立ち向かわなければ街のみんなが望んでいる平和は訪れないと、オレは思う」
オレは落ち着いた話ぶりで、真摯にペルロさんへと向き合った。オレだってなにも誰かの友を侮辱したいわけじゃない。ただ純粋にこの事件を解決したいだけだ。それがペルロさんにも伝わってほしい。
「なっ……あ、いや、そう、だな。すまん、またはやとちりしちまった。どうも俺は直情的なタイプらしい。ウルラとは正反対だぜ、はは」
「ウルラは、クールで、優しかったもんね……」
「だな……むむ?それだと俺が優しくないみたいにならないか?」
ペルロさんはムースさんの言葉を噛み締めた後、何か引っかかったのか首を傾げた。
「で?結局不審な点はあったのか?それともなかったのか?」
セツナは話を急がせるようにそう迫った。
「事件が起こったのは……もうそろそろ四ヶ月前になっちまうのか……とはいっても、俺もムースもウルラの様子がおかしいとか変だとか、そんなもんわからなかったぞ。亡くなった日の前後だって同じだ」
「うん……いつも通りのウルラ、だったと思う」
「そっか。親友の二人がわからなかったなら、きっとそういうことなんだろうけど……そうなるとなんで暗号が読めたかがわかんないんだよなー」
「暗号?なんの話だ?」
「あ、そっか。あの男はウルラさん以外には報告してないって言ってたから、二人も知らないのか。実は……」
オレはさっき手に入れた情報を端的に二人に説明した。
「そんなことがあったのかよ……くそ、なんであいつ、俺たちには何にも言ってくれなかったんだよ……!親友なんだから、もっと頼りやがれ!」
「ウルラ……悲しいよ、本当に……」
ペルロさんは悔しそうに唇を噛み、ムースさんは俯きながら顔を両手で覆い悲しんだ。
「……すまん、話の腰をおったな。それで、なんでウルラが暗号を読み解いてそこから何かを掴み、その目標に走って行ったのかがわからないってことだな」
「そうなんだ。二人の言葉を信じてウルラさんが犯人側となんの関係もないのならさ、ウルラさんがありえないほどに賢くて瞬時に解いたってことになるんだけど……あんまりその薄い線は追いたくないなーって思うんだよな」
賢かったからたまたま解けました、ってのは可能性としてはあるけど、それを追うくらいならもっと別の根拠をもってウルラさんの行動を追いたい。偶然解けた線なら、オレたちがこうして考えてる時間は全部無駄になるわけだしな。
「その暗号文の実物があれば、何かわかるだろうが」
「「「…………」」」
シンの一言に、みんな沈黙した。そんな超重要な証拠、そうそう見つけられるものじゃない。唯一可能性があるとすれば、今指名手配中の無精髭の男をとっ捕まえて、暗号文の書かれた紙を探ることぐらいだろう。
「……とりあえず、オレたちはここで情報を広く集めることにしよう。正直、ステラさんやリオンから色々説明はもらってるけど、他の人からの情報もほしいし、二人との情報の照らし合わせとかしたいから……」
「ノア様!」
突然、オレを呼ぶ声が上方から聞こえてきた。そいつはバサバサと音を立てて、オレたちが囲むテーブルへと降り立った。
「天……?!」
「秀様からの連絡でございます。『無精髭の男を捕まえた。お前らも来い』とのことです」
「マジかよ?!」
オレは超タイムリーな連絡に歓喜し、勢いよく立ち上がった。
「なら早速向かおう。ほらみんなも行くぞ!天、道案内頼むな!」
「お任せください」
オレたちはすぐさま建物から飛び出し、天の道案内のもと、秀たちの所へと走った。そして数分して、目前に守護叡団の制服を着た者たちが、何やら半円状に並んでいるのが見えた。
「秀!みんな!」
「来たなお前ら。助かったぜ、天」
秀が軽く腕を上げると、天はそこにすっと降り立った。
「ありがたきお言葉にございます」
「また何かあったら頼むわ」
「承知いたしました」
そう天が返事をするとその身体は光の粒子に包まれ、数秒も経たずに姿を消した。
「おうおう、俺なんぞのためによくもまあこんなにクズが集まるもんだ。滑稽だな。ヒャハハハ」
汚らしい笑い声をあげた人物をみれば、確かにオレが以前ぶつかった男と同じ人物が仰向けで倒れていた。血走った目に無精髭、そして見汚さを感じる服。そのどれもがオレたちが探し求めていた人物と酷似していた。
「黙れ!」
「うぐ……!」
後ろでに拘束具をつけられ、さらには逃げられないようにと両足首にも同じものをつけられた無精髭の男の胸ぐらを、怒りに身を任せたステラさんがガッと掴み上げた。男は宙ぶらりんの状態となり、息苦しそうにしている。
「ス、ステラ叡団長!それ以上はおやめください!死んでしまいます!」
感情的になったステラさんが、被疑者を殺す勢いであることを察したひとりの叡団員が止めに入った。
ステラさんの心中を察したら、ああなるのは当然のこと、だよな……。
「……どうやって見つけたんだ、この男」
「それは僕から説明するよ。とある住民から怪しい人がこの付近をうろついているという一報が叡団員に入ってね。ちょうど僕たちもその話を聞けて、しかもその現場に近かったからすぐに向かったんだ。そしてその結果がこれってわけだよ」
「なるほどな」
端的なリオンの説明に、後から来たオレたち四人もここまでの経緯を簡単に把握することができた。
「あいつ、結構諦めが悪くてさー。秀と湊が行く手を阻んでるっていうのに、持ってた酒瓶投げつけてきて強引に逃げようとしたんだよー」
「へぇ。氣術は使わなかったんだ」
「というより、うまく使えなかったんだと思います。その……かなり泥酔してるみたいですから」
エルの説明に、オレはちらっと無精髭の男を観察した。
……確かに、顔が紅潮してるな。
「捕らえたはいいが、少し疑問に思うことはある」
「湊もそう思うんだな」
「ああ」
湊とセツナはこの騒動にお互いに何かを感じ取ったらしい。
「確かにターゲットの捕縛には成功したが……できすぎている」
「そうかなー?だって前から目撃情報は出てたんだし、今回はたまたま私たちが近くにいて逃げることができなかったってだけなんじゃなーい?」
「ならなぜ酒なんて枷をはめる必要がある。なんの目的でうろついていたかは知らないけど、逃げることが手段に入っているのなら、わざわざ泥酔するメリットがない」
「たしかに!」
セツナの言い分にカズハは納得がいったという表情をみせた。
「まあそのあたりは後々聞き出せんだろうよ。とりあえずはステラ叡団長たちからの連絡待ちになるんじゃねぇか?結局そいつが主犯かどうかもわからねぇわけだしな」
「そうだね。僕も取り調べには同行するつもりだから、何かわかればすぐに連絡するよ」
「おう、待ってるからな。それとこれが終わったらでいいからさ、あの時の約束、必ず果たしてくれよな」
「はは。分かってるよ」
リオンの爽やかな笑顔にオレは胸を撫で下ろした。こうも国の内情が荒れていると、正直王族であるリオンを外に出すのは難しいだろうと思ってた。だけどあの笑顔を見る限り、大丈夫そうだな。
「ほら、さっさと歩け!」
「おい、押すんじゃねぇよ。こんなもん足につけてたら、歩きづらいに決まってんだろうが!」
叡団員に連行されて声を荒げる無精髭の男。その後をぞろぞろと他の叡団員たちが続いた。
「リオン様。俺はこれからあの胸糞悪い男から情報をたたき出してくっから、先行くぜ」
「わかった。僕も後から向かうよ」
リオンに一声かけたステラさんは、あっという間に前方に歩いているボレアスの集団へと入り込んでしまった。
「兄さん」
「ん?どした、シン」
声をかけてきたシンがオレの目の前に差し出したものは、白い紙だった。くしゃくしゃに丸めてあったのか、かなりシワが目立っている。そのシワを伸ばしつつ開いてみれば、そこには見たことのない字が書かれていた。
まじまじと眺めてみるものの……。
「な、なんだこの文字……。このうにょうにょっとしたやつとか、わけわからんすぎる……こんなのどこで拾ったんだよ」
「あの男の胸ポケットから落ちたものだ。それを俺が回収した」
「おい待て。これはもしかしなくても、ウルラが見た暗号文と同じものじゃねぇのか?!」
横から覗き込んできたペルロさんは、紙を持っていたオレの手をぐいっと自分の目の前に引き寄せた。
「その手を離せ」
「イテ……!」
シンの低音ボイスの直後、ペルロさんはシンに強く掴まれたであろう箇所をすりすりとさすっていた。
「子どもの誘拐は次の指示があるまで待機しろ。ただし、ほとぼりが冷めればその時は十人の子どもを誘拐してこい」
「「「「……?!」」」」
唐突なセツナの言葉に、ここにいた誰もが息を呑んだ。
「貸して」
「お、おう」
セツナはオレの手からさっと紙を奪い取ると、それをひっくり返した。
「裏に署名があるはずだけど……なんだこの文字。いや記号、か?」
「えーと、セツナさん?なぜにその文字が読めるのでしょうか……?」
オレはみんなの心の声を代表して、セツナに問いかけた。
「これ、ブリガンドで使ってたものと同じだから。まさかドミニクに仕込まれたものが、こんなとこで役立つとは思わなかったけど」
「えー!つまりこれはブリガンドの仕業ってとこ?けどブリガンドはノアたちが壊滅させたんじゃなかった?」
カズハのこの驚きは、ここにいるノアズアークの全員が思ったはずだ。
「えーっと、そのはずなんだけど……あ、でもよく考えたらアジトにいなかった残党が攫ってる可能性はなくもない、かも?」
まあ正確にはオレたちじゃなく、あの謎の二人組が壊滅させたって言った方が正しいけどな。
「それはない。あの時はアルボロート家の宝を盗む大規模作戦の前だったから、全員が召集されていた。多少なりとも来ていないやつらがいる可能性はあるが、四ヶ月も前からこんなことをしていたとは考えにくい。ブリガンドは準備は徹底的にしても、作戦決行時は迅速に事を済ませるってのをどいつも叩き込まれてるからな」
「セツナお姉ちゃん、すごい……!」
「……それと勘違いされると面倒だから補足しておくけど、この暗号はダスクでも使われてたから」
「……はい?」
どゆこと?暗殺集団ダスクも盗賊集団ブリガンドも、それぞれ別々の組織のはずだよな。なのに同じ暗号を使ってるって、それってつまり……。
「知らなかった?ダスクとブリガンドは『ノートリアス』っていう巨大な闇組織の子分組織で、いかに上に上納金を納められるかで競ってただけの、バカの集まりにすぎないから」
「「「「…………」」」」
……もうあたまパンクしそう。
「つまり、その暗号は、そのノートリアスと呼ばれる組織の体系に組み込まれているものというわけか」
「前に亜人の子どもを攫う計画が無くなって、ドミニクが残念がってたから、もしかしたらと思ったけど、まさか本当にノートリアスが関係してたとはな」
「あの、先ほどから名前に上がってるノートリアスというのは、もしかしなくても……」
「人界で最も極悪非道とされ、決して触れること勿れと人々の中で恐れられている組織だね。まさかその魔の手が僕たちの国にも入り込んでいたなんて……」
エルの疑問にリオンが答えた。にしても、ダスクやブリガンドも相当悪名が広がっていたように感じてたけど、それを軽々と超えるやつが出てくるなんてな。
「心配には及びませんよ、リオン様!俺とムースでこの国にあだなす奴らはすぐに追い出して見せます!な、ムース」
「……う、うん」
「君たちの心意気はとても嬉しく思う。この国を守る勇士のひとりとして、お互い頑張ろう」
「はい!」
「は、はい……!」
リオンの激励に、ペルロさんとムースさんは気持ちのいい返事をした。
「君は、セツナと言ったかな」
「何?」
「貴重な情報をありがとう。おかげで何が僕たちの敵なのか、その輪郭がはっきりしてきたよ」
「あ、そう」
セツナは興味なさげに生返事をした。たがリオンはそれを気にすることはなかった。
「その紙、預かってもいいかな?」
「……」
リオンの差し出した手に、セツナは何も言わずに持っていた白い紙を置いた。
「あの、リオン様!」
「なんだい?ペルロ叡団員」
「その紙、少しの間だけでも俺たちで預からせてくれ!……ぁ、ませんか。俺には……俺にはあんな酔っ払いにウルラが殺られただなんて、どうしても思えないんだ!……です」
熱意がありすぎたせいか、ペルロさんは変な言葉遣いをリオンに使った。けれどそれを気にすることなく、ペルロさんはただ真っ直ぐにリオンを見つめていた。
「重要な証拠品であるこの紙を、たかが二人の叡団員のために渡せと、そう言うんだね……?」
リオンはいつものように物腰柔らかに、それでいて妙に深刻さを感じさせるような口ぶりで話した。
「おこがましいことはわかってるんです。けど、それでも俺は今は亡き親友のために、この惨劇をぶち壊したい!……です」
「ぼ、ぼくからも、お願いします」
「……ふぅ。君たちの想いは痛いほど伝わってる。けれど、長い間この大事な証拠品を貸し与えることは到底できない。だから……五日以内だ。五日以内にこの紙を僕に渡せ。それが条件だ」
「……!あ、ありがとうございます!リオン様!」
「ありがとう、ございます……!」
リオンへと深々とお辞儀をするペルロさんとムースさん。それを見つめていたリオンは、顔を上げた二人に握っていた紙を渡した。
「さっきセツナが言っていたことを信じれば、あの紙はいわゆる指示書だ。それをあの男が持っていたということは、指示をしていた人物あるいは指示を受けた人物のどちらかということだね」
「言い換えりゃ、首謀者か実行犯のどちらかっつうわけだ」
てことは、あの男がどっちに当てはまるかによって今後の展開が大きく変わるってわけか。つまり今はリオンやステラさんからの連絡を待つしかない。
「それじゃあ僕は、そろそろステラ叡団長のもとへ行くよ。あまり遅くなると、あの男から情報を聞き出せなくなってるかもしれないからね」
そう言い残したリオンは、ステラさんたちが消えていった方向へと去っていった。
「とりあえず、EDEN支部に戻るか……。あっ!それとさ、みんなちょっと耳を貸してくれないか?」
オレはたった今思いついたアイデアをごにょごにょとみんなに伝えていった。
戻ったらすぐ、EDEN支部の職員にも許可をもらっとかないとなー。
フリースペースのとある一角で、オレたち四人と後からやってきたペルロさん、ムースさんとで誘拐事件に関する情報を話し合うことになった。もともと、ステラさんから二人のボレアス叡団員をつけるという話だったから、おそらくこの二人がそうなのだろう。
「そうか、あんたらが新たに協力してくれることになった冒険者パーティか」
「そ。Cランクパーティのノアズアークな。ランク的にはまだまだ新人かもだけど、うちには頼りになる仲間がいっぱいいるから、この事件もすぐ解決してみせるさ」
「それは頼もしい限りだ」
ペルロさんは特にオレたちに嫌悪感を抱いている様子はなく、普通に接してくれていた。
「ウルラさんの話を聞く前に、ちょっと個人的に聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「おお、いいぞ」
「ペルロさんとムースさんはさ、人間のことをどう思う?」
「「…………」」
レオン叡王のように分け隔てなく接してくれる亜人がいるのは知っているけど、みんながみんなそうとは限らない。桃兎の件で向かった村人がそうだったように。
回答によっては今後のオレたちとの関係性がどうなっていくかにも関わるし、仮に嫌われているというのなら、これ以上マイナスにならないように、というかプラスになるように頑張っていかないとだし。仲良くなるかは別としても、協力相手なんだから変にいざこざを起こしたくはない。
「まずは俺から言おうか。率直に言って、好きでも嫌いでもないな。というより、わからん」
「なんで、わからないの?」
「むむ?!なんだこのかわゆい生き物は!…………はっ……コホン。えっとだな、俺は誰であろうとそいつをじっくりと観察した上で好きか嫌いかを判断する。だから近くで観察しない限り、何も答えを出せん」
つまりペルロさんは、人種に関係なくすべてフラットに見てるってわけか。きっとこのまっすぐな性格からして、オレたちが仮に魔人であっても同じことを言いそうだ。
「そっちのあんたはどうなんだ?」
「うひゃ!え、えと……」
セツナの問いかけに、ムースさんはびくっと肩を震わせた。
「ぼ、ぼくは、その……あまり人と接するのが、と、得意じゃない、から……き、嫌いではないんですけど、に、苦手かもしれない、です……」
「あ、そう」
目線をしたに向け、オドオドとしながら話すムースさん。それを見たセツナは心底興味なさげに視線を別のところへと移した。
「じゃあ二人とも死ぬほど嫌いってわけじゃないんだなー。よかったー……!」
「俺もムースも人間に何かされたことは一度もないからな。ただ、両親より上の世代はそのほとんどが人間のことを憎んでるだろうから、居心地は悪いはずだ」
「まあ、それは言われるまでもなく感じてはいるなー。あはは」
オレは乾いた笑いを漏らしながら、首裏付近をぽりぽりと軽く掻いた。
「おしゃべりはそこまでにして、そろそろ本題に入れば?」
「おっと、セツナの言う通りだな。早速だけど、ペルロさん、ムースさん。二人はウルラさんとは親しかったりした?」
あのペルロさんの反応からして、それなりの仲ではあるのは確定してる。この二人からならウルラさんの詳しい情報を聞き出せそうだ。
「そんなん当たり前だ。俺とムースはガキの頃からの付き合いで、大親友なんだよ」
「そ、それなのに……ウルラが、死んでしまうなんて……」
「心中、お察しするよ。……亡くなった人のことをあれこれ聞き出すのは失礼かもしれないけど、ウルラさんに何か不審な点とかなかったか?誘拐事件が始まった前後とか、亡くなる日の前後とか」
「あ?なんだ?まさかとは思うが、ウルラが誘拐事件を企てた側の人間だとでも言うのか?!」
ペルロさんはバンッと両の手で勢いよく机を叩いた。こうなるのも当然だ。友を悪く言われたら、誰だって憤る。
「無神経なのはわかってるつもりだ。けど、あらゆる可能性を考慮して事件と向き合わないと、この大犯罪に終止符は打てない。心を鬼にして立ち向かわなければ街のみんなが望んでいる平和は訪れないと、オレは思う」
オレは落ち着いた話ぶりで、真摯にペルロさんへと向き合った。オレだってなにも誰かの友を侮辱したいわけじゃない。ただ純粋にこの事件を解決したいだけだ。それがペルロさんにも伝わってほしい。
「なっ……あ、いや、そう、だな。すまん、またはやとちりしちまった。どうも俺は直情的なタイプらしい。ウルラとは正反対だぜ、はは」
「ウルラは、クールで、優しかったもんね……」
「だな……むむ?それだと俺が優しくないみたいにならないか?」
ペルロさんはムースさんの言葉を噛み締めた後、何か引っかかったのか首を傾げた。
「で?結局不審な点はあったのか?それともなかったのか?」
セツナは話を急がせるようにそう迫った。
「事件が起こったのは……もうそろそろ四ヶ月前になっちまうのか……とはいっても、俺もムースもウルラの様子がおかしいとか変だとか、そんなもんわからなかったぞ。亡くなった日の前後だって同じだ」
「うん……いつも通りのウルラ、だったと思う」
「そっか。親友の二人がわからなかったなら、きっとそういうことなんだろうけど……そうなるとなんで暗号が読めたかがわかんないんだよなー」
「暗号?なんの話だ?」
「あ、そっか。あの男はウルラさん以外には報告してないって言ってたから、二人も知らないのか。実は……」
オレはさっき手に入れた情報を端的に二人に説明した。
「そんなことがあったのかよ……くそ、なんであいつ、俺たちには何にも言ってくれなかったんだよ……!親友なんだから、もっと頼りやがれ!」
「ウルラ……悲しいよ、本当に……」
ペルロさんは悔しそうに唇を噛み、ムースさんは俯きながら顔を両手で覆い悲しんだ。
「……すまん、話の腰をおったな。それで、なんでウルラが暗号を読み解いてそこから何かを掴み、その目標に走って行ったのかがわからないってことだな」
「そうなんだ。二人の言葉を信じてウルラさんが犯人側となんの関係もないのならさ、ウルラさんがありえないほどに賢くて瞬時に解いたってことになるんだけど……あんまりその薄い線は追いたくないなーって思うんだよな」
賢かったからたまたま解けました、ってのは可能性としてはあるけど、それを追うくらいならもっと別の根拠をもってウルラさんの行動を追いたい。偶然解けた線なら、オレたちがこうして考えてる時間は全部無駄になるわけだしな。
「その暗号文の実物があれば、何かわかるだろうが」
「「「…………」」」
シンの一言に、みんな沈黙した。そんな超重要な証拠、そうそう見つけられるものじゃない。唯一可能性があるとすれば、今指名手配中の無精髭の男をとっ捕まえて、暗号文の書かれた紙を探ることぐらいだろう。
「……とりあえず、オレたちはここで情報を広く集めることにしよう。正直、ステラさんやリオンから色々説明はもらってるけど、他の人からの情報もほしいし、二人との情報の照らし合わせとかしたいから……」
「ノア様!」
突然、オレを呼ぶ声が上方から聞こえてきた。そいつはバサバサと音を立てて、オレたちが囲むテーブルへと降り立った。
「天……?!」
「秀様からの連絡でございます。『無精髭の男を捕まえた。お前らも来い』とのことです」
「マジかよ?!」
オレは超タイムリーな連絡に歓喜し、勢いよく立ち上がった。
「なら早速向かおう。ほらみんなも行くぞ!天、道案内頼むな!」
「お任せください」
オレたちはすぐさま建物から飛び出し、天の道案内のもと、秀たちの所へと走った。そして数分して、目前に守護叡団の制服を着た者たちが、何やら半円状に並んでいるのが見えた。
「秀!みんな!」
「来たなお前ら。助かったぜ、天」
秀が軽く腕を上げると、天はそこにすっと降り立った。
「ありがたきお言葉にございます」
「また何かあったら頼むわ」
「承知いたしました」
そう天が返事をするとその身体は光の粒子に包まれ、数秒も経たずに姿を消した。
「おうおう、俺なんぞのためによくもまあこんなにクズが集まるもんだ。滑稽だな。ヒャハハハ」
汚らしい笑い声をあげた人物をみれば、確かにオレが以前ぶつかった男と同じ人物が仰向けで倒れていた。血走った目に無精髭、そして見汚さを感じる服。そのどれもがオレたちが探し求めていた人物と酷似していた。
「黙れ!」
「うぐ……!」
後ろでに拘束具をつけられ、さらには逃げられないようにと両足首にも同じものをつけられた無精髭の男の胸ぐらを、怒りに身を任せたステラさんがガッと掴み上げた。男は宙ぶらりんの状態となり、息苦しそうにしている。
「ス、ステラ叡団長!それ以上はおやめください!死んでしまいます!」
感情的になったステラさんが、被疑者を殺す勢いであることを察したひとりの叡団員が止めに入った。
ステラさんの心中を察したら、ああなるのは当然のこと、だよな……。
「……どうやって見つけたんだ、この男」
「それは僕から説明するよ。とある住民から怪しい人がこの付近をうろついているという一報が叡団員に入ってね。ちょうど僕たちもその話を聞けて、しかもその現場に近かったからすぐに向かったんだ。そしてその結果がこれってわけだよ」
「なるほどな」
端的なリオンの説明に、後から来たオレたち四人もここまでの経緯を簡単に把握することができた。
「あいつ、結構諦めが悪くてさー。秀と湊が行く手を阻んでるっていうのに、持ってた酒瓶投げつけてきて強引に逃げようとしたんだよー」
「へぇ。氣術は使わなかったんだ」
「というより、うまく使えなかったんだと思います。その……かなり泥酔してるみたいですから」
エルの説明に、オレはちらっと無精髭の男を観察した。
……確かに、顔が紅潮してるな。
「捕らえたはいいが、少し疑問に思うことはある」
「湊もそう思うんだな」
「ああ」
湊とセツナはこの騒動にお互いに何かを感じ取ったらしい。
「確かにターゲットの捕縛には成功したが……できすぎている」
「そうかなー?だって前から目撃情報は出てたんだし、今回はたまたま私たちが近くにいて逃げることができなかったってだけなんじゃなーい?」
「ならなぜ酒なんて枷をはめる必要がある。なんの目的でうろついていたかは知らないけど、逃げることが手段に入っているのなら、わざわざ泥酔するメリットがない」
「たしかに!」
セツナの言い分にカズハは納得がいったという表情をみせた。
「まあそのあたりは後々聞き出せんだろうよ。とりあえずはステラ叡団長たちからの連絡待ちになるんじゃねぇか?結局そいつが主犯かどうかもわからねぇわけだしな」
「そうだね。僕も取り調べには同行するつもりだから、何かわかればすぐに連絡するよ」
「おう、待ってるからな。それとこれが終わったらでいいからさ、あの時の約束、必ず果たしてくれよな」
「はは。分かってるよ」
リオンの爽やかな笑顔にオレは胸を撫で下ろした。こうも国の内情が荒れていると、正直王族であるリオンを外に出すのは難しいだろうと思ってた。だけどあの笑顔を見る限り、大丈夫そうだな。
「ほら、さっさと歩け!」
「おい、押すんじゃねぇよ。こんなもん足につけてたら、歩きづらいに決まってんだろうが!」
叡団員に連行されて声を荒げる無精髭の男。その後をぞろぞろと他の叡団員たちが続いた。
「リオン様。俺はこれからあの胸糞悪い男から情報をたたき出してくっから、先行くぜ」
「わかった。僕も後から向かうよ」
リオンに一声かけたステラさんは、あっという間に前方に歩いているボレアスの集団へと入り込んでしまった。
「兄さん」
「ん?どした、シン」
声をかけてきたシンがオレの目の前に差し出したものは、白い紙だった。くしゃくしゃに丸めてあったのか、かなりシワが目立っている。そのシワを伸ばしつつ開いてみれば、そこには見たことのない字が書かれていた。
まじまじと眺めてみるものの……。
「な、なんだこの文字……。このうにょうにょっとしたやつとか、わけわからんすぎる……こんなのどこで拾ったんだよ」
「あの男の胸ポケットから落ちたものだ。それを俺が回収した」
「おい待て。これはもしかしなくても、ウルラが見た暗号文と同じものじゃねぇのか?!」
横から覗き込んできたペルロさんは、紙を持っていたオレの手をぐいっと自分の目の前に引き寄せた。
「その手を離せ」
「イテ……!」
シンの低音ボイスの直後、ペルロさんはシンに強く掴まれたであろう箇所をすりすりとさすっていた。
「子どもの誘拐は次の指示があるまで待機しろ。ただし、ほとぼりが冷めればその時は十人の子どもを誘拐してこい」
「「「「……?!」」」」
唐突なセツナの言葉に、ここにいた誰もが息を呑んだ。
「貸して」
「お、おう」
セツナはオレの手からさっと紙を奪い取ると、それをひっくり返した。
「裏に署名があるはずだけど……なんだこの文字。いや記号、か?」
「えーと、セツナさん?なぜにその文字が読めるのでしょうか……?」
オレはみんなの心の声を代表して、セツナに問いかけた。
「これ、ブリガンドで使ってたものと同じだから。まさかドミニクに仕込まれたものが、こんなとこで役立つとは思わなかったけど」
「えー!つまりこれはブリガンドの仕業ってとこ?けどブリガンドはノアたちが壊滅させたんじゃなかった?」
カズハのこの驚きは、ここにいるノアズアークの全員が思ったはずだ。
「えーっと、そのはずなんだけど……あ、でもよく考えたらアジトにいなかった残党が攫ってる可能性はなくもない、かも?」
まあ正確にはオレたちじゃなく、あの謎の二人組が壊滅させたって言った方が正しいけどな。
「それはない。あの時はアルボロート家の宝を盗む大規模作戦の前だったから、全員が召集されていた。多少なりとも来ていないやつらがいる可能性はあるが、四ヶ月も前からこんなことをしていたとは考えにくい。ブリガンドは準備は徹底的にしても、作戦決行時は迅速に事を済ませるってのをどいつも叩き込まれてるからな」
「セツナお姉ちゃん、すごい……!」
「……それと勘違いされると面倒だから補足しておくけど、この暗号はダスクでも使われてたから」
「……はい?」
どゆこと?暗殺集団ダスクも盗賊集団ブリガンドも、それぞれ別々の組織のはずだよな。なのに同じ暗号を使ってるって、それってつまり……。
「知らなかった?ダスクとブリガンドは『ノートリアス』っていう巨大な闇組織の子分組織で、いかに上に上納金を納められるかで競ってただけの、バカの集まりにすぎないから」
「「「「…………」」」」
……もうあたまパンクしそう。
「つまり、その暗号は、そのノートリアスと呼ばれる組織の体系に組み込まれているものというわけか」
「前に亜人の子どもを攫う計画が無くなって、ドミニクが残念がってたから、もしかしたらと思ったけど、まさか本当にノートリアスが関係してたとはな」
「あの、先ほどから名前に上がってるノートリアスというのは、もしかしなくても……」
「人界で最も極悪非道とされ、決して触れること勿れと人々の中で恐れられている組織だね。まさかその魔の手が僕たちの国にも入り込んでいたなんて……」
エルの疑問にリオンが答えた。にしても、ダスクやブリガンドも相当悪名が広がっていたように感じてたけど、それを軽々と超えるやつが出てくるなんてな。
「心配には及びませんよ、リオン様!俺とムースでこの国にあだなす奴らはすぐに追い出して見せます!な、ムース」
「……う、うん」
「君たちの心意気はとても嬉しく思う。この国を守る勇士のひとりとして、お互い頑張ろう」
「はい!」
「は、はい……!」
リオンの激励に、ペルロさんとムースさんは気持ちのいい返事をした。
「君は、セツナと言ったかな」
「何?」
「貴重な情報をありがとう。おかげで何が僕たちの敵なのか、その輪郭がはっきりしてきたよ」
「あ、そう」
セツナは興味なさげに生返事をした。たがリオンはそれを気にすることはなかった。
「その紙、預かってもいいかな?」
「……」
リオンの差し出した手に、セツナは何も言わずに持っていた白い紙を置いた。
「あの、リオン様!」
「なんだい?ペルロ叡団員」
「その紙、少しの間だけでも俺たちで預からせてくれ!……ぁ、ませんか。俺には……俺にはあんな酔っ払いにウルラが殺られただなんて、どうしても思えないんだ!……です」
熱意がありすぎたせいか、ペルロさんは変な言葉遣いをリオンに使った。けれどそれを気にすることなく、ペルロさんはただ真っ直ぐにリオンを見つめていた。
「重要な証拠品であるこの紙を、たかが二人の叡団員のために渡せと、そう言うんだね……?」
リオンはいつものように物腰柔らかに、それでいて妙に深刻さを感じさせるような口ぶりで話した。
「おこがましいことはわかってるんです。けど、それでも俺は今は亡き親友のために、この惨劇をぶち壊したい!……です」
「ぼ、ぼくからも、お願いします」
「……ふぅ。君たちの想いは痛いほど伝わってる。けれど、長い間この大事な証拠品を貸し与えることは到底できない。だから……五日以内だ。五日以内にこの紙を僕に渡せ。それが条件だ」
「……!あ、ありがとうございます!リオン様!」
「ありがとう、ございます……!」
リオンへと深々とお辞儀をするペルロさんとムースさん。それを見つめていたリオンは、顔を上げた二人に握っていた紙を渡した。
「さっきセツナが言っていたことを信じれば、あの紙はいわゆる指示書だ。それをあの男が持っていたということは、指示をしていた人物あるいは指示を受けた人物のどちらかということだね」
「言い換えりゃ、首謀者か実行犯のどちらかっつうわけだ」
てことは、あの男がどっちに当てはまるかによって今後の展開が大きく変わるってわけか。つまり今はリオンやステラさんからの連絡を待つしかない。
「それじゃあ僕は、そろそろステラ叡団長のもとへ行くよ。あまり遅くなると、あの男から情報を聞き出せなくなってるかもしれないからね」
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