夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない

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休日の休息と、届いてしまった贈り物

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 待ちに待った二日間のお休みが始まった。
 この学園の寮は、貴族の子女であっても自立を重んじるという理念のもと、使用人の同伴が一切禁じられている。そのため、私は平日の間、自分の体調管理と「生存戦略」をすべて一人でこなさなければならない。

 だからこそ、同じ王都内にある伯爵家のタウンハウスへ戻り、幼い頃から私を支えてくれている侍女のナタリーと合流するこの休日は、私にとって唯一息をつける時間だった。

「お嬢様、お帰りなさいませ。……おや、少し顔色がよろしいですね。学園で何か良いものでも召し上がったのですか?」

 タウンハウスに到着するなり、ナタリーが手際よく淹れてくれた一杯の白湯。その温かさに、私はようやく肩の力を抜いた。

「……ええ。昨日、特別秘匿図書室という場所で、長年探していた触媒の記述を見つけたの。今日、ここでいくつか試作をしてみたくて」

「左様でございますか。では、早速準備を……」

 ナタリーが言いかけたその時、タウンハウスの玄関先がにわかに慌ただしくなった。
 届けられたのは、王家の紋章が封蝋(ふうろう)された、重厚な木箱。

 送り主の名を確かめるまでもなく、私は心臓が跳ねるのを感じた。

「お嬢様、これは……王家からの、贈り物、でしょうか?」

「……きっと、昨日の図書室を利用した者への、公的な資料提供よ。手続きが早いのね。さすがは王都、さすがは王家だわ」

 木箱の中には、昨日の文献に記されていた、市井(しせい)ではまずお目にかかれない希少な乾燥薬草が、丁寧に梱包されて収められていた。
 添えられていた一筆には、ただ一言。『君の試みが実を結ぶことを願っている』とだけ、あの端正な筆致で記されている。

「お嬢様。公的、にしては少々、お心がこもりすぎている気もいたしますが」

 ナタリーの怪訝そうな視線に、私は精一杯の平静を装って答えた。

「いいのよ、ナタリー。深く考えたら負け……いえ、失礼だわ。さあ、準備をして。厨房を借りるわよ」

 私は逃げるようにナタリーを促し、慣れ親しんだタウンハウスの厨房へと籠もった。

 王家から届いた薬草を適正な温度で煮出し、前世の記憶にある「出汁」の要領で調合していく。これまでの独学では辿り着けなかった、澄んだ琥珀色の液体が鍋の中に広がった。

「お嬢様、これは……香りが、これまでと全く違いますね。呼吸が楽になるような、そんな香りがいたします」

「ええ。この配合なら、体の芯から熱を逃がさずに、吸収を助けてくれるはずよ」

 生き生きと作業をする私を、ナタリーが少しだけ複雑そうな、それでいてどこか安心したような目で見守っていた。
 
 作業が一段落し、夕暮れ時の厨房で一息つく。
 手元には、殿下から届いたあの薬草の空箱が置かれている。

 平穏を望み、背景であることを選んだはずの私の日常に、王太子という巨大な存在が確実に根を張り始めていた。
 
「……今日のは、ただの支援。私は優秀な被験者として期待されているだけよ。そうに決まっているわ」

 昨晩と同じ言葉を、私は自分自身への呪文のように、静かな厨房に響かせた。
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