婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

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婚約者の前で奪われる

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 右手にはリリアナ。
 左手には王太子殿下。

 どう見てもおかしい、非現実的な出来事が目の前で起こっている。しかも僕は当事者だ。

 王太子殿下の熱が左手に伝わることに、取り乱されてしまうのは……前世の記憶と、周囲からの視線のせいだろう。

 同性同士の番がいるなんて、聞いたこともない。

 僕は不安そうに見つめるリリアナに「大丈夫だよ」と視線を送り、左手を握ったままの王太子殿下に向き直る。

「……先ほどは、許可もなく言葉を発してしまい、申し訳ございません」

 先程の無意識に口をついて出た言葉のせいで、心臓はさらに早鐘のように打つ。

「失礼ながら、発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」

 周囲の視線が痛い。リリアナも、他の貴族たちも、皆こちらを見ている。

 王太子殿下は、微笑みを浮かべて僕の手を握ったまま答える。

「いいや。あなたになら、何を言われようと構わない」

 その声、瞳、手の熱。甘く、蕩けるようで、でも力強く。
 心臓が跳ね上がり、呼吸が苦しくなる。

 それでも、僕は現実を思い出す。右手にはリリアナ。婚約者として当然の、守るべき存在感が隣にあるのだ。

「……王太子殿下、どうかこの手を離していただけませんか?」

 王太子殿下は、にやりと笑い、左手の握りを少し強める。

「……離せると思うか?」

 一瞬、息を呑む。甘い声と熱に、理性が揺れる。

 けれど僕は必死に踏ん張った。

「……お願いです、王太子殿下、手を……」

 しかし彼は離さない。手のひらから伝わる熱が胸の奥を揺さぶる。

 ─────

 ふと王太子殿下の視線が、僕の隣にいるリリアナへ向いた。

 目が合うと、王太子殿下は静かに、しかし威厳を帯びた低い声で問いかける。

「お前の家名は?」

 リリアナは驚きながらも、辺境伯家の令嬢として完璧な一礼をし、優雅に答える。

「バレンティアです」

 王太子殿下は、リリアナの名乗った家名を聞き、頷く。

「辺境伯家か……なるほど」

 そして、穏やかに、しかし確固たる声で続ける。

「安心しろ。あなたの処遇は悪くはしない」

 その言葉に、リリアナは小さく頷き、淑女らしい優雅な礼を返すのを確認すると、王太子殿下は再び僕へ視線を戻した。

「行くぞ」

 そう一言告げると、迷いなく僕を肩に抱え上げ、会場のざわめきもリリアナの驚きも遠くに霞ませながら、去っていった。
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