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静寂に触れる唇
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言葉を失ったまま、僕はただ殿下の瞳を見つめていた。
心のどこかで、信じたくない気持ちもあった。自分たちが、まさか、現実に番であるなんて。
「信じきれないか?」
殿下の低い声が、静かな貴賓室に柔らかく響く。問いかける瞳には、不安にも似た光が揺れていた。
「い、いえ……そういうわけじゃありません。ただ……番なんて、縁のないものだと思っていましたから」
僕の声は小さく、しかし正直だった。番に出会えるなんて、遠い世界の話だと思っていたのだから。
その言葉に、殿下はしばらく黙って僕を見つめる。その瞳は、まるで僕の中の迷いをすべて見透かしているかのようだった。
やがて、彼はゆっくりと息を吐き、静かに言葉を落とす。
「……そう思うのも無理はない。番という存在は、ほとんどの者にとって“伝承”でしかないからな」
少しだけ身を乗り出す仕草には、言葉以上の真剣さがにじんでいる。
「だが、番であるかどうかを確かめる方法は存在する」
「……え?」
思わず息を呑む僕に、殿下は静かに頷いた。
「王族や一部の者しか知らない方法だ」
「……そんな方法が、本当に存在するんですか?」
「存在する。君と私が番であるかどうか……それを“証明する印”があるのだ」
殿下はゆっくり立ち上がり、僕の側へと歩み寄る。その瞳には迷いのない光が宿り、まっすぐに僕を見据えていた。
「発現の条件は……番の手の甲への口付けだ」
「……え……?」
思わず息を呑む僕の耳に、殿下の低く落ち着いた声が届く。
胸の奥をそっと撫でるような、静かで熱を帯びた音色。
「互いの魂が呼び合っているなら、その瞬間に印が浮かぶ。偽りも、錯覚もない。……それが、真の“番”の証だ」
いつの間にか、僕と殿下の距離は僅かになっていた。
香るのは、陽だまりのような柔らかい香油の匂い。呼吸が触れ合うほど近い。
殿下の手が僕の右手をそっと取る。
温かく、しかしどこか震えるような掌が、僕の指先を包み込む。
「怖がらなくていい」
低く囁く声。慰めにも、誘いにも聞こえる。
目を上げれば、すぐそこに彼の横顔。
長い睫毛の影が頬に落ち、薄紫色の瞳がわずかに揺れる。
理性を纏った王太子の顔の奥に、隠しきれない何か、渇望にも似た光。
そのまま殿下は、僕の手の甲をそっと持ち上げる。
息がかかる距離。
唇が、かすかに弧を描く。
「……確かめよう。レオン」
囁きとともに、柔らかな唇が肌に触れた。
心のどこかで、信じたくない気持ちもあった。自分たちが、まさか、現実に番であるなんて。
「信じきれないか?」
殿下の低い声が、静かな貴賓室に柔らかく響く。問いかける瞳には、不安にも似た光が揺れていた。
「い、いえ……そういうわけじゃありません。ただ……番なんて、縁のないものだと思っていましたから」
僕の声は小さく、しかし正直だった。番に出会えるなんて、遠い世界の話だと思っていたのだから。
その言葉に、殿下はしばらく黙って僕を見つめる。その瞳は、まるで僕の中の迷いをすべて見透かしているかのようだった。
やがて、彼はゆっくりと息を吐き、静かに言葉を落とす。
「……そう思うのも無理はない。番という存在は、ほとんどの者にとって“伝承”でしかないからな」
少しだけ身を乗り出す仕草には、言葉以上の真剣さがにじんでいる。
「だが、番であるかどうかを確かめる方法は存在する」
「……え?」
思わず息を呑む僕に、殿下は静かに頷いた。
「王族や一部の者しか知らない方法だ」
「……そんな方法が、本当に存在するんですか?」
「存在する。君と私が番であるかどうか……それを“証明する印”があるのだ」
殿下はゆっくり立ち上がり、僕の側へと歩み寄る。その瞳には迷いのない光が宿り、まっすぐに僕を見据えていた。
「発現の条件は……番の手の甲への口付けだ」
「……え……?」
思わず息を呑む僕の耳に、殿下の低く落ち着いた声が届く。
胸の奥をそっと撫でるような、静かで熱を帯びた音色。
「互いの魂が呼び合っているなら、その瞬間に印が浮かぶ。偽りも、錯覚もない。……それが、真の“番”の証だ」
いつの間にか、僕と殿下の距離は僅かになっていた。
香るのは、陽だまりのような柔らかい香油の匂い。呼吸が触れ合うほど近い。
殿下の手が僕の右手をそっと取る。
温かく、しかしどこか震えるような掌が、僕の指先を包み込む。
「怖がらなくていい」
低く囁く声。慰めにも、誘いにも聞こえる。
目を上げれば、すぐそこに彼の横顔。
長い睫毛の影が頬に落ち、薄紫色の瞳がわずかに揺れる。
理性を纏った王太子の顔の奥に、隠しきれない何か、渇望にも似た光。
そのまま殿下は、僕の手の甲をそっと持ち上げる。
息がかかる距離。
唇が、かすかに弧を描く。
「……確かめよう。レオン」
囁きとともに、柔らかな唇が肌に触れた。
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