婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

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密室の誘惑と訪問者

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 胸の奥でざわめく感情を必死に抑え、僕はなんとか理性を総動員した。

 呼吸を整え、視線をそらし、動かないように自分の体を固定する。

 外には騎士が扉を守っているけれど、この部屋は完全な密室だ。

 番だと認識した二人が、こんな距離で向き合っている。

 熱を帯びた視線、触れそうな距離……このままでは、理性の境界が壊れてしまいそうだった。

 殿下の指先が、僕の頬にそっと触れようとする。

 その気配だけで、胸の奥がざわめき、心臓の鼓動が跳ね上がる。

 このままでは、理性だけでは抑えきれない。

 そして、その瞬間……

 コン、コン。

 静かなノックが、部屋の空気を切り裂いた。

 殿下の手がピタリと止まり、甘く張り詰めた空気が一瞬で崩れる。

「……誰だ」

 低く、しかし不機嫌を含んだ声。邪魔をされたことへの苛立ちが滲んでいる。

 扉の隙間から現れたのは、身なりの整った青年だった。

 青みがかった灰色の髪に藍色の瞳。

 端正な顔立ちに、深い紺色の制服のような上着を身にまとい、金の刺繍が肩と胸元に控えめに施されている。落ち着きと品格を感じさせる立ち姿だった。

「殿下、クラウスです。申し訳ございません。お戻りになられるのが遅いため、参りました」

 その言葉を聞き、僕はすぐに気づいた。彼は殿下の側近なのだと。

 殿下は一瞬、眉をひそめたあと、ゆっくりと視線をクラウス様に向けた。

「……許せ。印を得たことで、時を忘れていたのだ」

 声には軽く苦笑も混じっていた。

 クラウス様は目を見開き、驚きの声をあげる。

「印を……得たのですか、殿下!?」

 滅多にない、番としての出会いを成し遂げたことに、言葉を失ったようだ。

 その声には驚きだけでなく、わずかな尊敬も混ざっていた。

「すぐに戻る。両陛下に、伝えてくれ」

 殿下の声には迷いがなく、命令は静かに、しかし確実に部屋に響いた。僕は胸の奥で、再び鼓動が早まるのを感じた。


 その後、クラウス様はすぐに頭を下げ、短く返事をして扉の向こうへ消えていく。

 静寂が戻り、再びこの部屋には僕と殿下だけが残される。


 殿下は一瞬、扉の方を見やったあと、ゆっくりと僕の方へ視線を戻した。

「……レオン。おまえは、ここにいてくれ」

 低く、けれど名残惜しさを含んだ声だった。

 その瞳に映る自分が、あまりにも強く惹かれてしまいそうで、僕は慌てて視線をそらす。

「僕も、戻らなければ……」

 そう言うと、殿下は小さく息を吐き、微かに笑みを浮かべた。

「会場は今、少々ざわついているだろう。しばらくここで休め。……いいな?」

 命令のようでいて、どこか優しさを帯びた声音。

 その言葉に逆らうことができず、僕はただ小さく頷いた。
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