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あなたのいない部屋で
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扉の外から、控えめなノックが響いた。
殿下の眉がわずかに動く。
「……入れ」
静かな声に応じて、扉が開く。
恭しい声が、室内の穏やかな空気を破った。
「殿下、そろそろお時間です」
殿下は短く息を吐いた。
「……もう、そんな時間か」
立ち上がると、少しだけこちらを見下ろして微笑んだ。
その表情は穏やかだったが、どこか名残惜しげでもあった。
「本当は、もう少しあなたの側にいたかったが……」
低く落ちる声音に、胸の奥がふっと熱を帯びる。
「殿下には大切な公務がありますから……仕方ないですよ」
静かにそう言うと、殿下は苦笑を浮かべた。
「仕方ない、か……そう言われると、余計に離れがたくなるな」
わずかに目を伏せ、吐息をもらす。
「……明日、また来る。昼には少し時間を取れるはずだ」
「……はい」
扉の前で振り返り、殿下はやわらかく微笑んだ。
「では、また明日。……穏やかに過ごせ」
扉が静かに閉じられる。
その音が、部屋の空気をわずかに冷たくした。
残されたのは、ほんのりとした温もりの余韻だけ。
殿下がいた場所の空気が、まだかすかに香りを残している気がした。
静かだ。
あまりにも、静かすぎた。
僕はソファに腰を下ろしたまま、しばらく何もできなかった。
隣にあった体温の記憶が、まだ肌に残っている。
やがて、昼食が運ばれてきた。
銀の皿に並ぶ温かなスープ、焼きたてのパン、香草を添えた鶏肉。
けれど、どれも味が薄く感じられた。
ナイフとフォークを置き、静かに息を吐く。
自然と、視線が殿下の座っていた場所へ向かっていた。
そこにあった気配がないだけで、部屋が広く見える。
その“空白”が、どうしようもなく寂しかった。
食事を終えると、殿下が置いていった本の山に目をやる。
その中から一冊を取り、手のひらで表紙をなぞった。
革の装丁は冷たく、まるで誰かの不在を映すようだった。
ページをめくるたび、淡い光が文字を照らす。
けれど、内容は頭に入らない。
さっきまで、すぐ隣にいたのに。
その事実が、胸の奥を妙に締めつけた。
時間の流れが、途端に鈍くなる。
時計の針が進む音まで、遠くに聞こえた。
静まり返った部屋の中で、紙をめくる音だけが響く。
それさえも、やけに寂しく感じられた。
殿下の眉がわずかに動く。
「……入れ」
静かな声に応じて、扉が開く。
恭しい声が、室内の穏やかな空気を破った。
「殿下、そろそろお時間です」
殿下は短く息を吐いた。
「……もう、そんな時間か」
立ち上がると、少しだけこちらを見下ろして微笑んだ。
その表情は穏やかだったが、どこか名残惜しげでもあった。
「本当は、もう少しあなたの側にいたかったが……」
低く落ちる声音に、胸の奥がふっと熱を帯びる。
「殿下には大切な公務がありますから……仕方ないですよ」
静かにそう言うと、殿下は苦笑を浮かべた。
「仕方ない、か……そう言われると、余計に離れがたくなるな」
わずかに目を伏せ、吐息をもらす。
「……明日、また来る。昼には少し時間を取れるはずだ」
「……はい」
扉の前で振り返り、殿下はやわらかく微笑んだ。
「では、また明日。……穏やかに過ごせ」
扉が静かに閉じられる。
その音が、部屋の空気をわずかに冷たくした。
残されたのは、ほんのりとした温もりの余韻だけ。
殿下がいた場所の空気が、まだかすかに香りを残している気がした。
静かだ。
あまりにも、静かすぎた。
僕はソファに腰を下ろしたまま、しばらく何もできなかった。
隣にあった体温の記憶が、まだ肌に残っている。
やがて、昼食が運ばれてきた。
銀の皿に並ぶ温かなスープ、焼きたてのパン、香草を添えた鶏肉。
けれど、どれも味が薄く感じられた。
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自然と、視線が殿下の座っていた場所へ向かっていた。
そこにあった気配がないだけで、部屋が広く見える。
その“空白”が、どうしようもなく寂しかった。
食事を終えると、殿下が置いていった本の山に目をやる。
その中から一冊を取り、手のひらで表紙をなぞった。
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けれど、内容は頭に入らない。
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時間の流れが、途端に鈍くなる。
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それさえも、やけに寂しく感じられた。
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