婚約者の前で奪われる!?王太子が僕の番だった夜

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甘い昼食

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 殿下の言葉で執務室を出て向かったのは、王太子専用の小さな食堂だった。

 普段、来賓をもてなす貴賓室とは違い、ここは落ち着いた木の香りが漂い、陽の光が広がる穏やかな空間だった。

 やわらかい空気に包まれて、自然と肩の力が抜けていく。

 この場所で……殿下はいつも食事をしているんだ。

 ゆっくり息を吸うと、自然と背筋が伸びた。

「番様、お席を――」

 侍従が椅子を引こうとした、その瞬間。

 殿下が手を伸ばして静かに制した。

「俺がする。下がれ」

 短く、揺らぎのない声だった。

 侍従たちがわずかに息をのむ気配がある。

 殿下は躊躇いもなく僕の椅子へ手を添え、さらりと引いた。

「レオン。座っていい」

「……殿下が、僕のために?」

「当然だ」

 椅子の位置を整える仕草は驚くほど丁寧で、思わず言葉を失う。

「ありがとうございます」

 そう告げると、殿下は視線だけで柔らかく応えた。

 殿下は僕の正面ではなく、隣の席に座る。

 肩に触れそうなほどではないが、動けばすぐ分かるくらいの位置だ。

 食卓に並べられた料理は、香りからして手が込んでいるのが分かった。

 焼き上げた肉に香草の匂いがふわりと漂い、スープからは優しい野菜の甘みが立ちのぼる。

 ……おいしそうだな

「レオン」

「はい」

「遠慮する必要はない。好きなだけ食べろ」

「は、はい。いただきます」

 スープを口に含むと、思っていたよりずっと優しい味が広がった。

 舌に馴染む味わいで、自然と表情が緩む。

「……美味しいです」

 素直に言うと、殿下が横でわずかに目を細めた。

「そうか。それなら良い」

 殿下の声が静かに耳へ届く。

 この距離だと、ほんの小さな息遣いまで分かってしまう。

 けれど、不思議と居心地は悪くなかった。

 食堂の静けさに包まれながら、殿下と並んで食事をとる。

 そんな光景がどこか不思議で、けれど自然に馴染んでいく気がした。


─────

 パンをちぎり、スープにつけて口に運んだところで……隣から、そっと皿が近づけられた。

「レオン。これも食べろ」

「えっ……?」

 殿下が自分の皿の一部を、僕の前へ滑らせている。

 香草をまとわせた肉のローストだ。切り分けられたそれは、どう見ても……僕が食べやすいようにされたものだった。

「殿下、それ……殿下の分では……?」

「いい。お前が美味いと思う顔のほうが、俺にはよほど価値がある」

「っ……」

 言葉の甘さが、自然と息を止めさせる。

 殿下は当然の顔で続ける。

「味が合うか気になっていた。……レオンが好きそうだと思ったのだが、どうだ?」

「す、好き……です。すごく、美味しそうです……」

「なら食べろ。遠慮はいらない」

 殿下は自分の皿に残った分を、気にも留めていないようだった。

 促されるまま、フォークを入れて一切れ口に運ぶ。

 噛んだ瞬間、肉の旨みが広がった。

「おいしい……!」

 素直に漏れた声に、殿下の気配がふわりと近づく。

「レオン。口元、ソースがついている」

「え?」

 言われて手を伸ばそうとするより先に、殿下の指先が、そっと僕の唇の端を拭った。

 息が止まった。

「殿下……っ」

「気にするな。お前に触れる理由ができたと思えば、むしろありがたい」

「そ、そんなこと……っ」

「照れるところも可愛い」

 そのまま、殿下は僕の皿にまた一切れ肉を乗せた。

「もっと食べろ。……レオンが満ちていく顔は、見ていて胸が温かくなる」

「な、なんでそんな……」

「言っただろう。お前の“嬉しい”は全部、俺の喜びになる」

 真っ直ぐに向けられた瞳に、呼吸が浅くなる。

 甘く、優しく、どこまでも満たすような視線。

 胸がざわめくのに、目が離せなかった。
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