55 / 153
第55話 すれ違いモール
しおりを挟む
「今日は、わざわざ付き合ってもらってすみません」
そう言いながら朱里は、紙袋を両手に抱えて小さく笑った。
「いや、こっちも久しぶりにゆっくりできてよかったよ」
嵩は柔らかな声で答え、自然と朱里の歩調に合わせて歩いていた。
モールの天井から降り注ぐ光が、二人の影を並べる。
それだけで朱里の胸は、少し高鳴った。
「……でも意外ですね。平田先輩、こういう場所来るタイプじゃないかと」
「たまには来るよ。資格の参考書とかも買えるし」
「また勉強ですか?ほんと、真面目すぎます」
軽口を叩いたあと、朱里はすぐに後悔した。
(しまった、“大嫌い”って言う代わりに茶化すの、ほんと悪い癖……)
嵩は苦笑しながら本屋の方向を指した。
「ちょっと見てっていい?」
「もちろん。私も雑誌でも見ます」
二人は別れて店内を回る。
朱里は雑誌コーナーに立ちながら、
(こうして一緒にいる時間、悪くないな……)
と心の中でつぶやいた。
──だがその時。
ふと視線の先に見慣れた人物が入ってきた。
(……え?)
望月瑠奈。
休日らしく淡いブルーのワンピースに身を包み、
笑顔で手を振りながら、誰かと一緒に入ってくる。
しかも、その隣にいたのは──
朱里の心臓が止まりそうになった。
「……平田先輩?」
思わず声が漏れそうになった。
いや、違う。
嵩は別の棚にいる。
でも、瑠奈と隣の男性はどこか親しげで、
その雰囲気が朱里の胸をざわつかせた。
(なんでこんなときに……)
慌てて視線を逸らした朱里のもとに、
タイミング悪く嵩が戻ってきた。
「欲しかった本、見つかった?」
「え、あ、うん。……ていうか、なに今の偶然」
「偶然?」
「ううん、なんでもない!」
朱里は誤魔化すように笑い、
そのまま足早にレジへ向かった。
──せっかくの休日デートなのに、
心はもう平静じゃいられなかった。
モールの喧騒の中、
朱里の小さな独り言が消えていった。
「……やっぱり“好き”なんて、言えないよ……」
そう言いながら朱里は、紙袋を両手に抱えて小さく笑った。
「いや、こっちも久しぶりにゆっくりできてよかったよ」
嵩は柔らかな声で答え、自然と朱里の歩調に合わせて歩いていた。
モールの天井から降り注ぐ光が、二人の影を並べる。
それだけで朱里の胸は、少し高鳴った。
「……でも意外ですね。平田先輩、こういう場所来るタイプじゃないかと」
「たまには来るよ。資格の参考書とかも買えるし」
「また勉強ですか?ほんと、真面目すぎます」
軽口を叩いたあと、朱里はすぐに後悔した。
(しまった、“大嫌い”って言う代わりに茶化すの、ほんと悪い癖……)
嵩は苦笑しながら本屋の方向を指した。
「ちょっと見てっていい?」
「もちろん。私も雑誌でも見ます」
二人は別れて店内を回る。
朱里は雑誌コーナーに立ちながら、
(こうして一緒にいる時間、悪くないな……)
と心の中でつぶやいた。
──だがその時。
ふと視線の先に見慣れた人物が入ってきた。
(……え?)
望月瑠奈。
休日らしく淡いブルーのワンピースに身を包み、
笑顔で手を振りながら、誰かと一緒に入ってくる。
しかも、その隣にいたのは──
朱里の心臓が止まりそうになった。
「……平田先輩?」
思わず声が漏れそうになった。
いや、違う。
嵩は別の棚にいる。
でも、瑠奈と隣の男性はどこか親しげで、
その雰囲気が朱里の胸をざわつかせた。
(なんでこんなときに……)
慌てて視線を逸らした朱里のもとに、
タイミング悪く嵩が戻ってきた。
「欲しかった本、見つかった?」
「え、あ、うん。……ていうか、なに今の偶然」
「偶然?」
「ううん、なんでもない!」
朱里は誤魔化すように笑い、
そのまま足早にレジへ向かった。
──せっかくの休日デートなのに、
心はもう平静じゃいられなかった。
モールの喧騒の中、
朱里の小さな独り言が消えていった。
「……やっぱり“好き”なんて、言えないよ……」
0
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる