王太子を寝取って成り上がるヒロインなんてなれるわけがない

みやび

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ヒロインなんかになりたくはない

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 庶民から成りあがるヒロインというのは歴史的に見れば前世でも現実に存在した。
 有名なのはフランスのポンパドゥール夫人か。平民から王の愛妾となり、フランスの政治を動かし続けた女傑だ。オーストリアをロシアと共に反プロイセン同盟に引き込んだのは三枚のペチコートとよばれ、長年敵対関係だったフランスとオーストリアを同盟させたことが外交革命といわれるほどに優秀な女性だった。
 日本だと近いところならば徳川綱吉の母桂昌院だろうか。玉の輿の語源ともいわれる彼女は八百屋の娘だったといわれていたが、最終的には大奥のトップまで上り詰める。

 どちらの女性にも言えることだが、そういった成り上がる女性というのは真面目で頭が良いということだ。
 単に地頭が良いだけではなく、その時その時代に合ったマナーやルールなどにも習熟した勉強熱心な人間であるということである。当然後天的にそういったものを身に着けるのだから前提として地頭の良さは必要だろうが。

 何が言いたいかというと……

「王太子殿下を寝取って成り上がるとか無理……」

 という話である。



 俗にいう乙女ゲームものの世界に転生したヒロインはアグレッシブに王太子殿下とかお偉いさんを寝取っていたが、正直それで成り上がるなんて現実的ではない。
 前世のそういった小説では偉い人と結婚出来れば大丈夫みたいなノリだったがそんなわけあるはずがない。いくら偉い人からの寵愛があったからって無能ならばすぐに排除されるだろうし、されなくても日陰者である。
 そして、そうならないために学ぶとしてもそれがひどく大変なことは、私は現在の異母姉を見ていれば十分理解できていた。
 異母姉の立ち振る舞いの完璧さを見ていれば、それに追いつくだけでどれだけの労力と教育費が必要だか予想ができる。当然王太子殿下とかそういう偉い人を寝取るのだから異母姉と同等では足りない。同等ならば血筋のいい異母姉が選ばれるのだから。だから異母姉を超える必要があるが、そんなの無理だとすぐにあきらめた。
 そもそも公爵家の総領娘として公爵家から最高の教育を受けられる異母姉と、前公爵から許された範囲の資産しか使えない父から教育を受ける私では教育費自体が違いすぎる。その点からも追いつけるはずがなかった。



 とはいえ玉の輿に憧れがそんなにあるわけではない。私自身、前公爵に許された愛人である母の娘であり、公爵家の中でそれなりの分家の嫁になれる予定である。分相応にしていればそれなりの地位がすでに用意されているのだ。異母姉と比較すればかなり劣るが、比較しないで見ればかなり恵まれた環境である。
 だから、将来王妃になるだろう姉を手伝うつもりはあれど邪魔をするつもりは毛頭なかった。

 そんな相応に幸せな未来像を抱いていた私の予定が狂い始めたのはまずは異母姉が予想以上にダメな人間だったことだ。
 マナーや座学など、学ぶものについては非常に優秀なのだが、それ以外はまるでダメな人だった。しかも勉強ができることを鼻にかけて、有力家臣の話をまるで聞かない。教育係の皆さんが頑張ってああやこうやと諫言するのだが、それを一切聞かず、自分の気に入った若い家臣ばかりを重用して、実情に合わない制度を主張ばかりしていた。
 それをフォローするために領地を回るのが父と私であった。公爵代行として前公爵から正式に認められていた父はまだしも、私など公爵家と血のつながりのない代行の娘でしかないのだが、混乱した領内では手がまるで足りていなかったためなし崩し的に認められたものだった。
 ちなみに母は公爵家の家政を必死に回している。元娼婦なのに…… そのせいで公爵家の家の中で働いている家臣の忠誠が母に向いてしまっていた。必死に家を守るために働く相手を馬鹿にできるほど公爵家の人間のレベルが低くないのが救いだった。まあ文句言ったらそいつに仕事全部押し付けるだけだし…… 両親も私も仕事したくないんだよ本当は……

 こんな風になれば古参の家臣、それこそメイドに至るまで異母姉に反感を抱く。
 一方異母姉が寵愛する側近連中は若くて口ばかりなので正直あまり優秀ではない。
 異母姉自身が拒否するものだから、彼女の世話は寵愛する側近連中しかしなくなり、しかし無能ばかりなのでちゃんと世話など受けられるわけがない。
 一方で義務もないにもかかわらず死ぬ気で働いている私に対しては、それなりに外見を整える必要がある以上、手が空いたメイドたちがあれやこれやと世話を焼いてくれる。
 結果、正統なのにみすぼらしい義姉と無関係なのにちやほやされる義妹の出来上がりである。
 そんなことを異母姉は社交界で噂として流しているようだが、公爵家の家臣たちは冷たい目で見ているし、ある程度わきまえのある上位貴族や優秀な者は異母姉が家臣の統率ができてないことを見抜き距離を置かれていた。結果異母姉に集まる者など頭が空っぽで同情すれば取り入れると思っている下種だけである。しかも見目麗しい連中を侍らすものだから、王太子からも警戒されていた。

 姉からはしばしば公爵家の政に口を出すなといわれていた。口なんか出したくないが、家臣連中が仕事を持ってくるのだ。せいぜい集まりなどで笑顔で置物になっているしかできない私だが、それでも仕事が止まらない。それが姉は気に食わないようだ。だがそれならちゃんと家臣と話してほしいものである。最近は姉の博役、教育係であり姉の最与党、支持者である連中からも私に仕事が来るのだから、姉はどう思われているか少し考えてほしいものであるが……



 とはいえ姉をどうこうしようとは私は考えていなかった。どうせ王太子と結婚すればこの状況は変わるのだ。公爵家が王家に吸収され、多くの家臣は王家直属になる。私の父と私は公爵家直轄地の代官家として再編され、今までの仕事をもっと正当性を持って行える。今の状態がその予行演習だと思えば悪いわけでもない。家臣たちも今私に正当性がなくても将来はその正当性を得られることを前提に仕事を振っているのだろう。ならばあと数年の話だろう。そう思えば姉のことなど正直どうでもよかった。
 そう、王太子に出会うまでは。

 ある程度経つと公爵家の現状を王家へ報告するために王宮に行くのすら私の仕事になった。
 本当に何を根拠に私は王宮に上がれるんだと思ったが、将来の王妃の異母妹という建前で上がることになった。つまり将来親族になるものの間での交流である。
 そうすると私の対応は王太子がすることになった。王太子でなければ交流する相手はもっと忙しい王や王妃となってしまい、必然的にまだ余裕がある王太子が相手になった。

 王太子は姉同様評判の悪い人だった。あまりに無能ということで。
 王や姉にいつも叱責されているのは私も聞いていた。
 価値があるのは見た目と血筋だけ、などとも言われている噂を知っていた。

 実際に会ってみると見た目はべらぼうによかった。
 それと同時に、王太子がそこまで無能ではないと思った。
 確かに優秀ではないのはそうだ。頭の回転も速い方ではない。だが思慮深くよく人を見ている。傀儡に担ぎ上げて本当にヤバい時だけ口を出させるにはちょうど良さそうな人材だというのが不躾ながら私の評価だった。
 まあよく考えたら王太子の人物評を聞いた大本は異母姉である。あの人の目は節穴なので話半分に聞いておくべきだった。傀儡にもならない王太子、と彼女は言っていたがこれほど傀儡にするのに向いた神輿はないだろうに。やはり節穴である。

 そして、交流と称していろいろ話していると、王太子の可愛そうな現状が浮き彫りになる。うちの異母姉のモラハラに両親からのモラハラ。彼自身がそこまでできる子ではないので、そんな教育を受けても成長するどころか助長されてダメになる一方である。どうやら異母姉だけでなく王もあまり教育の才能がないようだ。
 あまりに哀れに思ってあれやこれやと話して褒めていたら、無駄に慕われてしまった。
 正直性格的には相性が悪くないし、何より外見が極上なのでかなり心が動く。とはいえ将来の王妃とか絶対無理である。特にこの状況から目指すと総領娘である異母姉を追い出して寝とる最低の妹なので周りの評価がクソになる。王家と公爵家の政略もぶち壊しだ。恐らく即暗殺されるだろう。

 おそらく初恋だった気持ちにふたをして、将来の親族として交流を重ねていたが、なんだかんだ言っても幸せに生きていた私と違って、モラハラの嵐の中生きていた王太子はキレて捨て身の反撃に出てしまった。

 そう、多くの人が集まる中での婚約破棄である。
 周りから無能な王太子が無能をさらしたといわれ続けるこれだが、私から見れば最高のタイミングで恨みがある全員に復讐しただけでしかないようにしか見えなかった。
 その目論見は成功した。王太子はじっくり準備を重ねることが得意だ。そして準備された婚約破棄劇に無能な異母姉や王が対抗できるわけがなかった。
 異母姉は彼女のお気に入りであった隣国の王太子にさらわれ、王家と公爵家の間に亀裂が入り、王家はボロボロだ。公爵家も正統の娘が逃げてしまったため継承戦争が起きるだろう。
 とはいえ戦争自体はあまり心配をしていない。どうせ公爵領内の支持は筆頭家老で公爵家の分家に集まるだろう。そう根回しはし続けていたし、反感もあまりない。正直その対抗馬があの外国に逃げた異母姉か異母姉の博役を務めていた公爵家の別の分家の家老しかいないのだから、選択肢がないのだ。
 そして私はというと、廃嫡された王太子の救出という無茶をすることになった。

 ほとんど私の我が儘である。王国の正統を確保し王国への干渉の足掛かりにはなるので全く利益がないわけではないが、メリットに対して労力が見合っていない。
 政略的にみれば、私が筆頭家老家から婿をもらって公爵家を立て直すのが一番なのもわかっている。現に筆頭家老からそういう打診も受けた。
 そのあたりを全部放り投げて私は自分の我が儘を通すことにした。幸い公爵家の家臣たちもなんだかんだでみんな積極的に協力してくれた。「姫さんの初めての我が儘ぐらい聞く度量はある」とのことだ。別に私は姫じゃないんだが。
 公爵家の家臣たち、とくに暗部を担う人たちの協力を得れば、放置されている廃太子ぐらい攫ってくるのはそう大変ではなかった。

「どうして私を助けたんだい?」

 廃太子は心底不思議そうに私に尋ねた。

「私が貴方を好きでしょうがないから、ただそれだけです」

 そういって抱き着いて彼にキスをすると彼はひどく赤面した。
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みんなの感想(1件)

penpen
2025.10.16 penpen

廃太子になっても王様になれそう(*´ω`*)

解除

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