山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

文字の大きさ
1 / 43

1

しおりを挟む
 わたしは、セリーヌ・フォンティーヌ。フォンティーヌ伯爵家の長女でお父様とお母様、妹のアリサと四人家族だ。
 今年十七歳になる戸籍上は立派な貴族令嬢である。
 ただし……
「あんたねぇ、掃除がなってないじゃない!やり直しなさい」
「申し訳ありませんお嬢様。今すぐやり直します」
 この発言からも分かるように、家では虐げられている。使用人のように扱われ、暴言を吐かれまくっているのだ。でもそんなことは全く気にしていない。こんなの前世でも経験してきたもの。
 そう、わたしには前世の記憶がある。こことは全く文化の違う日本という国で生きた記憶が。こういう人たちは反抗すればするほどヒートアップしてしまうので、大人しくやり過ごすしかない。
 教養があれば外で働くこともできるのだが、両親は妹が生まれてからわたしに見向きもしなくなったので教育を一切受けてこなかった。
 代わりに不憫に思った使用人たちが文字や計算、生活に関するいろいろな知識をこっそりと教えてくれていた。こんな扱いが耐えられるのも周りに恵まれているからだ。
 それに近いうちにわたしはこの家を追い出されるだろう。結婚もせず、ただずっと家にいる娘がいるなど貴族たちにとっては醜聞だ。その時に備えてコツコツと下準備を始めていた。


 
 今日は買い出しの係を頼まれた。この時間が一番好きで、気分が上がる。目的のものを買い、とあるおじいさんのところによっていった。
「おお、お嬢ちゃん。また来てくれたんだね。今日も野菜がよく育っているよ」
 おじいさんとはたまたま出会ってから仲良しだ。野菜を育てていて時々おすそわけをしてくれる。
 そのお礼に……
「今日はこいつを頼んでもいいかな」
 おじいさんが案内してくれたのはトマトが植えられている畑だ。すっと土に手をかざすとうっすらと手が光り、にょきにょきと成長する苗。やがて花が咲き、赤い身がたくさんできていた。
 なぜかわたしには謎の力があるらしい。多分、土をいいものにしている感じなのかな?おじいさん曰く一回手をかけると、しばらく成長が早い状態が続くらしい。

 
 おじいさんに初めて出会った頃、畑に案内してくれて野菜についていろいろ教えてもらってたんだけど、ずっとしゃがんでたので足が痺れてしまった。その拍子に転んでしまい、手をついたら手が淡く光って野菜が一気に成長したのだ。
 魔法なんて存在しないこの世界でなぜこんな力があるのかは謎だけど、おじいさんにはいつもお世話になっているからと新鮮な野菜と交換で力を使っていた。
 そういえば前世で流行っていた聖女ものの小説で、こんな力を持った人がいたような気がする。けれど、この世界では聖女なんて存在しないので多分気のせいだろう。
 おじいさんからもらった野菜も持って、家へ戻った。


 そのまま厨房へ行くと「おかえり」とみんなが声をかけてくれた。
 さっそく料理長におじいさんからもらった野菜を手渡すと、張り切って調理してくれた。
 あんな扱いをされているので食事はほとんどもらえていない。そのことを知った料理長がこうして手の空いた時間においしいご飯を食べさせてくれるのだ。
 頼まれて買ったものは使うとめざとい両親や妹にバレてしまうので、こうしておじいさんからもらった野菜を使って調理してもらっている。
 たまにメイドたちがもらったお菓子をお裾分けしてくれたりしているので小腹も満たせる。食事だけでなくうわさや家族の情報もそこで仕入れることができていた。
 本当に恵まれた環境だった。そもそもお嬢様なんてわたしにできる気がしない。教育を受けていないのもあるけど前世は普通の家庭で働いて一人暮らししていたので自分のことは自分でやっていた。誰かにお茶を頼むのも、お風呂の手伝いをされるのもきっと苦痛だろう。ちょうどよかったと思う。

 
「できたぞ」
 料理長渾身の料理ができたので、休憩時間のメイドと一緒に食べることにした。美味しい料理に舌鼓をうちながら、メイドたちの話を聞いている。
 どうやら、近々夜会があるらしい。その夜会というのも王宮で行われるものでいわゆるデビュタント。十五歳になった令嬢たちのお披露目会で、婚約者探しの場でもある。それに今年は妹が参加するらしい。
 さらには、王太子殿下も参加されるとあって、大変気合が入っているのだとか。
 感覚庶民のわたしからしたら、お金をかけて婚活なんてものすごい。日本ならお金なんてかけなくても出会いはいくらでも作ろうと思えば作れる。
 それにドレス1着作るのにも乗用車1台買える額だったはずだ。お金の無駄遣いね。
「あ、そうそう。お嬢様、夜会にセリーヌ様を付き人として連れていくって言ってたわ。気をつけて」
 思わず顔が引き攣る。わたしが貴族としての教育は受けていないのをわかってて連れていくのね。マナーもわからないなんてと罵倒する気なのだろう。思わずため息をつき、頭を抱える。そこまでわたしをいじめて何が楽しいのかしら。それより劣悪な性格を矯正した方がいいと思うんだけど。

 案の定アリサは「わたしがあなたを夜会へ連れて行ってあげるわ」なんて人を見下したような表情で言ってきた。本当は行きたくないんだけどしょうがない。
 ひたすらため息をつきながら仕事をしていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約者候補になったけれども

ざっく
恋愛
王太子 シャルル・ルールに、四人の婚約者候補が準備された。美女才媛の中の一人に選ばれたマリア。てか、この中に私、必要?さっさと王太子に婚約者を選んでもらい、解放されたい。もう少しだけそばにいたいと思う気持ちを無視して、マリアは別の嫁ぎ先を探す。コメディです。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

婚約破棄に応じる代わりにワンナイトした結果、婚約者の様子がおかしくなった

アマイ
恋愛
セシルには大嫌いな婚約者がいる。そして婚約者フレデリックもまたセシルを嫌い、社交界で浮名を流しては婚約破棄を迫っていた。 そんな歪な関係を続けること十年、セシルはとある事情からワンナイトを条件に婚約破棄に応じることにした。 しかし、ことに及んでからフレデリックの様子が何だかおかしい。あの……話が違うんですけど!?

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

ラヴィニアは逃げられない

恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。 大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。 父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。 ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。 ※ムーンライトノベルズにも公開しています。

殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。 相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。 静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。 側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。 前半は一度目の人生です。 ※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています

金峯蓮華
恋愛
 ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。  大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。  のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。  ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。  そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。  ゆるふわな設定です。  暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。  R15は保険です。

処理中です...