山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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 廊下を歩いていると大声が聞こえる。この声はアリサかしら。聞き耳を立ててみる。

「お父様!これは何かの間違いですわ。どうしてわたくしではなくてあいつに招待状が来るの?わたくしの方が容姿や教養は優れているし絶対に王太子妃にふさわしいわ!」

 どうやら、わたし宛に王太子殿下から招待状が届いたらしい。わたしとしても、あまりあの人とは関わりたくないので、どうにかしてもらいたいところだ。

 さらに話を聞いていると、どうやらわたしは当日風邪をひいて代わりにアリサが行くという事にしたらしい。よしよし、たまには役に立つじゃない。

 そこまで聞いたところでわたしは仕事に戻った。



 仕事を終え、部屋に帰ったわたしは、ちくちくと裁縫をしていた。貴族令嬢ならではのレースや刺繍ではなく、ひたすら小さな袋をたくさん作っている。
 多分もうそろそろあの日はくるはずだ。寝る間も惜しんで針を動かし続けた。


 とある日の休憩中。
「そういえば今日は王太子殿下とのお茶の日だったらしいわ。それで、セリーヌ様がいないから今日はもういいと言われて帰ってきたそうよ。顔でお湯が沸かせるくらい真っ赤だったわ」

「そのあとなのかしら?旦那様とお嬢様がお話ししているのを聞いてしまったの。どうやら一人では暮らしていけない山奥に連れていくとかなんとか。セリーヌ様大丈夫ですか……?」

 やった。ついにきたわ!これでこの家ともおさらばね。今までの中で最高の笑顔を浮かべ、今までありがとうと一人一人に挨拶して回った。
 皆涙を浮かべて悲しんでくれたり、無事を祈ってくれたりと大切にしてもらっていることを実感し涙した。



「セリーヌ。ちょっときなさい。」

 来たキタキタ。心の中はルンルンだけど表情には出ないように顔を引き締めてお父様に向き合う。

「お前は今までも散々アリサをいじめていたようだな。いくら立っても治る気配もない。お前とはもう縁を切る。出ていけ!」

 いつの間にかわたしがアリサをいじめていることになってるけど、どうでもいい。
 着の身着のまま馬車に放り込まれる。そのまま馬車はしばらくの間走り続けていた。


 ガタンと音がし止まったようだ。
 御者に降りろと言われ下ろされた。周りを見渡すと本当に山だ。
 周りを見渡しながら散策を始めた。

 
 しばらく歩くと木で作られた家を見つけた。誰か住んでいるのだろうか。
 こっそりお邪魔すると誰かが住んでいた形跡はあるけれど人がいなくなって時間が経っているようだ。

 ここをお家にしましょう!

 そう決めたセリーヌは早速掃除に取り掛かった。汚れているけれど住めないわけじゃない。
 家の近くに湧水もあり、せっせと水を運びながら手を動かした。

 あらかた掃除を終えると、今度は庭に向かった。畑を作っていた形跡があり、そこをまた耕す。土の状態もいいみたい。おじいさんにいろいろ教えてもらったのでこのあたりは完璧だ。


 一度家に戻り、服を脱いだ。下着にはたくさんの小さな袋が下げられている。そう、あの袋たちはこのために作っていたのだ。
 その中の何個か取り出し、再び畑に向かった。袋から出てきたのは小さな種。そうあの時一緒に自分の分も買っていたのだ。

 せっせと種をまき、土に触れると一瞬にしてたくさんの食べ物ができた。
 今日食べる分だけ収穫してキッチンへ運び込む。
 さらには、脛や太ももに巻き付けていた木の枝を入り口近くに植えた。
 同じように土に手を当ててみるとみるみるうちに成長し、美味しそうなブドウができたのだ。

 よし、これで食べ物は手に入れたわ。水と食べるもの、あとは……火が必要ね。

 家の隣には小さな小屋があり、覗いてみると切られた状態の薪がたくさんあった。なんて恵まれてるのかしら。
 家のキッチンにあった釜戸に薪を入れる。小さな袋の中にあった火打ち石で火をつけると料理ができるほどに燃え上がった。

 お鍋に収穫したてのじゃがいもを入れて茹でてみる。
 上手に煮えたみたいでほくほくだ。ただ茹でるだけで食べられるなんて素敵。これでなんとかなるわ。
 とりあえず一日目は無事に過ごすことができたのだった。



 そんな日々を数日過ごしていたわたしだったが、いい加減食事の味に飽きてきてしまった。
 人間一つの欲求が満たされると更なるグレードアップを求めるものだ。
 調味料が欲しい……ここは山なので塩は作れないし、ハーブも風味はつくけど味付けはできない。
 きのこも出汁は出るものもあるけど、わたしには見分けがつかない。

 どうしたものか……


 思い悩んでいると、馬がこちらに向かってきているのに気づいた。
 人だ。人が乗っている。首を傾げながら様子を見ていると馬から降りた男性が声をかけてきた。

「あれ、ここにも人がいたんだ。こんにちは」

 人懐っこい笑顔で挨拶する彼はどうやら商人のようだ。なんという幸運。

「こんにちは。あなたは商人?」
「そうです。よく分かりましたね」
「実は、わたし困っているの。最近この山に来たんだけど、調味料が手に入らなくて……どうにかならないかしら」

 話を聞くとこの商人は山の麓の村に来ていたらしい。なんでも村の人の注文した品を定期的に届けているのだとか。
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