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たまたま山に道があったので試しに来てみたのだという。
「ここに届けてもいいけど、何か対価はあるのかい?」
それはそうだ。ただほど高いものはないというし、そもそもお金を使って買うのが一般的。少し考えて彼を畑に案内した。
「これじゃダメ?たくさんできるからいくらでも渡せるんだけど……あと、家の前に果物があるの。種や苗木があればなんでも作れるわ」
パチパチと目を瞬かせる商人の人。
さっき名前を教えてくれて、マルクスさんというようだ。
「こんなにあるならむしろこっちが足りないくらいじゃないか。種や苗ってこの国じゃ育たないものでも作れるのかい?」
「やってみたことはないけど、試してみる?種があるなら次に来るまでに作っておくわ」
「……よし、わかった。お嬢さんとは取引相手ということにしようか。種は今ないから、次に持ってくるよ。あとは茶葉を作ってみたらどうだ?ブランド化できたら結構売れると思う」
茶葉!それもいいわね。優雅なスローライフには必要ね。
今日のところは渡せるだけの野菜や果物と、マルクスが持っていた調味料をいくつか交換してもらった。
これで少しは豪華になるわね。
翌日から、茶葉の製作を始めた。パッと一気に育てて収穫し、少し乾燥させる。しっかり揉み込んでから発酵させて最後にはしっかり乾燥させるらしい。
作りかたを知らなかったけど、マルクスさんから教えてもらった通りにやってみるとなかなか茶葉っぽく作れたと思う。
お湯を沸かして入れてみる。カモミールのいい香りが漂ってきて思わず顔がほころぶ。ホッとする香りだ。味もとてもいい。これは売り物になるんじゃないかしら。
次にマルクスがくる日を楽しみに待っているセリーナであった。
パカパカと馬の歩く音が聞こえて家から飛び出す。
「おや、今日も元気ですね」
笑顔で迎えてくれたのはマルクスさんだ。今日もいろいろと持ってきてくれたみたい。
「こっちこっち、ハーブティ作ったんだけど飲んで欲しいの!」
家の中に招き入れ、お茶の用意をする。素直についてきたマルクスさんは椅子に腰掛けた。
「どうぞ」
差し出すと一口飲んだマルクスさんは表情を変えた。
「おいしい……!これは売れますよ!」
商人絶賛のお茶を持って来てもらった袋に詰めて持って帰ってもらった。それと引き換えにいろいろな種や調理器具などの生活用品をもらった。
次に来るときにもしハーブティーが売れたら雌の鶏を二羽連れてきてもらえるようにお願いした。卵も食べたいの。タンパク質大事よね。
そうして物々交換を繰り返したある日、マルクスさんは硬貨をくれたのだ。実はハーブティが売れ過ぎてしまって、わたしが要求するものと比べると多くもらい過ぎてしまうとのこと。初めてもらったお金は大事にしまっておいた。
せっせと畑に種をまき、鶏の卵を収穫していると複数の馬の足音が聞こえた。
一体なんだろう……
そう思い、門まで行ってみると一人の男性が抱えられるようにして馬に乗せられていたのだった。
「どうしました?」
「少しベッドを貸していただきたい、熱が下がらないんだ」
抱えられている男性は汗を大量にかき、顔は真っ赤だ。了承してベッドへ運んでもらった。
男性を抱えていた人にお茶を出す。身なりはとてもしっかりしていて貴族のようだ。こんなところでどうしたのか、その人は話してくれた。
どうやら山に入ったはいいが、具合が悪くなってしまった。麓まで行こうとしたがこの家が目に入り、ダメもとで聞いてみたのだそう。
「そうだったんですね。他にもいらっしゃったようですけど……」
「ああ、彼らは騎士です。野営も普段からしているので大丈夫です。もちろん私も」
そうは言っても、彼らの頬も少し痩せていて疲れている様子が窺える。どうせ余るだけ作れるし、食事くらいは出せるわ。
「よかったら食事作りましょうか?寝床は流石に用意できないですけど、馬たちが食べるものもあるので」
「そんな、ここまでしていただいたのに申し訳ない」
「いえ、その代わり、わたしの希望を言ってもいいですか?」
その言葉に我々にできることならなんでもと言ってくれた。
「木を切って欲しいの。それで薪にして欲しいのよ。流石に薪割りはわたしじゃ出来ないの。それと欲を言うと家具も作って欲しい。特に今日寝るためのベッドを」
彼らはすぐに動いてくれた。
全員で木を切り出しせっせと薪割りをしてくれる。その間にわたしはこっそり力を使って野菜を育て、馬に餌をあげた。
収穫した野菜で大きなお鍋にスープを作った。炒め物を作ってもいいんだけど、鍋が小さいから量が作れない。
スープならたくさん作れるし、いいだろう。コトコト煮込んでいる間に、収穫した葡萄を使って果実水を作る。
湧水を汲んで一度沸騰させてから冷ました水に葡萄をしぼる。外で力仕事をしてくれているから特別サービスだ。
パンは今日の朝たくさん作っておいたから多分足りると思う。多分……
出来上がった食事を作りたてのテーブルに並べる。大きめに作ってもらったテーブルにはパンにサラダ、果実水にハーブティを並べた。
力仕事を終えた騎士たちはテーブルの上の食事を見て目を輝かせていた。
「いろいろ作ってもらってありがとうございました。どうぞ召し上がってください」
わたしの言葉を合図に皆が食事を始めた。
「ここに届けてもいいけど、何か対価はあるのかい?」
それはそうだ。ただほど高いものはないというし、そもそもお金を使って買うのが一般的。少し考えて彼を畑に案内した。
「これじゃダメ?たくさんできるからいくらでも渡せるんだけど……あと、家の前に果物があるの。種や苗木があればなんでも作れるわ」
パチパチと目を瞬かせる商人の人。
さっき名前を教えてくれて、マルクスさんというようだ。
「こんなにあるならむしろこっちが足りないくらいじゃないか。種や苗ってこの国じゃ育たないものでも作れるのかい?」
「やってみたことはないけど、試してみる?種があるなら次に来るまでに作っておくわ」
「……よし、わかった。お嬢さんとは取引相手ということにしようか。種は今ないから、次に持ってくるよ。あとは茶葉を作ってみたらどうだ?ブランド化できたら結構売れると思う」
茶葉!それもいいわね。優雅なスローライフには必要ね。
今日のところは渡せるだけの野菜や果物と、マルクスが持っていた調味料をいくつか交換してもらった。
これで少しは豪華になるわね。
翌日から、茶葉の製作を始めた。パッと一気に育てて収穫し、少し乾燥させる。しっかり揉み込んでから発酵させて最後にはしっかり乾燥させるらしい。
作りかたを知らなかったけど、マルクスさんから教えてもらった通りにやってみるとなかなか茶葉っぽく作れたと思う。
お湯を沸かして入れてみる。カモミールのいい香りが漂ってきて思わず顔がほころぶ。ホッとする香りだ。味もとてもいい。これは売り物になるんじゃないかしら。
次にマルクスがくる日を楽しみに待っているセリーナであった。
パカパカと馬の歩く音が聞こえて家から飛び出す。
「おや、今日も元気ですね」
笑顔で迎えてくれたのはマルクスさんだ。今日もいろいろと持ってきてくれたみたい。
「こっちこっち、ハーブティ作ったんだけど飲んで欲しいの!」
家の中に招き入れ、お茶の用意をする。素直についてきたマルクスさんは椅子に腰掛けた。
「どうぞ」
差し出すと一口飲んだマルクスさんは表情を変えた。
「おいしい……!これは売れますよ!」
商人絶賛のお茶を持って来てもらった袋に詰めて持って帰ってもらった。それと引き換えにいろいろな種や調理器具などの生活用品をもらった。
次に来るときにもしハーブティーが売れたら雌の鶏を二羽連れてきてもらえるようにお願いした。卵も食べたいの。タンパク質大事よね。
そうして物々交換を繰り返したある日、マルクスさんは硬貨をくれたのだ。実はハーブティが売れ過ぎてしまって、わたしが要求するものと比べると多くもらい過ぎてしまうとのこと。初めてもらったお金は大事にしまっておいた。
せっせと畑に種をまき、鶏の卵を収穫していると複数の馬の足音が聞こえた。
一体なんだろう……
そう思い、門まで行ってみると一人の男性が抱えられるようにして馬に乗せられていたのだった。
「どうしました?」
「少しベッドを貸していただきたい、熱が下がらないんだ」
抱えられている男性は汗を大量にかき、顔は真っ赤だ。了承してベッドへ運んでもらった。
男性を抱えていた人にお茶を出す。身なりはとてもしっかりしていて貴族のようだ。こんなところでどうしたのか、その人は話してくれた。
どうやら山に入ったはいいが、具合が悪くなってしまった。麓まで行こうとしたがこの家が目に入り、ダメもとで聞いてみたのだそう。
「そうだったんですね。他にもいらっしゃったようですけど……」
「ああ、彼らは騎士です。野営も普段からしているので大丈夫です。もちろん私も」
そうは言っても、彼らの頬も少し痩せていて疲れている様子が窺える。どうせ余るだけ作れるし、食事くらいは出せるわ。
「よかったら食事作りましょうか?寝床は流石に用意できないですけど、馬たちが食べるものもあるので」
「そんな、ここまでしていただいたのに申し訳ない」
「いえ、その代わり、わたしの希望を言ってもいいですか?」
その言葉に我々にできることならなんでもと言ってくれた。
「木を切って欲しいの。それで薪にして欲しいのよ。流石に薪割りはわたしじゃ出来ないの。それと欲を言うと家具も作って欲しい。特に今日寝るためのベッドを」
彼らはすぐに動いてくれた。
全員で木を切り出しせっせと薪割りをしてくれる。その間にわたしはこっそり力を使って野菜を育て、馬に餌をあげた。
収穫した野菜で大きなお鍋にスープを作った。炒め物を作ってもいいんだけど、鍋が小さいから量が作れない。
スープならたくさん作れるし、いいだろう。コトコト煮込んでいる間に、収穫した葡萄を使って果実水を作る。
湧水を汲んで一度沸騰させてから冷ました水に葡萄をしぼる。外で力仕事をしてくれているから特別サービスだ。
パンは今日の朝たくさん作っておいたから多分足りると思う。多分……
出来上がった食事を作りたてのテーブルに並べる。大きめに作ってもらったテーブルにはパンにサラダ、果実水にハーブティを並べた。
力仕事を終えた騎士たちはテーブルの上の食事を見て目を輝かせていた。
「いろいろ作ってもらってありがとうございました。どうぞ召し上がってください」
わたしの言葉を合図に皆が食事を始めた。
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