34 / 43
34
しおりを挟む
とある日、大きくなったお腹を抱えてソファに座り込む。そんなわたしの様子を眉を寄せ、心配そうに覗き込む彼。
どうやら陣痛がきたみたいだ。
わたしの背中をずっとさすってくれる彼は、一昨日から休みを取っていた。
本当に痛いものだ。
それにだんだん間隔が狭まっているのがわかる。ハンカチを取り出し、わたしの額の汗を拭う彼の方が倒れそうな勢いだ。
ティナは間隔を測ってくれていてついに医者を呼びに行った。医者と産婆とティナ以外部屋から追い出される。
彼は隣の部屋で待機だ。
「んー!あ、あぁ」
痛い、いたい。裂ける……
ティナの声しか聞こえない。
「後少しですよ!頑張って」
その瞬間ふと痛みが和らぐ。
そして大きな産声が聞こえる。
胸に抱かせてもらうと、小さな手ではわたしの指を掴んでくれている。
「可愛らしい女の子ですよ」
涙を浮かべ、じっと眺めていると彼が部屋に飛び込んでくる。
汗で張り付いたわたしの頭を撫でながら彼も泣いていた。
「ありがとう、ありがとう」
何度も言いながら。
小さい赤子を見るとどうやら顔は彼似らしい。とても整っていて綺麗だ。どうやら髪はわたしに似たみたい。
とても綺麗な美人さんだった。
二人で恐る恐る抱っこして喜び合った。
あれから約1ヶ月が経った。
娘の名前はメアリーとなった。名前は二人で考えたのだ。
彼は常に娘の元から離れず、溺愛している。乳母も新しく雇っていて、体調が悪い時や夜には授乳を代わってもらっていた。
日本では、数時間おきに授乳しなければならず眠れないとよく聞くが、その点、この世界では代わってもらえるのでありがたい。きちんと睡眠が取れるし、世話も使用人達が時折代わってくれていた。何より彼がいるときは娘は独占状態だ。
そんな中、わたしの体調も落ち着き、医師から今まで通りの生活をしても大丈夫とお墨付きをもらっていた。
制限されることも多くて焦れていたが、やっとだ。クレバーとも遊んであげたいし、メアリーともたくさん遊んであげられる。
それに何より、彼と一緒に寝ることができる。
体調が戻るまでは別々で眠っていて、妙な寂しさもあった。それが解消されるのだから喜ばしいことだ。
しかし、その後も一緒に眠ることはなく、ふれあいもキスやハグのみで寂しくなってしまっていた。
一人で部屋に戻ると、無性に泣きたくなってしまう。
もっと一緒にいたい、触れ合いたいと思うのに、自分からそれを言えないでいた。
ぽろぽろと急に涙を流すわたしにびっくりしたティナが背中をさすってくれる。それでも心は満たされることはなかった。
今日も彼はメアリーをあやしている。あーと言葉にならない声を発しているのを聞いて満面の笑みを浮かべながら。
そんな二人を見て、なんだかわたしがいなくても彼は幸せなのではないかとふと思ってしまった。
もちろん、娘は可愛い。愛する彼にそっくりの顔でわたしにも笑いかけてくれる。
けれど、今彼の愛情を一身に受けているのはメアリーだ。
なんだか悲しくなって思わず自室へ駆け込んだ。
誰かに相談したい。けれどいつもわたしの話を聞いてくれる王妃様は今臨月でいつ産まれてもおかしくない状態だった。そんな中わたしなんかのつまらない相談を聞かせられない。
お義兄様はお義兄様でソフィアに夢中で、そろそろ結婚の話も出ていて忙しそうにしている。姪っ子にもめろめろで彼といつも競ってあやしている。そんなお義兄様には相談できない。
ソフィアも今は幸せ真っ最中で、結婚の準備もあり今は仕事を休んでいる。
ため息をつきながら、ベッドへ横たわる。
いつからこうなってしまったのだろう。実の娘に嫉妬して勝手に落ち込んで。いつもだったらこんなこと思わないのに。
ずるずると沼にひきづられるような感覚に怖くなってしまった。
その日以降、わたしはあまり起きていられなくなってしまった。夜は頭の中がぐるぐるしてしまい眠れず、昼間はその反動で泥のように眠る。
もう娘の世話なんてできなくて、乳母や使用人、彼やお義兄様が面倒を見てくれている。
起きていてもぼーっとしてしまい、あまり何も考えられない。娘の世話をしなきゃとわかっているけれど体が動かない。
ただただ生かされているだけの人形のようだ。
そんなわたしにティナが話しかけてくれた。
「セリーヌ様、何か悩み事があるのでしょう。誰にも言いません。私に話してもらえませんか」
その言葉に涙がぽたぽたと落ちる。
皆が心配して一日一回は見舞いに来てくれて声をかけてくれる。けれど、大丈夫か?しか言われなくて。
大丈夫かって聞かれたら人間大丈夫って答えちゃうものでしょう?
わたし自身の気持ちを聞いてくれる人なんていないって、そう思っていたのに。
「怒らないで聞いてくれる……?」
「はい、もちろんです。男性は女性の機微に鈍感ですからね。王妃様も今は大事な時期ですし、このおいぼれでよければいくらでも」
その言葉に嗚咽を漏らしながら、今のわたしの素直な気持ちを聞いてもらった。
醜い心も全て打ち明けたら、心の中のモヤが少し晴れた気がした。
どうやら陣痛がきたみたいだ。
わたしの背中をずっとさすってくれる彼は、一昨日から休みを取っていた。
本当に痛いものだ。
それにだんだん間隔が狭まっているのがわかる。ハンカチを取り出し、わたしの額の汗を拭う彼の方が倒れそうな勢いだ。
ティナは間隔を測ってくれていてついに医者を呼びに行った。医者と産婆とティナ以外部屋から追い出される。
彼は隣の部屋で待機だ。
「んー!あ、あぁ」
痛い、いたい。裂ける……
ティナの声しか聞こえない。
「後少しですよ!頑張って」
その瞬間ふと痛みが和らぐ。
そして大きな産声が聞こえる。
胸に抱かせてもらうと、小さな手ではわたしの指を掴んでくれている。
「可愛らしい女の子ですよ」
涙を浮かべ、じっと眺めていると彼が部屋に飛び込んでくる。
汗で張り付いたわたしの頭を撫でながら彼も泣いていた。
「ありがとう、ありがとう」
何度も言いながら。
小さい赤子を見るとどうやら顔は彼似らしい。とても整っていて綺麗だ。どうやら髪はわたしに似たみたい。
とても綺麗な美人さんだった。
二人で恐る恐る抱っこして喜び合った。
あれから約1ヶ月が経った。
娘の名前はメアリーとなった。名前は二人で考えたのだ。
彼は常に娘の元から離れず、溺愛している。乳母も新しく雇っていて、体調が悪い時や夜には授乳を代わってもらっていた。
日本では、数時間おきに授乳しなければならず眠れないとよく聞くが、その点、この世界では代わってもらえるのでありがたい。きちんと睡眠が取れるし、世話も使用人達が時折代わってくれていた。何より彼がいるときは娘は独占状態だ。
そんな中、わたしの体調も落ち着き、医師から今まで通りの生活をしても大丈夫とお墨付きをもらっていた。
制限されることも多くて焦れていたが、やっとだ。クレバーとも遊んであげたいし、メアリーともたくさん遊んであげられる。
それに何より、彼と一緒に寝ることができる。
体調が戻るまでは別々で眠っていて、妙な寂しさもあった。それが解消されるのだから喜ばしいことだ。
しかし、その後も一緒に眠ることはなく、ふれあいもキスやハグのみで寂しくなってしまっていた。
一人で部屋に戻ると、無性に泣きたくなってしまう。
もっと一緒にいたい、触れ合いたいと思うのに、自分からそれを言えないでいた。
ぽろぽろと急に涙を流すわたしにびっくりしたティナが背中をさすってくれる。それでも心は満たされることはなかった。
今日も彼はメアリーをあやしている。あーと言葉にならない声を発しているのを聞いて満面の笑みを浮かべながら。
そんな二人を見て、なんだかわたしがいなくても彼は幸せなのではないかとふと思ってしまった。
もちろん、娘は可愛い。愛する彼にそっくりの顔でわたしにも笑いかけてくれる。
けれど、今彼の愛情を一身に受けているのはメアリーだ。
なんだか悲しくなって思わず自室へ駆け込んだ。
誰かに相談したい。けれどいつもわたしの話を聞いてくれる王妃様は今臨月でいつ産まれてもおかしくない状態だった。そんな中わたしなんかのつまらない相談を聞かせられない。
お義兄様はお義兄様でソフィアに夢中で、そろそろ結婚の話も出ていて忙しそうにしている。姪っ子にもめろめろで彼といつも競ってあやしている。そんなお義兄様には相談できない。
ソフィアも今は幸せ真っ最中で、結婚の準備もあり今は仕事を休んでいる。
ため息をつきながら、ベッドへ横たわる。
いつからこうなってしまったのだろう。実の娘に嫉妬して勝手に落ち込んで。いつもだったらこんなこと思わないのに。
ずるずると沼にひきづられるような感覚に怖くなってしまった。
その日以降、わたしはあまり起きていられなくなってしまった。夜は頭の中がぐるぐるしてしまい眠れず、昼間はその反動で泥のように眠る。
もう娘の世話なんてできなくて、乳母や使用人、彼やお義兄様が面倒を見てくれている。
起きていてもぼーっとしてしまい、あまり何も考えられない。娘の世話をしなきゃとわかっているけれど体が動かない。
ただただ生かされているだけの人形のようだ。
そんなわたしにティナが話しかけてくれた。
「セリーヌ様、何か悩み事があるのでしょう。誰にも言いません。私に話してもらえませんか」
その言葉に涙がぽたぽたと落ちる。
皆が心配して一日一回は見舞いに来てくれて声をかけてくれる。けれど、大丈夫か?しか言われなくて。
大丈夫かって聞かれたら人間大丈夫って答えちゃうものでしょう?
わたし自身の気持ちを聞いてくれる人なんていないって、そう思っていたのに。
「怒らないで聞いてくれる……?」
「はい、もちろんです。男性は女性の機微に鈍感ですからね。王妃様も今は大事な時期ですし、このおいぼれでよければいくらでも」
その言葉に嗚咽を漏らしながら、今のわたしの素直な気持ちを聞いてもらった。
醜い心も全て打ち明けたら、心の中のモヤが少し晴れた気がした。
89
あなたにおすすめの小説
婚約者候補になったけれども
ざっく
恋愛
王太子 シャルル・ルールに、四人の婚約者候補が準備された。美女才媛の中の一人に選ばれたマリア。てか、この中に私、必要?さっさと王太子に婚約者を選んでもらい、解放されたい。もう少しだけそばにいたいと思う気持ちを無視して、マリアは別の嫁ぎ先を探す。コメディです。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
婚約破棄に応じる代わりにワンナイトした結果、婚約者の様子がおかしくなった
アマイ
恋愛
セシルには大嫌いな婚約者がいる。そして婚約者フレデリックもまたセシルを嫌い、社交界で浮名を流しては婚約破棄を迫っていた。
そんな歪な関係を続けること十年、セシルはとある事情からワンナイトを条件に婚約破棄に応じることにした。
しかし、ことに及んでからフレデリックの様子が何だかおかしい。あの……話が違うんですけど!?
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
貴方の✕✕、やめます
戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。
貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。
・・・・・・・・
しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。
それなら私は…
ラヴィニアは逃げられない
棗
恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。
大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。
父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。
ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。
※ムーンライトノベルズにも公開しています。
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています
金峯蓮華
恋愛
ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。
大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。
のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。
ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。
そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。
ゆるふわな設定です。
暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。
R15は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる