山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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 思いっきり泣き腫らして、そのまま疲れたわたしは眠ってしまった。
 うとうととしていた中で見た夢で誰かが優しく頭を撫でてくれて、ごめんって言ってたような気がする。




 ふと目を開ける。
 右側になんだかおかしな感覚がある。視線を向けると誰かがわたしの右手を握っていて、上半身はベッドに倒れている。
 きらきらした金髪のさらさらの髪が散らばっていた。
 ……ん?
 体を起こそうとするも全身がギシギシしていてなかなか思うように動かない。なんでだろう。寝過ぎた?でもなんだか右手はあまり動かせない。
 わたしの左腕には管が通されていて。
 点滴?なんでこんなものが……
 声を出そうと思ってもなかなか声が出ない。というか口の中がカラカラだ。
 わたしの右手を握っている人の体がピクリと動く。
 あれ、起きたかな。

 ゆっくりと状態を起こす彼は昨日見た姿とは違っていてだいぶ痩せたようだ。一日でこんなにやつれるなんて何事?
 不思議に思っていると彼はわたしを見て涙をボロボロとこぼした。
 なぜそんなに泣いているの? わたしはそう聞きたかったけれど、声にならない。
「セ、セリーヌ……あぁぁぁ、戻ってきてくれた」
 ぎゅっと優しく抱きしめられる。
 何が何だかわからない。
 バタバタと医師が入ってくる。あちこち診察されて、何かを彼に告げた後退室した。

 次に入ってきたのはティナとお義兄様で。
 二人とも泣いていた。そんなに心配かけたのかしら……
 ティナが水差しから水をグラスに注いでくれる。それを受け取った彼はわたしの体を起こしてくれて、口にグラスを当ててくれる。
 少しずつ傾けられたけど、うまく飲むことができなくて、口の端から水がこぼれてしまった。
 わたし、病気になった? そう思ったけれど手も足も感覚はしっかりある。
 その様子を見ていた彼は苦しそうな辛そうな表情をしている。
 どうなっているんだろうか。
 彼は自分の口に水を含むとそのまま口移しで飲ませてくれた。彼の口で塞がれていたので今度はうまく飲み込むことができて、もっとと目で訴える。
 彼はそれを察してくれて、何度も水を飲ませてくれた。



「あ、あの。わたしは一体……どうしたのでしょう」
 やっと言葉を発することができたわたしに彼は教えてくれた。
 
 どうやらわたしはあの大泣きした日から一ヶ月近く眠ったままだったらしい。なるほど。どおりで体が動かないと思った。一日寝たきりなだけでもかなり筋力が落ちると聞く。
 それにしても寝すぎだ。みんな心配するわけだ。
「心配かけてごめんなさい……メアリーは?」
「こんな時でも他人の心配ばかりするんだな。少しは自分を大切にしてくれ」
 それはごもっともな意見だ。けれどこれはわたしの性格でもある。
「メアリーは順調に育っているよ。元気すぎて困っているくらいだ。よく笑うようになった」
「そう、良かった」
 もうあのときのような気持ちは起こらない。心の底から喜ぶことができている。
 きっと心が悲鳴をあげて休んでいただけなのね。

「セリーヌ、王妃様のところも生まれたみたいだよ。男の子だそうだ。今度一緒に見に行こうか」
 お義兄様が泣き笑いのおかしな顔で聞いてくる。
「ぜひ行きたいわ。そのためにも筋トレしないと」
 わたしの言動におかしそうにクツクツ笑って退室した。うん、いつも通りだ。
 ティナも退室し彼と二人きりになっていた。

 
「ごめん。悪いとは思ったけど、ティナに全て聞いた。あんなに悩んでいたのに何もしてやれなかった」
 わたしを抱きしめながら彼はいった。すごく震えてる。あの事件以来かな。
「言わなかったわたしも悪いの。それにあのときは本当どうにかしてたのよ。産後だからどうしてもそうなっちゃうってティナも言ってたわ」
 おそらくは産後うつの状態だったのだろう。出産でホルモンバランスが崩れて不安定になる。月のものがくる一週間前なんて特にそうだ。今回はその状態が長く続いて心に負担がかかったのだろう。
 それに言わなかったわたしも悪いのだ。
「違う、俺がもっと君を気にかけていたら……君との子供が可愛くて、君はいつもと変わらない様子だったし大丈夫だろうって。もっと君と向き合えていたら」
「わたしのわがままだもの。それに付き合わせるわけにはいかないわ」
 自分以外の人にわがままを言うのは苦手だ。自分でできることはなるべく自分でやってしまいたい。迷惑はかけたくない。たとえ結婚していたって親しき中にも礼儀ありだ。困らせててはいけない。

「俺は、そんなに頼りないか」
「え?」
「わがままも言えないほど頼りないのか?」
「それは違うわ。迷惑をかけたくないだけで……」
「俺は、君のわがままならいくらでも叶えてあげたい。それで君が幸せになれるならいくらでも」
 胸に突き刺さる。今までわがままなんて言ったことがなかった。両親からも可愛げがないと言われていたし、大概のことは自分一人でしようとする。
 わがままを、言ってもいいの? 迷惑じゃない? ……嫌いにならない?
 小さな消え入りそうな声でつぶやく。同時に涙が頬を伝っていく。

「いくらでも構わないよ。そんなの可愛いものだ。君を嫌いになるなんて一生あり得ない」
 静かに涙を流し続けるわたしを彼はぎゅっと抱きしめてくれた。
 
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