山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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「わたし、わたしね?」
 少しづつ言葉を紡いだ。
「メアリーが生まれてから貴方がずっとメアリーにつきっきりで寂しかったの」
 一つ一つ相槌を返してくれる彼。
「でも産後は体調が悪くて、落ち着くまで一月かかった。やっとお医者様からもお墨付きをもらったの。でも……」
「メアリーばかり構っている貴方をみて、わたしはいなくても、いいんじゃ、ないかって、思ってきて」
 しゃくり上げるわたしの背中を優しく撫でてくれて。
「そのうちまた体調が、悪くなって。そこからはもう、ずっと、さみ、しくて……」

「そのうちぼーっとしてきて、何も考えられなくなって……もうわたしなんて、いら、ない、なって思って」
「相談、したくても、相談、できる人も、いなく、て」

「限界だったんだと、思う。ティナと、話して、ちょっとすっきりした、って思って」
「そしたら、いっぱい寝てたんだね……」


 彼は最後まで、話を聞いてくれていて一緒に涙を流してくれて。
 言葉の節々に、ごめんって言ってた。彼が悪いわけじゃないのに。

「もっと、早くに気づくべきだった。もっと早く、話を聞いてあげられていたら、君にこんな思いはさせなかったのに。君との子供が本当に嬉しくて」
 わたしの涙を舐め取りながら懺悔する彼。本当に辛そうで苦しそうで。こんな思いをさせたかったわけじゃないのに。
 結果的にわたしがきちんと伝えなかったから。
「わかってる。だから余計に言えなかったの。ごめんなさい」
「君が謝る必要なない。悪いのは俺だ」
 ずっとお互いが自分が悪いと言い張っていて。なんだかおかしくて笑ってしまった。
「じゃあもう二人とも悪いってことで終わりにしよう?」
 そう提案すると彼も目を細めて
「ああ。そうしよう」
 久しぶりに深い口づけを交わした。

 その後は二人並んでベッドに横になり、眠った。





 あれから数ヶ月の月日が流れた。
 わたしはというと、夫であるノア様と、娘のメアリー、クレバー、使用人たちと共にお医者様の指示のもと前の生活が送れるまでに回復していた。
 あの日以来、彼の心配性はさらに加速してしまったけれど。
 娘のメアリーは7ヶ月になっていた。特に問題はなくすくすく育っている。わたしがお世話をできていない期間が長かったので、母親だと認識してもらえるか不安だった。けれどたまに「まー、まー」と呼んでくれる。
 もう本当に可愛いのだ。
 クレバーもよく子守りをしてくれている。危ないものがあれば隠してくれたり、そばにいて尻尾で遊んであげたり。
 本当に賢い犬だ。
 お義兄様やお義母様一家は次々と物を送ってくる。最近ではちょくちょく遊びにきて世話を手伝ってくれるのだ。
 その間にわたしと彼は二人で出かけたり、あちこち旅行に行ったりしている。



 そして今日は、王妃様に会いにいく日だ。王妃様のお子ももう4ヶ月になるだろうか。子供の話だけでなくお互いの旦那の話をしたりといいストレスの発散の場でもあった。
 かくゆう王妃様もわたしと同じく産後うつになってしまっていたようで、その時ちょうどリハビリがてら、わたしがお茶会をしたいと誘っていた。
 どうやら国王陛下も自分の子供に夢中になってしまっていて、王妃様のことを以前と比べてあまり構わなくなってしまったとか。
 兄弟揃ってそっくりだ。こればっかりは王妃様にアドバイスしたところでどうにかなるものでもない。そこで彼に自分の体験談を話して忠告するようにとお願いしていた。
 あんな思いをするのはわたしたちだけで十分だ。
 自分で言うのもなんだが、今まで生きてきた中で一番辛かった。心の傷はお医者様では治せないのだ。
 そのおかげもあってか、ちゃんと王妃様を大切にしてくれて、持ち直したのだとか。よかった。


「セリーヌ!よくきてくれたわ」
 待ってましたと言わんばかりの笑顔で出迎えてくれる王妃様。また何か問題でもあったのかしら。
「どうされたのですか?」
「それがね、彼がなかなか誘ってくれないの。貴方に伝授した秘技を使ってもよ?信じられないわ」
 最近わかったのだが、どうも国王陛下は王妃様を大事にしすぎているきらいがある。さらに自分の中でダメだと思ったことは徹底的に律することができるらしく、なかなかガードが硬いらしい。

「んー、わたしのこと飽きちゃった?って目を潤ませながら言ったらイチコロかと思うのです。ノア様から聞きました。国王陛下はサラお義姉様の涙に一番弱いと」
 以前聞いた話から最善策を考えてみる。きっとこんなことを言われたらどんな男もイチコロだ。それに何よりこんなに綺麗な王妃様だもの。落ちない男などいないだろう。
「それいいわね!やってみるわ」
 目をきらきらさせている王妃様は今日もお美しい。
 さて、人のことばかり構ってはられない。何を隠そうわたしもまだ娘を妊娠して以来、一回も致していないのだ。
 どうしたものか。
 そんなことを考えながら、彼と一緒に帰路に着いた。
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