【完結】お世話になりました

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14.不審者?

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 瞼の裏に眩しさを感じ目が覚めた。
 窓をすだれのように覆っている蔦、その間から射した木漏れ日だ。
 ぐいと伸びをしてから脱力して、体が随分と軽いことに気付いた。
 固い場所で雑魚寝したというのに、以前よりもずっと気分がいい。

「これがストレスフリーかぁ」

 しみじみと思いつつ、一先ず外に出てみた。

「わあ」

 また自然に声が漏れる。
 夜も美しい光景だったが、明るい時間も負けていない。
 草木が青々と息吹き瑞々しく、太陽に照らされまた違った輝きを放っている。

 こんなに美しい場所に来られるなんて。
 心のどこかであった屋敷を出てきた寂しさが、あっという間に吹き飛んでいくように思えた。

 水路を辿る様に歩きながら、夜よりもはっきり見える景色を見回す。
 大木を超えた先には自然に飲まれた遺跡が広がっていた。
 行商人さんが言っていた数百年前の痕跡だと思われるけれど、

「だとしたら、ここはイアルイの森の奥地?」

 でも肺は爛れていないし、苦しいどころか空気は美味しい。
 もしかしたらどこかまったく違う森まで来てしまったのかもしれない。
 まぁそれならそれでいい。

 今はとりあえず、

「水浴びだーー!」

 全く人気がないのをいいことに、ポイポイと身に纏っていたものを脱ぎ捨てて、シュミーズ姿で細い滝の落ちる小さな湖へと飛び込んだ。
 辺りは木々に囲まれていて、まさに秘境といえそうな場所で、水深が見えるくらいの澄んだ湖なのだ。飛び込まずにいられるわけがない。

 どぼん。
 鼻をつまんで体を丸めて深いところに飛び込めば、驚いた小魚が慌てて逃げていく姿が見えた。見たこともない魚だ。
 ゆらゆらと泳いでから、

「ぷは」

 湖畔で水面から顔を出す。
 そのまま浅瀬に座り込んで、頭を振って水気を飛ばした。
 束になった前髪がかき分けられて、視界が良くなる。
 誰もいないんだし、もういいかな。
 ぱちゃぱちゃと水を叩いて遊んだり、足をバタつかせてみたり。

「きもちー……」

 様々なしがらみから解放されたような心地だ。やっぱりあそこから出てきて良かった。
 きっとここでなら第二の人生を始められる、そんな確信めいたものを感じながら、

「よーし!」

 両腕を振り上げて一人意気込んだ、そんな時だった。

 ──がさり。

 すぐそばの茂みが音を立てた。
 自然と視線を向ければ、

「………」

「………」

 長身の男性がその場でピタリと体を固めていて、

「………どうして人間がこんなところに…?」

 そんなくぐもった声が聞こえた。
 どうして声が籠っているのかというと答えは簡単で、

 ──シュコー……シュコー……

 彼が気味の悪いマスクを装着しているからである。
 ガラスが反射して目元が見えるわけではないが、まじまじと、それはもうまじまじと上から下まで視線で舐められているのがわかって、

「き、」

「……?」

「キャアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 自分史上最大の叫びが上がった。
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