【完結】お世話になりました

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31.告白(アロイスside)

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 は? この子、今なんて言った?

 俺がそう固まっている間にも「上手くいくことを願っています」なんてわけのわからないことを言っている。

「もちろんわたしは邪魔にならないよう精一杯努めますので!」

「……………ねぇリリは一体何の話をしてるの…?」

「? 告白、するんですよね?」

 いや今したんだけど、と口に出す前に、

「シオンさんに」

 そう花を咲かせたような笑顔で言うものだから、俺の口からは特大の「はぁ!?」が飛び出した。

 その声に驚いたのかリリが大きく肩を揺らしたので、慌てて息を整える。
 落ち着け、落ち着け。怯えさせるのは駄目だ。
 とんでもなくおぞましい誤解をされているような気がするがとりあえず落ち着いて……

「えぇっと、もしかしてリリは、俺が、あの寝ぼけ面に、さっきみたいな告白をしようとしてるって、思ってる…?」

「寝ぼけ面なんて、素直に名前で呼んだらいいのに」

 リリはそう言ってクスクスと笑った。
 かわ──じゃなくてッ!!

「なんっっっでそうなる!?!?!?」

 やっぱり抑えきれなくて俺はそう叫んだ。

 どこをどうとってそうなった!?
 記憶がないうちに自分が何を口走ってしまったのかはわからないが、確実にあの男に対する好意的な言葉は吐いていないはずだ。そんなものは俺の潜在意識の中にも欠片もありはしないと断言できる。というかそもそも男である。あり得ない。

 考えられるのは、俺のリリに対する思いがどういうわけかあの田舎貴族に向けられたものだと変換されているということ。

 未だ残る頭痛が何倍にも酷くなった気がする。ついでに吐き気も。

「わたし、誰にも何も言いません!」

 しかもこうして非常に真摯な言葉を掛けてくれているという絶望的な状況である。全くもって応援などされたくない。
 先ほどまでのやりとりを思い出すと気が遠くなりそうだ。
 アドバイスも含め、リリはこれっぽっちも自分に関することだとは思っていなかったわけだ。

「そもそも言いふらせるほど友人だとかもいませんし」

 えへへ、と眉を倒して笑うリリにまた眩暈がしそうになる。
 思えば穏やかに微笑みかけられるのも、こうして会話が続いているのも随分と久しぶりで、それだけでこんなにも胸の奥底から熱くなる。

 今まではこの熱が処理しきれなくて、いっそ苦しいほどで、馬鹿みたいな八つ当たりを彼女本人にしてしまっていた。

 でも今は──リリが手の中から零れるように離れて行ってしまった今にしてやっと、この感覚がとても尊いものだったのだとわかった。

 彼女の全てを独占したい。誰よりも何よりも俺だけのことを見て、思ってほしい。彼女のどんな感情でさえ全部俺だけに、俺の事だけを考えていてほしい。
 そんなドロドロとした救いようのない欲望があるのは事実──だがそれ以上に、彼女が笑ってくれるだけで、ただそれだけで良いような気もしてくる。

「あ、またやってしまいました…すみません…」

 そう言って顔を隠すために俯こうとするリリの頬を両手で包み、そっと顔を上げさせれば、きょとんと丸められた瞳と目が合う。

「──ううん。目を見て、話してほしい」

 まだ鼓動が騒いで落ち着かなくなってしまうけれど、

「君の瞳は綺麗だから、その方が…俺は…うれ、しい……」

 というかなんというか……情けなくもゴニョゴニョと尻すぼみになってしまう。
 リリにだけは『こんな感じで言ってれば何とかなるだろ』という精神が通用しなくて、いつもの調子でいられなくなる。

 それでも、伝えるべきことはちゃんと伝えなければならない。
 素直に…素直に……ていうかさっき、散々好きだと口には出してしまっている。
 もう外面だって繕えないくらいにボロボロなのだから、ありのままで彼女と向き合おう。

「俺が好きなのは、リリだよ」

 今度こそちゃんと伝わるように、はっきりと告げた。
 ぽかんとしたままの彼女がもう二度とあらぬ誤解を抱かないよう、念を押すように、

「さっきの告白も、君に向けてしたものだ」

 また顔が燃えるように熱くなってくるけれど、心のうちを素直に明かすということは、案外悪いものではないと思えた。
 ずっと腹の奥で渦巻いているだけだった彼女への気持ちが、口にすればすとんと落ち着くところに落ち着いたような気になる。

 また昔みたいに何のしがらみもなく笑い合えるようになりたいと──自分自身で壊してしまった関係だけれど、修復を願いたかった。

 その思いも込めて、ずっと燻っていた彼女への気持ちをもっともっと伝えてしまおうと思った──けれど、続く言葉に詰まってしまう。

 リリがあまりに悲しげに、視線を逸らしてしまったから。
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