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33 真実
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「もしかして、その友人の方を探しているときに俺の話を聞いて、ハルネス隊長に調べさせたのですか?」
「うん、そうだよ。私にはあの子がいるからね。きみに会うわけにはいかなかった」
「どういうことだ?」
リュカが男娼であったことを知らないアレックスは、ふたりの会話が理解できない。
真実を知れば、アレックスのリュカを見る目は変わってしまうだろう。軽蔑されるかもしれない。それでも、いい加減打ち明けるべきなのだと思った。
意を決して、アレックスのほうへと身体を向け、深く息を吸ってから水色の瞳をまっすぐに見つめた。
「父の経営していた娼館で、俺は男娼として働いていました」
リュカのことばにアレックスは目を見開き、しばらく茫然と固まっていた。それから怒りの形相になって立ち上がり、テーブルの向かいに座るウィルフリッドに詰め寄った。
「ウィルフリッド! おまえは、いつから知っていた?」
「夜想の館の高級男娼とリュカが同一人物であることに気づいたのはつい最近だよ。夜想の館について調べる過程で、キルシュバウム家が秘密裏に経営している店だと知ったんだ」
「ハルネスに調べさせたというのは?」
「きみがいつまで経っても初恋の相手にこだわって片割れを見つけないから、代わりの魔力欠乏体質者を探していたんだよ」
「……っ、殿下が魔力欠乏体質を探しているという噂は、アレックス隊長のためだったんですね」
アレックスに好きな相手がいるのだと知った瞬間、心臓が止まりそうになった。胸が痛くて、苦しくて、絞り出した声は掠れてしまった。
「ああ、数年前から私が噂を流していた。きみの父は、その噂を聞いてきみを騎士団に入れたんだろう?」
「はい。仰る通りです」
父は、ウィルフリッドの手の上で踊らされていたのだ。もし、ウィルフリッドが噂を流していなければ、リュカはほかの男娼と同じように客を取らされていたかもしれないと思うと、ぞっとしてしまう。
きっと、リュカが礼を言ったところで、ウィルフリッドは少しもうれしくないだろう。むしろ、リュカを憎らしく思うかもしれない。中途半端な仕事をしていたリュカとは違い、彼の愛するひとはまともに男娼の仕事をしていたのだから。
父が捕まったという事実に少なからず動揺したが、正直ほっとしてしまった。父がリュカを自分の子として見ていなかったように、リュカも父を家族とは思えなくなっていたのかもしれない。妹のメアリーとテオドルだけが、リュカの家族だった。きっと、メアリーのことは叔父と従兄がよくしてくれる。メアリーは従兄になついていた。
もう、思い残すことはない。
「俺は、ウィルフリッド第二王子殿下を誘惑するよう、父に言われて騎士団に入りました。いかようにも処分してくださいませ」
ソファから立ち上がり、床に膝をついて頭を下げたリュカを見て、テオドルが隣に並んで頭を下げる。
「リュカが罰を受けるなら、俺もいっしょに受けます」
「テオドル……」
リュカとテオドルを見据えるウィルフリッドの顔には表情がなかった。下される罰をただ黙って待っていると、ウィルフリッドが自分の向かいに座るアレックスを見て、苦笑を浮かべた。
「いやだな、そんなに睨まなくても大丈夫だよ」
横顔からでも、アレックスの眼光の鋭さが伝わってくる。その視線を平然と受け止め、こちらへ視線を戻したウィルフリッドは、穏やかな笑みを浮かべた。
「ふたりとも、顔を上げなさい。そんな理由で罰をあたえることはないから安心するといい。だいたい、私はリュカに誘惑された覚えはないよ。そんなことをされていたら、目の前の男が黙っていないだろうからね。……なにより、きみたちを罰したら、私がサシャに恨まれてしまう」
「あ……サシャが殿下の想いびとなんですね」
「うん」
ウィルフリッドはうれしそうに笑っていた。くったくなく笑う彼は、いつもと違って年相応に見える。
サシャは、リュカといちばん仲のよかった男娼だ。ほかの男娼たちは、ひとりだけ特別扱いを受けるリュカのことを遠巻きにするか、いやがらせをするかのどちらかだったが、サシャだけはリュカにやさしくしてくれた。
サシャは好きな相手がいると言っていたが、もしかしてそれはウィルフリッドのことではないのだろうか。口淫の手順を教えてくれたのもサシャだ。いったい彼はどんな気持ちでリュカに教えてくれたのだろう。
「サシャが、きみたちに会いたがっていた。今度、会ってやってほしい」
「はい、俺もサシャに会いたいです」
リュカの返事を聞いて、ウィルフリッドは笑みを深めた。
「――というわけで、きみたちは自由だ。この先どうするかは好きに決めなさい。騎士団を辞めるか、それともこのまま残るか。どちらを選んでも私はきみたちに助力を惜しまないつもりだ」
「ありがとうございます」
テオドルとふたりで口をそろえて礼を言い、ウィルフリッドに頭を下げた。
「うん、そうだよ。私にはあの子がいるからね。きみに会うわけにはいかなかった」
「どういうことだ?」
リュカが男娼であったことを知らないアレックスは、ふたりの会話が理解できない。
真実を知れば、アレックスのリュカを見る目は変わってしまうだろう。軽蔑されるかもしれない。それでも、いい加減打ち明けるべきなのだと思った。
意を決して、アレックスのほうへと身体を向け、深く息を吸ってから水色の瞳をまっすぐに見つめた。
「父の経営していた娼館で、俺は男娼として働いていました」
リュカのことばにアレックスは目を見開き、しばらく茫然と固まっていた。それから怒りの形相になって立ち上がり、テーブルの向かいに座るウィルフリッドに詰め寄った。
「ウィルフリッド! おまえは、いつから知っていた?」
「夜想の館の高級男娼とリュカが同一人物であることに気づいたのはつい最近だよ。夜想の館について調べる過程で、キルシュバウム家が秘密裏に経営している店だと知ったんだ」
「ハルネスに調べさせたというのは?」
「きみがいつまで経っても初恋の相手にこだわって片割れを見つけないから、代わりの魔力欠乏体質者を探していたんだよ」
「……っ、殿下が魔力欠乏体質を探しているという噂は、アレックス隊長のためだったんですね」
アレックスに好きな相手がいるのだと知った瞬間、心臓が止まりそうになった。胸が痛くて、苦しくて、絞り出した声は掠れてしまった。
「ああ、数年前から私が噂を流していた。きみの父は、その噂を聞いてきみを騎士団に入れたんだろう?」
「はい。仰る通りです」
父は、ウィルフリッドの手の上で踊らされていたのだ。もし、ウィルフリッドが噂を流していなければ、リュカはほかの男娼と同じように客を取らされていたかもしれないと思うと、ぞっとしてしまう。
きっと、リュカが礼を言ったところで、ウィルフリッドは少しもうれしくないだろう。むしろ、リュカを憎らしく思うかもしれない。中途半端な仕事をしていたリュカとは違い、彼の愛するひとはまともに男娼の仕事をしていたのだから。
父が捕まったという事実に少なからず動揺したが、正直ほっとしてしまった。父がリュカを自分の子として見ていなかったように、リュカも父を家族とは思えなくなっていたのかもしれない。妹のメアリーとテオドルだけが、リュカの家族だった。きっと、メアリーのことは叔父と従兄がよくしてくれる。メアリーは従兄になついていた。
もう、思い残すことはない。
「俺は、ウィルフリッド第二王子殿下を誘惑するよう、父に言われて騎士団に入りました。いかようにも処分してくださいませ」
ソファから立ち上がり、床に膝をついて頭を下げたリュカを見て、テオドルが隣に並んで頭を下げる。
「リュカが罰を受けるなら、俺もいっしょに受けます」
「テオドル……」
リュカとテオドルを見据えるウィルフリッドの顔には表情がなかった。下される罰をただ黙って待っていると、ウィルフリッドが自分の向かいに座るアレックスを見て、苦笑を浮かべた。
「いやだな、そんなに睨まなくても大丈夫だよ」
横顔からでも、アレックスの眼光の鋭さが伝わってくる。その視線を平然と受け止め、こちらへ視線を戻したウィルフリッドは、穏やかな笑みを浮かべた。
「ふたりとも、顔を上げなさい。そんな理由で罰をあたえることはないから安心するといい。だいたい、私はリュカに誘惑された覚えはないよ。そんなことをされていたら、目の前の男が黙っていないだろうからね。……なにより、きみたちを罰したら、私がサシャに恨まれてしまう」
「あ……サシャが殿下の想いびとなんですね」
「うん」
ウィルフリッドはうれしそうに笑っていた。くったくなく笑う彼は、いつもと違って年相応に見える。
サシャは、リュカといちばん仲のよかった男娼だ。ほかの男娼たちは、ひとりだけ特別扱いを受けるリュカのことを遠巻きにするか、いやがらせをするかのどちらかだったが、サシャだけはリュカにやさしくしてくれた。
サシャは好きな相手がいると言っていたが、もしかしてそれはウィルフリッドのことではないのだろうか。口淫の手順を教えてくれたのもサシャだ。いったい彼はどんな気持ちでリュカに教えてくれたのだろう。
「サシャが、きみたちに会いたがっていた。今度、会ってやってほしい」
「はい、俺もサシャに会いたいです」
リュカの返事を聞いて、ウィルフリッドは笑みを深めた。
「――というわけで、きみたちは自由だ。この先どうするかは好きに決めなさい。騎士団を辞めるか、それともこのまま残るか。どちらを選んでも私はきみたちに助力を惜しまないつもりだ」
「ありがとうございます」
テオドルとふたりで口をそろえて礼を言い、ウィルフリッドに頭を下げた。
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