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しおりを挟むマリッサの額にはうっすらと痣がある。
よく見ると四つ葉のような形をした小さな痣は生まれつきあるもので、普段は前髪で隠しているし、時々心ない人にからかわれることはあったがマリッサ自身はそこまで気にしていなかった。
年頃になって出来た恋人のニックも痣を気にしないでくれたし、マリッサの亡くなった母親にも薄く痣があったので、マリッサは痣があることで母との繋がりを感じてもいた。
しかし、ニックの母親はマリッサの額に痣があると知ると二人の結婚に大反対した。
「ニック……やっぱり結婚は出来ないよ。お義母さんは私のことが嫌いだもん」
ニックの家は町で一番大きな商会を営んでいて、ニックの両親と兄夫婦が中心になって切り盛りしている。ニックも商会の仕事に携わっており、結婚すればマリッサも一緒に働くことになる。
だからニックの母親はマリッサが嫁になるのをよく思っていないのだ。痣があるような女は客の前に出せないし、何より縁起が悪いと言っている。
だから、マリッサはニックとの結婚を諦めようとしたのだが、ニックは別れるのを拒んだ。
「母さんのことは気にするな! 僕が守るから大丈夫だよ!」
ニックに熱心に説得されて、最終的にマリッサは頷いた。
結婚後は両親と兄夫婦の言うことをよく聞いて一生懸命に働いた。明るい性格のマリッサは客から人気があったし、経営のことも熱心に勉強して商会を盛り立てた。
しかし、結婚後一年経ってもニックの母親は相変わらずマリッサを嫌っていた。
義父と兄夫婦は大人しい性格で、マリッサとの関係は悪くなかったがニックの母親がマリッサをいびっていても口を挟めなかった。ニックはマリッサを庇って母親を宥めたが、母親の態度はいつまでも変わらなかった。
そんな中でマリッサは子供を授かった。
「この子が生まれれば、母さんも変わるよ」
ニックはほっとしたように言った。マリッサもそう信じて子供が産まれるのを楽しみにしていた。
子供のためにも強くならなければと思い、ニックの母親の小言も受け流せるようになった。
そうしてマリッサは女の子を産んだ。マリッサによく似た子で、キャシーと名付けた。
その子の額には、マリッサのものよりずっと濃くはっきりした四つ葉型の痣があった。
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