21 / 55
第21話 公爵令息エリオット・フレインの思案
しおりを挟む思いがけず、婚約者が出来てしまった。
エリオット・フレインは女嫌いだ。結婚するつもりも、婚約者を作るつもりもなかった。
だが、周囲はこの婚約に大賛成で、実にするすると陛下から婚約許可証をいただけてしまった。男爵家では公爵家に嫁ぐに身分が足りないという問題も、スカーレットの境遇に涙した王妃の後押しと完璧な淑女と呼ばれるスカーレットの評判の高さによって乗り越えられてしまった。
公爵令息と男爵令嬢の身分を越えた純愛~悪逆非道な好色侯爵の妨害を添えて~は、国中に「ロマンス小説のような大恋愛」としてあっという間に広まってしまった。
エリオットの婚約者の座を狙っていた令嬢達はスカーレットの存在を面白く思わないのではないかと思いきや、おぞましい目に遭ったスカーレットに同情する声の方が大きかった。
という訳で、エリオット・フレインの婚約は本人以外からは諸手を上げて賛成され祝福されたのである。
「婚約者って、何をすればいいんだ……?」
いつもの生徒会室で、エリオットは真剣な表情で呟いた。
他の面々は呆れてエリオットの顔を見やった。
「お前、何年私の側近候補をやっているんだ」
アレンが溜め息を吐いて言った。
「月に一度の茶会、記念日には贈り物、舞踏会や夜会ではドレスかアクセサリーを贈りエスコートする。それぐらいわかるだろう?」
確かに、茶会の度に愚痴を聞いたり贈り物やドレスを選ぶ際に付き合わされたりしていたから、やるべきことはわかるのだが、それを自分がやると思うとなんだか現実感がないのだ。
「お前達も、そういうことやっているのか?」
「当たり前だろう」
「ガイも?」
「俺をなんだと思ってんだ」
クラウスとガイもきっちりと婚約者の務めを果たしていると知り、エリオットは衝撃を受けた。クラウスはともかく、脳筋のガイまで。
(どうすればいいんだ?とりあえず、茶に誘えばいいのか?)
スカーレットはあの一件のあと三日間学園を休んだ。登校してきた時には顔の痣は消えていて、エリオット達に迷惑をかけた謝罪と助けてくれた礼を述べた時の微笑みは美しく輝いていた。
それから一週間が経つ。あれ以来、スカーレットとは話していない。
「とりあえず、花でも贈っておけ」
「いや、話をした方がいいだろう。また昼食に誘えばいいじゃないか」
「街でデートしてこいよ」
男性陣はやんややんやと朴念仁の友をからかいつつ助言をくれるが、それにエリザベートが待ったを掛けた。
「贈り物やデートなどより、スカーレット嬢を気にかけてさしあげてください」
気にかけているからこんなに悩んでいるのだが、と心の中で反論すると、エリザベートが氷のような瞳を向けてきた。
「スカーレット嬢は現在、様々な家から茶会に誘われて困っていらっしゃるようです」
「え?」
当然でしょう。と、エリザベートは肩をすくめた。
「噂の当事者であり、公爵家と婚約した令嬢とお近づきになりたい家はいくらでもありますわ。しかし、スカーレット嬢は男爵家の令嬢です。突然高位貴族の茶会に招かれるようになって戸惑っているはずです。きちんとスカーレット嬢とお話する時間を設けて、困っていることがあれば助けてさしあげて」
エリザベートの言うことは最もだ。何故それに気づかなかったのかと、エリオットは思わず腰を上げた。
「明日の昼食の約束をしてくる!」
そう言って駆け出してく朴念仁を、他の面々はやれやれといった表情で見送ったのだった。
31
あなたにおすすめの小説
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。
婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。
しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。
――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)
ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。
しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部)
全33話+番外編です
小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。
拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。
https://www.pixiv.net/users/30628019
https://skima.jp/profile?id=90999
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる