伝説のスーツアクター・ジョーは今日も指名される

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何事も程々に

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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 U動物園での3カ月の業務を終えた俺は、金と自由を手に入れた。今思い返しても、あの3カ月間は今までのスーツアクター人生で一番辛かった。

 さて、俺が去った後、小小は後任のスーツアクターに引き継がれた。後任のスーツアクターもよくやっていたと思う。ただ、詰めが甘かった。
 いや、プロ意識が足りなかったというべきか……

 パンダ管理室で使っていたデリヘルを都市伝説ハンターの馬喰太郎に調べられて、小小の死亡隠蔽がバレた。

 小小の死亡隠蔽がバレた原因は、後任のスーツアクターが頻繁にデリヘルをチェンジしたことだった。何事も程々にしないといけない。
 T都の担当者がデリヘルを依頼していたのはT都内の最高級店だったのだが、後任のスーツアクターがそこのナンバーワンの女の子をチェンジしたことで怒りを買ったらしい。

 そのナンバーワンの女の子の復讐心を利用したのが馬喰太郎だ。馬喰太郎は敵ながら天晴れな奴だと俺は思う。
 U動物園にデリヘルの車が毎週日曜日の閉園後に来ているのを知り、馬喰太郎はそのデリヘルを派遣しているT都内の高級店に通い詰めた。何カ月もの間、1日に2回通って女の子と仲良くなり、店の女の子から信頼を得ていった。
 そして、最終的に後任のスーツアクターに復讐したい〇〇ちゃんに取引を持ち掛けたようだ。

 金と体力をすり減らしながらも、パンダの謎を解明するプロ意識は賞賛に値する。
 俺もプロ意識を持ってスーツアクターとして活動しているが、馬喰太郎のプロ意識は俺以上かもしれない。

***

 俺は後任のスーツアクターがやらかした失敗を聞いた時、ある撮影現場での監督の話を思い出した。あれは、今から10年前のことだ。

 俺はその監督が撮影する戦隊ヒーローものにスーツアクターとして出演していた。その人は妥協を許さない監督として有名で、俺も駆け出しのころ何度も撮り直しさせられたものだ。
 その撮影で、俺の演技は悪くない出来だったと思う。ただ、俺はその監督は撮り直しを言ってくるだろうと思っていた。監督は常に最高のクオリティを求めていたからだ。
 久しぶりに会った監督は以前のような無茶苦茶な要望は出してこなかった。その撮影では、俺は一度も撮り直ししなかった。監督はまるで人が変わったようだ、と俺は思った。
 だから、俺は監督に理由を聞いた。

「てっきり撮り直しだと思ってたんですけど、どうしたんですか?」
「いい演技だったと思う。そして、ジョーはあれ以上の演技ができるのも分かっている」
「じゃあ、どうして?」
「ジョーの演技は合格点だった。撮り直ししたら、もっといい演技になると思う。でも、その違いが分かる人間がどれだけいるか……」

 以前の監督はそんなことを言わなかった。

「監督、何かあったんですか?」
「そう? 年取っただけじゃない?」
「いえ……そういう感じじゃなく。程々を知っている、といいますか……」

 監督は少し考えてから俺に言った。

「ああ、そういうことか。ジョーには『大人の修学旅行』の話をしたことあったっけ?」
「『大人の修学旅行』の話は聞いたことあります。確か……世界中の風俗に行くやつですよね?」
「そうそう。去年、久しぶりに〇〇に行ったんだ。カジノに大勝ちしてね、「超高級店に行こう!」ってなったんだ」
「へー、それは豪勢ですね!」

「まぁね、これには続きがあってね……」
「何かあったんですか?」
「その店で出てきた女の子がちょっと好みじゃなかったんだ」
「チェンジしたんですか?」
「うん。そしたら、どうなったと思う?」
「また外れた!」
「不正解! レベルが明らかに上がったんだ。そうすると、もう一回チェンジしてみたくならない?」
「なりますねー! 僕だったらチェンジします!」
「そう思うだろ。だから、チェンジした。そしたら、どうなったと思う?」
「うーん。同じレベルの女の子が出てきた!」

 俺の回答を想定していたのか、監督は楽しそうに答えた。

「ブブー、不正解! 上のフロアに案内された」
「VIPフロアですか?」
「そう、店のスタッフには「ちょっと値段が上がるけどいいか?」って聞かれたけど」
「それでVIPフロアはどうでした?」
「女の子のレベルが一気に跳ね上がった!」
「マジですか?」
「そうしたらさー、もう一回チェンジしてみるよね?」
「しますね! 次はどんな子が出てきたんですか?」
「期待するよね?」
「はい、期待します!」

 俺は他人事なのに、次はどんな子が出てくるのか、とワクワクしていた。

「でもね、残念なことが起こった。女の子のレベルがちょっと下がったんだ……」
「えぇぇ? チェンジしたのに?」
「そうなんだよ。だから、俺は店の黒服に言った。「やっぱり、さっきの子を呼んでくれ!」ってね」
「そうなりますよね……。それで、前の子は来てくれたんですか?」
「いや、別の客のところに行ってるって……」

 監督はしみじみと言った。

「俺さ、そのとき悟ったんだ。何事も程々に……なんてな」
「深いっすねー!」

 監督との会話は下ネタだったが、本当に言いたかったことはこういうことだと理解している。
 世の中には一流と言われる人たちがいる。ここでは説明のため一流と言われるスーツアクターのAとBがいるとしよう。
 AとBは日々研鑽し努力している。AとBの技術の差は僅かなものだ。もし、AとBに違いがあると言うのであれば、それはAとBの技術的な部分ではなく、監督の個人的な好みの差だ。
 だから、監督は個人的な趣味嗜好は排除して、AもBも一流として認めるようになったのだと思う。

 俺はU動物園にやってきたデリヘルをチェンジしなかった。これが、一流と言われる女の子への俺のリスペクトだ。

 そして、一流へのリスペクトが伝説のスーツアクターたる者の振舞いだ、と俺は信じている。


***


 俺は次の仕事のために空港にいる。

 依頼主はスコットランドの地方政府。そして、俺の役はネッシー。

 ネッシーは、イギリス、スコットランドのネス湖で目撃されている未確認動物「ネス湖の怪獣」の通称だ。
 20世紀最大のミステリーと言われたネッシーを見るために、ネス湖にはたくさんの観光客が訪れていた。しかし、近年、ネッシーが出現しなくなったことで観光客が激減したらしい。
 俺の仕事はネッシーとしてネス湖に出現し、観光客を呼び戻すこと。

 さて、そろそろ飛行機の時間だ。

 俺はこれからも演じ続ける。伝説のスーツアクターとして……

<おわり>
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