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第二章「戦い続ける男」
第五十六話「志願者たち」
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「誰かと思ったが、おっさんたちだったのか……」
「俺で悪いな。どうした、こんな所に?」
訓練も終り、そろそろ帰ろうと思っていた時刻、ベルナールたちにお馴染みさんが接触する。
「ステイニー。こんな所で会うなんて初めてよね!」
「ホント! いつも街だしね。今日は何してたの?」
セシールは知り合いの魔法使いと挨拶を交わす。答えるのは目の前の冒険者、デフロットだった。
「適当に森を流してただけさ。おっさんも似たようなモンか……」
「まあな」
デフロットたちのパーティーも、ダンジョンの混雑を避けて森に入っていたようだ。帰りがけこちらの気配を察知してやって来たのだ。
自然とセシールたち二人が先頭になり、一行は帰還の途につく。後ろには弟子とデフロットの仲間たちが続いた。
ベルナール、デフロットの二人は後方警戒をしつつ最後尾を二人で歩く。
「探索のクエスト、やってるんだよな?」
「ああ……」
デフロットなりに幽鬼の事件を気にしているようだ。
「誰と組んでいるんだ?」
「単独行動だ」
「嘘つけ! 若い女と一緒だったって、見たヤツが言ってたぜ」
「見間違いだろ?」
空を飛んでいる時、誰かがベルナールとセシリアを目撃したのだろう。
セシリアは水色の髪をアップにして、ケープのフードを被っていたので人相までは分からなかったようだ。
「王都から来た冒険者か? ギルドマスターもそうだが、年寄りは隠し事が多くて気に入らねえ……」
「ふふっ……」
デフロットはその若い相手にこだわっているようだ。
「ベテランの事情さ」
その相手が、もう若くはないと説明する必要もない――。
「ふんっ!」
――王都からの援軍が来れば交代するだけだ。
「俺たちに探査の声は掛からないな……」
デフロットは少し悔しそうな表情を作る。
「ヤツらはなりを潜めている。動きがなければ探査も出来んさ」
「俺も立候補してるんだけどなあ――」
ベルナールなりに予想すると、王都からそれなりの人員が来れば探査のクエストが発動されるだろう。そしてこの街の冒険者たちは囮の役割になる。
王都の人間の為に手足となって働くのだ。デフロットならば文句の一つも言うであろう。
「ベルさんっ! 今日は飲みに行きましょう!」
「いつも行ってるだろう」
何か話がまとまったのか、セシールが後ろを振り向いて叫んだ。意味は分かるがベルナールはちょっととぼける。
「別の店のことよ」
「俺のようなロートルが行っても良いのかな?」
ベルナールは隣をチラリと見て肩をすくめて見せた。
「ゴーストの件はマスターも気にしている。別にいいだろ?」
「そうか――」
会うのは久しぶりだとベルナールは顔を思い返した。マスターとはエレネストのことだ。
◆
ギルドで精算を済ませてアレット、ロシェルと分かれる。子供を酒場には連れて行けないし、夜道を二人で返す訳にはいかない。
総勢六人の一行は賑わっている店の扉を開ける。最後尾のベルナールが入ると店の中はザワついた。
やはり若者の店に、自分は場違いであったかとベルナールは少し後悔する。気が付いたバスティが隣のアレクと顔を見合わせるのが見えた。
そしてベルナールは、店主の顔を見咎めてカウンターへと足を向ける。
「久しぶりだな。店、繁盛しているじゃないか」
理由はエレネストの人徳だとベルナールは知っている。昔から面倒見の良い冒険者であった。
若いサブリーダーにパーティーを譲って引退、そしてこの店を開いた。十年前のことだ。当時はベルナールも時々は顔を出していた。
「おかげさまで――。ご活躍のようですね」
「開店以来、来ていないのに、おかげさまもないだろうさ。ギーザーの親父さんの所に行ってるよ」
ベルナールはカウンター席に腰を下ろす。エレネストは素早く冷えたビールジョッキを差し出した。
「ここでは客層が合いませんしね。よろしく言っといて下さい」
エレネストとて現役時代はギーザーに顔を出していた。
「ああ、ご活躍の方は過去の亡霊みたいなのを相手にするなら、ロートルの俺ってことだな」
「実際どうなんですか?」
元冒険者で、街で商売をやっていれば心配にもなるだろう。一般人も殺すのがゴーストの伝説だ。
「相手は三体だ。街に来る様子はないな。牽制しつつ気配を探っている段階さ」
「いざとなれば俺も剣を取りますよ」
「いや、家族持ちに出番はないぞ。お前のカミさんや子供に、累が及ぶようなことにはならんさ」
年上のベルナールがまだ戦っているので、昔を思い出したのか前のめりになっているエレネストを諭す。
「王都からの応援も来るしな」
「そうですか」
エレネストの表情が少し明るくなった。かつてベルナールが現役の時代に比べれば、この街の戦力は落ちている。
それにゴーストの出現は久しぶりだ。あの時のように、この街にもう勇者はいないのだ。
「ベルさん。こっちで飲みましょうよ」
「ああ」
この店は冒険者パーティーに合せて、五人掛けの丸テーブルがセッティングされていた。デフロットのパーティーは四人で、そこにセシールが加わっている。
隣のテーブルは席が一つ空いていた。
「こっちに座って下さいよ」
バスティが立ち上がり声を上げ、仲間の少女たちは微笑んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えるかな」
こんな夜もたまには悪くはないと、ベルナールは若者たちの輪に加わった。
「俺で悪いな。どうした、こんな所に?」
訓練も終り、そろそろ帰ろうと思っていた時刻、ベルナールたちにお馴染みさんが接触する。
「ステイニー。こんな所で会うなんて初めてよね!」
「ホント! いつも街だしね。今日は何してたの?」
セシールは知り合いの魔法使いと挨拶を交わす。答えるのは目の前の冒険者、デフロットだった。
「適当に森を流してただけさ。おっさんも似たようなモンか……」
「まあな」
デフロットたちのパーティーも、ダンジョンの混雑を避けて森に入っていたようだ。帰りがけこちらの気配を察知してやって来たのだ。
自然とセシールたち二人が先頭になり、一行は帰還の途につく。後ろには弟子とデフロットの仲間たちが続いた。
ベルナール、デフロットの二人は後方警戒をしつつ最後尾を二人で歩く。
「探索のクエスト、やってるんだよな?」
「ああ……」
デフロットなりに幽鬼の事件を気にしているようだ。
「誰と組んでいるんだ?」
「単独行動だ」
「嘘つけ! 若い女と一緒だったって、見たヤツが言ってたぜ」
「見間違いだろ?」
空を飛んでいる時、誰かがベルナールとセシリアを目撃したのだろう。
セシリアは水色の髪をアップにして、ケープのフードを被っていたので人相までは分からなかったようだ。
「王都から来た冒険者か? ギルドマスターもそうだが、年寄りは隠し事が多くて気に入らねえ……」
「ふふっ……」
デフロットはその若い相手にこだわっているようだ。
「ベテランの事情さ」
その相手が、もう若くはないと説明する必要もない――。
「ふんっ!」
――王都からの援軍が来れば交代するだけだ。
「俺たちに探査の声は掛からないな……」
デフロットは少し悔しそうな表情を作る。
「ヤツらはなりを潜めている。動きがなければ探査も出来んさ」
「俺も立候補してるんだけどなあ――」
ベルナールなりに予想すると、王都からそれなりの人員が来れば探査のクエストが発動されるだろう。そしてこの街の冒険者たちは囮の役割になる。
王都の人間の為に手足となって働くのだ。デフロットならば文句の一つも言うであろう。
「ベルさんっ! 今日は飲みに行きましょう!」
「いつも行ってるだろう」
何か話がまとまったのか、セシールが後ろを振り向いて叫んだ。意味は分かるがベルナールはちょっととぼける。
「別の店のことよ」
「俺のようなロートルが行っても良いのかな?」
ベルナールは隣をチラリと見て肩をすくめて見せた。
「ゴーストの件はマスターも気にしている。別にいいだろ?」
「そうか――」
会うのは久しぶりだとベルナールは顔を思い返した。マスターとはエレネストのことだ。
◆
ギルドで精算を済ませてアレット、ロシェルと分かれる。子供を酒場には連れて行けないし、夜道を二人で返す訳にはいかない。
総勢六人の一行は賑わっている店の扉を開ける。最後尾のベルナールが入ると店の中はザワついた。
やはり若者の店に、自分は場違いであったかとベルナールは少し後悔する。気が付いたバスティが隣のアレクと顔を見合わせるのが見えた。
そしてベルナールは、店主の顔を見咎めてカウンターへと足を向ける。
「久しぶりだな。店、繁盛しているじゃないか」
理由はエレネストの人徳だとベルナールは知っている。昔から面倒見の良い冒険者であった。
若いサブリーダーにパーティーを譲って引退、そしてこの店を開いた。十年前のことだ。当時はベルナールも時々は顔を出していた。
「おかげさまで――。ご活躍のようですね」
「開店以来、来ていないのに、おかげさまもないだろうさ。ギーザーの親父さんの所に行ってるよ」
ベルナールはカウンター席に腰を下ろす。エレネストは素早く冷えたビールジョッキを差し出した。
「ここでは客層が合いませんしね。よろしく言っといて下さい」
エレネストとて現役時代はギーザーに顔を出していた。
「ああ、ご活躍の方は過去の亡霊みたいなのを相手にするなら、ロートルの俺ってことだな」
「実際どうなんですか?」
元冒険者で、街で商売をやっていれば心配にもなるだろう。一般人も殺すのがゴーストの伝説だ。
「相手は三体だ。街に来る様子はないな。牽制しつつ気配を探っている段階さ」
「いざとなれば俺も剣を取りますよ」
「いや、家族持ちに出番はないぞ。お前のカミさんや子供に、累が及ぶようなことにはならんさ」
年上のベルナールがまだ戦っているので、昔を思い出したのか前のめりになっているエレネストを諭す。
「王都からの応援も来るしな」
「そうですか」
エレネストの表情が少し明るくなった。かつてベルナールが現役の時代に比べれば、この街の戦力は落ちている。
それにゴーストの出現は久しぶりだ。あの時のように、この街にもう勇者はいないのだ。
「ベルさん。こっちで飲みましょうよ」
「ああ」
この店は冒険者パーティーに合せて、五人掛けの丸テーブルがセッティングされていた。デフロットのパーティーは四人で、そこにセシールが加わっている。
隣のテーブルは席が一つ空いていた。
「こっちに座って下さいよ」
バスティが立ち上がり声を上げ、仲間の少女たちは微笑んだ。
「じゃあ、お言葉に甘えるかな」
こんな夜もたまには悪くはないと、ベルナールは若者たちの輪に加わった。
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