『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
89 / 116
第三章「街を守る男」

第八十九話「領主の立ち位置」

しおりを挟む
 フィデールたちは周囲を警戒しつつ、森の間道を問題の場所へと進んでいた。前方から猛烈な勢いで数頭の騎馬隊が迫ってくる。

「ちっ!」
「フィデール様……」

 苦々しい舌打ちを察して剣闘士グラディエーターのブノワがとりなすように促した。貴族のプライドが兵士と畜生に道を譲るという普通・・の行為を許せないでいるのだ。

「分かっている!」

 フィデールは忌々いまいましいとばかりにそう吐き捨てる。戦いの最中、頭に血が上っている騎兵と騎馬に喧嘩は売れない。

 そして四人のパーティーは脇に寄って道を空けた。その狂ったような走りは事態の切迫を想像させるには十分だ。

「マリーズ。周囲の状況はどこまで見えるか?」
「はっ、はいっ! 冒険者は森の中でほとんどが戦闘中のようです。あの騎馬は途中で分岐し別の道から前線に進むかと……。同じように機動している騎兵が多数おります」
「そうか……」

 魔法使いウィザードのマリーズは特に探査に秀で、このパーティーの目のような存在だ。

「それと、空飛ぶ魔物が上空を接近中です」
「分かった……」

 フィデールは背から矢を抜いて弓にセットする。そして木々のあいだに見える小さな空に向かって引き絞った。

「捉えました。そろそろですね――、どうぞ」

 魔導士ソーサラーのセレストはいつもフィデールの攻撃を魔法で助ける存在だ。

「今です」

 合図と共に矢を放たれた矢は途中で軌道が変化し、木の陰に隠れる。

「命中しました」

 攻撃は誘導され視界が妨げられた見えない魔物を仕留めた。

「この先には魔物が多数おりますが、森の中での接近戦は……」

 剣闘士グラディエーターのブノワはこのパーティーで近距離での攻撃、防衛を担当する存在だ。それ故に不安げにフィデールの次の言葉を促した。

「心配するな。状況は分かった。そろそろ引き上げるぞ」
「はっ!」
「偵察ならばこれで十分だ……」

 あの土煙は魔境大解放ダンジョン・クライシスであり、間違いなく多量の魔物が地上に湧き出していた。この森での慌ただしい動きがそれを裏付けている。

 意外なのは前線へと飛んでいった騎士らしき者どもと、森を動き廻って魔物を追い立てる騎馬群の存在だ。この危機を前もって予測していたとしか思えない手際の良さだった。

   ◆

 フィデールたちはブランシャール家の屋敷へと帰還した。周辺では複数の冒険者たちが警戒態勢をとっている。

 離れの建物にあるパーティーが打ち合わせなどに使用している部屋に入ると、テーブルの上には街と領地が描かれた地図が広げられ、主要メンバーとなった四人がそれを取り囲む。

 今やフィデールのパーティーは、その総数が五十以上にまで増えていた。

 マリーズが赤く塗られている小石を荒野と森の中にいくつも置く。続いて配置する白い小石は人間側を表わし、ギルドの冒険者と謎の戦力を表している。一つ石が五程度の個体数と決められていた。

「状況を聞かせてくれるか?」
「はい」

 そしてフィデールの問いに返答しつつ、続けて大きめの石を一つ荒野の部分に置く。現在街と領地を襲っている危機が可視化された。

「探索によれば新開口らしき場所はこの位置です。冒険者たちは北東の森に分散して戦っています。警戒線はこのラインですね……」

 マリーズは街の近くにずらりと並べた白い小石を指差す。森の小石は無秩序に分散している。

 そしてブランシャール領に点在する白石は五十人ほどになった傘下の冒険者たちだ。

「これは?」

 街のすぐ近くにもいくつもの小石が並べられていた。

「先ほど街の様子を見てきた者から聞きました。警戒の為、街に留まって城壁に展開しつつある冒険者たちです」
「ギスランのパーティーか……」

 ブノワの説明にフィデールは唇の端をつり上げる。目的は違えどギルド二大勢力は、今は同じ方向へと進んでいた。


 突然の扉がノックされて屋敷の老執事が入って来る。この屋敷に残るお目付役のような存在、フィデールにとっては目障りな存在であった。

「失礼いたします。お坊ちゃま――」
「どうした?」
「――御館様からレターが届きました。近々帰領きりょうするとのお話です」
「なんだと?」

 ダンジョンクライシスは今日起こったのだ。いくらなんでも――、と思ってからフィデールはゴーストの件だと思い出した。この地に帰る理由としては十分だ。

「こちらを……」

 フィデールは差し出された文を受け取ってざっと内容を確認する。

「分かった……」
「では……」

 執事はうやうやしく一礼をして退出した。


 父親があと何日で自分の前に現われるかは分からないが、その時を想像してフィデールはウンザリする。今の行動に対して領主の父が、どうのこうのと言うのは目に見えていた。

 説得する自信などないが、なあに――、そう思ってからある考えが頭をよぎり自然にフィデールの頬は緩んだ。

 この際だ。父親を我の配下で取り囲み、屋敷を五十人の冒険者で包囲して威嚇すればどのような顔をするのだろうか? そう妄想すると高笑いしたくなったが、フィデールは気持ちを落ち着かせる。

 どうせ国の為、街の為だの説教するのだろう。なぜブランシャールを慕う領民を第一に考えてはいけないのか理解できない。

 どいつもこいつも王都に行きそのように考えを変え骨抜きになる腰抜けばかりだと、フィデールは遠く離れた王都を呪っていたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...