人工授精と女たち

紫夜(シヨ)

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葉月 ―はづき―

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『いいなぁ。葉月ちゃんのお家』
 比較的裕福な家庭の一人っ子で育ったら私は、小さいころからどちらかと言えば優遇されていて、友達からもうらやまれることが多かった。
 たぶん、母と父との間で、自然妊娠で授かったこともあるのだろう。
 私も小さいながらに差があることと、自分のほうが優位に立っていることを感じ取っていて、お姫様のような気分だった。

 ――それが、壊れたのは。十六歳の時だった。

 もともと初潮のはじまりが遅かった私は、十六歳で受ける母体チェックで引っかかってしまった。精密検査を受けた後母と一緒に医者から言われたのは――
「子どもは望めません」
 泣き叫ぶ母をなだめるように、丁寧な説明を続ける医師の言葉は、私には入ってこなかった。

***

「―――」
 子どもは産めないのに、生理だけは規則正しくやってくる。どんな皮肉だろうか?
「調子悪そうだけど、どうしたの?」
 職場のトイレで悲壮な顔をしていたからか、先輩が声をかけてきた。
「ちょっと生理痛がひどくて」
「え? 子どもが産めないのに生理くるの?」
「……直接的な原因は子宮以外にあって、産めないんです。だったらって、子宮全摘出も検討したんですけど、当時未成年で。母の反対にあったのと、ホルモンがどうとかであまり積極的に受けようとは思えなくて……今からでも遅くないかな」
「いやいやいや、重いって」
「先輩はお子さん二人でしたっけ?」
「うん。旦那がどうしても自分の子も欲しいって言うから」
「よくある話ですね」
「……昔、人工授精制度が導入されてすぐは、子どもを産みたくない女性たちが子宮全摘出してもらおうと闇医者に殺到したらしいよ」
「産みたくなかった訳じゃないですけど。確かに学校の友達の反応はいろいろでしたね」
「どんな?」
「羨ましがられたりとか、哀れまりたりとか」
「正直に言っちゃうと、私、橘さんが不生女だって聞いてちょっといいなぁ、とは思った。だって、人工授精は免除されるでしょ?」
「その代わり、妊娠・出産関係で貰える手当は一円も入ってこないので、会社に勤めて、働いて社会に貢献するしかありませんけどね。まさか、自分が子どもが産めない体だなんて、思いもしなくて」

 産むとか、産まないとか。作るとか、作らないとか。もっと自由で、自分で決められるものだったら、よかったのにぁ。現実は違うのかな。
 それが自由な時代に少子化が進んだ結果が、今なのかもしれないけど。

「――なんか、ごめん」
「謝られると腹が立ちます」
「うわぁ」
「嘘です。新しくできたカフェのキャラメルラテ・クリームましましのチョコレートソース&ナッツトッピングに、本日のケーキが食べたいです」
「仕事でもそうだけど、結構したたかよね」
「甘え上手と呼んでください」
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