人工授精と女たち

紫夜(シヨ)

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結子 ―ゆいこ―

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「おっはよー結子。行ったんだって、DNAチェック」
「おは……話早いわ」
「そりゃぁ。娯楽と言えば、セックス、出刃亀、他人の不幸は蜜の味」
「それ、愛莉だけよ」
「結婚の前に、お互いのDNAチェック。人工授精法による腹違いの兄妹、姉弟で結婚を防ぐための義務。婚姻届けを出す時にはお互いが潔白であるかを示す……あー萌えるわ~」
 最近、「結婚相手が実は二人の母親が偶然同じ精子で妊娠した腹違いの兄妹で愛し合う」みたいなライトノベルが流行っている。ちなみに、正式に結婚と言う制度は使えない。だけどそのまま禁断の道に進む。――まぁぶっちゃけ妊娠した相手が人工授精であろうが、兄妹であろうが、希望して調べない限りわからないし。
「「妹=嫁」ジャンルは昔から鉄板じゃないの?」
「でも、兄妹として育った訳じゃないのよ! この広い日本で偶然出会い引かれ、体を重ねた相手が実は異母兄妹!! あー萌えるわー。あ、結果報告ヨロ」
「殴っていい?」
「小突いてから言わないで」
 もう、と笑って、席に着く私。さらりと、顔にかかる髪を払う。
「でもほんと、結子は変わったよねー」
「そう?」
「誠司さんと出会ってからもう……艶が増したって言うかー……男がほっとかないわよねぇ。売約済みだけど。ねぇねぇ、昨日何回したの?」
「……ほんと、止めて」
「あ、首筋にキスマーク」
「っ!?」
「うっそぴょー」
 慌てて首に手を当てた私を指さして笑う愛莉。かまかけたわね。
「やっぱ、やったの。誠司さんのマンションで? 窓に押し付けられて?」
「ほんと、想像力たくましいよね処女のくせに」
「受胎告知、処女受胎。聖女マリア」
「人工授精でしょ」
「結子は十七だけど、親の許可があれば結婚できるものね。誠司さんは二十六でしょ? 女子高校生に手を出すとかもーいいわぁ」
「前は十八禁だったのよ」
「今じゃ十五禁よね。親の許可があれば結婚もできるようになったしね」
「ハードル下がるときって、あっという間ね」
「それだけ少子化が深刻だったんじゃない?」
「でも二十歳前で産むとかまだ若すぎるとか、今でも言ってくるもの」
「十五歳同士で結婚とか、完全に親同士が決めた政略結婚だろ、とかもね」
 同じくラノベで、少子化対策で政府が勝手に結婚相手決めて、結婚させられるなんてジャンルも、一昔前に流行ったらしい。今でもあるけど。
「ねぇねぇ」
「もう先生来たから、お願い。――黙って」
 まだ話したりなそうな愛莉に、手をふって断りを入れる。
 ベッドで意識を失うことを許さないと言うように責め立て、愛を囁きながら、「もう家庭に入っていいんだよ? できたら、ここから出ないで欲しいな。一生、閉じ込めておこうか?」とか監禁? って言うかもう監禁レベル? みたいなことを平気で言ってくる男を説得して学生が続けられるのだから。せめてきちんと、卒業したい。

***

「おかえり、結子」
「た、だいま。今日は早かったのね?」
 いつもなら、いるはずのない帰宅時間に、満面の笑みで出迎えてくれた人にびっくりして言葉を返す。
「もちろん。今日は俺と結子の記念日になる日だから」
「結果、来たんだ」
「一緒に開けよう?」
「う、え、誠司さんが開けて……?」
「そうだね。結子の手に傷がついても大変だし」
 封筒を開けるだけで傷はつかない……でも黙っておこう。
「着替えておいで、待ってるから」
「はい」
 手を洗って部屋着に着替え、リビングのソファでくつろぐ誠司さんのもとに向かう。隣に腰かけようとして、いつものように、――当然のように膝の上に抱き上げられた。
「あの、誠司さん?」
 すでに高ぶった彼のふくらみが、私の下半身に触れる。
「なんだい?」
 彼は涼しい顔だ。私は真っ赤だ。
「別にここが定位置って、」
「俺の膝は結子のものだよ?」
「訳じゃ……うん……」
 それは、いいんだけど……
「さ、開けようか? ――婚姻届け、結子のお父さんとお母さんのサインも貰ってあるよ」
「いつの間に……」
「あとは結子のサインだけだね」
「うん……」
 もう、いいんだけど……
 思うところはいっぱいあったけど、なんだかんだほだされている私は、もう、彼の言葉に突っ込みを入れるのも疲れてしまった。そんな彼が笑顔で開いた、その手紙。
 宙に浮かぶように表示された、結果は――

『血縁関係:有り』

 時が止まったかと思った。息を飲んだまま、動けない。目が離せない。ようやく活動をはじめた頭が、文面を最初から読み直す。
 ――誰か、違う人の結果よ。
 名前は、私と、誠司さんで間違いなかった。
 ――結果の、書き間違いよ。
 ご丁寧に記載されている説明は、すべて当てはまっていた。
 え。――え? どう言う、こと?
 焦って顔を上げると――
「っ!?」
 息を飲むほど整った顔が、見たこともない顔をしていた。怒り、絶望、疑心、笑い。どんな感情を混ぜ込んだら、彼に、こんな、顔を――
「――!?」
 激しい音を立てて、彼は、手紙を殴り捨てた。彼の周囲は怒りに染まっていて、私は恐怖に身をすくめた。
「――ああ。ごめんね」
 ふと、恐怖に身を固くした私に気が付いたと言うように、誠司さんがこめかみに口づける。その優しいしぐさが、いっそ、恐ろしい。
「行こうか、結子」
「ど、どこ、に……?」
 きれいに笑った彼を、はじめて――心の底から、怖いと思った。

***

「――ぁ……んぅ……――」
「……結子。結子」
 どのくらい時間が経ったのかわからない薄暗い闇の中で、彼が私を呼ぶ声だけが鮮明に聞こえる。
 愛されつくした体はもう自分の意志で動かすこともおっくうで、されるがままになっていた。呼び声に答えるように薄目を開け、また気絶していたことを知る。――何度目か、わからない。もう、今がいつなのかもわからない。
 漏れる喘ぎ声も、枯れ果て、意味をなさない。

 一個だけ言えるのは、私は、あの日以来、この部屋から出ていない。

 水は彼から口移しで与えられ、食事も同じ。排泄は隣接したトイレと――お風呂で強制的にされたり。
 彼に後ろから貫かれ、片足を高く持ち上げられた姿をお風呂場の姿見にさらしたまま、失禁した時の姿は刺激的すぎて忘れられない。
 窓のない部屋、妖艶に暗闇を照らすぼんやりとした光。外から鍵をかけられてしまえば、テレビもないこの場所は、外界から隔離されている。足かせは部屋の中は自由に動き回れるが、この部屋からは出られない。
「結子、こんなにおいしそうに加えて」
 おそらく頭のどこかがキレてしまたのだろう。彼は上ずったようにどこか、心ここにあらずだ。
 何度か私の中で達した後、零れ落ちるのを許さないと言うように自身で蓋をしたまま、円を描くように腰をくゆらし、時折戯れに浅瀬のいいところを気が狂うまで虐められる。
 深い絶頂は、彼から逃れられないことを物語っていた。
「――っぁ!」
「真珠もこんなに大きくして、前は慎ましやかに隠れていたのに。もう顔が隠れないよ?」
 彼が真珠だと言うそこはいっそ禍々しいほど赤く、濡れて、彼を誘うのだろう。本来隠す役割を果たす皮を指で伸ばし、わざわざひっかけては剥く。
「ほら――ほら……ほら」
「――ぁっ――ひゅ! ……ぅあ!!」
 彼の指の指揮ひとつで、私の体は跳ね。甘く、溶け切った言葉を漏らす。
「ああ、――結子。俺を受け入れて?」
 私の腕を自分の首にひっかけるようにして、彼が私の体を抱き起す。――自分の体重がかかる分深く深く彼のものを迎え入れるその姿勢は、はしたなくも気持ちがよくて――
「ああああぅっ!!!」
 ずずずと深く剛直を飲み込む音まで聞こえてきた。
「結子の子宮も、俺のザーメン欲しがってる?」
「――ほし、いの」
「いい子だ」
 優しく髪にキスをしてくれる、いつも通りが怖いくらいだ。
「誠司、さん……」
「こんなに奥に入れてしまったら、妊娠してしまうかもしれないね」

 ――彼は、本気だった。

 幸いにして、要請すれば産婦人科医は自宅に来てくれるし。希望すれば助産師による自宅出産も可能だ。――本当に、少子化対策様さまだ。
「――結子」
 彼が、――誠司さんが私を、呼ぶ。
 私は答えるように、とろけるような笑みで、答えた。

「――もっと、きて。お兄様」
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