余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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稲作は難しい

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 学園内の旧温室。ここはシンが借りており、我が城のごとく、好きに植物を栽培している。大体は普通の野菜だが、たまに液肥代わりのポーションの影響で奇妙な進化を遂げてしまうことがある。
 以前、白マンドレイクの栽培に成功した――というより、土壌が合っていたのか異様に繁殖してしまったことがある。白マンドレイクは高級な魔法植物で稀少価値が高い。
 マンドレイク事件をきっかけに、一部の教員から目をかけられている。だから多少のことでは追い出されることはないだろう。
 雑草を抜きながら、シンの心は暗澹としていた。
 試験の結果が良くてもその心は晴れない。梅雨の空のようにどんよりとしている。
 隣にいる金髪ショートボブの美少女が、そんなシンを気がかりそうに見ていた。彼女はレニ・ハチワレ。シンの護衛である聖騎士であり、友人だ。
 彼女はシンのことを心配していたが、理由ははっきりしていても打つ手なしのドン詰まりなのも知っていた。
 それとなくドーベルマン伯爵夫人のミリアに相談してみたが、彼女の情報をもってしてもシンの欲しがる米は見つからない。
 今から品種改良するにしたって、かなり時間と労力が必要となるだろう。シンが借りているのは学園の施設だし、タニキ村で稲作をするのは難しい。シンは長期休暇はタニキ村に戻るが、一年の大半は学園にいる。
 米作りは時間がかかる。土作りを抜きにしても、春先から秋までかかる。シンの本分は学業なので、農作業に専念するのは難しい。

(ポーション栽培で……いや、そもそもド素人が品種改良とか無理だろう)

 籾の時点で食味を見破るなんてできない。幼女主神から受け取ったスマホだって、そこまで鑑定できるほど万能ではなかった。
 温室でもシンがどんよりしていると、黒いジャケットと白いズボンの乗馬服姿の少女が入ってきた。
 彼女は長いストレートロングの青い髪をなびかせ、颯爽とやってくる。青い目を溌剌と輝かせ、ずんずんとシンに近づいていく。
 この少女はエリシア。シンと同じ学年だが、マルチーズ辺境伯令嬢なので貴族科に通っている。現在は乗馬に熱中しており、きっかけとなったシンの愛馬のピコに夢中だ。

「あら、どうしたのかしら? 随分元気がないじゃない」

「美味しいお米が食べたいのに、僕の好みの米がない」

 珍しく萎れているシンに、エリシアは怪訝な顔をする。

「……米って飼料よね? あれ、一部では食べられているけど美味しいの?」

「美味しいよ。でも、学食で出ているのとは違うんだよな」

「米なんてべちゃっとなるし美味しくないじゃない。うちみたいな湿地で育つのはありがたいけれど」

 エリシアはシンの言葉を聞きつつも、半信半疑だ。彼女もまた、ティンパインの一般的な考えを持っているのだろう。
 米=飼料なのだ。美味しくない認定をしている。
 ちなみに小麦は湿地には向かない植物である。逆に米は水がたっぷりないと栽培が難しい。

「エリシアの実家、米を作っているの?」

「飼料としてね。うちはあまり小麦が作れないから……そうそう。それで相談があったのよ。うちで作っている飼料をピコやグラスゴーにあげていいかしら?」

 エリシアはそう言って、麻袋を掲げる。その中に入っているようだ。

「そりゃ構わないけど」

 シンの愛馬たちはデュラハンギャロップのグラスゴーと、ジュエルホーンのピコ。二頭とも魔馬なので、普通の馬と違って魔力を持っているし強靭な肉体をしている。
 馬は草食だが、グラスゴーとピコは草食よりの雑食。そんでもって、胃腸も丈夫で割と何でも食べる。特に好きなのは、魔力を含んだもの。シンの作るポーションや、魔石なんかも喜んで食べる。
 すでに飼料米は届いているのか、さっそく与えに行こうとするエリシア。
 ふと、シンは興味を覚える。エリシアのところで作っている飼料米はどんな感じなんだろうか。
 このタイミングでエリシアに袋の中身を見せて欲しいと言ったら、ドン引きされる気がする。どうにか、普通の流れで見られないだろうかとシンは考えた。
 
「僕も見に行っていい?」

「いいわよ。貴方の馬じゃない」

 なぜ聞くのかと、怪訝な顔をするエリシア。
 シンは愛馬たちより、飼料米に興味があるからなのだが、曖昧に笑って誤魔化した。
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