余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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痛恨のミス

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「社交界有数の美女になんて失礼なの!」

「エリシア……リヒター様は実子だから……その、気安いと言うか。本人がちょっと言葉選びが悪いのは否定できないけど」

「は?」

 何をごちゃごちゃ言っているんだと言わんばかりに、エリシアは眉を跳ね上げてシンへと振り返る。だがややあって、シンの言葉が脳に届いたらしい。

「……リヒター様って、あのリヒター様!?」

「どのリヒター様かは知らないけれど、ドーベルマン伯爵家の長男でミリア様の実子のリヒター様はその人だよ」

「……終わった……伝手、縁談、お見合い……王宮騎士とのコネが」

 婚活への布石に余念がないエリシアは、己の痛恨のミスに気づいてうなだれた。レニが慰めようとするが、いい言葉が浮かばずおろおろとしている。
 婚活ガチ勢のエリシアと違い、色気より食い気に走りがちな面々ばかりである。フォローに仕方が分からない。
 色恋においては全く頼りにならないのだ。エリシアの望むような伝手もない――訳ではないが、隠している身分がバレかねないので下手を打てない。
 シンはティンパイン公式神子、レニたちはその直属の護衛である聖騎士なのである。

「まあ、エリシア……ドンマイ?」

「うう……! せっかくの活路が……! 学園の目ぼしい貴族は全滅だし、騎士が無理なら裕福な商家を探したいけれど……ウチにそんなツテもコネもない……!」

 見かねたシンが一応の慰めを入れるが、やり切れないエリシア。悔しさで足元にいるジャニスをドムドムと蹴っている。無意識の行動だけれど、誰も止めない。
こんな扱いでも、やっぱり馬車内にジャニスを守ろうとする者はいなかった。

「……ハァハァ……エリシアちゅわん……いえ、ご主人様」

 エリシアに足蹴にされまくっていたジャニスは変な性癖の扉を開きかけていた。
 もう全開かもしれない。嫌がるどころか、興奮していた。うっとりと痛みに耐え、蹴られてとても嬉しそうにしている。


((((((コイツはヤベェ!!)))))

 相変わらず蹴りつけているエリシアは気づいていない。それ以外の全員の心は一つになった。
 大変よろしくない方向へ転がっている。
 もともと特殊な嗜好の持ち主で、女性はぽっちゃり体形を好んでいた。むしろ、やや太っているどころか健康を害す肥満なくらいがストライクゾーンだった。
 そして今、被虐嗜好――ドエムの扉が新たに構築されつつある。とても気持ち悪い。
 エリシアは痩せたことにより、最初の好みから外れた。なのに、新たな性癖のせいでまた興味を持たれてしまいそうだ。
 こんな不愉快な事実、エリシアだって知りたくないだろう。知らないほうが幸せなことは、世の中にいっぱいあるのだ。
 ごそごそと動き出したジャニスが、エリシアへ這って行こうとした。それに気づいたシンたちは、慌てて踏みつけて止めようとした。
 一人、冷ややかな目を向けたのはレニだ。何やら魔法を構築すると、無言でジャニスに叩きつけた。かっくりと力なくその場に転がるジャニス。這うのも止まった。
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