お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実

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嫌われたくない。お荷物な俺。

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 目の前が歪んできた。

 冷たいグラスに半分ぐらい注がれた酒、薄い黄色に少しの泡をぼんやりと眺めていた。
 酒の匂いだけで頭がグラグラと揺れている。

 俺、こんなに弱かったんだ。

 一人で酒すら飲めなかったんだ……。
 薄暗い照明が俺の心をさらに不安にさせた。

 カウンターが冷たくて気持ち良いなー。
 木材で出来ているバーカウンター、温かみはあるが程よく冷たくて心地良い。

 目蓋もだんだん重くなる。


「カナちゃん、こんな所で寝んじゃねーよ。おい、まだ一杯も飲み終わってねーのに、もうそんなか? この後は依頼を受けに来た訳じゃねーんだな?」


 そう声をかけてきたのは、このギルドの受け付けと酒屋の店員、両方を兼務しているアレフだ。


 そんな風にアレフと話していた俺はアレフの顔も目の前のカウンターもグラグラと歪んできて、流石にやばいと思い始めていた。


「おっ、今日も大量だね?」
「そんな事ないよ」

 バーカウンターから少し離れた所、ギルドの受け付けの方から聞き覚えのある声がした。

 いや、いくら酔っていると言ったってアイツが来た事はすぐ分かった。


 まず、空気が違う。

 アイツが店に入って来た時から中にいた人達が注目するのが分かった。


 今だにFランクの冒険者をしている俺と違ってアイツはAランク。
 見た目も極上。

 目を細めて笑う姿には独特の色気がある。
 女の子達も男でさえ、アイツの雄の色気に釘付けだ。

 紳士的で優しく気配りも豊富なアイツはこの村の人気者。

 幼なじみと言うのにどうしてこんなに差がついてしまったのか。

「カナトが、迷惑かけたね、連れて帰るよ」

 いつの間に手続きを済ましたのか、俺の隣にはアイツ、ロイがいた。


 強引に立たせられ、足に力が入らなくなってしまっていた俺は不本意だったがロイに、もたれかかっていた。


 ロイはアレフに俺の酒の代金を払い終わると俺を抱えて外にでた。


 先程まで、笑っていたのに途端に苛立ちの隠せない様な表情になった。


 そう、俺はロイに嫌われていた。


 それはそうだと思う。

 俺とロイは幼なじみ。
 俺とロイの両親は俺が10歳の時に亡くなった。
 村から少し離れた森で魔物が大量発生した時の被害者になったんだ。

 それからロイに俺は育てられたと言っても良い。
 ロイは俺と3歳しか違わない。
 
 ロイは、俺とは身長はそこまで変わらないが、身体つきというか筋肉の着き方も全然違うし、こんな村では珍しいぐらいの強い魔力の持ち主だった。


 反対に俺は、たいして魔力もないし、運動神経もない。

 不器用だし、人付き合いも下手。

 ないないづくしだ。

 友達になれそうな奴もいつの間にか俺の側からいなくなる。
 そんな俺の側にはずっとロイがいた。

 こんな不器用な俺、冒険者登録をしても満足に稼ぐ事もできない。
 成長した今でも俺はロイのお荷物になっていた。


 ギルドの依頼と言ったって、俺はロイが受けている様なモンスターの討伐ではなく、弱いモンスターしか出ない所で薬草をつむ程度のものだ。


 他にも、もっと庶民的な依頼もある。

 ハウスキーパーや介護人、畑の手伝いなど様々な依頼がある。

 俺は筋肉は育たなかったが、身長はある程度高いし、体力もあるつもりではいる。


 薬草つみをするよりは、そういう仕事の方が金になるんじゃないか、そう思いロイに相談したりもした。


「問題を起こして俺に迷惑をかけたいのか?」
 ロイから発せられるキツめの言葉を思い出し、胸がはち切れそうになるほど痛んだ。


 ロイは俺にだけ冷たい。
 ロイは皆に優しいのに、俺にだけ……。
 ロイは俺が嫌いなんだ。


 この日も薬草つみの依頼を終えた後、初めて、一杯だけだと酒を頼んだ。


 俺はロイが好きだった。

 そりゃそうだ。

 どんなに冷たくされても、ずっと側で守ってくれていた存在だ。


 初対面の時の優しい笑顔が忘れられない。

 俺も男だけど、あの時、幼かった俺は目の前に王子様が来たかと思った。

 その時はお互い両親もいて、今よりは裕福だった。
 俺は本を読むのが好きだった。ロイはその中にでてくる王子様みたいに優しい笑顔だった。


 俺は優しいロイにすぐ、夢中になった。


 両親がいなくなるあの出来事があるまではいつも後ろをついて回っていた。

 お互いの両親がいなくなってしまって二人きりになって、いつからだろう? ロイの俺に対する態度が変わった。


 いや、本質はロイだ。言葉はきつくても優しい。
 もちろん暴力を振るわれるわけじゃない。


 それに嫌われているのに、側にいるのはつらい。
 足手まといになるのが辛い。
 
 本当はロイはSクラスぐらいになれるぐらい強い。
 そうロイとパーティを組んでいた奴らが噂しているのを聞いた事がある。

 だけど、Sクラスとなると、依頼を指定される事が多くなる。
 この村を長期で離れる事が多くなる。
 つまり俺がロイの足枷になっていると分かった。
 ロイは俺だけに口調はキツイが基本過保護だ。
 毎日、依頼を受けても夜には下手したら夕方にはこの村に帰ってくる。


 ロイの口調が俺にだけキツイのは、多分、親が子供にだけ口調がキツくなるのと同じだろう。
 ずっと俺を育てているからロイは俺を子供の様に思ってくれているのだろうか。


 それとも、ロイは優しいから俺を手放す事が、見捨てる事ができないんだろうか。





 気がついたら朝だった。
 いつもの見慣れたベッドの上で辺りを見渡した。
 あのまま、家の中に運ばれて、いつの間にか眠ってしまっていた様だ。
 この家に運ばれながらロイの胸の中は温かかったのをぼんやりとだが思い出した。


 
 日の光が差し込み気持ち良いが、家の中は静かだった。
 もう、ロイは出かけた後だ。
 こんな風に朝、起きて、一人の事が多い。

 だけど、普通冒険者は毎日家に帰ってくる事は少ない。

 村や町や都市を点々とする冒険者は家を持っている事も少ない。

 だいたい、テントを張りながら数日かけて依頼をこなす。
 村で寝泊まりする時は宿屋を使うのだ。
 だけど、数日かけてする様な依頼は割りも良く、宿屋を使う金程度なら容易に手に入るらしい。

 ロイも俺がいなかったら、その方が金になるし、毎日依頼を受ける必要もない。


 朝の空気は気持ちが良いが、まだ酒が抜けていないのか身体が気だるい。

 テーブルの上には朝食の準備がしてある。

 本当は家事ぐらい全て俺がしたいんだが、朝が弱い俺はそれすらも難しい。

 

『無理して依頼をうける必要はない。家で大人しくしていろ』そう書いたロイからのメモがテーブルに置いてあった。


 


 

 
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