征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
1 / 108
プロローグ

第1話 航空主兵への転換

しおりを挟む
 ワシントン軍縮条約で帝国海軍は戦艦ならびに空母の保有量を対米英六割に抑え込まれた。
 この状況に帝国海軍内では条約に反対する声がわき上がる。
 空母はともかく、戦艦については最低でも七割程度は確保しないと戦術面において立ち行かない。

 組織内に不満分子があふれる中、一方で軍令部長である山下源太郎大将は驚異的な進歩をみせる潜水艦とそれに航空機に着目していた。
 そして、その山下大将は第一次世界大戦で得た戦訓から、一つの結論に至る。

 (戦艦の劣勢は、潜水艦や航空機の充実によってこれを十分に補うことができる)

 実際、第一次世界大戦ではドイツのU21が「トライアンフ」それに「マジェスティック」の二隻の英戦艦を立て続けに海底へと葬っている。
 また、航空機のほうも英海軍航空隊のショート184が雷撃で敵国艦船を撃沈するという快挙を成し遂げた。
 こういった実績を元に、山下大将は戦艦を中心とする水上打撃艦艇一本槍による艦隊決戦から、航空機それに潜水艦を活用した新戦備を提唱する。

 だが、山下大将の考えが帝国海軍内に浸透することは無かった。
 戦艦の不足については、巡洋艦や駆逐艦といった補助艦艇を充実させることでその劣勢を補える。
 そう考える者が多数派だったからだ。

 しかし、状況は一変する。
 きっかけはロンドン軍縮条約だった。
 同条約よって巡洋艦や駆逐艦といった補助艦艇、さらには潜水艦にまでその保有量に対して厳しい制約が課せられることになったのだ。

 今後は巡洋艦や駆逐艦、それに潜水艦ついては思い切った増勢ができない。
 そうであれば、帝国海軍としてはこれを埋め合わせる戦備を考えなければならない。
 そして議論の末、かつて山下大将が提唱した航空戦力を活用する三次元立体戦闘がここにきて改めて見直されることになった。

 それと、この時期は大型水上打撃艦艇よりも航空機のほうが明らかにその進化のスピードが速かった。
 そのことで、航空機に対する注目度とそれを重視する傾向は、年を追うごとにその度を強めていった。
 逆に戦艦や重巡といった水上打撃艦艇は、軽視されるとまでは言わないものの、それでも従来ほどには重要視されなくなっていった。

 そしてそれは、鉄砲屋や水雷屋の発言力の低下をもたらすことにつながっていく。
 逆に、それまで傍流だった飛行機屋のほうは、日を追うごとにその存在感を増していった。
 さらに、組織内における派閥力学の変化に聡い鉄砲屋や水雷屋の士官の多くが飛行機屋へと鞍替えしたものだから、その流れはさらに加速される。
 落ち目の派閥よりも日の出の勢いの派閥に身を寄せたほうが自身の立身出世には何かと好都合なのは、帝国海軍といえども例外ではなかった。
 こういったことから、軍縮条約からの脱退を見据えたマル三計画において、戦艦や巡洋艦よりもむしろ空母の整備が優先されることは当然の成り行きだとも言えた。

 その空母だが、その艦型については大きく分けて三つの考え方あるいは意見があった。
 ひとつは建造費の安い中小型の空母を数多く揃えるもの。
 さらに、もうひとつは空母の最大の弱点である飛行甲板に装甲を施すもの。
 そして、残る一つは大型で多数の艦上機を運用できるもの。

 もちろん、飛行甲板に装甲を施したうえで多数の艦上機を運用できる空母があれば、それが一番望ましいことは間違いない。
 攻撃力それに防御力ともに文句無しだ。
 しかし、それだと建造に必要な予算や資材が膨大なものとなる。
 そうなれば、他の艦艇の建造計画に著しい支障をきたしてしまう。
 貧乏海軍としてはどこかで妥協する以外に方法は無かった。

 これらの中で、数を揃えるべきだと訴える者は、戦闘時における被害分散や継戦能力の維持をその根拠としていた。
 よく言われることだが、卵を一つのカゴに盛ると、そこで何かあった場合にはすべての卵が割れてしまう。
 しかし、複数の小さなカゴに卵を分散して盛っておけば、仮にそのうちの一つがダメになっても他のカゴの卵は無事で済む。

 ただ、航空機が現在のペースで進化を続ければ、中小型空母が第一線で活躍できる期間はさほど長くはないと考えられていた。
 今でこそ複葉機が主流だが、しかし近い将来にはそれが全金属単葉へと置き換わることは間違いない。
 そして、それは艦上機の高速大重量化を意味する。
 中小型空母では長期間にわたってその趨勢に対応するのは困難だった。
 無理に運用すれば、それこそ飛行甲板の狭隘さも相まって、まず間違いなく事故が起こる。
 それは、ある意味において欠陥兵器と同義だと言えた。

 一方、大型空母のほうは予算や資材の制約から数を揃えることが難しい。
 しかし、艦上機の大型化には余裕をもってこれに対応することができる。
 また、飛行甲板が広ければその分だけ離着艦も容易だ。
 そうであれば、腕がそこそこの連中でも母艦搭乗員としての任に十分に耐えられる。
 少なくとも、小型空母の着艦に要求される名人芸のような技量は必要とはされない。

 残る装甲空母については防御力こそ満足できるものの、しかし一方で搭載機数が少なくなってしまうことが問題だった。
 装甲空母もまた大型空母と同様に数を揃えることが困難だから、なおのことだった。

 三者三様、それぞれメリットもデメリットもあるが、しかしこれらの中で採用されたのは大型空母案だった。
 その理由の一つとして、帝国海軍が防御よりも攻撃を重視する組織文化を有していたことが挙げられる。
 装甲を張り巡らせる代償として艦上機を減らすよりも、装甲は装備せずに多数の戦闘機や攻撃機を搭載する。
 そして、襲いかかってくる敵機に対しては、それら戦闘機を活用して投弾前に始末してしまう。
 そのほうがよっぽど効率が良いし、相手に与えるダメージも大きい。
 飛行甲板に装甲が有ろうが無かろうが、しかし爆弾など当たらなければどうということはないのだ。

 この結果、マル三計画では四隻の大型空母が建造されることになる。
 それが吉と出るか凶と出るかは、この時点ではまだ判然としていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...