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開戦前
第8話 新型艦攻
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生沢長官の態度から、九七艦攻についてはすでに何か策を巡らせている。
そのことを敏感に感じ取った志津頼航空甲参謀は、遠慮なく疑問を口にする。
それに、これは生沢長官の引っ掛けかもしれなかった。
生沢長官は志津頼航空甲参謀が疑問をそのまま放置しておく人間なのか、あるいは即座に解決を図ろうとする人間なのかを試しているのかもしれない。
「今から四年前の昭和一二年八月二〇日のことだ。南京を爆撃するために出撃した九六陸攻の編隊は、同地を守るP-26ピーシューターの迎撃を受けた。そして、相手が最高時速が四〇〇キロに届かず、そのうえ武装も貧弱なP26であったのにもかかわらず、しかし九六陸攻のほうは一度に六機が撃墜されるという大損害を被ってしまった。さらに、その後も被害は積み重なり、そのたびに貴重な搭乗員を失うことになった」
大陸で九六陸攻が中国軍の戦闘機にバタバタと撃ち墜とされてしまったことは志津頼航空甲参謀もよく覚えている。
戦死した搭乗員の中には、顔見知りの者もいた。
「この惨事に対し、帝国海軍上層部は陸攻に同伴できる脚の長い戦闘機の必要性を痛感するのだが、一方で九六陸攻の防御力の向上に対する熱意はさほど高いものではなかった。もし、海軍上層部が中国戦線における九六陸攻の損害に対して反省の念を持ち合わせていれば、一式陸攻のような機体は生まれなかっただろう。まあ、陸攻については山本長官の肝いりの案件だから、外野の連中としては口を挟みにくかったという事情があるのかもしれんが」
わずかに無念の色を滲ませる生沢長官の言に、志津頼航空甲参謀もまたそのことについては納得せざるを得なかった。
最新鋭の機体であるはずの一式陸攻は、九六陸攻に比べて防御機銃こそ充実しているものの、しかし防弾装備については相変わらずの無頓着ぶりだったからだ。
あるいは、速度性能や航続性能が低下するのを嫌って、わざと装備しなかったのかもしれない。
もし、そうであれば、それは搭乗員の安全と命を蔑ろにする行為だ。
飛行機屋の志津頼航空甲参謀としては、決して愉快な話ではない。
「双発で九七艦攻よりも抗堪性の高いはずの機体をもってしても、実戦では被害が続出した。単発で防弾装備などそれこそ皆無と言っていい九七艦攻であれば、さらに悲惨な状況が現出したことだろう。そして悪いことに、九七艦攻が相手取るのは中国軍よりも遥かに強力な米軍だ。そうであれば、九七艦攻がたどる運命など容易に想像できる」
生沢長官の危惧は、志津頼航空甲参謀としても完全に同意するところだった。
中国軍相手でさえ看過できないダメージを被るということは、それが米軍であればさらに酷い状況になることは必至。
「そこで、だ。私は九七艦攻について、同機体に防弾装備を施すよう上に掛け合った。普段であればこの件については省みられることは無かったと思う。しかし、中国戦線における九六陸攻の現実があったからな。この事実を無視して防弾装備の実現に手を打たないようなら、それこそ帝国海軍はアホの集団という誹りを免れないだろう。というか、一式陸攻の件で半分アホなことが確定してしまったがな」
半分アホと言うことは、一式陸攻のほうはともかくとして、九七艦攻のほうはそれなりに成果があったのだろう。
そう考えた志津頼航空甲参謀は黙って話の続きを聞く。
「ただ、九七艦攻については後継機体の開発が進捗を見せていないこともあって、大幅な改造が認められた。そいつは発動機を大出力のものに変更し、その余剰の馬力をもって機体構造を強化したうえで防弾装備を施したものだ。上層部の連中も艦戦や艦爆、それに陸攻が更新されている中で艦攻だけが旧態依然というのはどうにもおさまりが悪いと思ったのだろう」
九六艦戦とそれに九六艦爆は、それぞれ零戦と九九艦爆という後継機体が登場している。
本来であれば、九七艦攻についてもまた、一式艦攻か遅くとも二式艦攻として更新されなければならないはずだ。
しかし、九七艦攻の後継となる機体については、いまだに試作機さえも完成していない有り様だった。
そういった状況に対し、生沢長官は黙っていられなかったのだろう。
志津頼航空甲参謀としても、九七艦攻のような古色蒼然あるいは旧態依然とも言うべき機体で肉薄雷撃をするような真似は御免被りたいというのが本音だ。
「幸い、当時は火星の開発も完了しており、さらに量産態勢への移行も済んでいたことからこれを使うことができた。そして、今は機体を強化した九七艦攻の改造機に火星を搭載してテスト飛行を繰り返している。細かい不具合を潰しきった時点で制式採用されるはずだ」
生沢長官の言葉を信じるのであれば、その機体の完成は間近だと見ていい。
「そいつは開戦に間に合いますか」
可能な限り安全性に配慮した機体で搭乗員を戦場に送り出してやりたい。
そう考える志津頼航空甲参謀が声を弾ませて尋ねる。
「その頃であれば、開発は完了しているだろう。しかし、数を揃えることは難しいな。それに搭乗員の機種転換訓練も必要だ。だから、実戦に投入できるようになるのはどんなに早くても来春以降になるだろう」
新型艦攻は開戦には間に合わない。
ただ、九七艦攻を使わなければならない期間はそれほど長いものではなくなった。
そして、零戦もまたあと半年もすれば金星を搭載した新型が登場するという。
そうなれば、残る懸念は九九艦爆だ。
こちらは制式採用されてから二年と経っていないものの、しかし最高速度や爆弾搭載能力は物足りないというか、はっきり言って力不足だった。
なにより、この機体もまた他の例に漏れず防弾装備が貧弱の極みだ。
だから、ついでとばかりに志津頼航空甲参謀は九九艦爆についても尋ねることにした。
生沢長官であれば、九九艦爆についても何か隠し球のようなものを持っているのではないかと考えたからだ。
そのことを敏感に感じ取った志津頼航空甲参謀は、遠慮なく疑問を口にする。
それに、これは生沢長官の引っ掛けかもしれなかった。
生沢長官は志津頼航空甲参謀が疑問をそのまま放置しておく人間なのか、あるいは即座に解決を図ろうとする人間なのかを試しているのかもしれない。
「今から四年前の昭和一二年八月二〇日のことだ。南京を爆撃するために出撃した九六陸攻の編隊は、同地を守るP-26ピーシューターの迎撃を受けた。そして、相手が最高時速が四〇〇キロに届かず、そのうえ武装も貧弱なP26であったのにもかかわらず、しかし九六陸攻のほうは一度に六機が撃墜されるという大損害を被ってしまった。さらに、その後も被害は積み重なり、そのたびに貴重な搭乗員を失うことになった」
大陸で九六陸攻が中国軍の戦闘機にバタバタと撃ち墜とされてしまったことは志津頼航空甲参謀もよく覚えている。
戦死した搭乗員の中には、顔見知りの者もいた。
「この惨事に対し、帝国海軍上層部は陸攻に同伴できる脚の長い戦闘機の必要性を痛感するのだが、一方で九六陸攻の防御力の向上に対する熱意はさほど高いものではなかった。もし、海軍上層部が中国戦線における九六陸攻の損害に対して反省の念を持ち合わせていれば、一式陸攻のような機体は生まれなかっただろう。まあ、陸攻については山本長官の肝いりの案件だから、外野の連中としては口を挟みにくかったという事情があるのかもしれんが」
わずかに無念の色を滲ませる生沢長官の言に、志津頼航空甲参謀もまたそのことについては納得せざるを得なかった。
最新鋭の機体であるはずの一式陸攻は、九六陸攻に比べて防御機銃こそ充実しているものの、しかし防弾装備については相変わらずの無頓着ぶりだったからだ。
あるいは、速度性能や航続性能が低下するのを嫌って、わざと装備しなかったのかもしれない。
もし、そうであれば、それは搭乗員の安全と命を蔑ろにする行為だ。
飛行機屋の志津頼航空甲参謀としては、決して愉快な話ではない。
「双発で九七艦攻よりも抗堪性の高いはずの機体をもってしても、実戦では被害が続出した。単発で防弾装備などそれこそ皆無と言っていい九七艦攻であれば、さらに悲惨な状況が現出したことだろう。そして悪いことに、九七艦攻が相手取るのは中国軍よりも遥かに強力な米軍だ。そうであれば、九七艦攻がたどる運命など容易に想像できる」
生沢長官の危惧は、志津頼航空甲参謀としても完全に同意するところだった。
中国軍相手でさえ看過できないダメージを被るということは、それが米軍であればさらに酷い状況になることは必至。
「そこで、だ。私は九七艦攻について、同機体に防弾装備を施すよう上に掛け合った。普段であればこの件については省みられることは無かったと思う。しかし、中国戦線における九六陸攻の現実があったからな。この事実を無視して防弾装備の実現に手を打たないようなら、それこそ帝国海軍はアホの集団という誹りを免れないだろう。というか、一式陸攻の件で半分アホなことが確定してしまったがな」
半分アホと言うことは、一式陸攻のほうはともかくとして、九七艦攻のほうはそれなりに成果があったのだろう。
そう考えた志津頼航空甲参謀は黙って話の続きを聞く。
「ただ、九七艦攻については後継機体の開発が進捗を見せていないこともあって、大幅な改造が認められた。そいつは発動機を大出力のものに変更し、その余剰の馬力をもって機体構造を強化したうえで防弾装備を施したものだ。上層部の連中も艦戦や艦爆、それに陸攻が更新されている中で艦攻だけが旧態依然というのはどうにもおさまりが悪いと思ったのだろう」
九六艦戦とそれに九六艦爆は、それぞれ零戦と九九艦爆という後継機体が登場している。
本来であれば、九七艦攻についてもまた、一式艦攻か遅くとも二式艦攻として更新されなければならないはずだ。
しかし、九七艦攻の後継となる機体については、いまだに試作機さえも完成していない有り様だった。
そういった状況に対し、生沢長官は黙っていられなかったのだろう。
志津頼航空甲参謀としても、九七艦攻のような古色蒼然あるいは旧態依然とも言うべき機体で肉薄雷撃をするような真似は御免被りたいというのが本音だ。
「幸い、当時は火星の開発も完了しており、さらに量産態勢への移行も済んでいたことからこれを使うことができた。そして、今は機体を強化した九七艦攻の改造機に火星を搭載してテスト飛行を繰り返している。細かい不具合を潰しきった時点で制式採用されるはずだ」
生沢長官の言葉を信じるのであれば、その機体の完成は間近だと見ていい。
「そいつは開戦に間に合いますか」
可能な限り安全性に配慮した機体で搭乗員を戦場に送り出してやりたい。
そう考える志津頼航空甲参謀が声を弾ませて尋ねる。
「その頃であれば、開発は完了しているだろう。しかし、数を揃えることは難しいな。それに搭乗員の機種転換訓練も必要だ。だから、実戦に投入できるようになるのはどんなに早くても来春以降になるだろう」
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ただ、九七艦攻を使わなければならない期間はそれほど長いものではなくなった。
そして、零戦もまたあと半年もすれば金星を搭載した新型が登場するという。
そうなれば、残る懸念は九九艦爆だ。
こちらは制式採用されてから二年と経っていないものの、しかし最高速度や爆弾搭載能力は物足りないというか、はっきり言って力不足だった。
なにより、この機体もまた他の例に漏れず防弾装備が貧弱の極みだ。
だから、ついでとばかりに志津頼航空甲参謀は九九艦爆についても尋ねることにした。
生沢長官であれば、九九艦爆についても何か隠し球のようなものを持っているのではないかと考えたからだ。
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