13 / 108
マーシャル沖海戦
第13話 新型艦の懸念
しおりを挟む
「日本海軍はマル三計画において二隻の戦艦とそれに二隻の空母の建造を企図しています。もし、これら四隻がすでに戦力化されているようなことがあれば、状況は大きく変わってきます」
レイトン中佐の懸念を聞いたキンメル長官は、脳内で米日の戦力を比較する。
現状、太平洋正面における双方の戦艦の数については、こちらが八隻に対して日本のそれは六隻。
だが、もしマル三計画で建造された戦艦がすでに戦列に加わっていたとするならば、その数は八対八となり、太平洋艦隊の数的アドバンテージは霧散する。
むしろ、日本側のほうが質的アドバンテージを得た分だけ有利となるだろう。
もちろん、これは仮定の話であって、日本の新型戦艦がすでに戦力化されているという確証は無い。
だが、最悪を考慮し、これに備えておくのは指揮官の務めだ。
敵が六隻の前提で計画したのが実際には八隻でした、といった状況はシャレにならないにも程がある。
それに、米海軍もまたすでに「ノースカロライナ」と「ワシントン」の二隻の新型戦艦を就役させているのだ。
米海軍で出来たことが、一方の日本海軍に出来ないと考えるのは楽観が過ぎる。
「日本の新型戦艦はすでに就役しているという前提で考えたほうが無難だな。そこで、だ。もし仮に日本の新型戦艦が完成していたとして、その戦力はどの程度のものか分かるか」
日本の新型戦艦については、情報部門も正確な諸元を把握するには至っておらず、憶測交じりの数字が飛び交っていた。
中には二〇インチ砲を装備しているのではないかという意見もあったが、キンメル長官もさすがにこれは有り得ないだろうと思っている。
「日本の議会に通告された数字を信じるのであれば、新型戦艦一隻当たりの建造費は九八〇〇万円となっています。日本の物価等を考慮した場合、その排水量は三万トン台後半から四万トン台前半に達するものと思われます。それと速力、それに主砲口径とその門数については、正直なところまったく分かりません」
戦艦は攻撃力や防御力、それに機動力のいずれに重点を置くかによってその性格がずいぶんと変わってくる。
戦艦については「金剛」型という例外を除き、日米ともに攻撃力を重視しているが、残る機動力と防御力に関しては日本海軍は中速中防御、米海軍のほうは低速重防御とその志向が分かれている。
その傾向が続くとみた場合、日本の新型戦艦は一六インチ砲を九門乃至一〇門程度を備えていると考えてよかった。
速度性能もまた、それなりのものを有しているだろう。
いずれにせよ、新型戦艦である以上は旧式の「長門」型戦艦を上回る戦力を持つことは間違いない。
場合によっては「ノースカロライナ」級を凌ぐ可能性さえあった。
キンメル長官は、いまさらながらにレイトン中佐の懸念が理解できた。
だが、それはそれとして、キンメル長官としては問題を解決する方策を考えなければならない。
だから、戦艦の劣勢を覆すことができる戦力にその注意を向ける。
日米の戦争が始まって、にわかに脚光を浴びている艦種に。
「マル三計画で建造されているという空母について分かっていることはあるか」
五隻の空母を基幹とする日本の機動部隊は現在、フィリピン戦線で猛威を振るっている。
そうなると、太平洋艦隊がマーシャルに進攻した場合、それに立ちはだかるのは二隻の新型空母となるはずだ。
「マル三計画で建造されている空母については、その予算が一隻あたり八一〇〇万円となっています。その建造費から推測すれば、おそらくは二万トンから二万五〇〇〇トンといったあたりでしょう」
排水量で言えば、日本の新型空母は「ヨークタウン」級空母と同等かあるいはそれ以上のボリュームを持っている。
搭載機数については、はっきりしたことは分からないが、それでも決して少なくはないだろう。
あるいは「ヨークタウン」級や「レキシントン」級に匹敵するだけのものを持っているかもしれない。
ただ、空母とその艦上機は数がものを言う兵器だ。
そして、日本側が二隻なのに対し、太平洋艦隊には「エンタープライズ」と「レキシントン」それに「サラトガ」の三隻がある。
数で言えば相手の五割増しだ。
そう考えた時にはキンメル長官の脳内で勝利の方程式が完成していた。
空母の数を考えれば、こと洋上航空戦についてはこちらが圧倒的に有利だ。
そのストロングポイントを徹底的に活用する。
まずは急降下爆撃機で敵の空母を叩き、雷撃機については戦艦を狙わせるのだ。
「エンタープライズ」と「レキシントン」それに「サラトガ」には合わせて一〇〇機を超えるSBDドーントレス急降下爆撃機が配備されている。
二隻の空母を沈めるには、十分過ぎるほどの数だ。
一方、TBDデバステーター雷撃機のほうはSBDの半分程度の数しか無いが、それでも複数の戦艦を撃破することは容易だろう。
そして、半身不随となった日本の戦艦部隊に対し、こちらの戦艦部隊が殴り込みをかけてこれにとどめを刺す。
(いずれにせよ、鍵を握るのは空母だな)
大艦巨砲主義を信奉するキンメル長官としては、正面からの堂々たる砲撃戦で日本の戦艦を仕留めたいというのが本音だ。
しかし、状況がそれを許さない。
もし、日本海軍が秘密裏に新型戦艦を戦列に加えていたとしたら、いかに太平洋艦隊の戦艦部隊が精強だとはいえども相応の損害を覚悟しなければならない。
なにより、戦いはマーシャルだけに終わらない。
フィリピンで孤軍奮闘する友軍を救援するためには、マーシャル以外にもトラックやパラオといった日本軍の要衝を次々に撃ち破っていく必要がある。
こういった事情から、キンメル長官としてはたとえ駆逐艦であろうとも可能な限りこれを傷つけたくなかった。
(まずは太平洋正面を守る日本の戦艦部隊を叩く。もし連中が出てこないようであれば、そのときはマーシャルを占領すればいい)
そう結論づけた時には、あれほど陰鬱だった気分は嘘のように雲散霧消していた。
レイトン中佐の懸念を聞いたキンメル長官は、脳内で米日の戦力を比較する。
現状、太平洋正面における双方の戦艦の数については、こちらが八隻に対して日本のそれは六隻。
だが、もしマル三計画で建造された戦艦がすでに戦列に加わっていたとするならば、その数は八対八となり、太平洋艦隊の数的アドバンテージは霧散する。
むしろ、日本側のほうが質的アドバンテージを得た分だけ有利となるだろう。
もちろん、これは仮定の話であって、日本の新型戦艦がすでに戦力化されているという確証は無い。
だが、最悪を考慮し、これに備えておくのは指揮官の務めだ。
敵が六隻の前提で計画したのが実際には八隻でした、といった状況はシャレにならないにも程がある。
それに、米海軍もまたすでに「ノースカロライナ」と「ワシントン」の二隻の新型戦艦を就役させているのだ。
米海軍で出来たことが、一方の日本海軍に出来ないと考えるのは楽観が過ぎる。
「日本の新型戦艦はすでに就役しているという前提で考えたほうが無難だな。そこで、だ。もし仮に日本の新型戦艦が完成していたとして、その戦力はどの程度のものか分かるか」
日本の新型戦艦については、情報部門も正確な諸元を把握するには至っておらず、憶測交じりの数字が飛び交っていた。
中には二〇インチ砲を装備しているのではないかという意見もあったが、キンメル長官もさすがにこれは有り得ないだろうと思っている。
「日本の議会に通告された数字を信じるのであれば、新型戦艦一隻当たりの建造費は九八〇〇万円となっています。日本の物価等を考慮した場合、その排水量は三万トン台後半から四万トン台前半に達するものと思われます。それと速力、それに主砲口径とその門数については、正直なところまったく分かりません」
戦艦は攻撃力や防御力、それに機動力のいずれに重点を置くかによってその性格がずいぶんと変わってくる。
戦艦については「金剛」型という例外を除き、日米ともに攻撃力を重視しているが、残る機動力と防御力に関しては日本海軍は中速中防御、米海軍のほうは低速重防御とその志向が分かれている。
その傾向が続くとみた場合、日本の新型戦艦は一六インチ砲を九門乃至一〇門程度を備えていると考えてよかった。
速度性能もまた、それなりのものを有しているだろう。
いずれにせよ、新型戦艦である以上は旧式の「長門」型戦艦を上回る戦力を持つことは間違いない。
場合によっては「ノースカロライナ」級を凌ぐ可能性さえあった。
キンメル長官は、いまさらながらにレイトン中佐の懸念が理解できた。
だが、それはそれとして、キンメル長官としては問題を解決する方策を考えなければならない。
だから、戦艦の劣勢を覆すことができる戦力にその注意を向ける。
日米の戦争が始まって、にわかに脚光を浴びている艦種に。
「マル三計画で建造されているという空母について分かっていることはあるか」
五隻の空母を基幹とする日本の機動部隊は現在、フィリピン戦線で猛威を振るっている。
そうなると、太平洋艦隊がマーシャルに進攻した場合、それに立ちはだかるのは二隻の新型空母となるはずだ。
「マル三計画で建造されている空母については、その予算が一隻あたり八一〇〇万円となっています。その建造費から推測すれば、おそらくは二万トンから二万五〇〇〇トンといったあたりでしょう」
排水量で言えば、日本の新型空母は「ヨークタウン」級空母と同等かあるいはそれ以上のボリュームを持っている。
搭載機数については、はっきりしたことは分からないが、それでも決して少なくはないだろう。
あるいは「ヨークタウン」級や「レキシントン」級に匹敵するだけのものを持っているかもしれない。
ただ、空母とその艦上機は数がものを言う兵器だ。
そして、日本側が二隻なのに対し、太平洋艦隊には「エンタープライズ」と「レキシントン」それに「サラトガ」の三隻がある。
数で言えば相手の五割増しだ。
そう考えた時にはキンメル長官の脳内で勝利の方程式が完成していた。
空母の数を考えれば、こと洋上航空戦についてはこちらが圧倒的に有利だ。
そのストロングポイントを徹底的に活用する。
まずは急降下爆撃機で敵の空母を叩き、雷撃機については戦艦を狙わせるのだ。
「エンタープライズ」と「レキシントン」それに「サラトガ」には合わせて一〇〇機を超えるSBDドーントレス急降下爆撃機が配備されている。
二隻の空母を沈めるには、十分過ぎるほどの数だ。
一方、TBDデバステーター雷撃機のほうはSBDの半分程度の数しか無いが、それでも複数の戦艦を撃破することは容易だろう。
そして、半身不随となった日本の戦艦部隊に対し、こちらの戦艦部隊が殴り込みをかけてこれにとどめを刺す。
(いずれにせよ、鍵を握るのは空母だな)
大艦巨砲主義を信奉するキンメル長官としては、正面からの堂々たる砲撃戦で日本の戦艦を仕留めたいというのが本音だ。
しかし、状況がそれを許さない。
もし、日本海軍が秘密裏に新型戦艦を戦列に加えていたとしたら、いかに太平洋艦隊の戦艦部隊が精強だとはいえども相応の損害を覚悟しなければならない。
なにより、戦いはマーシャルだけに終わらない。
フィリピンで孤軍奮闘する友軍を救援するためには、マーシャル以外にもトラックやパラオといった日本軍の要衝を次々に撃ち破っていく必要がある。
こういった事情から、キンメル長官としてはたとえ駆逐艦であろうとも可能な限りこれを傷つけたくなかった。
(まずは太平洋正面を守る日本の戦艦部隊を叩く。もし連中が出てこないようであれば、そのときはマーシャルを占領すればいい)
そう結論づけた時には、あれほど陰鬱だった気分は嘘のように雲散霧消していた。
78
あなたにおすすめの小説
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
大和型重装甲空母
ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる