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マーシャル沖海戦
第15話 大量索敵
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「索敵第一陣の機体の発艦がすべて完了しました。今のところ特にトラブルの報告は上がってきておりません。索敵第二陣のほうも、その準備については各空母ともに問題無しとのことです」
志津頼航空甲参謀の報告に、生沢長官は小さく頷くことで了解の意を示す。
第二航空艦隊は戦闘海域に進入すると同時に索敵を開始した。
第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」、それに第六航空戦隊の「雲鶴」と「神鶴」からそれぞれ四機、合わせて一六機の九七艦攻が北東から南西にかけて末広がりの索敵線を形成。
さらに、三〇分後には同じく一六機の九七艦攻が索敵第一陣の後を追って飛び立つことになっている。
二波合わせて三二機という大盤振る舞いの索敵機の投入。
そのことについて、志津頼航空甲参謀以外の幕僚や搭乗員らからは疑問の形をとった反対の声も上がっていた。
さすがにやり過ぎではないのか、と。
しかし、なによりも情報を重視する生沢長官は、そういった意見に与することはなかった。
むしろ三二機では不足で、状況が許せばさらにたくさんの索敵機を投入したいのが本音だと話している。
「本来であれば、索敵に関しては脚の速い機体でこれに臨みたかった。しかし、例の機体はまだ数が揃っていない。残念ながら今のところは九七艦攻や零式水偵といった鈍足の機体を使わざるを得ない。索敵の任にあたる搭乗員にはほんとうに申し訳ないと思っている」
現在、帝国海軍の索敵の主力を成すのは九七艦攻とそれに零式水偵の二機種となっている。
これら機体は三座で搭乗員の数、つまりは目が多いのが美点だが、しかしどちらも最高速度が四〇〇キロに満たない低速の機体だった。
一方、現代の艦上戦闘機は一部の例外を除き、五〇〇キロを超える速度性能を有している。
そういった機体にひとたび捕捉されれば、九七艦攻や零式水偵では逃げ切るのは困難だった。
「索敵に設定されている高度も低いですから、逃げる手段も限られてしまいますしね。そうなると、やはりここは何と言っても一三試艦爆が欲しかったところです」
帝国海軍では索敵については三〇〇メートルから六〇〇メートルの高度を一応の標準としている。
しかし、このような低高度では雲に飛び込んで身を隠すといった方法はまず使えない。
ひとたび敵機に襲われたら、海面ぎりぎりにまで降下して、後は蛇行を繰り返して敵の射弾を躱す以外に、これといった手段は無いだろう。
ただ、それにしたところで、敵が手練れであればこのやり方もほとんど通用しない。
だが、零戦並みの脚を持つ一三試艦爆であれば、無事に逃走できる確率は格段に向上する。
その志津頼航空甲参謀が言うところの一三試艦爆は九九艦爆の後継とも言える機体だった。
中でも速力に関しては画期的とも言える性能を持つとされている。
ただ、不慣れな液冷発動機と精緻な機体構造のコラボレーションは、開発やあるいは生産の面において、非常に厳しいハードルとして当事者の前に立ちふさがっていた。
「ただ、それはそれとして、あの機体はあまりにも欲張り過ぎなんですよ。実際、試作一号機は一年以上も前に完成しているのにもかかわらず、いまだに量産化の目処すら立っていない。いくら脚の速い機体が欲しいからといっても、しかしドイツの液冷発動機に手を出しちゃだめだ。あれは、今の日本の技術では少量生産は出来たとしても、しかし数を揃えるのは到底無理です」
一三試艦爆の発動機は最初期の機体を除き、ドイツのダイムラー・ベンツ社のDB601Aをライセンス生産したものだ。
愛知航空機が製造するそれは、アツタ二一型と呼称されている。
そのアツタ二一型は材質に対する要求が厳しく、さらに部品公差については異常なほどにこれがシビアだった。
神様と呼ばれる熟練工が手間暇をかけて、なんとか完成にこぎつけることができるといった代物だ。
そういった発動機が量産化できるはずもない。
そもそもとして、迎撃してくる敵艦上戦闘機を振り切ることが出来る速度性能を付与するというコンセプトがイカれている。
同世代の艦上戦闘機を超える速度性能を持つ艦上爆撃機をつくるなど、それこそ夢物語だ。
戦闘機をぶっちぎることができるはずだった双発の高速爆撃機が、しかし中国軍の戦闘機にどのような目に遭わされたかを考えれば、すぐに分かりそうなものなのだが。
「貴官の言う通りだな。我が国の低劣で貧弱な工業界において、ドイツの液冷発動機を扱うのはそれこそ一〇年早いと言ってもいい。そのうえ、一三試艦爆は機体強度に難があるから、こちらもまた問題が片付くまでに相当な時間が必要となるだろう。残念ながら、一三試艦爆が実戦投入される頃には米軍もまた新型艦上戦闘機をすでに用意しているはずだ。
そして、その機体は間違いなく六〇〇キロを超えてくる。そうなれば、一三試艦爆の速度性能をもってしても、米新型艦上戦闘機から逃れることはかなり厳しいと言わざるをえない」
短く間を置き、生沢長官はさらに話を続ける。
「ただ、今なら艦上偵察機として活躍する余地がある。米軍のF4FやF2Aもまた、その速度性能は五〇〇キロ台前半と見積もられているからな。そうであれば、奇襲でも受けない限り、一三試艦爆であれば逃げ切ることが可能だ」
索敵に出た九七艦攻のペアは、そのいずれもが単機航法が可能な熟練で固めている。
もし、その彼らが乗機を一三試艦爆に代えて任務にあたれば、よほどのことが無い限りF4FやF2Aに不覚を取ることは無いだろう。
その後も、生沢長官と志津頼航空甲参謀は索敵についてとりとめのない会話を続けた。
それは、ある種のプレッシャーから気を紛らわせるための行為だったのかもしれない。
しかし、それも打ち切られる。
索敵に出した九七艦攻から敵艦隊発見の報が相次いで飛び込んできたからだ。
志津頼航空甲参謀の報告に、生沢長官は小さく頷くことで了解の意を示す。
第二航空艦隊は戦闘海域に進入すると同時に索敵を開始した。
第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」、それに第六航空戦隊の「雲鶴」と「神鶴」からそれぞれ四機、合わせて一六機の九七艦攻が北東から南西にかけて末広がりの索敵線を形成。
さらに、三〇分後には同じく一六機の九七艦攻が索敵第一陣の後を追って飛び立つことになっている。
二波合わせて三二機という大盤振る舞いの索敵機の投入。
そのことについて、志津頼航空甲参謀以外の幕僚や搭乗員らからは疑問の形をとった反対の声も上がっていた。
さすがにやり過ぎではないのか、と。
しかし、なによりも情報を重視する生沢長官は、そういった意見に与することはなかった。
むしろ三二機では不足で、状況が許せばさらにたくさんの索敵機を投入したいのが本音だと話している。
「本来であれば、索敵に関しては脚の速い機体でこれに臨みたかった。しかし、例の機体はまだ数が揃っていない。残念ながら今のところは九七艦攻や零式水偵といった鈍足の機体を使わざるを得ない。索敵の任にあたる搭乗員にはほんとうに申し訳ないと思っている」
現在、帝国海軍の索敵の主力を成すのは九七艦攻とそれに零式水偵の二機種となっている。
これら機体は三座で搭乗員の数、つまりは目が多いのが美点だが、しかしどちらも最高速度が四〇〇キロに満たない低速の機体だった。
一方、現代の艦上戦闘機は一部の例外を除き、五〇〇キロを超える速度性能を有している。
そういった機体にひとたび捕捉されれば、九七艦攻や零式水偵では逃げ切るのは困難だった。
「索敵に設定されている高度も低いですから、逃げる手段も限られてしまいますしね。そうなると、やはりここは何と言っても一三試艦爆が欲しかったところです」
帝国海軍では索敵については三〇〇メートルから六〇〇メートルの高度を一応の標準としている。
しかし、このような低高度では雲に飛び込んで身を隠すといった方法はまず使えない。
ひとたび敵機に襲われたら、海面ぎりぎりにまで降下して、後は蛇行を繰り返して敵の射弾を躱す以外に、これといった手段は無いだろう。
ただ、それにしたところで、敵が手練れであればこのやり方もほとんど通用しない。
だが、零戦並みの脚を持つ一三試艦爆であれば、無事に逃走できる確率は格段に向上する。
その志津頼航空甲参謀が言うところの一三試艦爆は九九艦爆の後継とも言える機体だった。
中でも速力に関しては画期的とも言える性能を持つとされている。
ただ、不慣れな液冷発動機と精緻な機体構造のコラボレーションは、開発やあるいは生産の面において、非常に厳しいハードルとして当事者の前に立ちふさがっていた。
「ただ、それはそれとして、あの機体はあまりにも欲張り過ぎなんですよ。実際、試作一号機は一年以上も前に完成しているのにもかかわらず、いまだに量産化の目処すら立っていない。いくら脚の速い機体が欲しいからといっても、しかしドイツの液冷発動機に手を出しちゃだめだ。あれは、今の日本の技術では少量生産は出来たとしても、しかし数を揃えるのは到底無理です」
一三試艦爆の発動機は最初期の機体を除き、ドイツのダイムラー・ベンツ社のDB601Aをライセンス生産したものだ。
愛知航空機が製造するそれは、アツタ二一型と呼称されている。
そのアツタ二一型は材質に対する要求が厳しく、さらに部品公差については異常なほどにこれがシビアだった。
神様と呼ばれる熟練工が手間暇をかけて、なんとか完成にこぎつけることができるといった代物だ。
そういった発動機が量産化できるはずもない。
そもそもとして、迎撃してくる敵艦上戦闘機を振り切ることが出来る速度性能を付与するというコンセプトがイカれている。
同世代の艦上戦闘機を超える速度性能を持つ艦上爆撃機をつくるなど、それこそ夢物語だ。
戦闘機をぶっちぎることができるはずだった双発の高速爆撃機が、しかし中国軍の戦闘機にどのような目に遭わされたかを考えれば、すぐに分かりそうなものなのだが。
「貴官の言う通りだな。我が国の低劣で貧弱な工業界において、ドイツの液冷発動機を扱うのはそれこそ一〇年早いと言ってもいい。そのうえ、一三試艦爆は機体強度に難があるから、こちらもまた問題が片付くまでに相当な時間が必要となるだろう。残念ながら、一三試艦爆が実戦投入される頃には米軍もまた新型艦上戦闘機をすでに用意しているはずだ。
そして、その機体は間違いなく六〇〇キロを超えてくる。そうなれば、一三試艦爆の速度性能をもってしても、米新型艦上戦闘機から逃れることはかなり厳しいと言わざるをえない」
短く間を置き、生沢長官はさらに話を続ける。
「ただ、今なら艦上偵察機として活躍する余地がある。米軍のF4FやF2Aもまた、その速度性能は五〇〇キロ台前半と見積もられているからな。そうであれば、奇襲でも受けない限り、一三試艦爆であれば逃げ切ることが可能だ」
索敵に出た九七艦攻のペアは、そのいずれもが単機航法が可能な熟練で固めている。
もし、その彼らが乗機を一三試艦爆に代えて任務にあたれば、よほどのことが無い限りF4FやF2Aに不覚を取ることは無いだろう。
その後も、生沢長官と志津頼航空甲参謀は索敵についてとりとめのない会話を続けた。
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