征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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マーシャル沖海戦

第16話 機動部隊同士の戦い

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 九隻の重巡からそれぞれ一機のOS2Uキングフィッシャー、それに空母「エンタープライズ」から一八機のSBDドーントレスの合わせて二七機にものぼる索敵機を投入した甲斐はあった。
 それら機体はそれぞれ一群の水上打撃部隊とそれに機動部隊を発見したからだ。
 そのうえ、両艦隊の戦力構成の概要までつかんでくれた。
 ただ、そのことで第八任務部隊の司令部に少なくない混乱をもたらしていた。

 「水上打撃部隊の主力が六隻の戦艦だというのは納得できる。だが、機動部隊に四隻もの空母が有るというのはどういうことだ。情報部によれば、こちらに向かってくる敵の空母は最大でも二隻にしか過ぎないという話だったはずだが」

 出撃前、ハルゼー提督は太平洋艦隊司令長官のキンメル大将から直々に日本艦隊の情報をレクチャーされていた。
 それによれば、日本の艦隊は戦艦については最大で八隻、空母のほうは最大でも二隻だという。
 もし、そうであれば戦艦については相手に二隻の新型戦艦がある分だけこちらが不利。
 一方で空母のほうは三対二だから、こちらが明らかに有利となる。
 そして、もしそうなった場合は戦艦同士の砲撃戦が始まるまでに、手持ちの艦上機をもって敵戦艦部隊に手傷を負わせてほしいとのことだった。
 しかし、索敵機からもたらされた報告は、戦前の予想とは真逆のものとなっている。

 「日本海軍には大型の『赤城』と『加賀』、中型の『蒼龍』と『飛龍』、それに小型の『龍驤』と『瑞鳳』ならびに『鳳翔』と『春日丸』の八隻が有ります。さらにマル三計画で建造されたという新型空母をこれらに加えれば、合わせて一〇隻となります。現時点において、南方戦域では六隻の空母が確認されており、そして今回新たに四隻の空母が発見されました。ですので、日本の空母の数においては、特に矛盾といったものは見当たりません」

 航空参謀の説明に、ハルゼー提督はこれまでに得た情報を思い起こす。
 開戦劈頭、フィリピンのクラークフィールドやイバといった航空基地は、五隻の空母を主力とする敵機動部隊から発進した艦上機による攻撃にさらされた。
 両航空基地には合わせて二四〇機の艦上機が来襲したことから、情報部ではこれら五隻のうちの四隻については「赤城」と「加賀」、それに「蒼龍」と「飛龍」で間違いないと判断していた。
 また、これら五隻以外にもフィリピン南方で一隻の空母が行動中であるのが分かっている。
 消去法で考えれば、先ほど発見した機動部隊については新型が二隻とそれに小型が同じく二隻という編成になる。
 そのことについて、ハルゼー提督は航空参謀にその見解を尋ねる。

 「フィリピンの友軍からの情報では、同地で猛威を振るっている六隻の空母のうちの二隻については、その独特の艦型から『赤城』ならびに『加賀』であることが分かっています。ですが、残り四隻についてははっきりしたことは掴めておりません。情報部では来襲した艦上機の数から『蒼龍』それに『飛龍』だと判断しているようですが、しかし、その考えは間違っているのかもしれません」

 航空参謀の推測に、ハルゼー提督は脳内で簡単な計算をする。
 「赤城」と「加賀」、それに三隻の小型空母があれば二四〇機の艦上機を運用することは不可能では無いだろう。
 ただし、その場合は艦上機をすべて攻撃に出すことになる。
 そうなれば、頭上を守る戦闘機が無いことから、機動部隊は相当なリスクにさらされるだろう。
 しかし、こちらの戦闘準備が整っていない開戦劈頭であれば話は違ってくる。
 もちろん、絶対に安全とは言えないが、それでも危険度で言えばかなり低いものになることは間違いない。
 そして、ジャップの連中はそう判断した。

 「つまり、こちらが発見した空母は二隻の新型と同じく二隻の小型ではなく、実際には二隻の新型とそれに『蒼龍』ならびに『飛龍』の可能性があるというのだな」

 考えをまとめたハルゼー提督が、再びその視線を航空参謀に向ける。

 「提督がおっしゃる通り、あくまでも可能性の問題です。実際にはそれぞれ二隻の新型それに小型という線も捨て切れません」

 これまで、ハルゼー提督は日本の空母は二隻という想定から、それらが搭載する艦上機の数については最大でも一五〇機程度だと考えていた。
 しかし、四隻の空母の存在が判明したことで、その想定はすでに崩れている。

 「連中の艦上機の数については、どの程度だと思う」

 端的なハルゼー提督の質問に、航空参謀は少しばかり考える表情を見せる。

 「新型と小型の組み合わせであれば二〇〇機、新型と『蒼龍』それに『飛龍』であれば二五〇機といったところでしょうか」

 航空参謀の想定に、ハルゼー提督は自分たちがのっぴきならない窮地に立たされていることを自覚する。
 もし、敵が「蒼龍」と「飛龍」をマーシャル救援に差し向けていれば、艦上機の数に関しては日本側が明らかに優勢だ。
 だが、それでも闘志はいささかも衰えない。

 「ただちに全攻撃隊を出撃させる。目標は敵の機動部隊、中でも空母だ」

 勢い込むハルゼー提督に、しかしその命令の最中に航空参謀が割り込む。

 「お待ち下さい。すべての攻撃隊を発進させた場合、三隻の空母に残るのは合わせて三〇機ほどの戦闘機のみです。もし、敵の艦上機から攻撃を受けた場合、この程度の数ではとうてい防ぎきれるものではありません」

 航空参謀の制止に、ハルゼー提督はいささかばかり不快感を覚える。
 気勢を削がれてしまったからだ。
 それでも、航空参謀を責めるようなことは無かった。
 むしろ、重要な指摘だとばかりに、脳内で計算を始める。

 もし仮に敵機動部隊が二〇〇機の艦上機を持っていれば一五〇機。
 二五〇機であれば、二〇〇機程度がこちらに向かってくるだろう。
 すごい数だ。
 これでは、いかに友軍戦闘機隊の搭乗員が優秀でも、しかし自分たちの五倍乃至六倍の敵を相手取るというのはさすがに荷が重い。
 ただ、それでも考えは変わらない。

 「攻撃隊に随伴する戦闘機を直掩に回すことは出来んぞ。そんなことをすれば味方の急降下爆撃機や雷撃機は、それこそジャップの戦闘機の餌食になってしまう」

 すべての戦闘機を直掩に回せば、艦隊の安全度は飛躍的に高まることはハルゼー提督も理解している。
 しかし、さすがにそのような真似はできない。

 「『レキシントン』それに『サラトガ』の偵察爆撃隊を残してください。彼らであれば、敵戦闘機はともかくとして、爆弾や魚雷を抱いた急降下爆撃機や雷撃機であれば十分に対処できます」

 「レキシントン」それに「サラトガ」の偵察爆撃隊に配備されているのは、現在索敵任務にあたっている「エンタープライズ」偵察爆撃隊と同様にSBDだ。
 そのSBDは機種に二丁の一二・七ミリ機銃を持つなど強武装であり、また爆弾を抱えていない状態では運動性能も良好だ。
 もちろん、偵察爆撃隊を攻撃任務から外すことで打撃力は低下するが、逆に空母の安全度はその分だけ高まる。
 要するに、攻撃と防御のどちらに比重を置くかという話だ。
 そして、ハルゼー提督は自分の好みではない、不本意なほうを選択する。

 「航空参謀の意見を採り入れよう。我々は目の前の敵艦隊以外に、南方戦域で猛威を振るっているジャップの艦隊の相手もしなければならない。さらに、ここマーシャル以外にもトラックやパラオといった日本軍の要衝を抜いてフィリピンに駆けつける必要がある。さすがに初戦で空母を損傷させるわけにはいかん」

 三〇機ほどの戦闘機に二つの偵察爆撃隊のSBDを加えれば、その数は七〇機近くに達する。
 それでも、予想される日本軍の攻撃隊に対しては劣勢だが、しかしこれ以上攻撃隊から戦力を引き抜くわけにもいかない。

 ハルゼー提督は改めて偵察爆撃隊を除く全攻撃隊に対して発艦命令を発する。
 先頭の機体が滑走を開始してほどなく、前衛の第一任務部隊から緊急の報せがもたらされる。

 「第一任務部隊より、同部隊が日本軍のものと思しき機体に接触されたとのことです」

 駆け込んできた通信参謀に、首肯をもってハルゼー提督が了解の意を伝える。
 第一任務部隊が発見された以上、自分たちが見つかるのも時間の問題だ。
 同時に彼は理解する。
 世界史上初となる機動部隊同士の戦いがこれから始まるのだと。
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