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マーシャル沖海戦
第21話 「翔鶴」被弾
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第二航空艦隊の前衛にあたる第一艦隊。
同艦隊は六隻の戦艦を主力とする、帝国海軍最強の水上打撃部隊だった。
このうち、戦艦「伊勢」が電探によって敵編隊がこちらに向かっていることを探知。
同艦はすかさず全艦隊に向けて警報を発した。
「伊勢」からの報告を受けた時点で二航艦の「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「雲鶴」と「神鶴」にはそれぞれ二個中隊、合わせて七二機の零戦が用意されていた。
このうち半数が艦隊上空で戦闘空中哨戒にあたり、残る半数は飛行甲板上で即応待機の状態に置かれていた。
「上空警戒中の戦闘機隊はただちに前進。航空管制官の指示に従い敵機を捕捉、これを撃滅せよ。即応待機中の機体も速やかに発進、同じく敵の阻止にあたれ」
洋上航空戦の展開は速い。
生沢長官が一連の命令を下している間に「翔鶴」の電探もまた敵影を探知する。
「敵の様子は分かるか」
各艦に対して対空戦闘準備を命じたばかりの生沢長官が、スコープを注視する電測員に短く問いかける。
「少数編隊がバラバラになって進撃しているようです。良く言えば波状攻撃、悪く言えば戦力の逐次投入のような形です」
「翔鶴」型空母の艦橋は、従来の空母のそれに比べて大型化していた。
そして、その拡大された容積を利用して、電探室もまた艦橋の一等地に置かれることになった。
もちろん、このことを主導したのは、当時は少将だった生沢長官その人だった。
「編隊がバラけているのは、少しばかり厄介ですね。取りこぼしが出てしまうかもしれません」
生沢長官の側に控える志津頼航空甲参謀の声には、少しばかり不安の色が混じっている。
実際、一発の爆弾で戦力を喪失してしまいかねないのが空母という艦種だ。
飛行甲板のど真ん中に破孔を穿たれようものなら、それだけで離着艦能力を失ってしまう。
そうなれば、もはやその空母は戦力としてカウントできない。
「発見された敵の空母は三隻。そうであれば、最低でも一五〇機近い敵機が押し寄せてくるだろう。確かに七二機の零戦では撃ち漏らしが出てしまうかもしれんな」
志津頼航空甲参謀の懸念に同意しつつ、生沢長官は敵機と友軍機を識別するような装置があればなあと思う。
もし、そのようなものがあれば、航空管制の洗練度は格段に向上するだろう。
二航艦司令部が固唾をのんで見守る中、戦闘空中哨戒にあたっていた三六機の零戦が接敵を果たす。
「翔鶴」第四中隊それに「瑞鶴」第五中隊が攻撃を仕掛けたのは「サラトガ」雷撃隊とそれを守る戦闘機隊だった。
まず、「翔鶴」第四中隊が敵戦闘機を引き剥がしにかかる。
敵の護衛戦闘機を放置して雷撃機を狙えば、それこそ側背を突かれかねない。
「翔鶴」第四中隊の挑戦に対し、九機のF4Fワイルドキャット戦闘機からなる「サラトガ」戦闘機隊もまたそれに全力で応じる。
その隙に「瑞鶴」第五中隊は「サラトガ」雷撃隊に突っかかっていく。
一方、「サラトガ」隊の一八機のTBDデバステーター雷撃機は降下しつつ互いの間隔を詰めにかかる。
防御機銃の効果を高めるために、密集隊形をとろうというのだろう。
しかし、それは無駄なあがきだった。
「瑞鶴」第五中隊の零戦は海面に激突することを恐れるような素振りを一切見せず、悠々と超低空に舞い降りては二〇ミリ弾や七・七ミリ弾を面白いように撃ち込んでいく。
TBDの搭乗員たちは知らなかったが、低空域における低速戦闘こそが零戦の本領を発揮できる最高のステージなのだ。
最初、零戦に対して二倍にも及ぶ数的優位を確保していたTBDだったが、しかし零戦が至近を航過、銃撃を加えるたびに櫛の歯が欠けるようにしてその数を減じていった。
同じ頃には「雲鶴」第四中隊と「神鶴」第五中隊もまた「エンタープライズ」戦闘機隊それに同雷撃隊を相手に優勢に戦いを進めていた。
戦闘空中哨戒組にわずかに遅れて戦場に到着した即応待機組も、さっそくとばかりに米艦上機に向けてその牙を剥く。
「翔鶴」第五中隊と「瑞鶴」第四中隊は最後の雷撃隊である「レキシントン」隊と、それにその護衛の戦闘機隊にその矛先を向ける。
一方、「雲鶴」第五中隊は「サラトガ」爆撃隊、「神鶴」第四中隊のほうは「レキシントン」爆撃隊に立ち向かう。
両爆撃隊を構成するSBDドーントレスは旧式のTBDとは違い、運動性能が良好なことから戦闘機の護衛はついていなかった。
「雲鶴」第五中隊それに「神鶴」第四中隊のほうは、それこそ鬼の居ぬ間に洗濯とばかりにSBDを平らげていく。
零戦によって撃滅あるいは撃退される部隊が続出する中、この戦闘空域を無傷ですり抜ける存在があった。
一八機のSBDからなる「エンタープライズ」爆撃隊だった。
これら機体は前衛の第一艦隊を素通りし、二航艦上空に達すると同時に爆撃隊形を取った。
「こちらに来たか」
敵が狙っているのが「翔鶴」だということを悟った城島艦長が小さく唸りを上げる。
その「翔鶴」を守るべく、二航艦の各艦からは対空砲火が撃ち上げられる。
しかし、ほとんど効果が上がっていない。
悠々と「翔鶴」の頭上に遷移したSBDは次々に降下、腹に抱えてきた一〇〇〇ポンド爆弾を投じていく。
一方、城島艦長のほうは被弾を防ぐため、必死の回避運動を試みる。
左へ左へと艦首を振る「翔鶴」の両舷に、相次いで巨大な水柱が立ち上っていく。
(さすがは艦長、うまいな)
的の大きなだだっ広い飛行甲板を抱え、そのうえ空母としてはさほど優速ではない「翔鶴」を被弾無しで切り抜けている城島艦長。
その彼に生沢長官が胸中で称賛を送った瞬間、艦が大きな衝撃に揺れる。
さらに、最後の機体の攻撃が終わるまでにそれが二度続く。
つまるところ、「翔鶴」は三発の被弾を許したのだ。
「あと一個中隊あればなぁ」
志津頼航空甲参謀の無念のつぶやきが生沢長官の耳に飛び込んでくる。
確かに、あと一個中隊の戦闘機があれば、「翔鶴」の被弾は避けられたかもしれない。
その可能性は極めて大きいだろう。
しかし、逆に考えれば、太平洋艦隊があと一隻空母を多く用意していれば、被害はこの程度では済まなかった。
ある意味において、二航艦は幸運だったとも言える。
(やはり、米軍は侮れない)
空母の数こそ四対三だが、しかし艦上機の数においてはこちらが二倍は優勢だったはずだ。
それでもなお完勝には至らず、「翔鶴」を傷つけられてしまった。
ただ、そういった思いはそれとして、生沢長官は動揺した様子を見せず、新たな指示を出していく。
「翔鶴」が被弾したとはいえ、戦闘は継続中だ。
司令長官として成すべき責務はまだまだ残っていた。
同艦隊は六隻の戦艦を主力とする、帝国海軍最強の水上打撃部隊だった。
このうち、戦艦「伊勢」が電探によって敵編隊がこちらに向かっていることを探知。
同艦はすかさず全艦隊に向けて警報を発した。
「伊勢」からの報告を受けた時点で二航艦の「翔鶴」と「瑞鶴」、それに「雲鶴」と「神鶴」にはそれぞれ二個中隊、合わせて七二機の零戦が用意されていた。
このうち半数が艦隊上空で戦闘空中哨戒にあたり、残る半数は飛行甲板上で即応待機の状態に置かれていた。
「上空警戒中の戦闘機隊はただちに前進。航空管制官の指示に従い敵機を捕捉、これを撃滅せよ。即応待機中の機体も速やかに発進、同じく敵の阻止にあたれ」
洋上航空戦の展開は速い。
生沢長官が一連の命令を下している間に「翔鶴」の電探もまた敵影を探知する。
「敵の様子は分かるか」
各艦に対して対空戦闘準備を命じたばかりの生沢長官が、スコープを注視する電測員に短く問いかける。
「少数編隊がバラバラになって進撃しているようです。良く言えば波状攻撃、悪く言えば戦力の逐次投入のような形です」
「翔鶴」型空母の艦橋は、従来の空母のそれに比べて大型化していた。
そして、その拡大された容積を利用して、電探室もまた艦橋の一等地に置かれることになった。
もちろん、このことを主導したのは、当時は少将だった生沢長官その人だった。
「編隊がバラけているのは、少しばかり厄介ですね。取りこぼしが出てしまうかもしれません」
生沢長官の側に控える志津頼航空甲参謀の声には、少しばかり不安の色が混じっている。
実際、一発の爆弾で戦力を喪失してしまいかねないのが空母という艦種だ。
飛行甲板のど真ん中に破孔を穿たれようものなら、それだけで離着艦能力を失ってしまう。
そうなれば、もはやその空母は戦力としてカウントできない。
「発見された敵の空母は三隻。そうであれば、最低でも一五〇機近い敵機が押し寄せてくるだろう。確かに七二機の零戦では撃ち漏らしが出てしまうかもしれんな」
志津頼航空甲参謀の懸念に同意しつつ、生沢長官は敵機と友軍機を識別するような装置があればなあと思う。
もし、そのようなものがあれば、航空管制の洗練度は格段に向上するだろう。
二航艦司令部が固唾をのんで見守る中、戦闘空中哨戒にあたっていた三六機の零戦が接敵を果たす。
「翔鶴」第四中隊それに「瑞鶴」第五中隊が攻撃を仕掛けたのは「サラトガ」雷撃隊とそれを守る戦闘機隊だった。
まず、「翔鶴」第四中隊が敵戦闘機を引き剥がしにかかる。
敵の護衛戦闘機を放置して雷撃機を狙えば、それこそ側背を突かれかねない。
「翔鶴」第四中隊の挑戦に対し、九機のF4Fワイルドキャット戦闘機からなる「サラトガ」戦闘機隊もまたそれに全力で応じる。
その隙に「瑞鶴」第五中隊は「サラトガ」雷撃隊に突っかかっていく。
一方、「サラトガ」隊の一八機のTBDデバステーター雷撃機は降下しつつ互いの間隔を詰めにかかる。
防御機銃の効果を高めるために、密集隊形をとろうというのだろう。
しかし、それは無駄なあがきだった。
「瑞鶴」第五中隊の零戦は海面に激突することを恐れるような素振りを一切見せず、悠々と超低空に舞い降りては二〇ミリ弾や七・七ミリ弾を面白いように撃ち込んでいく。
TBDの搭乗員たちは知らなかったが、低空域における低速戦闘こそが零戦の本領を発揮できる最高のステージなのだ。
最初、零戦に対して二倍にも及ぶ数的優位を確保していたTBDだったが、しかし零戦が至近を航過、銃撃を加えるたびに櫛の歯が欠けるようにしてその数を減じていった。
同じ頃には「雲鶴」第四中隊と「神鶴」第五中隊もまた「エンタープライズ」戦闘機隊それに同雷撃隊を相手に優勢に戦いを進めていた。
戦闘空中哨戒組にわずかに遅れて戦場に到着した即応待機組も、さっそくとばかりに米艦上機に向けてその牙を剥く。
「翔鶴」第五中隊と「瑞鶴」第四中隊は最後の雷撃隊である「レキシントン」隊と、それにその護衛の戦闘機隊にその矛先を向ける。
一方、「雲鶴」第五中隊は「サラトガ」爆撃隊、「神鶴」第四中隊のほうは「レキシントン」爆撃隊に立ち向かう。
両爆撃隊を構成するSBDドーントレスは旧式のTBDとは違い、運動性能が良好なことから戦闘機の護衛はついていなかった。
「雲鶴」第五中隊それに「神鶴」第四中隊のほうは、それこそ鬼の居ぬ間に洗濯とばかりにSBDを平らげていく。
零戦によって撃滅あるいは撃退される部隊が続出する中、この戦闘空域を無傷ですり抜ける存在があった。
一八機のSBDからなる「エンタープライズ」爆撃隊だった。
これら機体は前衛の第一艦隊を素通りし、二航艦上空に達すると同時に爆撃隊形を取った。
「こちらに来たか」
敵が狙っているのが「翔鶴」だということを悟った城島艦長が小さく唸りを上げる。
その「翔鶴」を守るべく、二航艦の各艦からは対空砲火が撃ち上げられる。
しかし、ほとんど効果が上がっていない。
悠々と「翔鶴」の頭上に遷移したSBDは次々に降下、腹に抱えてきた一〇〇〇ポンド爆弾を投じていく。
一方、城島艦長のほうは被弾を防ぐため、必死の回避運動を試みる。
左へ左へと艦首を振る「翔鶴」の両舷に、相次いで巨大な水柱が立ち上っていく。
(さすがは艦長、うまいな)
的の大きなだだっ広い飛行甲板を抱え、そのうえ空母としてはさほど優速ではない「翔鶴」を被弾無しで切り抜けている城島艦長。
その彼に生沢長官が胸中で称賛を送った瞬間、艦が大きな衝撃に揺れる。
さらに、最後の機体の攻撃が終わるまでにそれが二度続く。
つまるところ、「翔鶴」は三発の被弾を許したのだ。
「あと一個中隊あればなぁ」
志津頼航空甲参謀の無念のつぶやきが生沢長官の耳に飛び込んでくる。
確かに、あと一個中隊の戦闘機があれば、「翔鶴」の被弾は避けられたかもしれない。
その可能性は極めて大きいだろう。
しかし、逆に考えれば、太平洋艦隊があと一隻空母を多く用意していれば、被害はこの程度では済まなかった。
ある意味において、二航艦は幸運だったとも言える。
(やはり、米軍は侮れない)
空母の数こそ四対三だが、しかし艦上機の数においてはこちらが二倍は優勢だったはずだ。
それでもなお完勝には至らず、「翔鶴」を傷つけられてしまった。
ただ、そういった思いはそれとして、生沢長官は動揺した様子を見せず、新たな指示を出していく。
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