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マーシャル沖海戦
第23話 撤退戦
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「被雷した『オクラホマ』ですが、同艦については先ほど総員退艦命令が出されたそうです」
情報参謀からもたらされた凶報に、水上打撃部隊を指揮するウィリアム・S・パイ中将は小さく頷くことで了解の意を伝える。
同時に、後悔の念とともにこれまでの戦いを思い起こす。
フィリピン救援のための足掛かり、あるいはその橋頭堡とも言える存在の候補地として、太平洋艦隊は戦前からマーシャル諸島に目をつけていた。
同諸島は艦隊泊地として好適なうえに、さらに複数の飛行場適地を抱えている。
それは、つまりは艦隊の前進基地としての条件を備えているということだ。
そのマーシャル攻略作戦は、最初は順調だった。
ハルゼー提督率いる機動部隊は同地を守る日本軍の基地航空隊を圧倒。
たったの一日で制空権を確たるものとした。
しかし、順調なのはそこまでだった。
蹉跌の始まりは、世界の海軍史上初となる空母同士の戦いに敗れたことだった。
この結果、「エンタープライズ」と「サラトガ」、それに「レキシントン」はそのことごとくが日本の艦上機によって沈められてしまった。
さらに、被害はそれだけにとどまらなかった。
空母を守っていた九隻の重巡とそれに一八隻の駆逐艦もまた、そのすべてが日本の急降下爆撃機によって撃破されてしまった。
そして、このうち二隻の駆逐艦が空母の後を追うようにして海底深く沈んでいった。
辛酸を嘗めたのは機動部隊だけではなかった。
水上打撃部隊もまた空襲に遭い、駆逐艦「ダウンズ」が敵の急降下爆撃機によって撃沈された。
パイ提督にとって信じられなかったのは第一戦艦戦隊の損害だった。
第一戦艦戦隊の「アリゾナ」と「ネバダ」、それに「オクラホマ」はそれぞれ一〇機足らずの日本の艦上機による雷撃を受けた。
「アリゾナ」と「ネバダ」はそれぞれ二本、「オクラホマ」に至っては三本の魚雷をその下腹に突き込まれた。
被雷した三隻の戦艦のうち、「アリゾナ」と「ネバダ」はどうにか浸水を食い止め、さらに応急注排水によって艦の水平を取り戻すことに成功している。
しかし、「オクラホマ」のほうはダメコンチームの必死の活動も虚しく、浸水を食い止めることができずにいた。
そして、そのことで総員退艦、放棄のやむなきに至った。
あるいは、被雷が左舷に集中することなく両舷に分散していれば、ひょっとしたら「オクラホマ」は助かったかもしれない。
しかし、所詮はタラレバの話だ。
(我々が敗れた最大の原因は、明らかに情報ミスによるものだ)
マーシャル攻略作戦が始まる前、パイ提督はハワイの情報部から日本海軍が太平洋正面に割ける主力艦は、最大でも戦艦が八隻に空母が二隻だとレクチャーされていた。
しかし、実際には戦艦こそ六隻と当初見積もりより少なかったものの、しかし空母のほうは四隻もあった。
そして、三対四の劣勢の戦いを強いられた味方の空母は、そのことごとくが撃沈されてしまった。
(敵の空母が四隻というのも怪しい。実際にはもっと多いのではないか)
パイ提督の胸中には疑念が渦巻いている。
四隻の空母の割には、その艦上機の数が多すぎるのだ。
実際、パイ提督が受けた報告では、太平洋艦隊に来襲した敵の艦上機は、第一波それに第二波ともに二〇〇機にも及ぶ規模だったという。
さらに、味方の攻撃隊に立ちはだかった日本の戦闘機もその数は一〇〇機に迫るものだったらしい。
そして、これら以外にも日本艦隊はそれなりの数の偵察機を索敵に投入していたはずだ。
もちろん、戦果やあるいは敵戦力の見積もりといったものはとかく過大評価されがちだから、報告に上がってきた数をそのまま鵜呑みにするわけにもいかない。
それでも、四〇〇機を大きく超えることは間違いないだろう。
そうであれば、空母は四隻どころでは済まないはずだ。
(あるいは、日本の空母は一〇〇機を大きく超える機体を搭載できるのか)
そう考えれば一応の辻褄は合う。
しかし、それは考えにくかった。
搭載できる艦上機の増大を第一義に考えて設計されている友軍空母でさえ、難なく運用できるのはせいぜいが八〇機程度までなのだ。
もし、一〇〇機も搭載しようものなら、飛行甲板の運用はそれこそ窮屈極まりないものになるだろう。
そのようなことを考えつつ、しかしパイ提督は現実にその意識を戻す。
これから自身が成すべきことは、戦の中でも最高難易度とされる撤退戦を成功させることだからだ。
おそらく、日本の機動部隊はさらなる空襲を仕掛けてくる。
そして、劣勢から一転して優勢になった日本の水上打撃部隊もまた追撃戦に移行しているはずだ。
(こちらの残存戦力は水上打撃部隊のみ。それでもあと一度の空襲をしのげば、光明は見えてくる)
パイ提督に残された手札は直率する第四戦艦戦隊の「ウエストバージニア」と「メリーランド」、それに第二戦艦戦隊の「テネシー」と「カリフォルニア」、それに「ペンシルベニア」の五隻の戦艦。
そして、その近侍として第九巡洋艦戦隊の「セントルイス」と「ヘレナ」、それに「フェニックス」と「ホノルル」の四隻の軽巡と一五隻の駆逐艦。
そして、それら手勢をもって、深手を負った二隻の戦艦と九隻の重巡、それに一六隻の駆逐艦を守りつつオアフ島に逃げ帰らなければならない。
それに大敗したとはいえ、完全喪失となったのは戦艦が一隻とそれに空母と駆逐艦がそれぞれ三隻の合わせて七隻にしか過ぎない。
それら七隻についても、乗組員の多くは友軍艦によって救助されている。
貴重な将兵の損耗は、現時点ではそれほどでもないのだ。
(だからこそ、この撤退戦は是が非でも成功させなければならない)
人さえ無事なら、太平洋艦隊の再建は容易だ。
あと半年もすれば「ノースカロライナ」級を上回る新型戦艦の数も揃うし、一年後には新型空母もその姿を現しているはずだ。
そして、その新鋭艦の能力を十全に生かすためには大勢の優秀な将兵が必要となってくる。
(それに、日本艦隊もそれなりの手傷を負っている)
味方の機動部隊もただ一方的にやられたわけではなく、四隻あるうちの一隻についてこれを撃破したとのことだ。
沈没にまで至るかどうかは分からないが、しかし戦力を喪失したことは間違いないだろう。
また、友軍戦闘機は一〇〇機を超える日本機を空中戦で、さらに艦艇は対空砲火によって数十機を撃墜したらしい。
ただし、航空機の撃墜については重複による水増しが多いから、実際の戦果はこの半分程度だと考えておいたほうが無難だろう。
それでも、これだけ撃墜したということは、一方で損傷した機体もかなりの数に上るはずだ。
飛行機は精密機械であり、少しでも不具合があれば飛ばすことはできない。
おそらく、日本の艦上機の稼働率もまた相当に落ち込んでいることだろう。
そう考え、パイ提督は次なる戦いに備えた。
情報参謀からもたらされた凶報に、水上打撃部隊を指揮するウィリアム・S・パイ中将は小さく頷くことで了解の意を伝える。
同時に、後悔の念とともにこれまでの戦いを思い起こす。
フィリピン救援のための足掛かり、あるいはその橋頭堡とも言える存在の候補地として、太平洋艦隊は戦前からマーシャル諸島に目をつけていた。
同諸島は艦隊泊地として好適なうえに、さらに複数の飛行場適地を抱えている。
それは、つまりは艦隊の前進基地としての条件を備えているということだ。
そのマーシャル攻略作戦は、最初は順調だった。
ハルゼー提督率いる機動部隊は同地を守る日本軍の基地航空隊を圧倒。
たったの一日で制空権を確たるものとした。
しかし、順調なのはそこまでだった。
蹉跌の始まりは、世界の海軍史上初となる空母同士の戦いに敗れたことだった。
この結果、「エンタープライズ」と「サラトガ」、それに「レキシントン」はそのことごとくが日本の艦上機によって沈められてしまった。
さらに、被害はそれだけにとどまらなかった。
空母を守っていた九隻の重巡とそれに一八隻の駆逐艦もまた、そのすべてが日本の急降下爆撃機によって撃破されてしまった。
そして、このうち二隻の駆逐艦が空母の後を追うようにして海底深く沈んでいった。
辛酸を嘗めたのは機動部隊だけではなかった。
水上打撃部隊もまた空襲に遭い、駆逐艦「ダウンズ」が敵の急降下爆撃機によって撃沈された。
パイ提督にとって信じられなかったのは第一戦艦戦隊の損害だった。
第一戦艦戦隊の「アリゾナ」と「ネバダ」、それに「オクラホマ」はそれぞれ一〇機足らずの日本の艦上機による雷撃を受けた。
「アリゾナ」と「ネバダ」はそれぞれ二本、「オクラホマ」に至っては三本の魚雷をその下腹に突き込まれた。
被雷した三隻の戦艦のうち、「アリゾナ」と「ネバダ」はどうにか浸水を食い止め、さらに応急注排水によって艦の水平を取り戻すことに成功している。
しかし、「オクラホマ」のほうはダメコンチームの必死の活動も虚しく、浸水を食い止めることができずにいた。
そして、そのことで総員退艦、放棄のやむなきに至った。
あるいは、被雷が左舷に集中することなく両舷に分散していれば、ひょっとしたら「オクラホマ」は助かったかもしれない。
しかし、所詮はタラレバの話だ。
(我々が敗れた最大の原因は、明らかに情報ミスによるものだ)
マーシャル攻略作戦が始まる前、パイ提督はハワイの情報部から日本海軍が太平洋正面に割ける主力艦は、最大でも戦艦が八隻に空母が二隻だとレクチャーされていた。
しかし、実際には戦艦こそ六隻と当初見積もりより少なかったものの、しかし空母のほうは四隻もあった。
そして、三対四の劣勢の戦いを強いられた味方の空母は、そのことごとくが撃沈されてしまった。
(敵の空母が四隻というのも怪しい。実際にはもっと多いのではないか)
パイ提督の胸中には疑念が渦巻いている。
四隻の空母の割には、その艦上機の数が多すぎるのだ。
実際、パイ提督が受けた報告では、太平洋艦隊に来襲した敵の艦上機は、第一波それに第二波ともに二〇〇機にも及ぶ規模だったという。
さらに、味方の攻撃隊に立ちはだかった日本の戦闘機もその数は一〇〇機に迫るものだったらしい。
そして、これら以外にも日本艦隊はそれなりの数の偵察機を索敵に投入していたはずだ。
もちろん、戦果やあるいは敵戦力の見積もりといったものはとかく過大評価されがちだから、報告に上がってきた数をそのまま鵜呑みにするわけにもいかない。
それでも、四〇〇機を大きく超えることは間違いないだろう。
そうであれば、空母は四隻どころでは済まないはずだ。
(あるいは、日本の空母は一〇〇機を大きく超える機体を搭載できるのか)
そう考えれば一応の辻褄は合う。
しかし、それは考えにくかった。
搭載できる艦上機の増大を第一義に考えて設計されている友軍空母でさえ、難なく運用できるのはせいぜいが八〇機程度までなのだ。
もし、一〇〇機も搭載しようものなら、飛行甲板の運用はそれこそ窮屈極まりないものになるだろう。
そのようなことを考えつつ、しかしパイ提督は現実にその意識を戻す。
これから自身が成すべきことは、戦の中でも最高難易度とされる撤退戦を成功させることだからだ。
おそらく、日本の機動部隊はさらなる空襲を仕掛けてくる。
そして、劣勢から一転して優勢になった日本の水上打撃部隊もまた追撃戦に移行しているはずだ。
(こちらの残存戦力は水上打撃部隊のみ。それでもあと一度の空襲をしのげば、光明は見えてくる)
パイ提督に残された手札は直率する第四戦艦戦隊の「ウエストバージニア」と「メリーランド」、それに第二戦艦戦隊の「テネシー」と「カリフォルニア」、それに「ペンシルベニア」の五隻の戦艦。
そして、その近侍として第九巡洋艦戦隊の「セントルイス」と「ヘレナ」、それに「フェニックス」と「ホノルル」の四隻の軽巡と一五隻の駆逐艦。
そして、それら手勢をもって、深手を負った二隻の戦艦と九隻の重巡、それに一六隻の駆逐艦を守りつつオアフ島に逃げ帰らなければならない。
それに大敗したとはいえ、完全喪失となったのは戦艦が一隻とそれに空母と駆逐艦がそれぞれ三隻の合わせて七隻にしか過ぎない。
それら七隻についても、乗組員の多くは友軍艦によって救助されている。
貴重な将兵の損耗は、現時点ではそれほどでもないのだ。
(だからこそ、この撤退戦は是が非でも成功させなければならない)
人さえ無事なら、太平洋艦隊の再建は容易だ。
あと半年もすれば「ノースカロライナ」級を上回る新型戦艦の数も揃うし、一年後には新型空母もその姿を現しているはずだ。
そして、その新鋭艦の能力を十全に生かすためには大勢の優秀な将兵が必要となってくる。
(それに、日本艦隊もそれなりの手傷を負っている)
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また、友軍戦闘機は一〇〇機を超える日本機を空中戦で、さらに艦艇は対空砲火によって数十機を撃墜したらしい。
ただし、航空機の撃墜については重複による水増しが多いから、実際の戦果はこの半分程度だと考えておいたほうが無難だろう。
それでも、これだけ撃墜したということは、一方で損傷した機体もかなりの数に上るはずだ。
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