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第二段作戦
第29話 戦闘機重視
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山本長官からの視線を忖度した生沢長官は、まずは礼を述べることで会話のとっかかりとすることにした。
相手の真意が分からない以上、ここは無難に徹するべきだった。
「私が要望した艦戦の増強ですが、このことで長官にはひとかたならぬご尽力をいただきました。まずは、このことについてお礼申し上げます」
生沢長官が指揮する第二航空艦隊の四隻の「翔鶴」型空母だが、その艦上機の定数については艦爆と艦攻がそれぞれ五個中隊四五機だったのに対し、艦戦のほうは三個中隊二七機となっていた。
これに対し、当時の生沢長官は戦闘機の比率が低すぎるとして異議を申し立てた。
そして、自身の案として艦爆と艦攻をそれぞれ二個中隊減らす替わりに艦戦を四個中隊増強してこれを七個中隊にするよう要求した。
制空権の獲得を何よりも重視する生沢長官としては、全体の半数以上は艦戦で固めておく必要性を痛切に感じていたからだ。
しかし、その生沢長官の思いとは裏腹に、戦闘機を防御兵器だと勘違いしている連中からは敢闘精神に欠けるなどといった陰口を叩かれたりもした。
ただ、それぞれの主張は何であれ、海軍上層部まで巻き込んだ議論は山本長官の取り成しによって一応の決着をみた。
その内容は、艦爆と艦攻についてはこれをそれぞれ一個中隊減らし、その一方で艦戦を二個中隊増強するという、いかにも日本的な折衷案だった。
ただ、このことで「翔鶴」型空母については、艦戦が三個中隊から五個中隊へと、実に七割近くその数を増やすことができた。
一方で艦爆と艦攻についてはそれぞれ四五機だったものが三六機となったことから、こちらは二割の戦力ダウンとなっている。
ただ、この措置でさえ決して生沢長官を満足させるものではなかった。
しかし、帝国海軍における艦戦への評価を考えれば、これが二七機から四五機に増えただけでも良しとせざるを得なかった。
「なあに、礼には及ばんよ。むしろ、生沢さんからの要求をはねつけていたらと思うと、それこそ冷や汗が出る思いだ」
そう言って山本長官は苦笑する。
二航艦から上がってきた戦闘詳報だが、こちらには当然のこととして艦戦隊の戦いぶりもまた記されていた。
そして、その戦いはほとんど余裕が無いものだと言ってよかった。
第一次攻撃隊に随伴した七二機の零戦は、しかし七〇乃至八〇機と思われる戦闘機や爆撃機による波状攻撃にも似た迎撃を受けた。
このことで零戦隊は次々に引き剥がされ、最後まで艦爆隊や艦攻隊に随伴できたのはわずかに一個中隊にしか過ぎなかった。
第二次攻撃隊の三六機の零戦もまた襲撃してきた二〇機ほどの敵機を相手に迎撃戦を展開した。
こちらは相手の数が少なかったこともあり、余裕をもって戦いに臨むことができた。
しかし、これとて第一次攻撃隊の零戦が事前に敵の迎撃機の大半を刈り取ってくれていたおかげだ。
もし、第一次攻撃隊の零戦の数が少なければ、その分だけ撃ち漏らしも多くなったことだろうし、そのことで第二次攻撃隊に立ちはだかる迎撃機の数もまた増大していたはずだ。
もし、そうであれば、果たして三六機の零戦で敵の迎撃機のそのすべてを捌けたかどうかは甚だ疑問だ。
攻撃隊に随伴した零戦が九九艦爆や九七艦攻を守りきったのとは裏腹に、直掩隊の零戦は与えられた使命を完璧に全うすることが出来なかった。
一五〇機程度と思われる米攻撃隊を相手取った直掩隊の七二機の零戦は、しかしその数が少なすぎた。
そのことで「翔鶴」に被弾を許す結果となった。
二航艦司令部のほうは、あと少し零戦が有れば、「翔鶴」は被弾することなく無傷で米攻撃隊の猛攻からその身を守ることが出来たはずだと戦闘詳報に記している。
実際に二航艦上空に姿を現したのは二〇機ほどの急降下爆撃機のみだったというから、そうであればあと一個中隊の零戦があれば、かなりの確率でそれらを阻止することに成功していたはずだ。
逆に考えれば、零戦が当初予定の三個中隊のままでマーシャル沖海戦に臨んでいれば、少なくない九九艦爆や九七艦攻が敵迎撃機によって食われたはずだった。
そして、撃破された空母も「翔鶴」一隻だけでは済まなかっただろう。
そのことを考えただけでも、生沢長官の戦闘機重視の方針がいかに正しかったのかが分かる。
確かに、九九艦爆や九七艦攻を減らしたことによって対艦打撃力はその分だけ低下することは間違いのないところだろう。
しかし、一方で零戦の数を増やしたことによってそれら機体はそのすべてが敵機に墜とされることもなく目標とする敵艦に取り付くことが出来た。
これは、ある意味において九九艦爆や九七艦攻を増勢したのにも似た効果を挙げているとも解釈できる。
一つ確かなことは、零戦の増強によって味方の損害を軽減することが出来たという事実だ。
そして、これは米国に比べて明らかに回復力が劣る日本にとっては、それこそ大きな助けとなっている。
「今回の戦いで艦戦に対する評価はおおいに上がった。そのことで、『翔鶴』型以外の空母についても、戦闘機の比率が上がることはあっても下がることは無いはずだ。そして、それが可能なのも戦前における生沢さんの働きがあってのことだ。これについても、改めて礼を言わせてもらう」
山本長官の重ねての礼に、生沢長官は自身が少将だった頃を思い出す。
その当時、一部の者の間で戦闘機無用論というものが流行っていた。
急速にその性能を上げつつある高速爆撃機に対し、一方の戦闘機はこれに追いつくことが出来なくなる。
そうであるならば、戦闘機など不要だといった乱暴な意見だ。
しかも、あろうことか軍令部までがその尻馬に乗り、そして戦闘機を削ろうと図った。
その軍令部主導による戦闘機搭乗員縮小計画に反対したのが生沢長官その人だった。
そして、生沢長官は生来の口のうまさから、同計画を撤回させることに成功する。
そのことで、帝国海軍の戦闘機とその搭乗員は余裕こそ無いものの、それでも今回のマーシャル沖海戦で失われた搭乗員の穴を埋める程度のことであれば、それは十分に可能なはずだった。
山本長官が言っているのは、おそらくはそのことだろう。
(あれは、もとはと言えば当時大尉だった志津頼航空甲参謀に泣きつかれて手を差し伸べたものにしか過ぎなかった話だ。しかし、今にして思えば僥倖以外のなにものでもなかったな)
胸中でそのようなことを思いつつ、生沢長官は山本長官からの礼に対して話を合わせておく。
志津頼航空甲参謀の手柄を横取りする形になって少しばかり気が引けるが、しかし今後の自身の発言力の強化を考えるのであれば、致し方無しといったところだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀には後で本当のことを話すつもりでいた。
入手困難な舶来のウイスキーを手土産に事情を話せば、酒好きの志津頼航空甲参謀であればこれを納得してくれるはずだった。
相手の真意が分からない以上、ここは無難に徹するべきだった。
「私が要望した艦戦の増強ですが、このことで長官にはひとかたならぬご尽力をいただきました。まずは、このことについてお礼申し上げます」
生沢長官が指揮する第二航空艦隊の四隻の「翔鶴」型空母だが、その艦上機の定数については艦爆と艦攻がそれぞれ五個中隊四五機だったのに対し、艦戦のほうは三個中隊二七機となっていた。
これに対し、当時の生沢長官は戦闘機の比率が低すぎるとして異議を申し立てた。
そして、自身の案として艦爆と艦攻をそれぞれ二個中隊減らす替わりに艦戦を四個中隊増強してこれを七個中隊にするよう要求した。
制空権の獲得を何よりも重視する生沢長官としては、全体の半数以上は艦戦で固めておく必要性を痛切に感じていたからだ。
しかし、その生沢長官の思いとは裏腹に、戦闘機を防御兵器だと勘違いしている連中からは敢闘精神に欠けるなどといった陰口を叩かれたりもした。
ただ、それぞれの主張は何であれ、海軍上層部まで巻き込んだ議論は山本長官の取り成しによって一応の決着をみた。
その内容は、艦爆と艦攻についてはこれをそれぞれ一個中隊減らし、その一方で艦戦を二個中隊増強するという、いかにも日本的な折衷案だった。
ただ、このことで「翔鶴」型空母については、艦戦が三個中隊から五個中隊へと、実に七割近くその数を増やすことができた。
一方で艦爆と艦攻についてはそれぞれ四五機だったものが三六機となったことから、こちらは二割の戦力ダウンとなっている。
ただ、この措置でさえ決して生沢長官を満足させるものではなかった。
しかし、帝国海軍における艦戦への評価を考えれば、これが二七機から四五機に増えただけでも良しとせざるを得なかった。
「なあに、礼には及ばんよ。むしろ、生沢さんからの要求をはねつけていたらと思うと、それこそ冷や汗が出る思いだ」
そう言って山本長官は苦笑する。
二航艦から上がってきた戦闘詳報だが、こちらには当然のこととして艦戦隊の戦いぶりもまた記されていた。
そして、その戦いはほとんど余裕が無いものだと言ってよかった。
第一次攻撃隊に随伴した七二機の零戦は、しかし七〇乃至八〇機と思われる戦闘機や爆撃機による波状攻撃にも似た迎撃を受けた。
このことで零戦隊は次々に引き剥がされ、最後まで艦爆隊や艦攻隊に随伴できたのはわずかに一個中隊にしか過ぎなかった。
第二次攻撃隊の三六機の零戦もまた襲撃してきた二〇機ほどの敵機を相手に迎撃戦を展開した。
こちらは相手の数が少なかったこともあり、余裕をもって戦いに臨むことができた。
しかし、これとて第一次攻撃隊の零戦が事前に敵の迎撃機の大半を刈り取ってくれていたおかげだ。
もし、第一次攻撃隊の零戦の数が少なければ、その分だけ撃ち漏らしも多くなったことだろうし、そのことで第二次攻撃隊に立ちはだかる迎撃機の数もまた増大していたはずだ。
もし、そうであれば、果たして三六機の零戦で敵の迎撃機のそのすべてを捌けたかどうかは甚だ疑問だ。
攻撃隊に随伴した零戦が九九艦爆や九七艦攻を守りきったのとは裏腹に、直掩隊の零戦は与えられた使命を完璧に全うすることが出来なかった。
一五〇機程度と思われる米攻撃隊を相手取った直掩隊の七二機の零戦は、しかしその数が少なすぎた。
そのことで「翔鶴」に被弾を許す結果となった。
二航艦司令部のほうは、あと少し零戦が有れば、「翔鶴」は被弾することなく無傷で米攻撃隊の猛攻からその身を守ることが出来たはずだと戦闘詳報に記している。
実際に二航艦上空に姿を現したのは二〇機ほどの急降下爆撃機のみだったというから、そうであればあと一個中隊の零戦があれば、かなりの確率でそれらを阻止することに成功していたはずだ。
逆に考えれば、零戦が当初予定の三個中隊のままでマーシャル沖海戦に臨んでいれば、少なくない九九艦爆や九七艦攻が敵迎撃機によって食われたはずだった。
そして、撃破された空母も「翔鶴」一隻だけでは済まなかっただろう。
そのことを考えただけでも、生沢長官の戦闘機重視の方針がいかに正しかったのかが分かる。
確かに、九九艦爆や九七艦攻を減らしたことによって対艦打撃力はその分だけ低下することは間違いのないところだろう。
しかし、一方で零戦の数を増やしたことによってそれら機体はそのすべてが敵機に墜とされることもなく目標とする敵艦に取り付くことが出来た。
これは、ある意味において九九艦爆や九七艦攻を増勢したのにも似た効果を挙げているとも解釈できる。
一つ確かなことは、零戦の増強によって味方の損害を軽減することが出来たという事実だ。
そして、これは米国に比べて明らかに回復力が劣る日本にとっては、それこそ大きな助けとなっている。
「今回の戦いで艦戦に対する評価はおおいに上がった。そのことで、『翔鶴』型以外の空母についても、戦闘機の比率が上がることはあっても下がることは無いはずだ。そして、それが可能なのも戦前における生沢さんの働きがあってのことだ。これについても、改めて礼を言わせてもらう」
山本長官の重ねての礼に、生沢長官は自身が少将だった頃を思い出す。
その当時、一部の者の間で戦闘機無用論というものが流行っていた。
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そうであるならば、戦闘機など不要だといった乱暴な意見だ。
しかも、あろうことか軍令部までがその尻馬に乗り、そして戦闘機を削ろうと図った。
その軍令部主導による戦闘機搭乗員縮小計画に反対したのが生沢長官その人だった。
そして、生沢長官は生来の口のうまさから、同計画を撤回させることに成功する。
そのことで、帝国海軍の戦闘機とその搭乗員は余裕こそ無いものの、それでも今回のマーシャル沖海戦で失われた搭乗員の穴を埋める程度のことであれば、それは十分に可能なはずだった。
山本長官が言っているのは、おそらくはそのことだろう。
(あれは、もとはと言えば当時大尉だった志津頼航空甲参謀に泣きつかれて手を差し伸べたものにしか過ぎなかった話だ。しかし、今にして思えば僥倖以外のなにものでもなかったな)
胸中でそのようなことを思いつつ、生沢長官は山本長官からの礼に対して話を合わせておく。
志津頼航空甲参謀の手柄を横取りする形になって少しばかり気が引けるが、しかし今後の自身の発言力の強化を考えるのであれば、致し方無しといったところだ。
もちろん、志津頼航空甲参謀には後で本当のことを話すつもりでいた。
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