征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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第二段作戦

第30話 第二段作戦

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 「それと、これは参考までに伺っておきたいのだが」

 そう話す山本長官の口調は、少しばかり改まったものになっている。
 そのことを敏感に悟った高須長官と生沢長官は、心の中で身構える。
 それに、迂闊なことを口走ればやぶ蛇となりかねない。
 意見を言った者がそのまま実行役とその責任まで押し付けられるというのは、日本社会ではよくある話だ。

 「第二段作戦についてだが、こちらは軍令部とそれに連合艦隊司令部で意見が割れている。連合艦隊司令部としてはハワイへの進軍を考えている。太平洋艦隊が壊滅し、そのうえハワイまで陥ちたとなれば、そのことで米国民が受ける衝撃は非常に大きなものとなるだろう。そして、それを奇貨として米政府を講和交渉のテーブルに引きずり出す。
 しかし、一方の軍令部のほうは米豪遮断を第一としているために、我々の方針に難色を示している。だが、軍令部のやり方は長期持久のそれだ。米国に比べて圧倒的に国力が劣る我が国がそのような真似をすれば、いずれは彼の国の物量に押し潰されてしまうことになるだろう」

 戦争が始まってまだ一月余り。
 そのような時期に第二段作戦が取り沙汰されるのも、ひとえに南方作戦が順調に推移しているからだろう。
 特にその大きな原動力となっているのが南雲機動部隊と呼ばれる第一航空艦隊の存在だ。

 同艦隊は開戦と同時に在比米航空軍を撃滅。
 その後は南方作戦に携わる各部隊の支援にあたり、同戦域に展開する米英蘭豪艦隊の艦艇を沈めて回った。
 水上艦艇では捕捉が困難な巡洋艦や駆逐艦といった高速艦艇も、しかし飛行機に比べればのろまな亀も同然だ。
 そして、手練れが多く含まれる一航艦の艦上機隊は、それこそ面白いようにこれら艦艇を相次いで討ち取っていった。
 また、それら艦上機隊は対地支援にも絶大な威力を発揮し、そのことで南方作戦は予想を遥かに超える進捗を見せている。

 ただ、それはそれとして高須長官も生沢長官も、山本長官の意図をあっさりと見抜いている。
 マーシャル沖海戦で水上打撃部隊を指揮した高須長官と、それに機動部隊を率いた生沢長官は、同海戦で日本海海戦を上回る大勝利を挙げた立役者として新聞などではそれこそ軍神のような扱いを受けていた。
 そして、その国民に大人気の二人を連合艦隊陣営に取り込むことで、軍令部との交渉を有利に進めたいのだろう。
 山本長官に加え、高須長官とそれに生沢長官が意を同じくすれば、軍令部のほうは間違いなく大幅な譲歩を強いられることになる。

 (巻き込まれたか)

 生沢長官は口には出すことなく、胸中で苦虫を噛み潰している。
 隣の高須長官もその表情に変化は見られないが、しかし似たような思いを抱いていることは容易に想像がついた。
 つまらない組織内の争いとそのやり口に辟易としつつも、しかし生沢長官はこれを好機と捉え直す。
 上層部の思惑に巻き込まれて、ただただ翻弄されるだけなどバカバカしいにも程がある。
 ならば、この機会を利用して連合艦隊司令部や軍令部の連中をまとめて自身の思惑に沿うように誘導してやればいい。

 「軍令部のやり方は、現状を考えればあまり好ましいものだとは思えません。もし仮に米豪連絡線を遮断するのであれば、まずはラバウルなりポートモレスビーなりを占領して前線基地を造る必要があります。そして、その基地を維持するためには膨大な戦争資源が必要になってくる。もちろん、それらは本土から船舶を使って送られることになりますが、しかしそうなってくると西太平洋に南北五〇〇〇キロにも及ぶ長大な海上交通線を設定、これを維持しなければなりません。
 一方、米海軍はその海上交通線に対して、間違いなく多数の潜水艦を繰り出してきます。多くの水上艦艇を失ったことで潜水艦による通商破壊戦以外にこれといった方策の無い米海軍からすれば、米豪遮断はそれこそ願ったり叶ったりといった振る舞いに映ることでしょう」

 軍令部の考えに否定的な生沢長官に対し、山本長官のほうは我が意を得たりとばかりに大きく頷く。
 帝国海軍は艦隊決戦に勝利することをその本分と考えており、そのことで商船の護衛をはじめとする海上交通線の維持についてはそれほど熱心ではなかった。
 実際、帝国海軍の戦備は艦隊決戦にそのリソースのほとんどを費やしており、海上交通線の保護に対しては、それこそ微々たるものと言って差し支えなかった。
 それゆえに、五〇〇〇キロにも及ぶ長大な海上交通線の防衛は、はっきり言ってかなりきついというか、不可能に近い。

 「それと、連合艦隊司令部が意図するハワイ進攻ですが、占領後の維持が可能かどうかはこの際置いておくとして、しかしこちらもまた米政府を講和のテーブルに引きずり出すにはいささかばかりインパクトに欠けます。もし逆に、我が国が艦隊の半数を失って、さらにマリアナや小笠原諸島を敵に奪われたとしても、しかしそれだけで米国に屈するようなことは無いはずです。米国もまた同様でしょう。あるいは、西海岸一帯を占領することができれば話は違ってくるかもしれませんが、しかし我が国にそのような力が無いことは明白です」

 連合艦隊司令部、それに軍令部の方針に堂々と異を唱える生沢長官に、山本長官は苦笑を返すしかなかった。
 とてもではないが、立身出世を志す人間の振る舞いではない。
 おそらく、生沢長官は上の人間からの評価など、あまり考えていないのだろう。

 同時に、山本長官は連合艦隊司令部と軍令部とのパワーゲームにおいて、生沢長官は使い物にならないと判断する。
 三国同盟に反対し、米国との戦についてもこれに反対していた生沢長官であれば、自分の考えに賛同してもらえると思っていたが、どうやら見込み違いだったらしい。
 その生沢長官の米国に対する評価は、山本長官自身が考えるそれの遥か上をいっている。
 逆に、山本長官から見れば、生沢長官は米国を過大評価し過ぎているように思えて仕方がなかった。

 ただ、それはそれとして山本長官は生沢長官に第二段作戦について、腹案を持ち合わせているかどうかを尋ねる。
 米国に対する分析に相違はあれども、しかしそれ以外については生沢長官を評価していたからだ。
 その彼から返ってきた答えは、拍子抜けするくらいにありきたりなものだった。

 「インド洋に打って出るべきだと考えます。そして、まずは東洋艦隊を撃滅します」
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