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第二段作戦
第32話 作戦目標
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「連合艦隊司令部はハワイ攻略を、軍令部のほうは米豪遮断を第一に考えているということですか。しかし、これじゃあまるで船頭多くして船山に登るってやつを地で行くような話ですね。でも、いいんですか? 一介の中佐にしか過ぎない私にそのような重要情報を漏らしてしまって」
山本長官との会合の顛末を話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀が帝国海軍軍人らしからぬ口調で感想を漏らす。
タメ口に近い言葉遣いだが、しかし生沢長官のほうは気にしない。
要は仕事が出来るかどうか、つまりは使える奴かどうかが問題だ。
その点で言えば、志津頼航空甲参謀は満点とまではいかないものの、それでも十分に合格点を与えられる水準にある。
だから、いつも便利使いしている。
「構わん。貴官は言葉は軽いが、一方で口が堅いことは十分に承知している。それに、ハワイ攻略も米豪遮断も言ってみれば絵に描いた餅だ。どちらも国家の力量を弁えない者の戯言にしか過ぎん」
辛辣な生沢長官だが、しかし一方の志津頼航空甲参謀もまた同じ思いを抱いている。
日本にハワイを占領する力は無い。
もちろん、ごく短期間であれば可能かもしれない。
だが、それではほとんど意味が無い。
もし仮にこれを実行でもしようものなら、それこそ貴重な予算と資源と時間をドブに捨てるだけの愚行に終わるだろう。
軍令部が企図しているという米豪遮断にしたところで、その長大な補給線を守るための十分な護衛戦力が存在しない。
艦隊決戦という馬鹿の一つ覚えで戦備を構築してきたのだから、それも当然のことだ。
もし、これを実施すれば、自国の商船を米潜水艦に生贄として捧げる結果になることは目に見えている。
「連合艦隊司令部と軍令部がアレな集団であることは理解しましたが、それはそれとして、結局のところ帝国海軍はこれからどう動くのですか」
アレと言葉を濁しているものの、しかしそれを差し置いても不敬極まりない志津頼航空甲参謀に生沢長官は苦笑するしかない。
ただ、あながち間違ってもいないので、そのことで志津頼航空甲参謀を窘めるつもりもない。
「南方作戦のあらかたが片付いた時点で西へ向かうことになる。もちろん、これについてはハワイ攻略に固執する連合艦隊司令部が難色を示している。しかし、一方で海軍省がやる気になっている。まあ、海軍省が西を志向するのは外交問題、端的に言えばドイツから突き上げがあったことがその大きな理由だ。それと、援蒋ルートの途絶が期待できることで、陸軍もまたその方針に賛同している。
残る軍令部だが、こちらはいまだに米豪遮断に未練があるようだ。それでも、ハワイを攻略するくらいなら西へ向かうほうがマシだと考えたのだろう。それで、今のところは海軍省の支持に回っている」
開戦以降、ドイツから日本政府に対してソ連を相手に参戦を求める声が、それこそ連日のように届けられている。
一方、日本政府のほうだが、こちらはソ連に対する参戦については頑なな態度を崩していなかった。
そもそもとして、米国や中国を相手に予算や人材、それに資源がまったくと言っていいほどに足りていない状況で、さらにソ連を相手取ることなど思いもつかない。
ただ、ノーとばかり言っていては同盟国としての信義にもとる。
そこで、次善の策として太平洋艦隊を撃ち破ったことで戦力に余裕が出来た海軍艦艇をインド洋に送り込むことにした。
「海軍省と軍令部、それに陸軍とドイツまでが意を同じくしているのであれば、西へ向かうという方針は決定事項だと考えて間違いありませんね。ただ、なんにせよ我々が遠くインド洋にまで出張るのであれば、ドイツも頑張ってスエズ打通くらいは成し遂げてほしいものですが」
志津頼航空甲参謀が言うスエズ打通。
それがかなえば、それは日本と欧州を結ぶ交通線が開通するということだ。
このメリットは、ドイツよりもむしろ日本のほうが大きい。
ドイツの高性能な工業製品や、あるいは高度な軍事技術の導入を図ることができるからだ。
もちろん、ドイツの側も南方地帯で産出される希少金属をはじめとした天然資源を獲得することがかなう。
それでも日本ほどにはそのメリットは大きくないだろう。
「それについては嶋田さんに伝えてある。インド洋に艦艇を派遣する見返りに、ドイツに対してスエズ打通を要求してみてはどうかとな」
嶋田さんというのは嶋田繁太郎大将であり、軍政のトップである海軍大臣を務めている。
その彼に、生沢長官はドイツとバーター取引をするよう持ちかけたのだ。
嶋田大臣としても、ドイツや陸軍に言われるがままにインド洋に艦艇を派遣するのは業腹だったのだろう。
生沢長官の献策に耳を傾け、そしてこれをあっさりと採用した。
「南方作戦に目処がついた時点でインド洋に向かうと仮定して、どの部隊が行くことになるんですかね。実績で言えば二航艦と第一艦隊になりそうですが、そうなると一航艦と第二艦隊が黙っていないような気もしますし」
第二航空艦隊と第一艦隊はマーシャル沖海戦で太平洋艦隊を文字通り全滅させるという未曾有の大戦果を挙げた。
一方、第一航空艦隊と第二艦隊は南方作戦に従事していて、大規模な艦隊決戦とは無縁だった。
もちろん、南方作戦が順調に推移しているのも、一航艦それに第二艦隊の働きがあればこそだ。
それでもやはり二航艦と第一艦隊の活躍に比べれば、明らかに見劣りするのも事実だった。
だからこそ、一航艦それに第二艦隊の連中は自分たちがスポットライトを浴びることができる機会を求めている。
志津頼航空甲参謀はそう考えていた。
「そこらあたりはどうなんだろうな。正直、私にも分からん」
そう話しつつ、しかし生沢長官はインド洋に向かうのは二航艦ではなく一航艦ではないかと予想している。
生沢長官はかつて山本長官がその信念としていた真珠湾奇襲攻撃に反対、これを企画倒れに追い込んだ。
さらに、今回はハワイ攻略に真っ向から反対した。
自らの意に反する態度を取り続ける者に対し、しかし山本長官個人はこのことについて、さほど気を悪くしていることはないと生沢長官は考えている。
実際、高須長官を交えた三者会合でも、最後は和気藹々といった雰囲気でその場を締めている。
ただ、山本長官の取り巻き連中、つまりは連合艦隊司令部の参謀たちはそうではないかもしれない。
彼らは山本長官の意を受け、真珠湾奇襲攻撃やハワイ攻略の研究に心血を注いできたはずだ。
それを、部外者とも言える生沢長官が横からでしゃばって台無しにした。
そのことで、連合艦隊司令部幕僚たちの生沢長官に対する心証は決して良くはないはずだ。
そうであれば、そういった連中は、南雲長官が率いる一航艦にこそ次の晴れ舞台をもっていくように無駄な智謀を巡らせるのではないか。
ただ、仮にそうなったとしても、生沢長官としては特に思うところはない。
これまでも、そしてこれからも自分が正しいと思う行動を取り続けるつもりだった。
山本長官との会合の顛末を話す生沢長官に、志津頼航空甲参謀が帝国海軍軍人らしからぬ口調で感想を漏らす。
タメ口に近い言葉遣いだが、しかし生沢長官のほうは気にしない。
要は仕事が出来るかどうか、つまりは使える奴かどうかが問題だ。
その点で言えば、志津頼航空甲参謀は満点とまではいかないものの、それでも十分に合格点を与えられる水準にある。
だから、いつも便利使いしている。
「構わん。貴官は言葉は軽いが、一方で口が堅いことは十分に承知している。それに、ハワイ攻略も米豪遮断も言ってみれば絵に描いた餅だ。どちらも国家の力量を弁えない者の戯言にしか過ぎん」
辛辣な生沢長官だが、しかし一方の志津頼航空甲参謀もまた同じ思いを抱いている。
日本にハワイを占領する力は無い。
もちろん、ごく短期間であれば可能かもしれない。
だが、それではほとんど意味が無い。
もし仮にこれを実行でもしようものなら、それこそ貴重な予算と資源と時間をドブに捨てるだけの愚行に終わるだろう。
軍令部が企図しているという米豪遮断にしたところで、その長大な補給線を守るための十分な護衛戦力が存在しない。
艦隊決戦という馬鹿の一つ覚えで戦備を構築してきたのだから、それも当然のことだ。
もし、これを実施すれば、自国の商船を米潜水艦に生贄として捧げる結果になることは目に見えている。
「連合艦隊司令部と軍令部がアレな集団であることは理解しましたが、それはそれとして、結局のところ帝国海軍はこれからどう動くのですか」
アレと言葉を濁しているものの、しかしそれを差し置いても不敬極まりない志津頼航空甲参謀に生沢長官は苦笑するしかない。
ただ、あながち間違ってもいないので、そのことで志津頼航空甲参謀を窘めるつもりもない。
「南方作戦のあらかたが片付いた時点で西へ向かうことになる。もちろん、これについてはハワイ攻略に固執する連合艦隊司令部が難色を示している。しかし、一方で海軍省がやる気になっている。まあ、海軍省が西を志向するのは外交問題、端的に言えばドイツから突き上げがあったことがその大きな理由だ。それと、援蒋ルートの途絶が期待できることで、陸軍もまたその方針に賛同している。
残る軍令部だが、こちらはいまだに米豪遮断に未練があるようだ。それでも、ハワイを攻略するくらいなら西へ向かうほうがマシだと考えたのだろう。それで、今のところは海軍省の支持に回っている」
開戦以降、ドイツから日本政府に対してソ連を相手に参戦を求める声が、それこそ連日のように届けられている。
一方、日本政府のほうだが、こちらはソ連に対する参戦については頑なな態度を崩していなかった。
そもそもとして、米国や中国を相手に予算や人材、それに資源がまったくと言っていいほどに足りていない状況で、さらにソ連を相手取ることなど思いもつかない。
ただ、ノーとばかり言っていては同盟国としての信義にもとる。
そこで、次善の策として太平洋艦隊を撃ち破ったことで戦力に余裕が出来た海軍艦艇をインド洋に送り込むことにした。
「海軍省と軍令部、それに陸軍とドイツまでが意を同じくしているのであれば、西へ向かうという方針は決定事項だと考えて間違いありませんね。ただ、なんにせよ我々が遠くインド洋にまで出張るのであれば、ドイツも頑張ってスエズ打通くらいは成し遂げてほしいものですが」
志津頼航空甲参謀が言うスエズ打通。
それがかなえば、それは日本と欧州を結ぶ交通線が開通するということだ。
このメリットは、ドイツよりもむしろ日本のほうが大きい。
ドイツの高性能な工業製品や、あるいは高度な軍事技術の導入を図ることができるからだ。
もちろん、ドイツの側も南方地帯で産出される希少金属をはじめとした天然資源を獲得することがかなう。
それでも日本ほどにはそのメリットは大きくないだろう。
「それについては嶋田さんに伝えてある。インド洋に艦艇を派遣する見返りに、ドイツに対してスエズ打通を要求してみてはどうかとな」
嶋田さんというのは嶋田繁太郎大将であり、軍政のトップである海軍大臣を務めている。
その彼に、生沢長官はドイツとバーター取引をするよう持ちかけたのだ。
嶋田大臣としても、ドイツや陸軍に言われるがままにインド洋に艦艇を派遣するのは業腹だったのだろう。
生沢長官の献策に耳を傾け、そしてこれをあっさりと採用した。
「南方作戦に目処がついた時点でインド洋に向かうと仮定して、どの部隊が行くことになるんですかね。実績で言えば二航艦と第一艦隊になりそうですが、そうなると一航艦と第二艦隊が黙っていないような気もしますし」
第二航空艦隊と第一艦隊はマーシャル沖海戦で太平洋艦隊を文字通り全滅させるという未曾有の大戦果を挙げた。
一方、第一航空艦隊と第二艦隊は南方作戦に従事していて、大規模な艦隊決戦とは無縁だった。
もちろん、南方作戦が順調に推移しているのも、一航艦それに第二艦隊の働きがあればこそだ。
それでもやはり二航艦と第一艦隊の活躍に比べれば、明らかに見劣りするのも事実だった。
だからこそ、一航艦それに第二艦隊の連中は自分たちがスポットライトを浴びることができる機会を求めている。
志津頼航空甲参謀はそう考えていた。
「そこらあたりはどうなんだろうな。正直、私にも分からん」
そう話しつつ、しかし生沢長官はインド洋に向かうのは二航艦ではなく一航艦ではないかと予想している。
生沢長官はかつて山本長官がその信念としていた真珠湾奇襲攻撃に反対、これを企画倒れに追い込んだ。
さらに、今回はハワイ攻略に真っ向から反対した。
自らの意に反する態度を取り続ける者に対し、しかし山本長官個人はこのことについて、さほど気を悪くしていることはないと生沢長官は考えている。
実際、高須長官を交えた三者会合でも、最後は和気藹々といった雰囲気でその場を締めている。
ただ、山本長官の取り巻き連中、つまりは連合艦隊司令部の参謀たちはそうではないかもしれない。
彼らは山本長官の意を受け、真珠湾奇襲攻撃やハワイ攻略の研究に心血を注いできたはずだ。
それを、部外者とも言える生沢長官が横からでしゃばって台無しにした。
そのことで、連合艦隊司令部幕僚たちの生沢長官に対する心証は決して良くはないはずだ。
そうであれば、そういった連中は、南雲長官が率いる一航艦にこそ次の晴れ舞台をもっていくように無駄な智謀を巡らせるのではないか。
ただ、仮にそうなったとしても、生沢長官としては特に思うところはない。
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