征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
35 / 108
インド洋作戦

第35話 夜間雷撃

しおりを挟む
 A部隊の「インドミタブル」と「フォーミダブル」の二隻の空母には戦闘機以外にそれぞれ二五機のアルバコア雷撃機が搭載されていた。
 このうち各空母ともに五機、合わせて一〇機を夜間索敵に出した。
 これら機体には単機航法が可能なベテランを配し、またそのいずれもが照明弾を搭載していた。
 残る二〇機については四機を最小戦闘単位の小隊とし、それを五隊編成した。
 これら小隊のうちで長機は照明弾を搭載し、残る三機については魚雷を装備している。

 索敵に出した機体のうちの一機が日本艦隊を発見すると同時、サマヴィル提督は一切の逡巡を見せることもなく二隻の空母から攻撃隊を出撃させた。
 また、日本艦隊を発見した索敵線の両隣りを行く機体についても、任務を索敵から接触維持に変更している。
 これら機体もまた、それほど間を置かずに日本艦隊を発見していた。
 このことで、日本艦隊をその視野に収めている機体は三機となった。
 このうち二機は機動部隊である第一航空艦隊を、残る一機は水上打撃部隊の
第二艦隊に対してその接触を維持していた。

 また、これら機体とは別にB部隊の「ハーミーズ」もまた七機のアルバコアが搭載されていた。
 しかし、こちらは攻撃には参加せず、もっぱら前路警戒とそれに接触維持に用いることになっていた。

 「ジャッジメント作戦の再現が出来そうですね」

 すべてのアルバコアが無事に発艦を終えてほっとした空気が流れる中、作戦参謀が安堵の言葉を吐く。
 その作戦参謀の言うジャッジメント作戦とは、地中海におけるイタリア海軍の一大拠点であったタラントに対し、空母艦上機をもって夜間に殴り込みをかけるというものだった。
 この作戦は図に当たり、わずか二一機のソードフィッシュ雷撃機が三隻のイタリア戦艦を撃沈破するという大勝利を味方にもたらすこととなった。

 「そうなればめでたしだが、しかし前回とは条件が違う。ジャッジメント作戦の相手は動かない戦艦だった。だが、今回は洋上行動中の空母が相手だ。腕利き揃いの搭乗員をもってしても、敵の捕捉それに攻撃には非常な困難を伴うだろう」

 そう話しつつ、しかしサマヴィル提督は攻撃を成功させるための手は打っていた。
 ジャッジメント作戦のときは、照明担当の機体はわずかに四機にしか過ぎなかった。
 しかし、今回は移動する相手が目標ということで、四〇機のうちの実に一〇機までを照明専任の機体としている。
 また、夜間雷撃の困難さに鑑み、その攻撃は柔軟性をもたせるよう小隊ごとにこれを行うこととされていた。
 第一目標はもちろん空母だが、それが難しい場合は小隊長の判断で目標を変更することも可としている。

 「インドミタブル」それに「フォーミダブル」から発進した四〇機のアルバコアは進撃途上で一〇個のグループを形成。
 それぞれが接触機の誘導電波を頼りに日本艦隊に向けて進撃を続ける。
 その最中、接触機より「日本艦隊のうち、機動部隊についてはその陣形を散開しつつあり」との報告が上がってくる。

 このことで、アルバコアの搭乗員らはその誰もが分散を図る日本艦隊の意図を理解する。
 もし、四隻の空母を一カ所に集中させていた場合、相手の数次第ではまとめてやられる恐れがある。
 それを避けるために連中はわざと散り散りになった。
 それと、艦ごとの間隔が広がれば、その分だけ回避運動の自由度もまた上がる。
 そういった観点から、日本艦隊の指揮官は空母を離れ離れにさせたのだろう。

 一方、接触機のほうはすべての日本空母に張り付けていられるほどの数は無い。
 このことで、撃ち漏らしが出てしまうが、それについては仕方が無かった。
 わずか四〇機ほどの機体で四隻の空母をすべて撃破しようというのは、少しばかり虫が良すぎるのかもしれない。

 味方が集まり始めたことで接触維持の機体は日本艦隊の中央に進出、照明弾を投下する。
 日本艦隊のおおよその位置を確認したアルバコアの搭乗員らは、その中に確実に存在するであろう空母の姿を探す。

 「いた!」

 思わず大声で叫んでしまったことに、「インドミタブル」第三小隊を指揮するオスカー・ファルコン中尉は少しばかり後悔の念に苛まれる。
 英海軍士官にあるまじき、いささかばかり下品な振る舞いだったからだ。
 それに、今は一個小隊とはいえその指揮官なのだから、なおのこと冷静な態度が求められた。

 ファルコン中尉が目にしたのは、日本側で言うところの「加賀」だった。
 その「加賀」は二隻の駆逐艦を伴い、東へとその舳先を向けつつ、全速力で刺客から逃れようとしていた。
 その「加賀」が真っ先に捕捉されたのは、その脚の遅さからだった。

 「間違いない。まごうことなき空母だ」

 接近したことによって艦型を確認することができたファルコン中尉は、その独特の形状からそれが空母であることを確信する。
 ファルコン中尉は目標の上空に遷移、その中央部のやや前方を狙って照明弾を投下する。

 実のところ、空母の識別については一つ困ったことがあった。
 艦上構造物が真っ平らなせいもあり、特に視界の悪い中で横から接近した場合は、これによほど近づかない限りはどちらが艦首でどちらが艦尾なのか区別がつけにくいのだ。
 夜間であればなおのことだった。
 しかし、照明弾によって周囲を照らし出したことで、部下たちはおぼろげながらも艦首波が確認できるはずだった。

 その「加賀」に向けて「インドミタブル」第三小隊の三機のアルバコアが急迫する。
 「加賀」もまた、照明弾によってその所在が暴露されたことで対空戦闘を開始する。
 しかし、迫りくるアルバコアの機影を正確に捉えきれないのか、「加賀」の対空砲火はあさっての方角に向けて放たれている。
 一機の被害もなくアルバコアは投雷を完了、それぞれが思い思いの方向へと離脱を図っていく。

 (当たるかな)

 魚雷はその性格から、敵艦の未来位置に向けて放つ必要がある。
 そのためには相手の針路や速力の見積もりが重要なパラメーターとなる。
 しかし、夜間においては正確な的針や的速など望みようが無い。
 だからこそ、勘と経験が大きくものを言ってくる。

 期待を込めるファルコン中尉だったが、しかし時間となっても「加賀」に変化は生じなかった。
 部下たちが放った魚雷は「加賀」に対して命中を得ることができなかったのだ。

 落胆する気持ちを表に出さないように気をつけつつ、ファルコン中尉は部下たちに対して集合するよう命じる。
 その直後、後席のジャック・ライデン少尉から歓声混じりの報告が上がる。

 「目標艦に水柱! さらに一本!」

 他の小隊もまた、自分たちが狙った空母に攻撃を仕掛けていたのだろう。
 どこの所属かは分からないが、それにしても見事な腕前と言ってよかった。

 さらに、その数瞬後。
 被雷した空母の東側でも、瞬間的に小さな発光が見えた。
 あるいは、アルバコアが対空砲火を食らって爆発したのかもしれないが、しかしその可能性は低いだろう。

 (おそらくは魚雷が命中した際に生じる爆炎だ)

 そう考えつつ、ファルコン中尉は近づいてきた部下の機体とともに帰路につく。
 残念ながら自身が直率する小隊のほうは命中魚雷を得ることができなかった。
 しかし他の小隊、つまりは仲間が魚雷を命中させてくれたおかげでその落胆の気持ちも今ではかなり薄れてきている。
 むしろ、次こそはと闘志がわき上がっている。
 そのことを自覚しつつ、ファルコン中尉は機首を母艦のほうへと向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...