征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
41 / 108
インド洋作戦

第41話 装甲空母撃沈

しおりを挟む
 空母一隻を撃沈、二隻を撃破したのにもかかわらず、しかし第二航空戦隊司令部の空気はさほど明るいものではなかった。
 艦上機隊の損害が思いのほか大きかったからだ。

 「たった一度の戦闘で、これほどまでの被害が出るとはな」

 航空参謀の鈴木栄二郎中佐から被害集計の報告を受けた山口司令官が、予想外だとばかりにその声を絞り出す。

 「蒼龍」は第一次攻撃隊として九機の零戦と一八機の九九艦爆を出撃させた。
 このうちで、二機の零戦と五機の九九艦爆が未帰還となった。
 第二次攻撃隊の六機の零戦と一〇機の九七艦攻については、零戦が一機、九七艦攻のほうは二機がついに帰ってこなかった。
 一応の成功を収めた防空戦闘でも一機の零戦が失われ、さらに「加賀」からの応援組の零戦もまた同じく一機が未帰還となった。
 「飛龍」のほうも状況は似たようなもので、九九艦爆の被害がマシだった以外は、ほぼ同数の機体が未帰還となっている。

 いずれにせよ、機上戦死も含めれば、二航戦は一度に四〇人以上の搭乗員を失ったことになる。
 彼らはその誰もが一騎当千の熟練で、おいそれとは補充のきかない貴重な人材だった。
 それでも、彼らを悼んでいる余裕は無かった。
 まだ、戦闘は継続中なのだ。

 「東洋艦隊の動きはどうなっている」

 山口司令官は先任参謀の伊藤清六中佐にその視線を向ける。

 「一四ノットで西進中です」

 余計な憶測は交えず、伊藤中佐が事実だけを端的に述べる。
 小さく頷くことで了解の意を示しつつ、山口司令官は東洋艦隊に思いを馳せる。

 その東洋艦隊は自らが保有するすべての空母が撃沈乃至撃破されたことで避退に移ったのだろう。
 水上艦艇については東洋艦隊のほうが明らかに優勢だが、しかし空母が使えないというハンデはあまりにも大きい。
 それは、マーシャル沖海戦の結果が雄弁に物語っている。
 そして、逃げ足が遅いのは被雷した空母にその速度を合わせているからだろう。

 「第三次攻撃を決行する。九九艦爆と九七艦攻については使用可能なものをすべて出す。それらの護衛にあてる零戦のほうは、これを二個小隊とする。『飛龍』にもその旨を伝えろ」

 山口司令官の新たなる命令に、通信参謀の石黒進少佐が通信室へと駆けていく。
 稼働機については、すでに鈴木航空参謀から報告を受けていた。
 「蒼龍」は零戦が一一機に九九艦爆が三機、それに九七艦攻が九機。
 これに「加賀」から応援にきた五機の零戦が加わる。
 一方、「飛龍」のほうは零戦が一〇機に九九艦爆が五機、それに九七艦攻が一〇機。
 これに「赤城」から応援にきた四機が加わる。

 九九艦爆に比べて九七艦攻の稼働機が多いのは、半数近い機体を攻撃ではなく索敵に使用していたからだ。
 索敵にあたった一六機のうちで被弾損傷したものや、それに発動機不調に陥った機体を除く一三機がすぐに使える状態にあった。
 逆に第二次攻撃に参加した二〇機のほうは被害が続出したこともあり、即時使用が可能なものはわずかに六機にしか過ぎない。

 攻撃に出せる機体が少なかったことで、出撃準備は比較的短時間のうちに整った。
 第三次攻撃の指揮は第二次攻撃に続き「飛龍」飛行隊長の楠美少佐がこれを執る。

 「蒼龍」それに「飛龍」から飛び立った三九機からなる第三次攻撃隊は、予想よりもかなり早いうちに東洋艦隊をその視界に収めた。
 これは、山口司令官が搭乗員の負担を少しでも減らすべく、第三次攻撃隊が発進するまでに東洋艦隊との間合いを可能な範囲で詰めにかかっていたことによるものだ。

 「『蒼龍』艦攻隊は右、『飛龍』艦攻隊は左の空母を目標とせよ。艦爆隊のほうは輪形陣前方を行く駆逐艦を狙え。艦攻隊については、艦爆隊の攻撃が終了した後に突撃するものとする。『蒼龍』艦攻隊それに艦爆隊については最先任者の指示に従え」

 艦爆隊は江草少佐に、「蒼龍」艦攻隊のほうは阿部大尉にその指揮を丸投げし、楠美少佐は直率する「飛龍」艦攻隊に命令を重ねる。

 「空母への攻撃はこれを挟撃とする。第一中隊は左舷、第二中隊は右舷から突撃せよ」

 楠美少佐の命令一下、松村大尉率いる第二中隊の五機の九七艦攻が、目標とした敵空母の右斜め前方に遷移すべく、本隊から離れていく。
 五機にまで稼働機が落ち込んだ艦爆隊もまた輪形陣の前方に向かうべく加速を開始する。

 真っ先に攻撃を仕掛けたのは艦爆隊だった。
 「飛龍」艦爆隊は左前方、「蒼龍」艦爆隊のほうは右前方を行く駆逐艦に狙いをつける。
 一方、英駆逐艦のほうは自分たちに矛先が向かってくることを予想していなかったのだろう。
 九九艦爆が降下を開始したところで自らが置かれた状況を理解する。
 しかし、完全に手遅れだった。

 相手の虚を突いた攻撃で、「飛龍」隊は二発、「蒼龍」隊のほうは一発の直撃を得る。
 全体の命中率は四割に届かない。
 だが、幅が一〇メートルそこそこしかない駆逐艦が相手であれば、むしろ上出来と言ってもよかった。
 いずれにせよ、先頭を行く二隻の駆逐艦が撃破されたことで輪形陣に乱れが生じる。
 その隙を逃さず、九七艦攻は輪形陣の内側へと進入を果たす。

 (こんどは逃さん!)

 胸中で決意の言葉を吐き出しつつ、楠美少佐は左に位置する空母の左舷側に機体を持っていく。
 被弾の確率を少しでも低下させるために海面を這うように飛行する。
 四機の部下たちもまた長機に遅れることなく追躡している。

 前方に見える空母の艦首波は、第二次攻撃のときと比べて明らかに小さい。
 被雷による浸水によって速度が出せないのだろう。
 回避運動も、まったくと言っていいほどに切れがない。

 「撃てっ!」

 気迫を込めて投雷すると同時、楠美少佐は命中を確信する。
 同時に、至近で爆発を知覚する。
 第一中隊のうちの誰かが被弾、機体が爆散したのだ。

 (せめて、投雷の後であってくれ)

 部下の死を悼みつつ、楠美少佐は目標とした空母の艦首を躱し離脱を図る。
 後方から火線が追いかけてくる。
 一度、機体に鈍い衝撃があったが、幸いなことに飛行には影響が無いようだった。

 「目標とした空母の左舷に水柱! さらに一本!」

 報告を上げてくる近藤中尉の声は、第二次攻撃の時と比べて明るく弾んだものとなっている。
 第二次攻撃の際、第一中隊はすべての魚雷が外れ弾となってしまった。
 しかし、今回は命中を得たのだ。
 近藤中尉ならずとも、喜びが爆発するのは当たり前のことだった。
 その近藤中尉の報告はさらに続く。

 「右舷に水柱! さらに一本!」

 松村大尉の第二中隊もまた二本の命中を得た。
 自分たちが目標とした英空母は第二次攻撃の際に二本の魚雷を被雷しているから、これでトータル六本となる。
 いかに防御に秀でた装甲空母といえども、しかしこの打撃には耐えられないはずだ。

 その頃には「蒼龍」艦攻隊からも戦果報告が上がってきている。
 こちらもまた、四本を命中させたとのことだった。

 (終わったな)

 楠美少佐はインド洋における一連の戦いが終わったことを確信する。
 日英ともにまだ戦艦は無傷で残っているが、しかし日本側に砲撃戦を行う意志はない。
 四隻の三六センチ砲搭載戦艦と五隻の三八センチ砲搭載戦艦が戦えば、どうなるのかは分かりきっているからだ。

 そして、二航戦の稼働機が激減した今、セイロン島にあるコロンボやトリンコマリーに対する空爆も中止となるはずだ。
 もしこれを強行すれば、セイロン島にある英戦闘機隊によって二航戦の艦上機隊は再起不能のダメージを被ることになるだろう。

 そういったことを考えつつ、楠美少佐は部下たちに集合を命じる。
 英空母をすべて始末した以上、シーハリケーンから襲われる可能性は無くなったが、しかし戦場では何が起こるかわからない。
 母艦に帰り着くまで油断するわけにはいかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...