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インド洋作戦
第41話 装甲空母撃沈
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空母一隻を撃沈、二隻を撃破したのにもかかわらず、しかし第二航空戦隊司令部の空気はさほど明るいものではなかった。
艦上機隊の損害が思いのほか大きかったからだ。
「たった一度の戦闘で、これほどまでの被害が出るとはな」
航空参謀の鈴木栄二郎中佐から被害集計の報告を受けた山口司令官が、予想外だとばかりにその声を絞り出す。
「蒼龍」は第一次攻撃隊として九機の零戦と一八機の九九艦爆を出撃させた。
このうちで、二機の零戦と五機の九九艦爆が未帰還となった。
第二次攻撃隊の六機の零戦と一〇機の九七艦攻については、零戦が一機、九七艦攻のほうは二機がついに帰ってこなかった。
一応の成功を収めた防空戦闘でも一機の零戦が失われ、さらに「加賀」からの応援組の零戦もまた同じく一機が未帰還となった。
「飛龍」のほうも状況は似たようなもので、九九艦爆の被害がマシだった以外は、ほぼ同数の機体が未帰還となっている。
いずれにせよ、機上戦死も含めれば、二航戦は一度に四〇人以上の搭乗員を失ったことになる。
彼らはその誰もが一騎当千の熟練で、おいそれとは補充のきかない貴重な人材だった。
それでも、彼らを悼んでいる余裕は無かった。
まだ、戦闘は継続中なのだ。
「東洋艦隊の動きはどうなっている」
山口司令官は先任参謀の伊藤清六中佐にその視線を向ける。
「一四ノットで西進中です」
余計な憶測は交えず、伊藤中佐が事実だけを端的に述べる。
小さく頷くことで了解の意を示しつつ、山口司令官は東洋艦隊に思いを馳せる。
その東洋艦隊は自らが保有するすべての空母が撃沈乃至撃破されたことで避退に移ったのだろう。
水上艦艇については東洋艦隊のほうが明らかに優勢だが、しかし空母が使えないというハンデはあまりにも大きい。
それは、マーシャル沖海戦の結果が雄弁に物語っている。
そして、逃げ足が遅いのは被雷した空母にその速度を合わせているからだろう。
「第三次攻撃を決行する。九九艦爆と九七艦攻については使用可能なものをすべて出す。それらの護衛にあてる零戦のほうは、これを二個小隊とする。『飛龍』にもその旨を伝えろ」
山口司令官の新たなる命令に、通信参謀の石黒進少佐が通信室へと駆けていく。
稼働機については、すでに鈴木航空参謀から報告を受けていた。
「蒼龍」は零戦が一一機に九九艦爆が三機、それに九七艦攻が九機。
これに「加賀」から応援にきた五機の零戦が加わる。
一方、「飛龍」のほうは零戦が一〇機に九九艦爆が五機、それに九七艦攻が一〇機。
これに「赤城」から応援にきた四機が加わる。
九九艦爆に比べて九七艦攻の稼働機が多いのは、半数近い機体を攻撃ではなく索敵に使用していたからだ。
索敵にあたった一六機のうちで被弾損傷したものや、それに発動機不調に陥った機体を除く一三機がすぐに使える状態にあった。
逆に第二次攻撃に参加した二〇機のほうは被害が続出したこともあり、即時使用が可能なものはわずかに六機にしか過ぎない。
攻撃に出せる機体が少なかったことで、出撃準備は比較的短時間のうちに整った。
第三次攻撃の指揮は第二次攻撃に続き「飛龍」飛行隊長の楠美少佐がこれを執る。
「蒼龍」それに「飛龍」から飛び立った三九機からなる第三次攻撃隊は、予想よりもかなり早いうちに東洋艦隊をその視界に収めた。
これは、山口司令官が搭乗員の負担を少しでも減らすべく、第三次攻撃隊が発進するまでに東洋艦隊との間合いを可能な範囲で詰めにかかっていたことによるものだ。
「『蒼龍』艦攻隊は右、『飛龍』艦攻隊は左の空母を目標とせよ。艦爆隊のほうは輪形陣前方を行く駆逐艦を狙え。艦攻隊については、艦爆隊の攻撃が終了した後に突撃するものとする。『蒼龍』艦攻隊それに艦爆隊については最先任者の指示に従え」
艦爆隊は江草少佐に、「蒼龍」艦攻隊のほうは阿部大尉にその指揮を丸投げし、楠美少佐は直率する「飛龍」艦攻隊に命令を重ねる。
「空母への攻撃はこれを挟撃とする。第一中隊は左舷、第二中隊は右舷から突撃せよ」
楠美少佐の命令一下、松村大尉率いる第二中隊の五機の九七艦攻が、目標とした敵空母の右斜め前方に遷移すべく、本隊から離れていく。
五機にまで稼働機が落ち込んだ艦爆隊もまた輪形陣の前方に向かうべく加速を開始する。
真っ先に攻撃を仕掛けたのは艦爆隊だった。
「飛龍」艦爆隊は左前方、「蒼龍」艦爆隊のほうは右前方を行く駆逐艦に狙いをつける。
一方、英駆逐艦のほうは自分たちに矛先が向かってくることを予想していなかったのだろう。
九九艦爆が降下を開始したところで自らが置かれた状況を理解する。
しかし、完全に手遅れだった。
相手の虚を突いた攻撃で、「飛龍」隊は二発、「蒼龍」隊のほうは一発の直撃を得る。
全体の命中率は四割に届かない。
だが、幅が一〇メートルそこそこしかない駆逐艦が相手であれば、むしろ上出来と言ってもよかった。
いずれにせよ、先頭を行く二隻の駆逐艦が撃破されたことで輪形陣に乱れが生じる。
その隙を逃さず、九七艦攻は輪形陣の内側へと進入を果たす。
(こんどは逃さん!)
胸中で決意の言葉を吐き出しつつ、楠美少佐は左に位置する空母の左舷側に機体を持っていく。
被弾の確率を少しでも低下させるために海面を這うように飛行する。
四機の部下たちもまた長機に遅れることなく追躡している。
前方に見える空母の艦首波は、第二次攻撃のときと比べて明らかに小さい。
被雷による浸水によって速度が出せないのだろう。
回避運動も、まったくと言っていいほどに切れがない。
「撃てっ!」
気迫を込めて投雷すると同時、楠美少佐は命中を確信する。
同時に、至近で爆発を知覚する。
第一中隊のうちの誰かが被弾、機体が爆散したのだ。
(せめて、投雷の後であってくれ)
部下の死を悼みつつ、楠美少佐は目標とした空母の艦首を躱し離脱を図る。
後方から火線が追いかけてくる。
一度、機体に鈍い衝撃があったが、幸いなことに飛行には影響が無いようだった。
「目標とした空母の左舷に水柱! さらに一本!」
報告を上げてくる近藤中尉の声は、第二次攻撃の時と比べて明るく弾んだものとなっている。
第二次攻撃の際、第一中隊はすべての魚雷が外れ弾となってしまった。
しかし、今回は命中を得たのだ。
近藤中尉ならずとも、喜びが爆発するのは当たり前のことだった。
その近藤中尉の報告はさらに続く。
「右舷に水柱! さらに一本!」
松村大尉の第二中隊もまた二本の命中を得た。
自分たちが目標とした英空母は第二次攻撃の際に二本の魚雷を被雷しているから、これでトータル六本となる。
いかに防御に秀でた装甲空母といえども、しかしこの打撃には耐えられないはずだ。
その頃には「蒼龍」艦攻隊からも戦果報告が上がってきている。
こちらもまた、四本を命中させたとのことだった。
(終わったな)
楠美少佐はインド洋における一連の戦いが終わったことを確信する。
日英ともにまだ戦艦は無傷で残っているが、しかし日本側に砲撃戦を行う意志はない。
四隻の三六センチ砲搭載戦艦と五隻の三八センチ砲搭載戦艦が戦えば、どうなるのかは分かりきっているからだ。
そして、二航戦の稼働機が激減した今、セイロン島にあるコロンボやトリンコマリーに対する空爆も中止となるはずだ。
もしこれを強行すれば、セイロン島にある英戦闘機隊によって二航戦の艦上機隊は再起不能のダメージを被ることになるだろう。
そういったことを考えつつ、楠美少佐は部下たちに集合を命じる。
英空母をすべて始末した以上、シーハリケーンから襲われる可能性は無くなったが、しかし戦場では何が起こるかわからない。
母艦に帰り着くまで油断するわけにはいかなかった。
艦上機隊の損害が思いのほか大きかったからだ。
「たった一度の戦闘で、これほどまでの被害が出るとはな」
航空参謀の鈴木栄二郎中佐から被害集計の報告を受けた山口司令官が、予想外だとばかりにその声を絞り出す。
「蒼龍」は第一次攻撃隊として九機の零戦と一八機の九九艦爆を出撃させた。
このうちで、二機の零戦と五機の九九艦爆が未帰還となった。
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一応の成功を収めた防空戦闘でも一機の零戦が失われ、さらに「加賀」からの応援組の零戦もまた同じく一機が未帰還となった。
「飛龍」のほうも状況は似たようなもので、九九艦爆の被害がマシだった以外は、ほぼ同数の機体が未帰還となっている。
いずれにせよ、機上戦死も含めれば、二航戦は一度に四〇人以上の搭乗員を失ったことになる。
彼らはその誰もが一騎当千の熟練で、おいそれとは補充のきかない貴重な人材だった。
それでも、彼らを悼んでいる余裕は無かった。
まだ、戦闘は継続中なのだ。
「東洋艦隊の動きはどうなっている」
山口司令官は先任参謀の伊藤清六中佐にその視線を向ける。
「一四ノットで西進中です」
余計な憶測は交えず、伊藤中佐が事実だけを端的に述べる。
小さく頷くことで了解の意を示しつつ、山口司令官は東洋艦隊に思いを馳せる。
その東洋艦隊は自らが保有するすべての空母が撃沈乃至撃破されたことで避退に移ったのだろう。
水上艦艇については東洋艦隊のほうが明らかに優勢だが、しかし空母が使えないというハンデはあまりにも大きい。
それは、マーシャル沖海戦の結果が雄弁に物語っている。
そして、逃げ足が遅いのは被雷した空母にその速度を合わせているからだろう。
「第三次攻撃を決行する。九九艦爆と九七艦攻については使用可能なものをすべて出す。それらの護衛にあてる零戦のほうは、これを二個小隊とする。『飛龍』にもその旨を伝えろ」
山口司令官の新たなる命令に、通信参謀の石黒進少佐が通信室へと駆けていく。
稼働機については、すでに鈴木航空参謀から報告を受けていた。
「蒼龍」は零戦が一一機に九九艦爆が三機、それに九七艦攻が九機。
これに「加賀」から応援にきた五機の零戦が加わる。
一方、「飛龍」のほうは零戦が一〇機に九九艦爆が五機、それに九七艦攻が一〇機。
これに「赤城」から応援にきた四機が加わる。
九九艦爆に比べて九七艦攻の稼働機が多いのは、半数近い機体を攻撃ではなく索敵に使用していたからだ。
索敵にあたった一六機のうちで被弾損傷したものや、それに発動機不調に陥った機体を除く一三機がすぐに使える状態にあった。
逆に第二次攻撃に参加した二〇機のほうは被害が続出したこともあり、即時使用が可能なものはわずかに六機にしか過ぎない。
攻撃に出せる機体が少なかったことで、出撃準備は比較的短時間のうちに整った。
第三次攻撃の指揮は第二次攻撃に続き「飛龍」飛行隊長の楠美少佐がこれを執る。
「蒼龍」それに「飛龍」から飛び立った三九機からなる第三次攻撃隊は、予想よりもかなり早いうちに東洋艦隊をその視界に収めた。
これは、山口司令官が搭乗員の負担を少しでも減らすべく、第三次攻撃隊が発進するまでに東洋艦隊との間合いを可能な範囲で詰めにかかっていたことによるものだ。
「『蒼龍』艦攻隊は右、『飛龍』艦攻隊は左の空母を目標とせよ。艦爆隊のほうは輪形陣前方を行く駆逐艦を狙え。艦攻隊については、艦爆隊の攻撃が終了した後に突撃するものとする。『蒼龍』艦攻隊それに艦爆隊については最先任者の指示に従え」
艦爆隊は江草少佐に、「蒼龍」艦攻隊のほうは阿部大尉にその指揮を丸投げし、楠美少佐は直率する「飛龍」艦攻隊に命令を重ねる。
「空母への攻撃はこれを挟撃とする。第一中隊は左舷、第二中隊は右舷から突撃せよ」
楠美少佐の命令一下、松村大尉率いる第二中隊の五機の九七艦攻が、目標とした敵空母の右斜め前方に遷移すべく、本隊から離れていく。
五機にまで稼働機が落ち込んだ艦爆隊もまた輪形陣の前方に向かうべく加速を開始する。
真っ先に攻撃を仕掛けたのは艦爆隊だった。
「飛龍」艦爆隊は左前方、「蒼龍」艦爆隊のほうは右前方を行く駆逐艦に狙いをつける。
一方、英駆逐艦のほうは自分たちに矛先が向かってくることを予想していなかったのだろう。
九九艦爆が降下を開始したところで自らが置かれた状況を理解する。
しかし、完全に手遅れだった。
相手の虚を突いた攻撃で、「飛龍」隊は二発、「蒼龍」隊のほうは一発の直撃を得る。
全体の命中率は四割に届かない。
だが、幅が一〇メートルそこそこしかない駆逐艦が相手であれば、むしろ上出来と言ってもよかった。
いずれにせよ、先頭を行く二隻の駆逐艦が撃破されたことで輪形陣に乱れが生じる。
その隙を逃さず、九七艦攻は輪形陣の内側へと進入を果たす。
(こんどは逃さん!)
胸中で決意の言葉を吐き出しつつ、楠美少佐は左に位置する空母の左舷側に機体を持っていく。
被弾の確率を少しでも低下させるために海面を這うように飛行する。
四機の部下たちもまた長機に遅れることなく追躡している。
前方に見える空母の艦首波は、第二次攻撃のときと比べて明らかに小さい。
被雷による浸水によって速度が出せないのだろう。
回避運動も、まったくと言っていいほどに切れがない。
「撃てっ!」
気迫を込めて投雷すると同時、楠美少佐は命中を確信する。
同時に、至近で爆発を知覚する。
第一中隊のうちの誰かが被弾、機体が爆散したのだ。
(せめて、投雷の後であってくれ)
部下の死を悼みつつ、楠美少佐は目標とした空母の艦首を躱し離脱を図る。
後方から火線が追いかけてくる。
一度、機体に鈍い衝撃があったが、幸いなことに飛行には影響が無いようだった。
「目標とした空母の左舷に水柱! さらに一本!」
報告を上げてくる近藤中尉の声は、第二次攻撃の時と比べて明るく弾んだものとなっている。
第二次攻撃の際、第一中隊はすべての魚雷が外れ弾となってしまった。
しかし、今回は命中を得たのだ。
近藤中尉ならずとも、喜びが爆発するのは当たり前のことだった。
その近藤中尉の報告はさらに続く。
「右舷に水柱! さらに一本!」
松村大尉の第二中隊もまた二本の命中を得た。
自分たちが目標とした英空母は第二次攻撃の際に二本の魚雷を被雷しているから、これでトータル六本となる。
いかに防御に秀でた装甲空母といえども、しかしこの打撃には耐えられないはずだ。
その頃には「蒼龍」艦攻隊からも戦果報告が上がってきている。
こちらもまた、四本を命中させたとのことだった。
(終わったな)
楠美少佐はインド洋における一連の戦いが終わったことを確信する。
日英ともにまだ戦艦は無傷で残っているが、しかし日本側に砲撃戦を行う意志はない。
四隻の三六センチ砲搭載戦艦と五隻の三八センチ砲搭載戦艦が戦えば、どうなるのかは分かりきっているからだ。
そして、二航戦の稼働機が激減した今、セイロン島にあるコロンボやトリンコマリーに対する空爆も中止となるはずだ。
もしこれを強行すれば、セイロン島にある英戦闘機隊によって二航戦の艦上機隊は再起不能のダメージを被ることになるだろう。
そういったことを考えつつ、楠美少佐は部下たちに集合を命じる。
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