征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

文字の大きさ
45 / 108
MO作戦

第45話 厳しい戦い

しおりを挟む
 「MO作戦は失敗する」

 生沢長官によるいきなりの結論に、志津頼航空甲参謀は思わず目を見開く。
 彼に出来たのは、黙ったまま次の言葉を待つことくらいだった。

 「まず、戦力が足らん。船団護衛にあたる『祥鳳』は別として、我々には『翔鶴』と『瑞鶴』それに『瑞鳳』の三隻がある。これに搭載された艦上機の数は常用機だけで二六〇機を超えるが、しかしこのうちで戦闘機は一四四機にしか過ぎない」

 艦上機の数字を挙げる生沢長官に、志津頼航空甲参謀が小さく頷く。
 「翔鶴」型空母はマーシャル沖海戦の戦訓を受け、艦戦がそれまでの五個中隊から七個中隊へと増強された。
 その代償として艦爆と艦攻がそれぞれ四個中隊だったのが、いずれも三個中隊に減勢されている。
 しかし、このことで半数以上は艦戦で固めるという、生沢長官が開戦前に望んでいた編成が実現することになった。

 一方、「瑞鳳」のほうは艦戦が二個中隊に艦攻が一個中隊となっている。
 「瑞鳳」隊の編成については先程その話を聞かされたばかりだが、しかしそれ以外の艦上機にまつわることであれば、志津頼航空甲参謀はほぼすべてを網羅できるほどの情報と知識を持っている。
 というか、この分野に関しては本職である志津頼航空甲参謀のほうが生沢長官よりもむしろ詳しい。

 「艦戦が一四四機では足りませんか」

 生沢長官の戦力が足らんという言葉の意味を一瞬で理解した志津頼航空甲参謀が直球の質問を投げかける。

 「マーシャル沖海戦当時の二航艦には一八〇機の零戦があった。しかし、それでもなお『翔鶴』を撃破されるという痛手を被った。そして、現状はその時の八割にしか過ぎん。しかも、次期作戦では敵の艦隊だけでなく基地航空隊もまたこれを相手取らねばならん」

 志津頼航空甲参謀はたいていのことは生沢長官と意を同じくするが、しかし今回は少しばかり違和感があった。
 なにせ、昨年末のマーシャル沖海戦で米空母を三隻も撃沈したのだ。
 大幅に戦力が低下している相手に、あまりにもナーバスになり過ぎているのではないか。
 だから、そのことをオブラートに包んで指摘する。

 「米軍は『翔鶴』型空母がこれまでの空母とは段違いの数の艦上機を運用していることをマーシャル沖海戦の結果によって理解しているはずだ。だから、味方の空母が一隻かあるいは二隻程度しか動かせないのであれば、我々の前にその姿を見せることは無いと断言できる。すべてにおいて合理的な米軍であれば、負けると分かっている戦に貴重な空母を投入するような真似はしないからな。
 だから、もし我々を迎撃するのであれば最低でも三隻、下手をすればこれが四隻すべてを差し向けてくる。そして、連中は十中八九我々の前にその姿を現す」

 生沢長官の見立てに、志津頼航空甲参謀は脳内で算盤を弾く。
 相手の空母が二隻であればこちらが有利。
 三隻ならば互角か「瑞鳳」がある分だけこちらがわずかに有利。
 しかし、四隻だと明らかに相手のほうに分がある。
 もし敵が三隻乃至四隻の空母を持ち合わせているとすれば、確かに二航艦は重大な危機を迎える。
 ただ、疑問も残る。

 「欧州を第一とする方針の米軍が、南太平洋の僻地のような場所に空母戦力の大半を回してくるようなことがありますかね」

 この大戦の主戦場は間違いなく欧州だ。
 米国もそのことを理解しているから、戦争資源の大半を欧州に回している。
 実際、米国は戦争が始まるまで太平洋よりも大西洋を重視していた。
 空母の数は大西洋艦隊のほうが多かったし、二隻しかない貴重な新型戦艦も東海岸にその姿があった。

 「これは海軍省にいる知り合いから聞いた話なのだが、戦争が始まってすぐに太平洋艦隊が壊滅したこと、さらに先日のインド洋海戦で東洋艦隊が大打撃を被って後退したことに対して、豪政府がかなり動揺しているらしい。もし、ここで太平洋艦隊が動かなければ、豪州は戦争から降りる恐れがあると言うのだ。まあ、それにラバウルの件もあるしな」

 日本軍がラバウルに進攻した際、豪州は米国に救援を求めた。
 しかし、太平洋艦隊が壊滅した直後でもあったので、米国はこれを拒否した。
 そのことで豪州は米国に対して少なからぬ不信を抱くことになった。
 さらに、この状況でポートモレスビーまで見捨てられるようなことがあれば、豪州の米国に対する不信は決定的なまでに高まることは間違いない。
 もし、そのことによって豪州が戦争から降りるようなことがあれば、米国としては目も当てられない。
 これまでに築き上げてきた対日戦略は瓦解し、一からの見直しを迫られることは必至だ。

 「それになにより、チャーチルのことが大きいだろう」

 生沢長官からチャーチルという単語が出てきたことで、志津頼航空甲参謀は英国とそれに英軍にその意識を向ける。
 そのチャーチルは政治的な苦境に陥っている。
 彼の肝いりで遠く欧州からアジアに派遣された最新鋭戦艦の「プリンス・オブ・ウェールズ」と巡洋戦艦「レパルス」は開戦劈頭にあっさりと撃沈された。
 さらに、そのすぐ後には東洋最大の要衝であったシンガポールを失陥した。
 少し前には東洋艦隊が敗北し、貴重な空母を一時に三隻も失った。
 そして、今回インド洋に派遣される第一艦隊とそれに「雲鶴」と「神鶴」を基幹とする機動部隊によって、東洋艦隊は間違いなくインド洋から追い出されることになるはずだ。
 そのうえ、さらに同盟国の豪州までが脱落すれば、さすがにチャーチルの政治生命も潰えることになるだろう。

 そして、それは米国としても看過できるものではない。
 もしチャーチル亡きあとの後継政権がドイツに融和的であれば、英国とドイツの講和も夢物語ではなくなってくる。
 そうなれば、米国は欧州解放という大義名分を失い、そのことによって戦争そのものを失うことにもなりかねない。
 だからこそ、米軍は虎の子の機動部隊を送り込む。
 生沢長官はそう睨んでいるのだ。
 そして、その米機動部隊は中途半端な戦力ではなく、現状で捻出可能な総力を挙げたものになる

 「南太平洋の僻地の戦いが、しかし世界規模で繋がっていたんですね」

 志津頼航空甲参謀は己の視野の狭さを反省する。
 その一方で、生沢長官がなぜ「MO作戦は失敗する」と言ったのかが理解できる。
 今の二航艦の戦力では米機動部隊と戦った後でポートモレスビーの基地航空隊を相手取れるほどの力は無い。
 むしろ、米機動部隊の戦力次第では、勝てるかどうかさえ怪しいのだ。

 「米機動部隊の空母が四隻ではなく三隻であることを祈らなければなりませんね」

 他力本願全開の言葉を吐く志津頼航空甲参謀だが、しかし生沢長官のほうはこれが皮肉を込めた冗談だということを理解している。
 こういうとき、志津頼航空甲参謀はその振る舞いとは裏腹に必勝の戦策を考えているのだ。

 その彼の態度に満足を覚えつつ、生沢長官もまた脳内計算機を働かせ始める。
 今回の戦いは、どれだけ戦果を挙げるかではなく、どれだけ味方の被害を減らせるかに力点を置いたものにしなければならない。
 相手を圧倒できるだけの戦力を用意できていないのだから、そこは割り切るしかなかった。
 いずれにせよ、厳しい戦いになる。
 それゆえに、指揮官としては非常に難しい立ち回りを求められる。
 そのことを生沢長官は強く自覚していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大和型重装甲空母

ypaaaaaaa
歴史・時代
1937年10月にアメリカ海軍は日本海軍が”60000トンを超す巨大戦艦”を”4隻”建造しているという情報を掴んだ。海軍はすぐに対抗策を講じてサウスダコタ級戦艦に続いてアイオワ級戦艦を4隻建造することとした。そして1941年12月。日米は戦端を開いたが戦列に加わっていたのは巨大戦艦ではなく、”巨大空母”であった。

処理中です...