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MO作戦
第46話 情報劣勢
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MO作戦が発動され、そのことでMO機動部隊とも呼称される第二航空艦隊は先陣を切って珊瑚海に進入した。
上陸船団とそれらを守る護衛部隊については、米機動部隊の襲撃を受けないよう十分な距離を置いて後続させている。
同作戦の総指揮は生沢長官の海兵同期であり、第四艦隊司令長官の井上成美中将がこれを執る。
現場については井上長官の次に先任順位が高い生沢長官に一任されていた。
第二航空艦隊
「翔鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、一三試艦爆一)
「瑞鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、一三試艦爆一)
「瑞鳳」(零戦一八、九七艦攻九)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「神通」
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
「索敵機の発進がすべて完了しました」
志津頼航空甲参謀の報告に、生沢長官が「ご苦労」と短く労う。
二航艦は米機動部隊による側背からの奇襲が必至とみて、「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ六機、「瑞鳳」から四機の合わせて一六機の九七艦攻を索敵第一陣として解き放っていた。
さらに三〇分後には同じ数の機体が索敵第二陣として第一陣の後を追うことになっている。
「敵空母は現れるのでしょうか」
索敵機の発艦のために風上に向けていた艦首を南へと戻し、ようやくのことで人心地ついた「翔鶴」艦長の城島高次少将が生沢長官にその視線を向ける。
城島艦長は先日少将へと昇任し、この戦いが終われば第一一航空戦隊の司令官に就くことが決まっている。
「現れるのは間違いないですね。我々をポートモレスビーまで素通しするようなことがあれば、それこそ豪州が戦争から降りることにもなりかねませんから。ついでにチャーチルの首も飛ぶかもしれません。米国としても、さすがにそれは避けたいところでしょう」
生沢長官は、先に志津頼航空甲参謀に話したのと同じ内容をかいつまんで説明する。
言葉遣いが丁寧なのは、城島艦長が将官になったこともあるが、それ以上にマーシャル沖海戦で少なくない彼の部下を死なせてしまったという負い目があるからだ。
同海戦の当時、「翔鶴」は敵の急降下爆撃機が投じた五〇番クラスと思しき爆弾を三発被弾、一〇〇人を超える戦死者を出すという甚大な損害を被った。
もしあの時、自分がもっと上手く指揮を執っていれば、彼らは死なずに済んだのではないか。
その思いは、今も生沢長官の中に根強く残っている。
「それと、艦長には先に言っておきますが、米軍は我々の動きはすべて承知しているはずです。インド洋海戦の時の英軍の動きがこれを証明している」
生沢長官の預言者のような言葉に、城島艦長はその根拠を尋ねる。
「インド洋海戦で当時の第一航空艦隊は英艦上機による夜間雷撃にさらされました。しかし、広大なインド洋で、しかも暗夜の中で移動する相手を見つけるなど、よほど相手の正確な位置を事前に把握しておかない限りはまず不可能です」
生沢長官の言うことは、城島艦長にもよく分かった。
もし、立場を逆にして夜間索敵で敵艦隊を探せと言われても、何の手がかりも無ければ見つけることなんて出来っこない。
もし、見つけることが出来たのであれば、それは幸運以外のなにものでもない。
「英軍が当時の一航艦の動きを掴んでいたと仮定すれば、それは暗号が解読されているか、もしくは帝国海軍の上層部に間諜がいるかのいずれかになりますな」
その表情に懸念の色を浮かべつつ、城島艦長が少しばかり不快そうに言葉を吐き出す。
「暗号のほうですよ」
そう答えたのは生沢長官ではなく志津頼航空甲参謀だった。
将官同士の話し合いに一介の中佐ごときが割り込むなど、他の組織では考えられない。
しかし、生沢長官の方針もあって、ここ「翔鶴」の艦橋内ではそれが許されている。
命のやりとりが常態化している中においては、礼儀正しい無能よりも有能なアレが尊ばれることは珍しいことではない。
そして、志津頼航空甲参謀は有能なアレのほうだ。
それは、マーシャル沖海戦における彼の立ち回りですでに証明されている。
「根拠は」
城島艦長も慣れているのか、特に気を悪くした様子も無く志津頼航空甲参謀に短く問う。
「うちの上層部にスパイが務まるような優秀な人間がいれば、現場は苦労しませんよ」
身も蓋もない志津頼航空甲参謀の返答に、城島艦長は苦笑するしかない。
生沢長官や他の参謀たちもまた同じように、なんとも言えない笑みを浮かべている。
確かに、上がまともであれば、この時期にMO作戦が実施されるようなことは有り得ない。
もしやるとすれば「雲鶴」と「神鶴」がインド洋から戻ってきてからにするか、あるいは二航戦の錬成が終わったのを見計らってそれを臨時に取り込むといった措置を講じたことだろう。
しかし、現実は「翔鶴」型空母の四分の一以下の搭載機数しか持ち合わせていない「瑞鳳」が加わっただけだ。
決して愉快ではない笑いが「翔鶴」艦橋内に伝播する中、電測員の怒鳴るような報告がこだまする。
「電探に感! おそらく単機。こちらに真っ直ぐ向かっているようです」
緊急を告げる声に、「翔鶴」艦橋は一瞬で雑談モードから戦闘モードに切り替わる。
その間にも電測員から的針や的速といった重要なパラメーターが次々にもたらされる。
「迎撃機を出しますか」
志津頼航空甲参謀が一応のお伺いとばかりに、生沢長官に声掛けする。
「距離それに方位から考えて相手は脚の長い重爆か飛行艇と思われるが、しかし艦上機であった場合は危険だ。よって、一個小隊を迎撃に差し向けてくれ」
実のところ、米軍で怖いのは索敵任務についている艦上急降下爆撃機だ。
これら機体は結構な割合で小型爆弾を装備している。
威力に乏しい小型爆弾といはいえども、しかし飛行甲板や格納庫に爆装状態の艦上機がひしめいている時にそれを食らえば、それこそ目も当てられない。
そして、二航艦の空母は現在、そういった状況にある。
「朝一番に、しかも迷うこと無くこちらに索敵機が向かってくるということは、つまりは我々の動きは完全に敵に読まれているということですね」
城島艦長が改めて自分たちの置かれた状況を理解する。
生沢長官から二航艦の動きはすべて米軍に読まれているという話を頭では分かっていたつもりだったが、しかし現実を見せつけられては完全に納得せざるを得ない。
「厳しい戦いになりそうですな」
城島艦長はこれまでの付き合いから、生沢長官がなによりも情報を重視していることを理解している。
「雲鶴」と「神鶴」が抜けたことで艦上機が激減してもなお、索敵に三〇機以上の九七艦攻を投入していることがそのなによりの証拠だ。
しかし、此度の戦ではその情報戦において、完全に後手をふんでいる。
「場合によっては、防空戦闘にすべての戦力を傾注せざるを得ないことになるかもしれんな」
そう話す生沢長官だが、その言葉とは裏腹に特に慌てた様子は無い。
いつも通りの淡々とした振る舞いがそこにはあった。
上陸船団とそれらを守る護衛部隊については、米機動部隊の襲撃を受けないよう十分な距離を置いて後続させている。
同作戦の総指揮は生沢長官の海兵同期であり、第四艦隊司令長官の井上成美中将がこれを執る。
現場については井上長官の次に先任順位が高い生沢長官に一任されていた。
第二航空艦隊
「翔鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、一三試艦爆一)
「瑞鶴」(零戦六三、九九艦爆二七、九七艦攻二七、一三試艦爆一)
「瑞鳳」(零戦一八、九七艦攻九)
重巡「利根」「筑摩」
軽巡「神通」
駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」
「索敵機の発進がすべて完了しました」
志津頼航空甲参謀の報告に、生沢長官が「ご苦労」と短く労う。
二航艦は米機動部隊による側背からの奇襲が必至とみて、「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ六機、「瑞鳳」から四機の合わせて一六機の九七艦攻を索敵第一陣として解き放っていた。
さらに三〇分後には同じ数の機体が索敵第二陣として第一陣の後を追うことになっている。
「敵空母は現れるのでしょうか」
索敵機の発艦のために風上に向けていた艦首を南へと戻し、ようやくのことで人心地ついた「翔鶴」艦長の城島高次少将が生沢長官にその視線を向ける。
城島艦長は先日少将へと昇任し、この戦いが終われば第一一航空戦隊の司令官に就くことが決まっている。
「現れるのは間違いないですね。我々をポートモレスビーまで素通しするようなことがあれば、それこそ豪州が戦争から降りることにもなりかねませんから。ついでにチャーチルの首も飛ぶかもしれません。米国としても、さすがにそれは避けたいところでしょう」
生沢長官は、先に志津頼航空甲参謀に話したのと同じ内容をかいつまんで説明する。
言葉遣いが丁寧なのは、城島艦長が将官になったこともあるが、それ以上にマーシャル沖海戦で少なくない彼の部下を死なせてしまったという負い目があるからだ。
同海戦の当時、「翔鶴」は敵の急降下爆撃機が投じた五〇番クラスと思しき爆弾を三発被弾、一〇〇人を超える戦死者を出すという甚大な損害を被った。
もしあの時、自分がもっと上手く指揮を執っていれば、彼らは死なずに済んだのではないか。
その思いは、今も生沢長官の中に根強く残っている。
「それと、艦長には先に言っておきますが、米軍は我々の動きはすべて承知しているはずです。インド洋海戦の時の英軍の動きがこれを証明している」
生沢長官の預言者のような言葉に、城島艦長はその根拠を尋ねる。
「インド洋海戦で当時の第一航空艦隊は英艦上機による夜間雷撃にさらされました。しかし、広大なインド洋で、しかも暗夜の中で移動する相手を見つけるなど、よほど相手の正確な位置を事前に把握しておかない限りはまず不可能です」
生沢長官の言うことは、城島艦長にもよく分かった。
もし、立場を逆にして夜間索敵で敵艦隊を探せと言われても、何の手がかりも無ければ見つけることなんて出来っこない。
もし、見つけることが出来たのであれば、それは幸運以外のなにものでもない。
「英軍が当時の一航艦の動きを掴んでいたと仮定すれば、それは暗号が解読されているか、もしくは帝国海軍の上層部に間諜がいるかのいずれかになりますな」
その表情に懸念の色を浮かべつつ、城島艦長が少しばかり不快そうに言葉を吐き出す。
「暗号のほうですよ」
そう答えたのは生沢長官ではなく志津頼航空甲参謀だった。
将官同士の話し合いに一介の中佐ごときが割り込むなど、他の組織では考えられない。
しかし、生沢長官の方針もあって、ここ「翔鶴」の艦橋内ではそれが許されている。
命のやりとりが常態化している中においては、礼儀正しい無能よりも有能なアレが尊ばれることは珍しいことではない。
そして、志津頼航空甲参謀は有能なアレのほうだ。
それは、マーシャル沖海戦における彼の立ち回りですでに証明されている。
「根拠は」
城島艦長も慣れているのか、特に気を悪くした様子も無く志津頼航空甲参謀に短く問う。
「うちの上層部にスパイが務まるような優秀な人間がいれば、現場は苦労しませんよ」
身も蓋もない志津頼航空甲参謀の返答に、城島艦長は苦笑するしかない。
生沢長官や他の参謀たちもまた同じように、なんとも言えない笑みを浮かべている。
確かに、上がまともであれば、この時期にMO作戦が実施されるようなことは有り得ない。
もしやるとすれば「雲鶴」と「神鶴」がインド洋から戻ってきてからにするか、あるいは二航戦の錬成が終わったのを見計らってそれを臨時に取り込むといった措置を講じたことだろう。
しかし、現実は「翔鶴」型空母の四分の一以下の搭載機数しか持ち合わせていない「瑞鳳」が加わっただけだ。
決して愉快ではない笑いが「翔鶴」艦橋内に伝播する中、電測員の怒鳴るような報告がこだまする。
「電探に感! おそらく単機。こちらに真っ直ぐ向かっているようです」
緊急を告げる声に、「翔鶴」艦橋は一瞬で雑談モードから戦闘モードに切り替わる。
その間にも電測員から的針や的速といった重要なパラメーターが次々にもたらされる。
「迎撃機を出しますか」
志津頼航空甲参謀が一応のお伺いとばかりに、生沢長官に声掛けする。
「距離それに方位から考えて相手は脚の長い重爆か飛行艇と思われるが、しかし艦上機であった場合は危険だ。よって、一個小隊を迎撃に差し向けてくれ」
実のところ、米軍で怖いのは索敵任務についている艦上急降下爆撃機だ。
これら機体は結構な割合で小型爆弾を装備している。
威力に乏しい小型爆弾といはいえども、しかし飛行甲板や格納庫に爆装状態の艦上機がひしめいている時にそれを食らえば、それこそ目も当てられない。
そして、二航艦の空母は現在、そういった状況にある。
「朝一番に、しかも迷うこと無くこちらに索敵機が向かってくるということは、つまりは我々の動きは完全に敵に読まれているということですね」
城島艦長が改めて自分たちの置かれた状況を理解する。
生沢長官から二航艦の動きはすべて米軍に読まれているという話を頭では分かっていたつもりだったが、しかし現実を見せつけられては完全に納得せざるを得ない。
「厳しい戦いになりそうですな」
城島艦長はこれまでの付き合いから、生沢長官がなによりも情報を重視していることを理解している。
「雲鶴」と「神鶴」が抜けたことで艦上機が激減してもなお、索敵に三〇機以上の九七艦攻を投入していることがそのなによりの証拠だ。
しかし、此度の戦ではその情報戦において、完全に後手をふんでいる。
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