征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲

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MO作戦

第52話 戦闘機掃討

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 第一次攻撃隊は「翔鶴」と「瑞鶴」からそれぞれ戦闘機が四個中隊、それに誘導任務にあたる二機の一三試艦爆から成る。
 本来、八個中隊であれば零戦の数は七二機になるのだが、しかし午前中の迎撃戦で未帰還やあるいは被弾によって深手を負った機体もあり、現在ではその数は五三機にまでその数を減らしていた。

 これに対し、第一七任務部隊指揮官でかつ空母部隊の全体指揮も担うフレッチャー提督は五九機のF4Fワイルドキャット戦闘機と、それに一五機のSBDドーントレス爆撃機を第一次攻撃隊に対してぶつけてきた。
 そして、これらは米機動部隊が持つすべての稼働機でもあった。

 フレッチャー提督としてはF4Fで零戦と九九艦爆を叩き、動きの鈍い九七艦攻についてはSBDをもってこれに対処させるつもりでいた。
 そのことで中高度にはF4Fが、低高度にはSBDが布陣するという構えになっていた。

 一方、第一次攻撃隊指揮官兼「翔鶴」戦闘機隊長の兼子正大尉はそのような事情を知る由もなく、すべての零戦をもってF4Fに突っかかっていった。
 数ではF4Fの側が一割以上も多かった。
 しかし、戦いは零戦が終始圧倒した。
 実のところ、F4Fの搭乗員のうちでベテランと呼ばれる腕利きの多くは攻撃隊のほうに参加していた。
 逆に、友軍艦隊至近で直掩任務にあたる搭乗員のほうは、航法に不安の有る中堅や若年の割合が高かった。

 零戦に対しては、ベテランであったとしても押され気味だ。
 それが、さらに中堅や若年であっては、まったくの不利と言っても過言ではない。
 弱肉強食を地で行く空の戦いでは、そういった若年は瞬く間に食い尽くされてしまう。
 実際、零戦の搭乗員はF4Fの機動を見て、相手が弱敵だと見なしたときには最優先でこれに食らいつき、それらを軽々と仕留めていった。

 このことで、会敵時にはわずかだがそれでも確実にあったF4Fの数的アドバンテージは、しかしごく短時間のうちに雲散霧消する。
 一方、最初から数的不利などなかったかのごとく振る舞っていた零戦は追撃の手を緩めない。
 第一次攻撃隊の任務は戦闘機掃討、欧米で言うところのファイタースイープだから、深追いもある程度までは認められている。
 追いつめられたF4Fは旋回やあるいは急降下といった思い思いの手段で零戦の魔手から逃れようとする。
 しかし、F4Fが旋回性能で零戦に勝てるはずもなく、また急降下で逃げた機体も頭上を抑えられ、時間が経過するごとに状況を悪化させていく。

 (足手まといを守らずに済む戦いが、これほど楽なものだとはな)

 艦爆や艦攻の搭乗員には決して聞かせられない本音を胸に抱きつつ、「瑞鶴」第三中隊第三小隊を率いる岩本徹三一飛曹とその列機はすでに二機のF4Fを撃墜、さらなる獲物を物色中だった。

 その岩本一飛曹は低空域にわだかまるSBDの群れを目ざとく見つける。
 これらSBDは第一次攻撃隊に九七艦攻が含まれていなかったことで、遊兵と化してしまった機体だ。
 SBDの搭乗員らもそのことを自覚しており、そのいずれもが忸怩たる思いを抱いていた。
 しかし、だからと言って急降下爆撃機がF4Fそれに零戦という空中戦の本職同士の戦いに参陣するわけにもいかない。
 介入したが最後。
 零戦によってたちどころに墜とされてしまうだろう。
 それゆえに、彼らは第二次攻撃隊が来た場合に備えて低高度を旋回していた。

 岩本一飛曹は眼下の敵のわずかな隙を見逃さなかった。
 特に弛緩の度合いが高そうな、僚機の動きに漫然と追随している様子のSBDに接近。
 直上から二〇ミリ弾それに七・七ミリ弾を叩き込む。
 まともに銃弾を浴びたSBDはひとたまりもなく炎上、煙を吐きながら海面へと墜ちていった。

 さらに操縦桿を引き、急降下から緩降下に移行した岩本一飛曹とその列機は反応が遅れた他のSBDに狙いをつける。
 降下に伴う加速によって、それこそあっという間にSBDの尻に食らいついた岩本一飛曹は、相手に反撃の暇を与えることもなくこれを銃撃。
 抜群の射撃技量の高さもあって、無駄弾をほとんど出すことなくこれを仕留める。

 その後も、岩本小隊はSBDを次々に啄んでいく。
 上空にあるF4Fはそのいずれもが零戦の猛襲から自身の身を守るのに精いっぱいで、SBDの援護どころではない状況だ。

 一方、短時間のうちにSBDの粗方を食い尽くした岩本一飛曹は、斜め前方に海面を這うように飛行するF4Fを見つける。
 さらに、その上空にはそのF4Fの機動に追随する零戦の姿があった。
 そして、その零戦はF4Fとの高度差を徐々につめにかかっている。
 完全にF4Fの頭を抑えた形だ。
 もし、F4Fが機首を上げたり、あるいは急な旋回を仕掛けたりした時には位置エネルギーを速度エネルギーに置換、一気に急迫してこれを仕留めるつもりなのだろう。

 この状況に、岩本一飛曹は少しばかり逡巡する。
 発見したF4Fは頭上にある零戦に気を取られ、自分たちの存在には気がついていない。
 だが、零戦のほうもまた、F4Fを撃墜するのに夢中になって、上空への警戒が疎かになっている恐れもある。

 (早く未練を絶ってやるのが武士の情けだな。そう、これは決して横取りではなく、味方を危険から救う行為だ)

 都合良く解釈して、岩本一飛曹は隙だらけのF4Fの横合いから七・七ミリ弾を撃ちかける。
 本当は威力の有る二〇ミリ弾を食らわせたいところだが、しかしこちらはSBDを相手にしたときにすでに弾切れとなっている。

 さすがに七・七ミリ弾では力不足なのか、F4Fは墜ちる様子を見せない。
 しかし、そこへさらに四条の火箭がF4Fを貫く。
 岩本小隊の二番機、それに三番機もまた長機に倣ったのだ。

 米軍機を相手にするにはいささかばかり非力な七・七ミリ機銃だが、しかしそれが六丁もあればそれなりの威力になる。
 狙われたF4Fは煙を吐き出すこともなく、そのまま海面に滑り込むようにして墜落した。
 あるいは、七・七ミリ弾がパイロット・キルを生じさせたのかもしれない。

 一連の動きを見た上空の零戦は、翼を翻してさっさと飛び去っていく。
 おそらく、別の獲物を探しにいったのだろう。

 獲物を横取りされる形となった零戦の搭乗員があっさりとした性格だったことにほっとしつつ、岩本一飛曹はさほど高度を上げることもなく、その注意のほとんどを下方に向ける。
 そして、さらなるF4Fを物色する。
 先程のF4Fのように、頭を零戦に抑えられた機体が他にもあると睨んだのだ。

 やがて、その鍛え抜かれた見張り能力は、低空域を行く別のF4Fを捉える。
 上空には先程と同じく零戦の姿があった。
 岩本一飛曹は部下たちに続くよう命令し、新たに見つけた獲物の死角から接近すべく行動を開始する。
 この次もまた、零戦の搭乗員があっさりとした性格であってくれよと祈りながら。
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